元勇者提督 作:無し
青森 繁華街
島風
最悪だった
空から降ってきたみたいに、音もなく、何事もないように現れて、好き放題暴れる、まるで台風みたいに
大量の深海棲艦を引き連れて急に繁華街に溢れるみたいに現れて、蹂躙した
駆逐水鬼「おや、そんな顔で見ないでくださいよ、せっかくの美しい顔が台無しです…」
今の私に、こんな巨大な敵を相手に何ができるのか
答えはただひたすらに逃げる事のみ
立ち上がり、背を向けて必死に逃げた
同じクラスの子がいた、どうなったかはわからない
ゲームセンターで会ったことのある人には艦娘だったなら戦えと叫ばれた
飛んできた瓦礫に潰されたみたいに見えた
とにかく、今の私には戦う術も、勇気も、何もなかった
いつかの私なら必死に民間人を守るために戦えたかもしれない、だけど今の私は自分が助かることだけを考えて…
島風(偶然、偶然攻めてきた場所に私が居ただけ…偶然だから、偶然だから…!)
そう言い聞かせるほど、息が苦しくなって、周りが真っ白になっていった
駆逐水鬼「バァ!」
島風「ひっ…!」
目の前に急に現れた、何の前触れもなく現れた…そして、腰から生えた灰色の腕が私へと伸びる
駆逐水鬼「おや?」
駆逐水鬼が大きく揺れる
夕立「お待たせっぽ〜い…!」
駆逐水鬼「おやおやおや、いつだったかの…」
夕立「…見たことあるツラしてるっぽい…やっちゃっていいのかしら?」
駆逐水鬼「やれるのなら、ですよ、あくまでね?」
島風「だ、ダメ…逃げて!勝てる相手じゃない…!」
夕立「そっちこそ早く逃げて!ここに居られると…巻き込むから…!」
夕立が主砲を向ける
駆逐水鬼「おや、久しくらしい戦い方をする人を見ました、てっきり皆さんは艦娘であることを忘れて格闘家になったのかと」
砲戦を背に、逃げ出す
島風(嫌だ、嫌だ…!こんなの嫌だ…!)
体がぴたりと固まる
島風「え?な、なんで…」
駆逐水鬼「逃しませんよ?貴方の体内のナノマシンは完全にハッキングしましたし、これで私の思い通り…もう逃げられません♪」
島風「な、ナノマシン…?あれは体外に排出されるんじゃ…」
駆逐水鬼「馬鹿ですねぇ、完全に排出されるのなんて何十年か経ってようやくでしょうに…まあ、起動するところから始めたので多少時間は取りましたが…アハッ♪」
駆逐水鬼がこちらを見てわらう
本能的な恐怖が頭を支配し、何も考えられなくなる
島風「や、嫌だ!嫌だ…嫌!もう嫌!」
夕立「お前の相手は夕立っぽい!」
駆逐水鬼の顔面に砲弾が直撃したというのに、ケロリとした表情で夕立を見て笑う
駆逐水鬼「たかだか駆逐艦、貴方に私は倒せませんよ」
夕立「っ…それはどうかしら!?」
夕立がカートリッジを主砲に挿そうとする
駆逐水鬼(…あれは確か火力強化か、どのくらい強くなるか…いや、素敵なアイデアがあった)
夕立「これで、どーお!?」
駆逐水鬼「盾になりなさい」
体が勝手に動く、さっきまで走ってたのよりもずっと早い速度で駆逐水鬼の前に立ちはだかり、砲撃を受ける
島風「…ぁ……が…」
夕立「う、嘘でしょ…!?な、何やってるの!?」
駆逐水鬼「さっきの話聞いてました?この人私の思いのままなんですよ…あら、大変!貴方に打たれたせいで腸が弾け飛んで中身まで垂らして…アハハ、臭いですねぇ、島風さんの腸の中」
何が起きてるのか、自分がどんな状態なのかすらわからない
もう目の前が真っ暗で、痛くて、何より熱い
熱いのに、どんどん寒くなる
全身の指先から、頭から、どんどん冷たくて、死んでいく感覚…
駆逐水鬼「ほら、求めなさい…死にたくないでしょう、私に懇願しなさい、生かしてくださいって」
耳元でそう囁かれても、応える気力すらない
夕立「島風ちゃんから離れて!」
駆逐水鬼「…私なら、この子をいかせますよ?貴方達みたいに何もできず、感動的に看取ってさようなら〜なんてせず、私はこの人を活かし続ける、この人には凄い力があるんですから…ぐぇっ…痛いな…後ろかぁ…」
白露「よくも、こんなこと…!」
睦月「絶対許さないにゃしぃ!」
駆逐水鬼「誰が許しを乞うたのか、私は許してくれなんて一言も…」
駆逐水鬼の頭が弾け飛び、再生する
駆逐水鬼「あーもう、人が話してる時に…と言うか頭ばかり狙うのやめてくれません?私の完璧な造形美が崩れたらどうするんですか…しかし、この狙撃は…五月雨さんでしたっけ?」
駆逐水鬼が嫌そうに私の前に立ち、片手をあげる
駆逐水鬼「まあ、撃ってきましたし、良いんですよね?準備は…さーて、軽くお遊びといきましょうか」
駆逐水鬼の大腕についた主砲が砲撃を始める
白露(何この威力!)
睦月(当たったら木っ端微塵にゃしぃ!)
