元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 執務室
提督 倉持海斗
海斗「……弱ったな…」
あの新しく来た子達、既にみんなに任せきりな上に、今からネットにもいかなくてはならない…
どうしたものか…いや、どうすることもできない
1日の中で基本業務を終わらせる頃には夕刻、そこから自身の時間でパソコンなどを用意してThe・Worldにログイン…
そこまでは問題ない、だが困った点は有事の際に僕は何をすればいいのか、僕がどう動くべきなのか…
タイミングはとことん悪い、つい先程のことだが…
亮「呉に行く事になりそうだ」
という事らしい…なんだかんだ様々な作戦に参加したりなどの功績が評価されたこともあり…提督として赴任する事になった、と
喜ばしい事だけど、ここで呉戦力が消えるのは…正直何かあった時が不安になる
海斗(……僕は、何ができるのかな…)
今、この鎮守府に今僕がいる意味は?
求めるべきではないのかもしれない、役目がない方がきっと気が楽で、みんなを躊躇いなく助けに行けるかもしれない
アケボノ「失礼します、本日の業務完了しました」
海斗「お疲れ様、ゆっくり休んでね」
アケボノ「…先ほど、新人の様子を見に行きましたが…海防艦はすっかり寝ていました、まだ幼児ほどの齢の子供達ですので、仕方ないのかもしれませんが…」
海斗「緊張で寝付けないよりはいいよ、駆逐艦の方は?」
アケボノ「農業に勤しんでおりました、きっと問題無いでしょう」
海斗「良かった…」
アケボノ「中央の方々は?」
海斗「…何を考えるのか、よくわからないよ…今後も継続的に新人を送り込むつもりらしいし…拓海の事も上手くハワイに押しやって自分達で好きにやろうとしてるみたいだ」
アケボノ(…提督の前では言えませんが、火野司令官は優秀すぎる、敵が多いのも仕方ないのか…)
海斗「元々、拓海が1番上だからって好きに何かを動かせるわけじゃ無いのはわかってたけど…」
アケボノ「元の御老人は、なんの因果か綾波が一掃しました、しかし後釜に座った者たちもまた……という事ですか」
海斗「そうみたい、だね…」
アケボノ「…何を憂いておられるのですか、私では不足でしょうか?提督の求めておられる結末の為に、私達を"使って"ください」
海斗「……今、僕が悩んでるのは…」
あと一つ、中央で聞いた事がある
夕雲型同様の、最新式の艤装をアメリカに送った、という点…
海斗「…いや、心配してる事は……」
そして、アケボノにも、キタカミにも釘を刺された、次の戦争の相手を見極めろと
アケボノ「……成る程、しかし……それは、逆に判断材料として利用すればいいのではないでしょうか?」
海斗「判断…?」
アケボノ「もし、本来暴走しているはずのハワイの人間が最新式の艤装を使って来るようなら…虚偽の報告をし、意図的に火野司令達を罠に嵌めたという事になります……中央と共謀して」
海斗「…犠牲が出てからじゃ遅いよ」
アケボノ「ええ.しかし…情報は必要です、それに横須賀は腹の黒い人が2人も居ますから」
ジリリリリと電話が鳴る
海斗「ごめん、ちょっと待って…はい、離島鎮守府執務室…」
火野『海斗か?丁度いい、増援が欲しい、南南東40浬地点だ』
海斗「拓海?そっちで何が…」
火野『あまり話す余裕は無い、が…端的に言えば、艦娘同士の殺し合いに発展している…死者はいないが負傷者も出ている、早急に頼む』
海斗「わかった…!」
電話を置き、一拍置く
海斗「……金剛と阿武隈、それから龍驤…あとは川内型に緊急出撃要請を出して、僕は移動用のボートを用意しておくから」
アケボノ「意見具申よろしいでしょうか」
海斗「手短にお願い」
