元勇者提督 作:無し
東京 特務部 オフィス
提督 倉持海斗
アケボノ「……本当に綺麗にしてるとは思いませんでした、しかし…ふむ」
数見「大したもてなしもできず申し訳ありません、何用でしょうか?」
アケボノ「綾波の事です、銃殺して焼却処分…果たして本当に実行されたのか」
数見「……綾波死刑囚は現在も死刑を執行中です」
海斗「執行中…?」
アケボノ「何をふざけた事を…」
数見「信じ難い事ですが、彼女は死にませんでした、今もなお…当初は船内で銃殺される予定でしたが、全ての銃が動作不良を起こし、弾詰まりや暴発、まともに動作した主砲も1発は撃ったのですが、その瞬間波が高くなり外れるなど…」
海斗「…ええと…」
数見「納得できないのも当然です、それ以降に絞首刑、焼殺などありとあらゆる手段を試しました」
アケボノ「……それらも失敗した?」
数見「絞首台は故障し、火は何故か消え、直接の首吊りは縄が切れたり柱が折れたりと、まるで何かに守られているようでした」
海斗「……それは…」
数見「刑を執行できない、とにかく今は報道規制を敷き、どうやって殺害するかを思案する中…綾波さんはこう言いました「私を雇いませんか」と」
アケボノ「…本当に雇ったと…?」
数見「私は勿論拒否しました、しかし既にこの国の中枢には伝わっており、大金を積み、雇う人が現れました」
アケボノ「…馬鹿が」
数見「しかし、綾波さんは自信を雇う相手にはこう条件をだしました…「私の好きなようにやらせろ、金は全て先出し、その代わり与えられた仕事は私が拒絶しない限りは全て完璧にこなす、ただしやらない事もある、世界征服なんかには協力しない」と」
海斗「…この場合の世界征服は選挙とか…?」
数見「そう捉えて良いでしょう、綾波さんはノートパソコンと大金の入った口座を受け取り、彼女を雇った外務省の一角に隠れ済んでいるようです…既に部下もいるとか」
アケボノ「綾波なら…簡単に国をひっくり返しますよ」
数見「私もそう思い、止めようとしました……しかし、彼女はどう足掻いても表向きには死んでいる、私たちは止める手段を失った」
海斗「…どうして執行されたという報告が来たんですか?」
数見「混乱を避けるため、という事になっています…何より、彼女は人の扱いが上手い、慕う者は多いでしょう」
アケボノ「……それを考えれば、死んでいるということにするべきか…そこかしこでクーデター…考えたくない…」
数見「あなた達が保護した綾波さんの基地にいた人間が全て暴れ出したら…それこそ国が簡単に崩壊します、一声かければ彼らは目の前の人間を殺す事を躊躇わなくなるでしょう」
海斗「……」
数見「…私から話せるのはここまでです、これ以上は私達は知りません」
アケボノ(朧に綾波の存在を隠していた理由は掴めた、そして生きている事がわかった、私達には何が求められる、あれを止めるにはどうすればいい)
海斗「…アケボノ、帰ろう」
アケボノ「はい、失礼します」
数見「…倉持さん」
海斗「はい」
数見「……私は、そう…間違ってるかもしれません、ですが…」
海斗「…僕も同じです、もう一度だけ…どこかでそう考えています」
数見「すでに呑まれているのかもしれませんね、彼女の策の中に」
某所
綾波
綾波「……んー…」
力を回収したカートリッジをデスクの上でカツカツと鳴らす
綾波(正直、ここにいる意味はない…もう利用し終わった……だが私がここを離れたらどうなる?捜査がより厳重になるのは気にならない、私が弱ってるのは…)
カートリッジをカバンの中に投げ入れ、体を投げ出す
綾波「はーあ、つまんない…これじゃダメなんですよね、試験機だとそろそろ終わりですよ?……はぁ…回線も繋がらなくなったか、自力で戻るのは…ちょっと疲れるなぁ…」
上手くやればネット経由で還せるか
綾波「……あ」
キュルキュルと耳障りな音が近づいてくる
綾波「遅かったですねぇ…助かった、危うく私を失うところでしたよ?……アハッ♪」
綾波「これが、3号ですか?」
目の前の誰かが頷く
綾波「……あ、そう言えばこれ、見てくださいよ」
眼が熱くなる、紋様が浮かんでいるのがわかる
