元勇者提督 作:無し
海上
駆逐艦 春雨
状況は最悪、2人も目の前で沈んだ、荒潮さんを助けるには?漣さんを助けるには?そして…この胸に穴の空いたイムヤさんを助けるには?
答えは、そんな手段存在しない
私はたった少しの技術しかない、医官の真似事をしてるにすぎない
所詮私じゃ誰も救えない…
春雨(そんな事が、あってたまるものですか…!)
綾波「…おや、春雨さん、私とやるんですか?貴方は優秀な人です、なんなら受け入れても良い…と思ってるんですが」
春雨「…私は…!」
綾波さんを攻撃しようとしたあたりで、何かに止められた気がした
視線を落とし、イムヤさんの死体を確認する
口が微かに動いていた
春雨(何か、喋って…)
咄嗟に耳を近づけ、声を拾う
イムヤ「…さん、に……それ、と…」
春雨(何か聞き逃したか…いや、まだ…)
イムヤ「…綾波の中…に、もう1人の綾波…」
春雨「…もう1人の…綾波…?」
綾波「おや、確実に死んでるはずなのに、余計な事ばかり喋るのですね」
春雨(……どういう意味だ、いや、まさかゴレの二面性が二つ目の人格を生んだというのか?だとしても、何の為に…)
綾波「……ああ、気分を害しました…今日のところは終わりです、戻りますよ、神通さ…ぁ…?」
軽巡棲姫(…おや)
綾波が頭を抱えてうずくまる
春雨「……本当に、なのか…?」
綾波「ああぁぁぁぁぁッ!!…なんで!何でこんな事…!」
軽巡棲姫「ここまで乖離した二面性…なるほど、これが今の綾波さんですか」
綾波「…おっ……おぇぇ…ぁ…」
那珂「……泣きながら…吐いてる」
春雨(…たとえ、今の貴方が…かつての貴方だとしても)
水面を蹴り、跳躍し、綾波の首を見据える
春雨(誰だとしても、何だったとしても!!)
両の籠手から刃を出し、振り抜く
春雨「っ!」
綾波「…あぁ……ペッ…気持ち悪…見え見えの作られた隙に突っ込むの、やめた方がいいですよ」
春雨(手で受け止められた…!)
綾波「それにしても、貴方も弱すぎる」
衝撃を受けて身体が吹き飛ぶ
春雨「ぁが…!」
春雨(何、を…された…?)
軽巡棲姫「…速い、今の蹴り…」
綾波「…改であるが故ですかねぇ…基礎の動きは格段に速いし、威力も申し分ないでしょう?ねぇ、春雨さん」
春雨「た、立てな…?」
立ち上がろうとしても、四肢が安定せず崩れ落ちる
立ち上がる事ができない、なにも…
綾波「……っ…ぐ……!」
綾波が顔を顰め、海に消える
軽巡棲姫「……どうやらここまでですか、失礼します」
那珂「あ…」
春雨「…こんな…」
駆逐棲姫のアジト
綾波
綾波「おえっ………ああ…護衛棲姫…護衛棲姫は居ますか…?」
護衛棲姫「ココニ…ア、アノ…」
綾波「謝罪は要りません、今はとにかく、袋…」
綾波「…はぁ……はぁ……あー…ようやく落ち着いた…」
護衛棲姫「…アノ…」
綾波「あなたがよくやってる事は分かってます、そんなに怯えなくても良い」
護衛棲姫「……申シ分ケアリマセン、私ハ…私ニハ、彼ノ方ハ止メラレマセンデシタ」
綾波「大丈夫、わかってますよ…それにしてもさすが私だ、いつからだ?いつの時点でイムヤさんをそうすると決めていた?…イムヤさんの"死体"を深海棲艦に作り替える事でイムヤさんを助ける、生き返らせる算段だった様ですが…」
軽巡棲姫「…その話を聞いてると、もともと死んでいた様に聞こえますが」
綾波「間違えようもなく死んでいますよ、イムヤさんは最初から死んでいた……ふふ…流石私ですね、何度でも褒めてあげましょう…私でしか私を倒せない」
軽巡棲姫「…私から見れば、1人で将棋でも指しているようです」