アケボノ「追加で大和さんと大鳳さんを送る事を提案致します」
海斗「……いや、高速ボートは6人が限界だよ、それと大和型と大鳳型の艤装はあのボートじゃ厳しいだろうから…」
アケボノ「ええ、ですので2台使えばよいかと」
海斗「いや、複数台使う事は問題ないけど向こうは負傷者が居るらしいし救命用にも必要だ、6人だけで行くよ」
アケボノ「御意に、すぐに準備をさせます」
教導担当 キタカミ
キタカミ「……油の臭い、それと…土煙の匂い……出撃札の匂い…」
北上「そんなもんわかんの?」
キタカミ「ボートを用意してる、それと、走り回ってる人もいるし、メンバーはすでに決まってる……成る程ねぇ、なんか有ったか…寝ててくれるといいけど」
横で寝息を立てている海防艦を眺める
北上「もう2時間は寝てるけど…夜寝れなくなりそうだよ」
キタカミ「かもねぇ……北上、木曾と一緒に出撃用意、万が一追撃があった場合…1番時間稼げるのはアンタらでしょ?」
北上「時間稼ぎ?冗談じゃん、全部やるっての」
キタカミ「ちょっと曲芸教えてもらったからって調子に乗らない……んー…ニオイ…混ざっててわかんないな、これ、焼き芋の匂い?それともカボチャ?」
鼻を鳴らし、立ち上がる
キタカミ「まあ、いいや……あ?…龍驤に、阿武隈…金剛…と、川内神通那珂……この編成は多分、対人想定だ」
北上「なにそれ」
キタカミ「川内型がでてきてる、あと戦艦にしては機動力のある金剛を選んでる、阿武隈は…指揮役、深海棲艦とやりあうには違和感ある編成かんだよね……」
北上「そうは思わないけど」
キタカミ「……阿武隈、足引っ張るな…」
北上「え?」
キタカミ「…いや、いい勉強か…」
杖をついて扉の方に歩く
北上「どこ行くのさ」
キタカミ「食堂、今のうちに目隠し作っとかないと」
北上「……どういう意味?それ」
キタカミ「医務室じゃ足りないんだよ、場所がね」
食堂
キタカミ「ふぃー…手伝ってくれてありがとねぇ?」
春日丸「いえ…」
春雨「本当に、必要なんですか?」
キタカミ「読み通りならね…春雨、医薬品ってどのくらいある?」
春雨「…20人くらいなら、全身に消毒液をかけて、包帯を巻いても問題ないでしょう…」
キタカミ「…足りてくれるといいけど……満潮、如月、居る?」
如月「はーい、何でしょうか」
キタカミ「あれ、満潮…は、非番か…」
吹雪「なので、私たちがお手伝いを…」
キタカミ「……待ってね、今考える…」
春雨「あの…?」
キタカミ「…船から来るなら…いや、鎮守府前はダメだな、仕方ないか…如月、食事の時間早めてできるだけ早く作って」
如月「えっ…構いませんけど、新人さんの歓迎会って阿武隈さんが…」
キタカミ「んなもんキャンセル、今はとりあえずすぐ食べられるもの出してあげて、何がどうなるかわからないから…あ、春雨、医務室に簡易の無菌室作ろう」
春雨「……わかりました、徹底しましょうか」
如月「何か、有ったんですか…?」
キタカミ「多分ね、血の匂いが充満してる部屋でご飯食べたくないでしょ」
吹雪「ち、血!?」
春日丸「深海棲艦…ですか?」
キタカミ「……だと、良いんだけど」
春日丸「…!」
春雨「……本当に、深海棲艦じゃないんですか」
キタカミ「知らないよ、まだ私は何も聞いてない……ただ、私にできんのは最悪を想定した行動だけだよ」
朝霜「んだよ、ここの飯は随分早えんだな?」
キタカミ「今日だけさね、勘弁してよ」
早霜「それは構わないのですが…どうして私達と一緒に食べてるのでしょうか」
清霜「えー?たくさんで食べた方が美味しいから良いんじゃない?」
キタカミ「そうそう、実はみんなに厳しくしすぎてひとりぼっちだからさぁ…」
朝霜「ケッ…自業自得って奴じゃねぇの?……つーか、あたいらの訓練もアンタが面倒みんのかよ」