駆逐水鬼「あ、実はこれ…自立式なんですよ」
大腕が地面に落ち、駆逐水鬼が姿を消す
睦月「ぎゃんっ!?」
白露「睦月ちゃ…ぁ…ぁが…」
2人が膝をつき、艤装を落とす
駆逐水鬼「しかし…人というのは本当に薄情ですよね、貴方達が戦っているのに誰も応援すらしない、この辺りには複数民家がありますが…ほら、あの家を見てください」
駆逐水鬼が民家の窓を指さす
駆逐水鬼「うっするとスマホのカメラが見えます、女の子が痛い目にあってるのが好きな加虐趣味の変態か、それとも野次馬根性のゴミどもか…」
その窓が吹き飛ぶ
夕立「み、民間人を…」
駆逐水鬼「島風さーん?貴方のせいで民間人が死にましたよ?」
私のせいで、人が…
駆逐水鬼「何なら良いですか?何なら貴方は目を覚ましてくれますか?それとも今死んで、塵みたいなイ級に成り果てますか?」
島風「…も…う……嫌」
何で私の体は動かないの?逃げようとしても、戦おうとしても
駆逐水鬼「ほら!アハハ!」
夕立「っ!?」
目の前に夕立の艤装が転がる
駆逐水鬼「貴方は前の世界では随分と舐めた口を聞いてくれましたよね?特にいたぶってから殺しますよ、貴方と五月雨さんは」
目の前の友達すら守れないなんて…嫌だ
ただ、目の前の武器を取れば良いのに、何で私の体は動かないの?もう私が死んでるから?いや、死んだとしても……
島風「守らなきゃ…!」
駆逐水鬼「…おや、この感じ…」
駆逐水鬼と目が合う
駆逐水鬼「……アハッ♪」
四肢が裂かれるような感覚
鮮血が全身から抜かれるような冷たさ
駆逐水鬼「やはり、精神への強い揺さぶりは重要ですね、とうとう覚醒してくれましたか…」
睦月「った……な、何が起きたの…?」
白露「…島、風…ちゃん?」
夕立「……嘘…」
何で、私をそんな目で……あれ?誰だろう、目の前にいるのは……
駆逐水鬼「さあ、生まれ変わった貴方を歓迎しましょう、島風さん……いや、貴方は新しい戦艦レ級、コピーの一つ」
レ級「コ、ピー…?」
駆逐水鬼「本当に期待通り、貴方の顔は美しいです、これならレ級さんの代わりとして申し分ない……さて、初めてのお仕事ですよ」
やる事は、頭の中に浮かんでくる
駆逐水鬼「力を振るえ」
目の前の手法を拾い上げ、向ける
夕立「…嘘、嘘でしょ?島風ちゃ…」
引き金を引いた
睦月「…!」
白露「嘘…」
あと、2人にも、引き金を引いた
駆逐水鬼「さあ、後は…そっちかな、見つけなさい?」
駆逐水鬼様が指した方向へと駆ける
五月雨「え…」
主砲を突きつけて、撃った
駆逐水鬼「うーん、すばらしい、その速度も、力も…さあ、帰りましょう?貴方の家に」
止めどなく、涙があふれているのに、その理由はわからなかった
駆逐艦 五月雨
五月雨「みんな…大丈夫…?」
睦月「…高速修復剤、注入してなかったら死んでたにゃ…」
五月雨「…そうだね、これが応急修理要員…分けて貰えてて本当に助かった…」
制服がじっとりと汗で濡れる
確かに一度死んだと言っても差し支えのないほどのダメージ、塞がった傷口の周りの血痕
夕立「それより…アレ、本当に島風ちゃんだよね…?」
白露「……うん」
睦月「…レ級になってたけど…」
白露「それも含めて、報告…戻ろう」
海上
提督代理 朧
朧「…なんでこうなるかなぁ…」
曙「……船の整備してもらわずに強行したからじゃないの?」
漣「何で後何十キロもあるのに、エンジンが壊れるのぉぉぉ!!」
朧(不味いなぁ…このままじゃ空襲のついでに殺される、艤装はあるけど物資が運べなきゃ意味はない…!)
曙「…最悪ね、来たわよ」
遠くの空に黒い小さな粒が見える
深海棲艦の艦載機…
朧「……曳航しながら相手は無理か…」
離島鎮守府を目指してるはずの艦載機が一部こちらへと近づいてくる
曙「…灼き尽くしてやる…!」
漣「…ぼのたん、上手くやろうね…」
朧(…何機来てる?……いや、100はいる、こんなの…)
真上を後方から艦載機が通り抜け、航空戦が始まる
朧「え?……深海棲艦の艦載機同士が戦ってる…」
曙「……アレは…」
レ級「私の艦載機」
朧「曙…!」
船の上に曙が舞い降りる
レ級「ついてないわね、いや、ついてるのかしら…曳航は任せて、すぐに着くから」
朧「…大丈夫なの…?」
曙「アンタ、海に消えてから何してたのよ…」
レ級「そんな話は後、所詮私も…アンタ達も、同じなんだから」
朧(…曙、なんか、雰囲気が変わった様な…)
レ級「飛ばすわよ、しっかり掴まってなさい」
尻尾が船の先端部に喰らい付き、速力を上げて突き進む
漣「はやっ!?」
レ級「舌噛むわよ、黙ってなさい」
曙(…もう噛んだわよ)
離島鎮守府
レ級「ま、こんなもんよね…」
朧「助かったよ、ありがとう」
レ級「早く積荷を下ろして運び出して、私は艦載機回収してくるけど」
曙「……アンタ、顔色悪くない?」
レ級「深海棲艦なんだから当たり前でしょ」
曙「…それも、そうか…」
漣「真っ白だもんね」
朧「…よし、2人とも、手伝って」
朧(…でも、何だか不安だな…曙の事)
レ級(…例えば、携帯電話のAIは充電が切れそうになると自動的にパワーをセーブする…それが私は命だっただけ…セーブモードなんか要らない、私が強く在れるのは一瞬でもいい)