元勇者提督   作:無し

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絶対

駆逐棲姫のアジト

綾波

 

綾波「ふむ、状況は?」

 

護衛棲姫「人間ハ言ワレタ通リ、扉ノ裏ニ隠レサセ、背後ヲ徹底シテ狙ワセテイマス、侵攻ハ入口デ止マリマシタ」

 

綾波「被害は?」

 

護衛棲姫「…深海棲艦ノ方ハホボ、全滅ニ近イデス、特攻ニ近イ事デシタカラ……」

 

綾波「問題ありません、駆逐級やらなんやらはすぐ戻ります、とにかく頭数を潰さないと貴方達も苦しい思いをしますからね」

 

護衛棲姫「オ気遣イ、痛ミ入リマス…」

 

綾波「……どうしました、護衛棲姫…貴方がなぜ悲しそうな顔をするんです」

 

護衛棲姫「…ワカリマセン」

 

綾波「そうですか、うーん…身内の死に敏感な子なのか…はたまた……いや、なんにせよ貴方に辛い思いをさせてごめんなさい、大丈夫ですからね?」

 

護衛棲姫「……ハイ」

 

綾波「…わかりました、今後はできるだけ犠牲の出ない作戦に転換します、だからもう少しだけ頑張れますか?」

 

護衛棲姫「…カシコマリマシタ」

 

綾波(やはり、この子は甘すぎるみたいですね、悪いとは言いませんが…それよりも気になるのは侵攻状況だな、明石さんはもう処分して…曙さんと島風さんなら十分時間も稼げるか)

 

護衛棲姫「…大丈夫デス、必ズ、必ズヤ…最高ノ結末ヲ…オ見セシマスカラ…」

 

綾波「何をそう焦っているのですか、貴方が焦る必要なんてない、何も問題は起きていないし、至って順調、私達は今有利なんですよ」

 

護衛棲姫「…イイエ、不利デス、ソウ思ワナイト…足元を掬われる」

 

綾波「ふむ……なかなか殊勝な心がけですが…気疲れしない様に」

 

護衛棲姫「アリガトウゴザイマス」

 

施設の中で戦闘音が響く

 

綾波「来たか、位置を指定、行きなさい」

 

二体のレ級を向かわせる

 

綾波「…さて、もう1人の私、貴方のやった全てを無駄にする為に…」

 

暴く、何をしていたのかを…

そして、打ち砕く

実に容易な事のはずだ、たとえ複雑だろうと時間が解決するのだから

 

 

 

 

 

駆逐艦 天津風

 

天津風「見つけた…!こちら天津風!島風発見!」

 

五月雨『位置情報をアップロードしてください!!対策班は集合!』

 

白露『白露急行するよ!』

 

睦月『同じく!持ち堪えて!』

 

天津風「私1人でいい…来る前に終わらせるわ、行くわよ、連装砲くん」

 

ここで島風を止めなきゃ、もうチャンスなんてない…

もう呑まれちゃいけない、島風を助けて、全てが終わる為に

 

天津風「ぁ…あぁ…!!」  

 

呑まれない、呑まれてたまるか、私は…大丈夫

 

 

 

 

 

駆逐艦 アケボノ

 

アケボノ「…成る程ね」

 

朧「どうする、アケボノ」

 

アケボノ「私を尊重してくれるなら、サシでやりたい……コイツには借りがあるし」

 

潮「……任せたよ」

 

朧「ちゃんと元に戻しなよ…!」

 

アケボノ「はいはい…敷波、アンタもさっさと行きなさい」

 

敷波「…了解」

 

アケボノ「さて、待ってくれるなんて、もしかして話でも通じるのかしら…曙」

 

レ級「……」

 

アケボノ「そうはいかないか…アンタには謝らなきゃいけない事もあるし、色々と思うところはあるのよ、でもそういうのは置いといて……今はアンタを倒す、私にできるかなんて関係ない、ただ全力で…潰す」

 

艤装を掴み、主砲を向ける

 

アケボノ「…抵抗は無駄よ、提督の為に死になさい」

 

アケボノ(ま、不利なのはこっちだけど…大丈夫、倒してみせる)

 

周囲の気温が一瞬で上がる

 

アケボノ「っ!…呼吸も危険か!」

 

息をするたびに内臓まで焼けそうな感覚

まともにやりあうべき相手じゃない事は明らかだ

 

アケボノ(だけど、私とアンタは…そうじゃないでしょ?)