キタカミ「…まあね」
血の匂いが微かに香る
キタカミ(さっさと食べるか…)
木曾達に視線を送り、ハンドサインでさっさと出撃用意を整える様に伝える
木曾(了解)
木曾「おい、姉さん、仕事だ」
北上「あいよ」
キタカミ(……ま、これでなんか有っても大丈夫でしょ)
すでに日は落ちた、逃げ切るのは容易なはず…
早霜「…何か気になる事でも?」
キタカミ「んー?」
早霜「急に箸が止まったものですから」
キタカミ「おー、よく見てんねー、実は私菜食主義者でさ、このウインナーいるヒト」
清霜「えっ!?要らないの!?欲しい欲しい!」
早霜(…何かを考えてる様な素振りでしたけど、違ったのか、それとも…)
キタカミ「おー、好きなだけ食べなー」
朝霜(こいつ、意味わかんねー)
キタカミ「……にしても、早霜だっけ?」
早霜「はい」
キタカミ「よく観てるねぇ…」
早霜「そうでしょうか」
キタカミ「ま、なんだろ…あんま怖がんなくていいよ、ここに居るのはみんなバカばっかだからさ」
朝霜「ンだよそれ…」
キタカミ「ホントにみんなバカなんだよ、でも安心しなよ?みんなバカみたいに強いから」
清霜「ホント!?やっぱり強いの?」
キタカミ「おー、そりゃ勿論」
朝霜「アンタは?」
キタカミ「私は…そうさねぇ…」
親指と人差し指で輪っかを作り、すこしだけ隙間を開ける
キタカミ「こんくら〜い…かな」
朝霜「つまり、弱えのか?」
キタカミ「ま、お婆ちゃんだから優しくしとくれよ〜」
早霜「…5つほどしか変わらない様に見えますが…」
キタカミ「えー、そうかなぁ…」
朝霜「教える奴が弱えとか、ワケワカンネー」
キタカミ(……あと30分…か、思ってるより多いな…)
キタカミ「あ、ほら、もうこんな時間、早く食べちゃいなよ」
清霜「はーい」
朝霜「まだ早えだろ…」
キタカミ「アンタら部屋に案内する前に暴れたからまだ施設の案内すら終わってないんだよ、さっさと案内するから食べちゃいな」
早霜「……それを考えても、明らかに時間は…」
キタカミ「いいからいいから、あ、大和〜?」
大和「は、はい!」
キタカミ「あとでこの子達案内しといてね」
大和「……私ですか」
キタカミ「貴方です」
キタカミ「負傷者の数は」
春雨「17、内3名は重症…夕張さん、大淀さん、暁さんといずれも艦娘です、艤装接続部を攻撃され、裂傷…詳しく調べないとなんとも言えませんが…」
キタカミ「ここじゃ無理?」
春雨「いいえ、設備は整えて頂いてますから…それよりキタカミさんはメンタルケアをお願いします」
キタカミ「あいよ、一応追撃隊は追っ払ってるから、心配無いはずだよ」
春雨「……本当に、こうなるとは…」
食堂いっぱいに血の匂いが充満する
他の匂いが感じ取れないほどに
キタカミ「……はぁ…」
テーブルに腰掛け、項垂れてる集団に近づく
キタカミ「お疲れぇ……どしたのさ、そのクソみたいに落ち込んだツラは」
阿武隈「…ごめんなさい…」
金剛「助けに行ったのに…逆にコテンパンにされたデース…」
キタカミ(……)
龍驤も顔は暗いが、何かを思案する様な表情
川内型は負傷者を気にかける様子…
キタカミ「成る程ね、わかった……金剛と阿武隈、アンタらが悪いわ」
龍驤「ちょ、待ちぃや…2人は何も…」
キタカミ「戦争してるの、忘れた?」
阿武隈「……」
金剛「……私達が、戦争してる相手ハ…深海棲艦デース…」
キタカミ「うん、違うね、今戦争してる相手は人間だよ」
川内「…ちょっと、酷じゃない?言い方とかさ」
キタカミ「阿武隈、アンタちゃんと撃った?アンタから硝煙の匂いが殆どしないんだよね、金剛、アンタもだよ」
阿武隈「それ、は…」
金剛「……撃ってまセン…」