綾波「間違ってはいません、お互いに戦術を気づかれないように、かつ大胆に、私自身を殺す手段を探り合っている」
護衛棲姫「…ソレハ、違イマス…」
綾波「おや」
護衛棲姫「…彼ノ方ハ…貴方ヲ消スツモリハ一切無ク、タダ、前ノヨウニ戻ッテ欲シイ…ト」
綾波「だとしたら大馬鹿です、私はもう引き返すつもりはない、今が1番、私らしいのですから
軽巡棲姫「……やはり、貴方の精神がオリジナルですか」
綾波「ええ、勿論…残念でしたか?」
軽巡棲姫「いいえ、途中で梯子を外される心配をせず済みそうでよかった」
綾波「それはそれは、まあ、私も貴方が優秀なうちは仲良くしますから」
軽巡棲姫「……」
綾波「あはッ…しかし…やはり改二は必要ですかぁ…中途半端なところで出てこられたら困りますからね、もう1人の私に…」
軽巡棲姫「改二?」
綾波「……ふふッ…見せてあげましょうか?」
カートリッジを取り出し、見せる
綾波「これが綾波・改のカートリッジ…しかし…これをさらに強化すれば」
軽巡棲姫「改二になる?」
綾波「そうです、理論的にはね…そして改二になればもう1人の私を抑え込めるかもしれない、単純に私のステータスが上がった結果無理やり押さえつけるというだけですが」
軽巡棲姫「…上手くいくんですか、それ」
綾波「それを調べる必要があるんですが…イムヤさんの手で破壊し尽くされたここの設備ではイマイチです、少し出かけてきますね」
軽巡棲姫「…いつもあんな感じで?」
護衛棲姫「ハ、ハイ…」
軽巡棲姫(この人も苦労人だな)
綾波「ああ、イムヤさんに出された被害、施設だけで良いので補修しておいてくださいね?」
護衛棲姫「モ、勿論デス!」
軽巡棲姫「…手伝います、そこら中崩落してますし…1人では無理でしょう」
離島鎮守府 医務室
駆逐艦 朧
朧「……あ…」
目が覚めたと同時に、瞼の裏に焼きついた光景が頭を支配する
起きあがろうとするものの、全身が固定されて動く事ができない
春雨「動くな」
朧「……な、に…?」
春雨「大人しくしてなさい、貴方は治療に専念するんですよ…といっても、身体はこれに頼りましたが」
カートリッジを差し出される
朧「…増殖…」
春雨「修復剤とほとんど変わりませんが、そう……AIDAじゃないだけまだマシです…しかし…」
朧「……漣と荒潮は、間に合わなかった」
春雨「……」
朧「アタシのせいだ…アタシが…」
春雨「黙ってください、貴方のせいではない、少なくとも貴方を責める人はいない」
朧「…でも」
春雨「あなたは良くやった、あの場で誰より勇敢に立ち向かったんです、仇は後で取れば良い…」
朧「……それは…そうかもしれないけど」
春雨「…責められるべきは私です、あの場で立ち尽くすことしか出来ず、動いた時には全てが遅かった…」
朧「そんな事…」
春雨「今貴方が私の言葉を否定した時に抱いた感情はなんですか?」
朧「……春雨さんは…みんなの為に…」
春雨「お互い様、という事です…朧」
朧「……」
春雨と目が合い、つい目を逸らしてしまう
春雨「…私は何度友人を殺されたのか、それすらもわかりかねますが……最期まで、終わりの時まで、私は戦い、生き、より沢山の人を看取るつもりです」
朧「……看取る、か」
春雨「次があなたにならない事を祈っています」
朧「…死ぬつもりはない、アタシ達は綾波を倒して…戦争を……」
春雨「…どうかしましたか」
朧「…いや、綾波って…そっか、倒しても戦争が終わるわけじゃないのか…」
春雨「……そこは考えないでおきましょう、私達は平和を取り戻す為に戦い続けるんです」
朧「…うん、その為に綾波を倒す、それは単なる通過点だけど…」
