元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 演習場
駆逐艦 曙
曙「…何やってんの?天津風」
天津風「何って…訓練…連装砲くんと…」
曙(この艤装、確か島風の…)
天津風「……島風の分まで、私が戦うの…島風の意思は私が継ぐから…」
曙「それは好きにして良いけど、退いてくれない?今から演習するから」
天津風「演習…?」
曙「そ、巻き込まれたくなけりゃ離れときなさいよ」
曙「ま、アンタが受けてくれた事については礼を言っとくわ」
レ級「……どうなっても知らないわよ、私、今むしゃくしゃしてるから」
曙(珍しい事もあるもんね、いや、ここしばらく毎日そうだし…カイトをリアルに戻すしか解消手段はないのかしら)
曙「始めましょ?」
レ級「ええ、早く…!」
演習開始の空砲が鳴る
曙(こっちから攻めたら一瞬でやられる、だから…!)
後方に距離を取る
レ級(馬鹿、戦艦の射程に逃げて何を…)
戦艦砲の砲撃が飛んでくる
曙(あたしの読み通りなら…今のアンタは間延びした闘い方は受け入れられないでしょ…!)
砲弾を全て斬り裂く
曙(アンタとあたしの我慢比べ、普段ならあたしに勝ち目はないけど今のアンタなら…)
5度ほど砲撃した辺りで明らかに様子が変わる
レ級(曙は何がしたいの…意味がわからない、なんで…!)
レ級「あああぁぁぁッ!!もう!!」
曙(来た、コッチに急速接近!)
主砲を取り出し、向ける
レ級「効くか…!」
曙「試してみなきゃわかんないでしょーが!!」
引き金を引き、軽い弾を撃ち込む
ダメージにならないのはわかっている、でも…
レ級「こんなモノで…何になる!」
爪で引き裂く様に弾を弾かれる
曙(今!)
辺りを炎で包み、フィールドを作り上げる
レ級「鬱陶しいのよ!!」
海面を踏みしめる動作
波が大きく立ち、炎を巻き込み消化する様に…
曙(大丈夫、今のアンタに見せたいのはこんな今までの応用じゃない!)
炎を纏う
レ級「…!その、姿…」
曙「あたしだって、強くなり続けてる…それを見せたかった、だからちゃんと味わいなさい…!」
双剣に持ち替え、詰め寄る
レ級「…なんでアンタは、なんで…!」
曙の動きに明らかな動揺が現れる
攻撃が一瞬遅れる、手先がブレる
曙「アンタはそんなに簡単に惑わされる様なやつだった?そうじゃないでしょ…!アンタは鬱陶しいけどあたしよりずっと強くて、賢くて、ずっと前にいて…!」
レ級「黙れ!黙れぇぇぇッ!!」
爪先と双剣が火花を立ててぶつかり合う
曙(…違う、あたしの知ってる動きじゃない、鈍すぎる…なんで?あたしが強くなったからじゃない、弱くなって…)
尻尾に横っ面を殴られ、海面を転がる
レ級「ハァ…ハァ……!…ウッザイのよ…アンタは!!」
曙「……アンタは、あたしが必死になって食らいついても平気な顔してたじゃない…アンタは…」
レ級「私を語るな!!…お前が、私を語るな…確かに私はお前だ、お前は私だ、だけど…違う、見てるものが違う…!感じてるものが違う…!…私とお前では…」
曙「…何に苦しんでるのよ、何をして欲しいの!?みんなアンタを心配してる、アンタは誰かを頼っても良いの!」
レ級「……私は……」
曙が俯き、空を仰ぐ
曙(…泣いて…)
レ級「………敗け、もう既に…私より強い、勝ち目はないわ、降参する」
曙「なッ…!…待ちなさいよ…!」
レ級「…お願い、もうお願いだから…放っておいて…私は………ごめんなさい、なんでもない」
何かを言いかけ、海へと沈む
曙「曙!!……何なのよ、何なのよそれ…!」
身に纏った炎がより激しく弾ける
曙「…なんで、頼ってくれないの…?アンタはみんなのために頑張ってきたじゃない、みんなアンタを助けたいのに…」
戦艦 レ級
間違えようもなく、曙は私より強かった
反応速度も、判断力も…段違いに伸びてる、私の想像の何倍も上…
レ級(とうとう、私は負けてしまった…とうとう…)
より鬱憤を溜めるだけだった、何にもならない、何にも成れない…私はただ沈んでいくのみ
分かり合えたからなんになる?例え分かり合えても目の前の障害をどう取り除けばいい?どうすれば良いのか、あの忌々しい綾波を倒すには、どうすれば…
ゆっくりと、ゆらめく海の中で沈みながら水面の先の太陽を睨む
いつでも浮上できるのに、こうも沈む事が心地良いのは何故だろう、身体をへし折るような圧を受けながら、深海に堕ちていくのがどうして心満ちる様な暖かさを感じるのだろう
レ級「……私は…所詮私には人の体は贅沢だったと言うことか」
AIとして生まれ、そして世界の再誕で望む身体を手に入れた、しかし…馴染まない、馴染んでいないんだ
私の身体として、人間のそれは馴染まなかったのだろう
私は所詮AIだ、どこまでも効率的な身体を求めているのか、この深海棲艦の身体が適しているのか
艦娘で、深海棲艦で、AIだ
私は決して、人間なんかじゃない…どこまで行っても人間には成れない、AIはAIなのだから
レ級「…不愉快だな、なんとも、残酷で不愉快だ…鬱陶しい事実だ、そんなもの何も認められない…この世界において、私は…」