キタカミ「チッ……わかってるよ、阿武隈、アンタは撃ったら殺しちゃうもんね?教え込んだからねぇ…確実に殺せるように撃ち込む場所を選ぶ方法とか、全部…撃った人間を殺してしまうから、撃てなかった…」
阿武隈の肩に両手を置く
キタカミ「……じゃあ、なんで硝煙の匂いがこんなに少ないのさ…殺せとは言わないよ、守って無いよね、誰も」
阿武隈「…!」
キタカミ「金剛もさ、役割わかってる?どんな打ち合わせしてどんな役割を与えられた?」
金剛「……前に出て、攻撃を、集中して集める…予定デシタ…」
キタカミ「阿武隈、金剛は囮になるとして…見殺しにするの?」
阿武隈「ちがっ…」
キタカミ「アンタが敵の砲弾全部撃ち落とすくらいの気持ちじゃなきゃさ、ダメなんだよ…アンタの後ろには沢山の怪我人が居て、それを減らせたかもしれない…けど、そんなのどうだって良いんだよ」
阿武隈の顔を持ち上げ、金剛の方を見せる
キタカミ「アンタは、金剛を殺しかけてんだよ」
阿武隈「っ…」
金剛「そ、それは違いマス!私も前に出られまセンデシタ…」
キタカミ「じゃあ、もっと悪い……全員殺しかけた事になるねぇ」
阿武隈「…は、い…」
神通「流石に言い過ぎでは」
キタカミ「……私さ、阿武隈が出撃するってわかった時に嫌な予感したんだよね、不知火ならこうはならなかったよ、人間を殺す事に躊躇いなんて無いからさ」
那珂「…酷いよ、そんなの…」
キタカミ「事実だから、仕方ないでしょうが…阿武隈、アンタが自分で立てた作戦、どこまで実行したか言って」
阿武隈「……」
キタカミ「言え」
阿武隈「…何も、してません…」
キタカミ「…川内型が居て、本当に良かったよ…本当に幸運だった…だって誰も死なずに帰ってきたから」
川内「……」
キタカミ「川内、言いなよ、この間抜けな甘えた考えを変えるためにさ」
川内「…私達、しばらくしたら呉に移る」
神通「初耳です…」
那珂「そう、なの…?」
キタカミ「まだ本決まりじゃ無いらしいね、だとしてもほぼ確定でしょ」
川内「……」
キタカミ「阿武隈、次助けてくれるのは、誰?」
阿武隈「…それ、は…」
キタカミ「頭張ってんのはアンタなんだよ、気合入れな、私は…阿武隈にしか託せないとと思ってたんだから」
阿武隈「……ごめんなさい、失望させてしまって…」
阿武隈が啜り泣く
キタカミ「殺せなんて言わない、別に良いよ、どんなに甘くても…でもね、仲間見殺しにするような真似は絶対に許さない…だって阿武隈強いもん、みんな守れるくらいには強いのに何やってんのさ」
阿武隈「ごめん、なさい…!」
キタカミ「……龍驤、そっちはどういう感じ?」
龍驤「…艦載機、あっさり全部堕とされた」
キタカミ「対空に重点置いてる奴がいるか…まともにやりあうのは阿呆らしいね」
龍驤「…ウチ、どうすりゃええんやろ…」
キタカミ「最近秋月がノルマこなすの早くてさ、割と自由になってるから秋月と演習してみたら?赤城や加賀も集めてさ」
龍驤「…そうしてみるわ」
キタカミ「報告書は書くから、事細かにログとか教えてくれると嬉しいんだけど」
川内「手伝う」
キタカミ「それと、提督からの処分とは別に私からね、今回作戦参加6名は日中の訓練参加を三日間禁止、以上、ほんじゃ川内、後でね」
川内「…優しいとこあるじゃん」
阿武隈「優しいですよ、甘くはないですけど…」
神通「…処分、でしょうか…これって」
龍驤「失態もあるから表向きには処罰って事にしとるんやろ…充分甘いわ…しかしウチには重い罰やな、試したい事山のようにあるっちゅーに」
川内「今無理なトレーニングをして体を壊すことを防ぎたいんでしょ」
波止場
朧「あ、キタカミさん…」
キタカミ「おー、やっぱり?」
朧「はい、何か変な匂いが残ってて」
キタカミ「……船倉のネズミ捕りでもしようかなぁ」