元勇者提督   作:無し

36 / 625
兵器

雷巡 北上

 

「いやー、助かったよ、水中からの観測のおかげで実験データがこんなに取れるなんてね」

 

「でも、まさか…浮いてる的に対して使う雷撃なんて…」

 

「必要なものなんだよね、私の40門の発射管が泣いちゃうよ」

 

「話だけ聞いてると全く理解できないわね」

 

「さて…もう一回行くよ、次前方400mの目標ね…遠いかな」

 

「了解、潜航します」

 

「魚雷発射」

 

深く、沈む

 

完全に感覚を信じるしかない

 

「今!」

 

噴射機構を動かす、魚雷が急速浮上を始めるな

 

『潮の流れで2時の方向にブレてるわ、距離はいい感じだけれど』

 

「…マジ?うーん…あ、ホントだ」

 

『普通の魚雷より潮の流れが早いところを通る可能性があるし、何よりも見えないのが問題ね、浮上します』

 

「………だけど、これならなんとかできる、わかった、イムヤありがとね」

 

「お安い御用よ、こんな話ならいくらでも手伝わせて!」

 

 

 

「んー、うまく行かないもんだなぁ…さて、続きやりますか…あれ?青葉じゃん、どうしたのそんなとこで」

 

「……その…たまたま見かけたから…」

 

「そ、見ててどうだった?」

 

「……無謀です…水雷戦隊に常に観測役の…潜水艦が求められるし……それに、これ以上の練習も…限度かと…」

 

「観測役については考えてるよ、練習の方は確かにそうかもねー…あれ?今何時?」

 

「ヒトナナマルマルです…」

 

「げっ…やばいなー、時間がわかったらお腹減っちゃったよ」

 

「北上さん…」

 

「ん?なに?」

 

「…貴女はこの鎮守府で一番の練度と、それに恥じない時間の訓練をしているのに…なんでそれに満足していないんですか…?」

 

「この前ね、本当に決戦だったんだけど、気を抜いたら死ぬくらいの…その時、私何してたと思う?」

 

「……戦ってたんですよね?」

 

「そう、でも…有効な攻撃手段は単装砲ひとつ…効きもしないのにさ」

 

「……だからですか?」

 

「それだけじゃない、けど、まあそれが大きな理由、私が強くなきゃ行けないのに、役立たずなんて困るでしょ?」

 

「………」

 

「大丈夫、私はへいきだから気にしないで」

 

「…その…貴女は……」

 

「聞こえないよ、なにも」

 

「……先に食堂で待ってます…」

 

 

私は違う、みんなと違う

私は強くなきゃいけないんだ

私は兵器だから…大丈夫、どんなに辛くても戦える

 

 

 

 

 

 

 

重巡 青葉

 

どうしても北上さんには、私の声が届かない

眠ったままの司令官と、クリスタルの関係性については聞いた

そして実際に見た

私の考えは全て北上さんに筒抜けなんだろうな

なぜかあの人は、私の欲しい時に欲しい言葉を

話そうとしてることの先の話を

私のことなんてなんでもわかってるみたいに振る舞うんだ

 

だから私や翔鶴さんは助けになれない

と言うより、助けられたくないみたいだった

 

だから私のやることはひとつ

北上さんの心の支えがこの人なら、私が助けるんだ

 

 

 

 

 

駆逐艦 朝潮

 

「……」

 

虚な目の騎士は私のそばにいてくれた

私の手を取ってくれた

未だ、私の力となってくれる

それ以外にも、たくさんの手を借りてきた

だけど私が1人の力で成し遂げたことなんて何もない

 

護って欲しい

だけど、私が何かを変えたい

 

矛盾してる

でも、この気持ちがないと前には進まない

 

 

「………あ…」

 

居た

 

私が、唯一私だけが干渉できる相手が

私じゃなきゃ倒せないそれが

 

先に私に触れたのはあなた、だから、私ならあなたを倒せる

だから、だから力が要る

もっと大きな力が

 

 

 

 

 

 

 

工作艦 明石

 

「どうだろうね」

 

「うーん、このデータを見る限り問題自体はないんだよね、言われた通りにできてる、このサイズであの威力のままあんな動きができるんだから」

 

「あとは使い方…いや、そんな簡単な話じゃないのはわかるけど…」

 

「もう何日だっけ、渡してから…一週間かな?」

 

「…本部とかに言って改良してもらったらデータを集めてもらったら?」

 

「ここはそんなに甘い目では見てもらえないから無理だと思う」

 

「あーもう、大本営ってなんでこう、差別したまでしか物を見ないの」

 

「提督が倒れた状態での運営を許可してもらえてるだけで私たちは大分良い扱いを受けてるよ」

 

「…それもそっかー」

 

「…ところで、北上さん、この量のデータいつから取ってたのかな」

 

「…多分朝から?」

 

「……すみません、間宮さん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「今日北上さん見ました…?」

 

「…いえ、一度も来てませんけど」

 

「………そろそろ倒れるんじゃない?」

 

「とりあえず、北上さんの明日の出撃は取りやめよう」

 

「そうだね、ご飯の時間だって呼んでくるよ」

 

「あ、あの…」

 

「青葉さん、どうしました?」

 

「これ…それじゃ…」

 

「何?なんか渡されたみたいだけど」

 

