元勇者提督   作:無し

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嫉妬

雷巡 北上

 

「………」

 

気付いてた、私がおかしくなってるのは

 

「ふふっ」

 

でも、体が、不思議とすごく強くなってる

 

「あはっ」

 

体が軽くて

 

「いいねぇ…」

 

なんでも壊せる

これでやっと私も、みんなを助けられる

 

 

「あれ?ねぇ、何やってんのぉ?」

 

なんでこの子は動かないんだろう

 

「大丈夫?阿武隈ぁ?」

 

あはっ

ボロボロじゃん、なにしてんの?

 

「ねぇ阿武隈?」

 

なんで私をそんな目で見るの?

 

「……あっれぇ?………なんで?」

 

あ、そうか、わかった

 

「成る程ねー、敵かー」

 

殺そうとして、撃とうとしてようやく気付く

 

私は何やってんの?

え?なんで阿武隈が…あ、違う、やったの私だ

私が阿武隈を殺そうとして…

 

誰か、誰かいない?

 

周りには誰もいない

 

「………阿武隈、1人で帰って、本当にごめん」

 

手を差し伸べることはできなかった

沖へと静かに進む

 

頭が侵食されてるのにようやく気付いた

怖い

 

仲間を助けたかっただけなのに

 

 

 

 

 

なんで仲間を殺そうとしたんだろう

 

 

 

 

 

 

工作艦 明石

 

「本当ですか…?」

 

「はい、北上さんを追って翔鶴さんと青葉さんが出ました」

 

「それは構いません、阿武隈さんは」

 

「意識不明です、おそらく、気絶などとは違います」

 

「………」

 

「どうされますか?アオボノちゃんに頼みましょうか」

 

「……先に事情を聞く必要があります、捕縛するようにと…」

 

「それだけですか?」

 

「……絶対に沈めないようにと」

 

「わかりました」

 

「北上さんは…私たちの大事な仲間です」

 

私のせいか

翔鶴さんのことに気を取られた隙にこんな事になったのか

 

待て、まだだ

 

「後夕張を呼んでください」

 

 

 

「どうしたの?明石、今そんな状況じゃないでしょ」

 

「どんな状況なら呼んでいいのよ…ねぇ、確か艤装って発信機ついてたよね」

 

「紛失防止とかにね、でもここ、それ用のツールがないから特定できないでしょ」

 

「作れない?今すぐに」

 

「………本気?いや、確かにパソコンにはダウンロードしてるから見れなくは…」

 

「早く!」

 

「りょ、了解…」

 

電子関係は夕張に任せれば大体いい答えが来る

 

「そう、この海域に今いるみたい」

 

「……燃料とか弾薬はどうしてるのかな」

 

「もう1日よね…全く動いてる形跡がないわ」

 

「翔鶴さんと青葉さんも戻ってこないし、2人の方も追いたいんだけど…そっちは艤装が外されてる、戦闘能力がない状態で追いかけたみたいですね」

 

「…………ねぇ明石」

 

「なに?」

 

「幾ら何でも艤装を外して追うかしら、つけて行くのにわずかな時間しか、かからない…敵が出るかもしれないのに…それで、さらに言うと…あの2人がなんらかの理由で操れてたりとか…」

 

「……ない、と言います、結果はどうあれそんな可能性はありません、認めません」

 

「……おっけー、忘れるよ」

 

「とりあえず指定の海域にアオボノちゃんを主軸にした艦隊を」

 

「連絡した、今向かってくれるはずだよ」

 

「………なんだろう、この寒気は」

 

「…杞憂だよ」

 

AIDAの感染者となった北上さん

艤装すら付けずに飛び出した翔鶴さん青葉さん

 

AIDA 凶暴化を引き起こす、電子のウイルス

 

感染者の身体能力を飛躍的に高め、感情を暴走させる

 

起きた事例で、詳しいことは那珂さんの件で色々あったが…

 

「……あれ?那珂さんも艤装つけてなかった…よね」

 

「いつの話?」

 

「………ウイルス、って言われて…すっかり…もしかしてAIDAは形を…持てるの?」

 

AIDAを武器にする

 

そういえば那珂さんとの戦闘の報告で、那珂さんはクナイのような何かを使っていたとあった

これが形を持ったAIDAなら?

艤装を持たない理由はそれがあるからだろうか

そして翔鶴さんと青葉さんも…

 

 

いや、そう決めつけるのは早い、ただ説得に行っただけかもしれない

 

だけど私はもう決めつけている

あの2人もAIDA感染者だと思ったから、アオボノさんに任せた

 

「…ぅっ……」

 

「大丈夫?明石、やっぱりまだ調子悪いんじゃ…」

 

「………大丈夫…大丈夫だから」

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 曙(青)

 

「見つかった?」

 

「どこにも、変ですね、この辺にいるはずなのに…」

 

「扶桑はそのまま、艦載機はどう?」

 

「…あかん、見つからんわ、ホンマにこの辺なんかいな…」

 

「…艤装だけ捨てた?北上ならやりかねない…」

 

「金剛さんから通信来ました、青葉さん、翔鶴さんを発見したと」

 

「………その2人だけでも連れ帰る…?北上は何処に?」

 

『こちら明石、北上さんの捜索を打ち切って帰投してください』

 

「本気?」

 

『…此方としても苦渋の決断です、それになにより、あなたの力を失えば、私たちは完全に無力になる』

 

「…北上はどうするの?」

 