綾波「良いでしょう?コレさえあれば悪い事やりたい放題ですよ?……冗談ですよ、アケボノさんの携帯の電源を入れたぐらいです」
目を抉り出す
綾波「見た目の質感は相変わらず素晴らしいのに…ああ、この体ともお別れか」
必要なものは全て揃った…か
綾波「……ん?ああ、気にしなくて良いんですよ、あなたがそちらにいてくれるのは私の願いですから…と?」
朧「……」
綾波「流石に鼻を騙すのは難しいですね、なんですか?」
朧「…綾波の目的を、教えて」
綾波「……さあ?」
朧「綾波、まだ…周りに対して、恨みとか…その…」
綾波「勘違いしないでください…確かにこの世界で私や私の周りには不幸が降りかかりました、しかしそれがなんです?不幸だからなんだ、どうしようもないから、なんだというのか」
朧「…恨んでるわけじゃない、の…?」
綾波「感情で物事を判断するのは、あまりにも愚かです……私でさえ流される激流ではありますがね…」
抉り出した目を渡す
綾波「私は天才だ、誰よりもはるかに賢い、そんな才能を持つ私が止まる事…世界が許すでしょうか…いや、許すわけがない、私の力の片鱗をお見せしましょう」
この古い身体を取り囲むように、歩いてくる
朧「……その人達は…?」
綾波「私の協力者…そうですね、同じ問題を抱えた、いわば協力関係にある者達です…ま、私を恨んでる者も多いですが…ああ、この身体は好きにして良いですよ」
朧「…どういう…」
綾波「分かりませんか?私は謂わばコピーなんです、今喋ってる私も、正確に精密に作り上げられた…そう、ただのデータ…」
ああ、もう体が動かないな
グチャグチャに潰される
私を恨む者達に壊される
痛い、肉が裂け、骨が折れる
綾波「……あ、は…先に…」
目の前で別のボディに眼が埋め込まれる
とうとう私は役目を終える
綾波「お疲れ様でした、綾波」
鈍い音、骨が砕ける音が無限に響く
綾波「ふむ……ああ、ヘルバさんが協力者だったら、3日でこのクラスに辿り着けたのに…」
朧「…その、さっきの綾波は…?」
綾波「ああ、なんていうか…細胞から作り出したクローンですね…性能が高くないので曙さんには間違いなく遅れをとるし、やむを得ず不意打ちを」
朧「く、クローン…じゃあ、その…」
綾波「しー……」
人差し指を唇に当てる
綾波「そもそもあなたはこれ以上関わるべきじゃない…あなたはThe・Worldで頼んだお願いを終わらせた"曙さんを誘き出す"と言うお願いは終わったし、私に操られていたと言えば皆んな納得するでしょう?」
朧「……ふざけないでよ、アタシがわざわざここまで来たのは…!」
紋様が目に浮かび上がる
綾波「朧さん、私はあなたの思うような素敵な人じゃないんです」
朧「…そう、か……綾波は定期的に身体を変更しないといけない、だから連れ帰れない……いや、そもそも…匂いが違うから気づかなかった…そう、か…」
綾波「おや?…バレちゃいました?」
朧「匂い対策なんて簡単にできる、そんな分かりやすい嘘つくから…全部わかった…けど、綾波の目的は…」
綾波「地獄に堕ちる事…その為に、やれるだけの事をやるつもりですよ♪さて、はてさて、朧さん…気づいちゃったかー…あなたを帰せなくなってしまった」
やむを得ない、こうなれば仕方ないのだ
朧「……覚悟はできてる」
朧さんの目に紋様が浮かぶ
綾波「アハッ…それは好都合…さて」
前の体を取り囲む人達を眺める
綾波「さて、そろそろその私をいたぶるのをやめて手を貸してくださいますか?みなさん」
振り向いたうちの1人が強くこちらを睨みつける
リシュリュー「…どうやって約束を取り付けたか知らないけど、契約が終わったら覚悟しておいて」
綾波「勿論…他の方達はどうですか?」
ザラ「…すみません、まだ時差で少し」
タシュケント「正直、君とは不愉快で関わりたくないんだけどね」
グラーフ「仕事は全うする、が、それはそれだ」
綾波「結構です、あなた方が私の指示に従うだけであなた達の国は一部正常な機能を取り戻す事ができる……朧さん、あなたにも手を貸してもらいますよ」
朧「…うん」
綾波「…と、忘れてた…女神様に伝言を…私はしばらく行けません、とね」
「……」