 

アケボノ「……」

 

レ級「……」

 

時間はかけられない、曙に対して砲撃を続けながら突っ込む

 

レ級「…!」

 

アケボノ「ッ!?」

 

目の前にダラリと赤黒い溶岩が降る

 

アケボノ「これ、は…天井が溶けて…!?」

 

赤熱した天井がどろりと垂れ下がり、どんどん降ってくる

 

アケボノ(……そうよね、ここはあんたのテリトリーってわけ…)

 

アケボノ「なんであんたがそっちに立ってんのよ、あんたは…こっちでしょ?逆じゃない」

 

何度だって、あんたは間違えた私を元の道に正してくれた

それは何度も、何度も繰り返した事

 

アケボノ「…目ェ覚ましなさいよ…ちゃんと、自分を見失わずに…」

 

何一つ、自身が言えた口ではないのだが…

 

今の私には(しるべ)がある、何一つ迷いはない

 

アケボノ「……私が、曙らしく…」

 

双剣を手に取る

 

アケボノ「炎対、マグマ…か……行くわよ!!」

 

炎を双剣に纏わせ、走る

 

レ級「……ッ!」

 

アケボノ「曙ぉォォッ!!」

 

爪で剣を受け止められる

 

アケボノ(どうすれば取れる、その首を!アンタの頭をぶち抜いて中身を総入れ替えしてでもアンタを元に戻してやる…!)

 

体を捻り、体を大きく回転させた斬撃

 

レ級「……!」

 

アケボノ「そうよね、アンタは対応できる、だってこれはアンタの動きだから…私はアンタをよく知ってる、だから私はアンタを…完全にコピーする、私はアンタの偽物だから」

 

レ級「!」

 

曙が腕を大きく引く

 

アケボノ(爪で引き裂く動作…ガードしても貫かれかねないか、私ならここで退く…だけど、アンタなら?)

 

アケボノ「退く訳ないわよね、アンタみたいな大馬鹿なら!!」

 

姿勢を低くし、爪をかわして斬り上げる

 

レ級「ガッ…」

 

アケボノ「…無意識なのか、それとも意識が戻りつつあるのか…アンタの動きは覚えがある、そう…私の選ぶ動きと似てる気がする」

 

全くの真逆だ、だが

曙と曙の戦い

私とアンタの戦いは、今までと全くの真逆で、でも

 

アケボノ「()のこの戦い方で…アンタ(アケボノ)に負ける訳ないでしょ、何度負けたと思ってんのよ…!」

 

左右に跳ねながら斬りかかり、通り抜けざまに斬る

 

アケボノ「三爪炎痕…!!」

 

レ級「……」

 

レ級が地面を踏み鳴らす

床がどろりと沈む

 

アケボノ(!…床がマグマに呑まれて…!)

 

飛び跳ね、距離をとる

 

レ級がこちらを向く

傷口から血を流し、片手を突き出す

 

アケボノ「……?」

 

中指をたて、笑う

 

アケボノ「…意識戻ってんじゃない、このクソボケ!!」

 

こうなれば、最早関係無い

突っ込んで、トドメを刺す

 

アケボノ「ああぁぁぁぁッ!!」

 

ただ、マグマを駆け抜け、トドメを…

 

アケボノ「が…?!」

 

レ級「…!…アッ…ァァ…アァァァアァァァッ!?」

 

何が起きた?目の前で、何が起きている…

曙の周りのあのモヤは?島風さんにまとわりついたのとよく似ている…

 

曙は、がっくりと項垂れる

 

アケボノ「……マズイ」

 

ゆらりと、揺れ、顔を上げる曙

こちらへと向いた視線に射抜かれた瞬間、体が凍る

 

アケボノ(この状態の曙と戦って、勝てるの…?いや、やるしか無いのか…)

 

双剣を強く握る

 

アケボノ「…そんなもん、燃やし尽くしてやるから、安心してなさい、曙…私に任せればいい」

 

まだ、ある

 

アケボノ「……?」

 

背後からバタバタと走ってくる足音…

 

アケボノ「…貴方達…突入予定はなかったはずじゃ」

 

龍驤「外は完全に制圧したから援護に来たんやけど…なんやこの暑さ…」

 

大鳳「あ、熱い…そ、外に出ても良いですか!?」

 

龍驤「アホ抜かすな!こんなとこで孤立してみ!?死ぬで!」

 

大淀「それで、どういう状況ですか」

 

空母や横須賀の援護を目的とした班も突入してきたか…

だけど、流石にここからは進めない、朧達のように逃すことは難しい

 

アケボノ「……アレを、助けないと進めません」

 

レ級「……」

 