『近海は赤城さん、加賀さんに艦載機での捜索お願いしていますので、とりあえずはそのまま…先に青葉さんと翔鶴さんです、万に一つでも感染していたら…』

 

「…ok、阿武隈の方は?」

 

『まだ意識が戻らないですね、AIDAに寄生されたと見ていいかもしれません』

 

「あんたがデータドレインを使いたくない気持ちはわかるけど、何が起こるかわからないリスクより助けられる可能性に賭ける方が良いに決まってるわよ」

 

『そうかもしれません』

 

「…じゃ、帰投するから…待って、北上発見、遅くなるかも」

 

『え!?』

 

通信を切る

 

「私が近づくから手を出さないで…ただ覚悟しておきなさい、必要なら沈めるわ」

 

息を呑む

此方に向いてすらいない

 

「……ねぇ、アオボノ、どう思う?」

 

体が石みたいに固まった、進めない

此方を見もせず、正確に私と当てられる

寒気がする

 

「…何が」

 

「提督は死んだのかなって」

 

「………生きてるんじゃないの?」

 

「アオボノもそっち派かー」

 

たはー、と大袈裟なリアクション

やはり此方を向かない

 

「…ねぇ、北上、戻って「帰らないよ?」」

 

「私は帰らない、だって帰る意味ないじゃん」

 

「…阿武隈に謝らなくていいの?あんたあいつのこと嫌いじゃないんでしょ?」

 

「うん、でも謝れないかな…いや、謝らない、うん…もう謝ってどうにかなる話じゃないから」

 

「…何をする気?」

 

「みんな、認めてくれないんだよ、提督は死んだし、私は弱いって」

 

「……アンタは十分強いじゃない」

 

「…………何が?」

 

初めて此方を向いた北上

そして、その目は黒く染まり、赤い点が瞳孔のように此方を刺す

目元からは黒い涙のような液が絶え間無く滴る

 

「私には何もない、力なんて、駆逐艦どもがたまに出せる紋章砲すら…私には何があるの?技術を磨いても、どんなに頑張っても…!あれ一つ見たら、もう何もかもが霞む…!アオボノ、あんたの腕輪、何でアンタがもってんの?私がそれを手にしてたら、いや、私じゃなくても…明石や朝潮みたいな、長い時間を過ごしたやつなら諦めもつく…!なんで…なんでアンタなんかが…!」

 

「………嫉妬ってワケ?」

 

「嫉妬…フフ…Oh shit…なんてね…アハハ…何?馬鹿にしてんの?」

 

「今の私が悪いの?」

 

「嫉妬だよ?何か文句ある?私には何もないから…ソレが欲しい…私が救うって決めたみんなを私が助けるために……」

 

「阿武隈を殺しかけておいて?」

 

「…阿武隈には悪いことしたなぁ…でももう謝れないんだ、提督にもどうせ会えないし、全部壊すことにしたから」

 

ボコボコボコ

北上の背から黒い泡が無数に現れる

 

「あんなのに入って保存されてる提督見てもさー、わかる?ホルマリン漬けみたいじゃん…可哀想だし、さっさと壊してあげようかなって」

 

泡は無数に増えて、広がって、私たちを取り囲む

 

「でもそんなことしたらみんな止めるでしょ?だから悪いけどここで沈んで行ってね、アオボノから腕輪をもらって、私が使って、助けてあげて…アハ…」

 

「…酷いマッチポンプね…」

 

「マッチは誰が擦ったのかなァ………」

 

「クソ提督よ、アレのせいでこんな腕輪を手にした」

 

「…要らないんなら捨てなよ」

 

「そうしたいに決まってるわ、でも、私の意思で捨てられ無いのよ」

 

「じゃあ…腕だけ取り外してから考えるかぁ…」

 

北上の魚雷管の一つがAIDAに呑まれる

 

「…これって実はこんなこともできてさ…」

 

形を変える、腕についたソレが丸ノコギリのように回転を始める

 

「…完全に使いこなしてるってワケ…?」

 

「ちょーっと痛いかもしれないケド、良いよねェ…?」

 

「良くないわよ、戦闘用意!」

 

「邪魔は良くないよ」

 

「アオボノ!」

 

「……サシがいいってワケ?」

 

味方とも切り離される

 

「そうだねぇ…」

 

「…雷巡と駆逐艦なんて…アンフェアにも程があるわよ」

 

「いいじゃん、強いんだから」

 

「………アンタは怒るかもしれないけど、私は弱いわよ」

 

「強いよ、明石も強い、アオボノも明石も、私は届かない高さにいる」

 

「…それは心?」

 

「そうだね」

 

「………アンタは優しすぎんのよ」

 

「…AIDAってさぁ、多分思ってるよりやばいんだよね」

 

「…いきなり何?」

 

「翔鶴も青葉も、私の指先ひとつで操れるし、考えてることも分かる」

 

「…どう言う意味」

 

「深海棲艦に近いんじゃないかなって」

 

「…なんで?」

 

「私も半分沈みかけたからねぇ…データドレインされた時に、死にかけた、の方が正しいのかなぁ?」

 

「で?」

 

「翔鶴と青葉、私の指先ひとつで動くって言ったよね、今何処にいると思う?」

 

「…鎮守府」

 

「……そう、そして、私はあの偽物の提督はいらないんだ」

 

「………わかったわ、やってやろうじゃない」

 

「そうこなくちゃ」

 

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