掴み取らなければならない、私を
レ級「……提督が私達のために作った世界で…何故不幸になる必要がある、大丈夫だ、私は…幸せだ、心配はない」
深海の時はゆっくりと、外とは違う時間が流れる
レ級(イムヤさんのことも、提督の事も、私が救ってみせる……)
月が登り、太陽が登る
それを何度か繰り返した頃にようやく導き出した結論、静かに死にゆく私が導き出した結論
海底を蹴り、漸く浮上する
底の底まで沈んだ、今から私は登り続ける
レ級「…なめるなよ、綾波…私はお前に飼い慣らされるための存在じゃない、いつでも首を狙い続ける…例え勝てなくても、歯が立たなくても、殺すことはできるはずだ…!」
離島鎮守府
レ級「……」
どれだけ海底で燻っていたのか、自分でもわからないが、そこそこの日数が立った事は窺えた
潮「…あ、曙ちゃん…」
レ級「潮、あの演習から何日経った?」
潮「……2週間だけど…」
何か言いたそうな目
レ級「…何か、あったの?」
潮「…えっと…最近、深海棲艦の艦隊に人間が混じる様になってて…」
言いたいことはわかった、要するに肉の盾だ
人間が深海棲艦を守る前衛、深海棲艦は人間の後ろから艦娘を撃てばいい、しかもその人間どもは綾波に忠誠を誓う愚か者ばかり
レ級「……最悪ね」
潮「うん…」
なんと悪質な戦法を取ったものか、これでは戦いにならない、戦争とは呼べない…いや、戦争なのなら撃ち殺せば良い…だけど
レ級「深海棲艦と戦争してるのであって、人間と戦争してるわけじゃない…人を撃ち殺す覚悟なんて誰にもないわ、仕方ないことよ」
潮「…うん」
9月の暮れ
寒い風が吹く頃
深海の緩やかな時とは違い、地上の時の流れは早い
レ級(綾波と直接会っておくか…2週間も無視した以上、何を言われるかわからないけど)
レ級「潮、少し外すわ、明日には戻るから」
潮「わかった」
レ級(それにしても、朧も出てこないなんて…いや、なんで潮は誰も呼びにいかなかったのかしら)
駆逐棲姫のアジト
レ級「…綾波、来たわ」
返事がない
レ級(…居る、だけど…)
綾波「ああ、お待ちしてましたよ…レ級さん」
レ級「その姿は…!」
深海棲艦じゃない、人の姿…
綾波「驚きましたか?綾波、艦娘としての力を取り込んだ綾波です、以前のお手合わせの倍近く強くなってますよ」
レ級「……」
綾波「いやぁ、便利ですねぇ?あなたの持ってきてくれたカートリッジは…すごく役に立ってくれますよ」
綾波がカートリッジを見せつける様に持ち上げる
レ級(…何、あのカートリッジ…見た事が…)
綾波「これですか?試しに見せてあげましょうか?」
答える間もなく綾波はカートリッジを起動し、自身の主砲に挿し込み、こちらに向ける
レ級「ッ!」
砲撃をかわし、綾波を睨みつける
綾波「後ろ、見なくていいんですか?」
背中、後頭部に鋭い痛み
レ級「か……ぁ…がっ……」
綾波「簡単に言えば…ある一定の距離で爆散してそこから毒針を飛ばす砲弾です、と言っても毒は体を痺れさせるほどのモノですが」
針を引き抜き、床に捨てる
レ級「……チッ…!」
綾波「あ、怒ってます?すいませんね、しばらく忙しかったもので…本当ならもっと構ってあげたかったんですけど…」
レ級(時間が経てば経つほど、綾波はカートリッジを増やす、そして危険になる…)
綾波「おや」
綾波がこちらを凝視しながら近づいてくる
レ級(…なんだ…)
綾波「…なん…て…」
レ級「…な、何?」
綾波「…なんていい目をしてるんですか…!最近死んでたあなたの目が輝いている…!死んだ目も素敵でしたがこちらもいいですねぇ!!」
レ級(…ペースに呑まれるな…大丈夫だ)
綾波「うーん!良い!意欲が湧いてきました!」
綾波が別のカートリッジを取り出す
レ級「…それ、は…?」
綾波「曙さん、だいぶん成長しましたよねぇ!私感動してしまいましたよ…話は変わりますが、島風さんも成長しましたよねぇ?」
レ級(…何か、不味い…確実に…!)
綾波「ま、ゆっくりご覧あれ?」
綾波が自身にカートリッジを突き挿す
綾波「……改装ってヤツですねぇ…どうですか?容姿に変化は?」
レ級「…いや」
容姿は確かに変化していない、だけど確かに違う
さっきよりも空気が重苦しく、何かが…
綾波「深海棲艦の偽装は私たちが力を送ることで形成されます、素敵ですねぇ?」
レ級「…さっきのカートリッジは…」
綾波「島風さんと曙さんのデータが入ってます、やり方をラーニングしたんじゃなくて、力をそのまま取り込んだ様なものです…と言ってもまだまだ物足りないですけど」
レ級(…曙の力を…)
綾波「どうします?やり合ってみますか?」
レ級「……」
今のままでは勝てない
しかし時間が経てば…綾波はより強くなりかねない
綾波「さて、もう少しですねぇ?」
レ級「…何がだ」
綾波「改二ですよ、そこまで行けば漸く私は世界征服でもしてみようかと」
レ級「…随分と幼稚な悪役だ」
綾波「なにぶん、相手になる存在がいないとそれしかやる事がないもので…悲しいですねぇ!」
レ級「……チッ…」