龍驤「あ、あれ曙か!?えらい雰囲気が…」

 

大淀「……夕張さん、大淀です、見えてますか?こっちはこういう状況です、急いでください、電さん達もこっちの援護に」

 

アケボノ「無駄に人を集めないで、危険です」

 

大淀「……貴方は先に行った方がいいでしょう」

 

アケボノ「…何?」

 

大淀「貴方は、綾波さんとケリをつけるべきじゃ無いですか?ここは私たちに任せて…」

 

アケボノ「そうはいきません、アレとは私が直接…それに貴方達では…」

 

大淀「ええ、不足でしょう…貴方でも勝てるか分からないのでは?」

 

アケボノ「……」

 

大淀「だからこそ、戦力を優先すべき目標に回します」

 

一理、あるのか…

 

龍驤「大鳳!気張りぃや!」

 

大鳳「は、はい!」

 

艦載機が部屋の中を飛び回り、外壁を破壊する

部屋中の穴から一気に海水が入り込む

 

アケボノ「っ!?…海水が雪崩れ込んで…!」

 

マグマと触れた海水が一瞬で沸騰し…

部屋が爆発で吹き飛ぶ

 

 

 

アケボノ「っ……?…無事……?何が…」

 

神通「全く、無茶をするものですね」

 

大淀「貴方が守ってくれることは想定内でしたから」

 

新緑色の防護壁が爆発を防いだおかげで、怪我人はいない…

 

神通「今なら、進めるでしょう…早く」

 

アケボノ「……何故…」

 

大淀「もう言いましたよ、それに…借りの作り甲斐がありそうな相手ですから」

 

神通「早く、行ってください…私の姉妹と瑞鶴さんの仇、片方は任せます」

 

アケボノ(……)

 

アケボノ「わかりました、任せます」

 

 

 

神通「さて、風通しも良くなりましたし…まだマシでしょう」

 

大淀「勝てますか?」

 

神通「…生きるか、死ぬかです」

 

 

 

 

 

駆逐艦 天津風

 

天津風「…歯が…たたない……」

 

前のようにはいかない、もう、攻撃が通用しない?

いや、前より出力が低すぎるのか…なんにせよ、通用していない

 

天津風(なんで…やっぱり、意識を明け渡さなきゃダメなの?)

 

今ならわかる、あの意識の暴走は連装砲くんに全てを乗っ取られることに近い

島風がしていたという無機質な暴走とは違う、連装砲くんが管理し、演算し、戦術を組み立てた動きを私に強制する、そういう暴走…

だけど、それは島風を想っての事だって…私にはわかる

 

天津風「だけど……それじゃダメ、私達じゃなきゃイヤなんだ…!一緒に島風を助ける!」

 

島風が加速し、こちらへと爪を振るう

 

天津風(…ダメ、避けられない…)

 

目の前で火花が散る

 

天津風「え……れ、連装砲くん…?」

 

連装砲くんが島風の爪を受け、ひしゃげて落ちる

破損したパーツの内側から黒いモヤが漏れ出し、島風のモヤと融合していく

 

レ級「………」

 

天津風「…島風…ねえ、もう、いいでしょ…!?」

 

動けなくなった連装砲くんを抱きしめ、島風に叫ぶ

 

レ級「……」

 

島風が無機質に爪を振り上げる

 

白露「ちょぉっと待ったぁぁ!!」

 

島風が砲撃を受け、よろける

 

五月雨「ま、間に合った…」

 

天津風「…大湊の…?」

 

夕立「立てる?」

 

天津風「…ええ…」

 

白露「ふー、抜け駆け禁止ってね!オーケー、やるよ、みんな…!」

 

睦月「……やれるかな」

 

五月雨「大丈夫、助けられます」

 

レ級「……」

 

天津風「……」

 

連装砲くんを抱きしめたまま、島風の方に向く

 

天津風「連装砲くん、あと少しだけ頑張れる?…私が角度は合わせるから………もう少しだけ、力を貸して」

 

白露「島風ちゃん、前に話した夢の話、覚えてる?もし、島風ちゃんの事、助けられたなら…私にヘアアレンジさせてよ、私頑張るから」

 

睦月「もうちょっとの辛抱だからね…!」

 

天津風「……ねぇ、貴方達…」

 

白露「…ふぅ……話は後にしよう?」

 

睦月「目的は同じにゃしぃ!」

 

天津風「…みたいね、良い風、吹いてきた…!」

 

背中を熱風が、まるで追い風のように吹き付ける

 

天津風(絶対に、助けてみせる)


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