春雨「私たちにしか達成できない」
特務部 オフィス
綾波
綾波「んー、コーヒーのドリップマシン、手入れしてませんね?それはよくない、怠慢ですよ…研究員のような頭脳労働者にとって一杯のコーヒーがどれほどの安らぎになる事か」
コーヒーを口に含み、笑う
数見「……どんな手段を使った…!」
綾波「何のことですか?ここに入った手段の事ですか?それともコーヒーメーカーを勝手に使ってる事ですか?それともそれとも研究員を全員私の傘下に収めた事ですかぁ?」
数見「っ…!」
苛立ちを隠さず私を睨む数見に微笑み、答える
綾波「私の前でセキュリティなんて…笑わせますよね、それに貴方の部下も簡単に籠絡できましたよ、命の保証、そして現在のお給料の倍の現金をそのまま今プレゼントしたし、何より私につけばさらに深い研究ができるとなると…ねぇ?どうです、貴方も私につきませんか?」
数見は迷うような素振りを見せ、自身のデスクへと向かう
綾波(…ふふっ…そこに隠し球があるわけだ)
数見「…部下と同じと思うな…!」
綾波「……見た事ないタイプの主砲…ですねぇ」
デスクの上に置かれた、精巧な主砲がこちらを向く
数見「…開発途中の、新しいシステムだ…人が扱うことを想定していない、完全無人兵器…!」
綾波「アハハハハハ!それで私に?!そんなもの……おや、おやおやおやおや!!ハッキングを拒みましたか…!」
数見「言ったはずだ…部下と同じと思うなと…!
主砲から光線が射出される
綾波(この威力…!凄まじい……!)
その凄まじい威力を、そのまま流用すれば…
綾波「アハッ……ピースを一つ、見つけたらしいですね…!その力、もらった…!」
数見「くっ……ぐぅ…」
綾波「あーあーあーあー、屋内でそんなもの使うから、反動をもろに受けて大怪我してるじゃないですかぁ…ねぇ、数見さん?」
瓦礫や熱戦を浴び、全身傷だらけの数見を見下ろす
数見「…何故、効かない…!」
綾波「ああ、私死なないんですよ……あれ?」
手法を探すものの、見当たらない
綾波「あれは何処に行きました?」
数見の傷口を踏みつけ、問いかける
数見「…一発限りの攻撃手段だ…」
綾波(…壊れた?耐朽性を敢えて脆弱にして奪われないようにしたのか…仕方ないですね)
綾波「もう一つ、作ってくれますよね?」
数見「…断る…!」
綾波「おや…まさかとは思ってましたけど、今更正義に目覚めましたか?」
数見「だったら何が悪い!」
綾波「悪くは無いですけど馬鹿だなぁ…と…全く、正義なんて幼稚なものに縋る貴方は何と醜いのか」
数見「なんだと…!」
綾波「世界は優しい大人が見守ってくれる学校とは違うんですよ、誰も貴方を褒めない、認めてもくれません」
数見「貴様…!」
綾波「では、貴方はイムヤさんに何をしましたか?私を脅して使いましたよね?曙さんは?」
数見「…それは…」
綾波「かといって、貴方があげた成果は……アハッ、何か貴方達が役立つものを作れましたかぁ?ほとんど私や曙さんの功績じゃ無いですか!」
数見「……」
綾波「正しいことを発言していると思ってる者ほど傲慢で、それすらも無自覚になる……今、貴方の目に写ってるのは絶望ですか?それとも深い後悔ですか?ねぇ、屈服しますか?私に服従しますか?」
数見「もう一度、アレを作るのは簡単な事だ…」
綾波「…おや」
数見「…楽な道を生きるのは、簡単だ…!だけど、私は決めたんだ!例え死んでも、死をもってしても、今までやって来た事を取り返すと!」
綾波「…はー……仕方ない、これ以上は無駄ですね」
拳銃を懐から取り出し、両肩を撃つ
綾波「気が変わったら連絡してください」