「ビデオカメラね…うわっ…録画時間5時間…」

 

「映画2本分ね」

 

「とりあえず執務室のモニターに繋いでみよう」

 

 

 

「…あー、もしかしてこれずっと?」

 

「青葉もずっと居たとしても…少なくとも5時間か」

 

「今日確か出撃してたよね」

 

「うん、哨戒だけだったし1時間もたたずに帰ってきたけど」

 

「良くやる、としか言えないかな」

 

「………目元とかにクマもないし…健康状態の悪さも見えるところにはない…」

 

「北上さんの生活を探る必要があるね」

 

 

 

 

 

 

駆逐艦曙

 

「敵艦隊見ゆ!先制用意!」

 

「甲標的から報告、戦艦の撃沈判定」

 

「大戦果だ!砲撃のレンジまであと僅か…ボーノ!高角砲用意!」

 

「砲撃始め!」

 

 

 

演習は、問題なく進んでる

 

「勝てたー!やったね!」

 

「北上さんの指示も良かったけど、曙の判断も良かったよ」

 

「さっすがボーノ!」

 

みんな私を認めてくれた

本当に嬉しかったけど

 

「いやー、曙がいると楽だわー」

 

この人の目は、私をどうやって殺すか、それしか考えてない目をしてる

 

「北上さん…?」

 

いつだったか正直に尋ねたことがある

私が何かしたのか、それとも気に入らないのか

 

『いや、そんなことないよ、ただ…曙くらいじゃないとやり甲斐がない…神通達はここには居ないしね』

 

気づけば私の練度が30を超えていた、間も無く40になる

ずっと演習担当だったのだそして、私の練度は2番目に成っていた

だから…だけど、あの人は数値しか見ていない

いや正確には、自分を含めた全てをものとして見てるんだ…

心を殺して、兵器になるつもりで

だから強くあろうとしてる

 

心の支えがいらない強さを求めている

 

 

独りよがりの強さは、身を滅ぼすのに

 

 

 

 

 

 

軽空母 鳳翔

 

「ねぇ明石、これどう言うこと」

 

「それの通りです、無理な訓練量、不規則な生活、いつ倒れてもおかしくありません」

 

「…で、謹慎?従うと思ってる?」

 

「従っていただきます」

 

「今日はえらく強情だね、何度でも言うけどわたしはこんな命令は効かないから」

 

「艤装の方も押さえてあります」

 

「…阿武隈のでも使うから関係ない」

 

「空母機動部隊以外は今日は出撃しませんので、全員分押さえてあります」

 

「………用意周到だね」

 

「私が進言しましたので」

 

「……鳳翔さんねぇ…何?私に恨みでもあるわけ?」

 

「いいえ、ですがあなたのやってる事は自殺です」

 

「自殺行為ってレベルじゃなく自殺?私は生きてるよ」

 

「心を、殺しています」

 

「………何がわかるのさ」

 

「私にはわかりませんでした、ですが、あなたを慕う人にはわかることなんです」

 

「慕う?誰が…私を慕う暇があればもっと強くなってよ、こんな役に立たない私が、水上に立つ必要もないくらいに…!」

 

「あなたは、戦いたくないのですか?」

 

「戦いたいから苦しんでる…!」

 

「あなたは、十分に強いのに?」

 

「…化け物相手に何もできない、戦艦ほどの火力もない、頼みの綱の雷装はまるで意味をなさない、どこが強いんだよ」

 

「そうですか、私が話を聞いた人はみんな、あなたを強いと言いましたけど」

 

「………弱いから心を殺してるんだよ」

 

「そうです、心のない兵器なんて強くないんです」

 

「それでもいい、少しでも役に立てるなら」

 

「…やっぱり、私じゃだめですか」

 

「ダメだね、代わりなんてない」

 

「………あなたはもう諦めてるんですか…?」

 

「…いつからだろうね、提督は死んだって思うようになったの」

 

「そんな…まだ死んでません!」

 

「夕張がそう言ったって聞いてからかな、いや、あの化け物を倒した時だ、私は何も与えられてない、そう、提督が死んだんじゃなくて…私は…捨てられたんだ」

 

「そんな事ありません!」

 

「なんでそう言えるの?私にはわからないよ、ねぇ、明石…本当に赤司はそう思ってる?」

 

「………っ…」

 

明石さんにとっても、痛いところだったようですね

 

「そこまでです、わかりました、そんなに訓練がしたいのなら、して良いでしょう」

 

「鳳翔さん!」

 

「…今は何を言っても無駄です、それに、短い期間でしたが、私はそこまであの人を思慮のない人間だと思いませんでした」

 

「じゃあね、また来るよ」

 

「………もう…!」

 

「北上さん、一つだけ」

 

「…」

 

「あなたが捨てられた、と言うのなら、あなたはここを出る資格があります」

 

「知ってる、でもその時は私が選ぶよ、ここを捨てるかどうか」

 

「………捨てる、と言うのですね」

 

「…私にはもう微かな情しかない…思い入れはもう、ほとんどないんだよ」

 

思ったより、深い傷になっていたようですね

何度も何度も、自分で気付かずに抉った傷…

 

「世代交代の時期かもしれませんね、すぐに春が来ます」

 

「………それだけば絶対に許しません」

 

「そうですね、私も防ぐ努力をします」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。