元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 執務室
駆逐艦 曙
曙「……」
アケボノ「お茶、飲む?」
曙「要らないわ、それより何やこの拘束具」
腹部にガッチリとベルトのような物で固定され、ソファから立ち上がれない
アケボノ「アンタはほっとくとどっか行くでしょ?」
曙「…朧を追わせなさいよ」
アケボノ「今はダメ、せめて話聞きなさい」
曙「話?」
アケボノ「…はぁ…」
アケボノが大きくため息をつき、ティーセットをテーブルに並べる
アケボノ「まあ、ゆっくり話しましょ」
曙「……悠長な事してる場合?アンタ、朧のこと…」
アケボノ「まあ黙って聞きなさい……朧はアンタにヒントを残していってる」
曙「ヒント…?」
アケボノ「「The・Worldで碑文使いの存在を感じた」と言ったのよね?それって妙じゃない?」
曙「…どこがよ」
アケボノ「ダミー因子とは言え綾波の存在を朧が感じ取ったのだとしたら…いつ朧と綾波は連絡を取り合ったのか……The・Worldで出会ったならそうは言わない、何よりアンタに知らせるわけないでしょ」
曙「それは…アイツならパソコンでも携帯でもハッキングできるでしょ!?」
アケボノ「そうね、それを持ち出されたら負け…だから考えない事にしたの」
曙「はぁ?」
アケボノにクッキーを口に押し込まれる
アケボノ「成立しなくなるような前提は排除、無理矢理にでも推理できるようにしてから考えるのよ……それで、もし綾波と接触した上でアンタにThe・Worldの事を教えたなら…」
曙「むぐ……ん、The・Worldに何かある?」
アケボノ「実際私と提督で調査したんだけど、変なとこに飛ばされて変な奴らに襲われて…でも、おかしい事に…その時受けたダメージが脳に響くような感覚があった」
曙「何よそれ」
アケボノ「わからないけど、頭に強い衝撃を受けて脳震盪を起こすような感覚かしら…確かに私はダメージを受けていた様な…」
曙「……それで?なんで朧がThe・Worldの事を言った話になるのよ」
アケボノ「さあ、まだ調べ切ってないんだもの」
曙「…朧を追うつもりは」
アケボノ「無いわ、協力関係なら殺されないだろうし…引っ叩いて連れ戻す役目なら譲ってあげるけど?」
曙「…朧が危険かもしれないのに?」
アケボノ「危険はないと判断したのよ、私は」
曙「……」
アケボノ「朧だって…自分のしてる行動の意味はわかるはずよ、少なくともあんたは朧に傷つけられた、違う?」
曙「だからって…」
アケボノ「私達は組織、朧はその組織に背いた…である以上…叔母は1人にかかりきりになるわけにはいかない…アンタが朧を追うのは勝手よ、だけどそうなった場合…潮や漣に向けられる目も厳しいものになる、だって姉妹なんだから」
曙「…あたしの責任はあたしが取る」
アケボノ「最終的にはそうかもね、でもその過程で潮と漣は針山に立たされる…不和を招くよりは…わかるでしょ」
曙「ここの奴らがそんな小さいこと言うって?」
アケボノ「そうじゃない、新人も居るでしょ?その上中央も一枚岩じゃない…ストレスの溜まる環境、もし誰かが幼稚な感情に揺さぶられて攻撃的になったとしたら?」
曙「……そうね、アンタは賢いわよ、でもあたしは大馬鹿なの、アンタの理論めいた話は…」
アケボノ「なら簡単よ、朧1人を取るか、潮と漣2人を取るか」
曙「…2人じゃない、3人よ…アンタに向けられる目も厳しくなる」
アケボノ「わかってるなら…大人しくしてて、私も綾波を放置するつもりは毛頭ないから」
曙「具体的にはどうするのよ…」
アケボノ「…そこよ、本当に…どうしよう…」
拘束具を外され、茶話会と化した時間を過ごす
北方海域
駆逐艦 五月雨
五月雨「へくちっ!……うう…寒い…」
白露「防寒着着ればいいのに」
五月雨「お、重いとバランスずれちゃって…それより、輸送船の方は…」
耳に、嫌な音が響く
五月雨「…交戦してる!東南東!」
飛び交う英語、悲鳴…
何が起きて…
なんでこんな声が聞こえて…
夕立「…どこで戦ってるの?」
五月雨「…え?」
ハッとして辺りを見渡したら…砲撃の音も、何も無い…
五月雨「で、でもさっき確かに…」
白露「あ、提督?…え?アメリカの艦隊が交戦中…東南東…?」
白露姉さんがこっちを見る
五月雨「…行きましょう」
五月雨「な、何あれ…」
アメリカの艦隊を襲ってるのは駆逐級の群れ、確かにそれだけ…でも、何かがおかしい
アメリカの話では戦艦や空母も出しているのに、圧倒的不利な様子…
白露「配置について!五月雨!とにかく撃ちまくって良いから!」
距離はだいたい5キロ、私たちの仕事は…護衛のさらに護衛…と言うか、補助…超遠距離からの敵の排除…
カートリッジを艤装に押し込み、狙いをつける
五月雨「わかりました…!」
放った砲弾が、音速を超えて深海棲艦を貫く
夕立「一つ、撃破確認っぽい」
立て続けに撃ち込み、カートリッジが使えなくなったら即座に新たなカートリッジを挿入する
五月雨(…大丈夫、少しずつ……あ、れ?)
一体、砲弾をモノともしない…
五月雨「…あれだけじゃない…?」
ダメージが通らない敵が、一体、二体…
砲撃が直撃する瞬間、何かが見えた、薄緑色の光のような…
五月雨「な、なんで…!」
攻撃が、効かない…
白露「こっちに気づいた…来るよ!」
夕立「五月雨は守るっぽい!」
2人の砲雷撃をモノともせず敵がこちらへと迫る
白露「こ、こいつ…攻撃が効かない!?」
夕立「どうなって…!」
五月雨「っ…!」
2人を押し除け、艤装のカートリッジを取り替えて主砲を向ける
至近距離での砲撃
何度も規模の小さい爆発を起こし、深海棲艦を吹き飛ばす
五月雨「……嘘…」
それでも、傷一つない
今のは隠し球のつもりだった、これで万が一を乗り切るつもりのカートリッジだった…それすらも…?
五月雨「…どう、して…効かないの…?」
吹き飛ばされた深海棲艦がこちらへと迫る
死のイメージ
頭が痛くなる、怖い、でも…私がここで諦めたら、3人揃って終わる…れ
『あーあー、聞こえてますか?』
白露「無線から…?だ、誰!?」
夕立「混線してるっぽい…!」
『五月雨さん、聞こえてる前提で話しますよ…貴方の力を解放しましょう』
五月雨「…え?」
目の前の深海棲艦が砲撃を受けて速度を落とす
リシュリュー「
白露「だ、誰?アメリカの…」
夕立「…フランス語っぽい」
『五月雨さん、私の声に集中して…他の事を忘れましょう、一度目を瞑れますか?』
五月雨「な、何を…そんなの…」
『貴方と貴方の姉妹を助ける最後の手段です、そこに居る人は時間稼ぎしかできません、倒すには貴方の力が必要なんです』
五月雨「…貴方は、誰なんですか…?」
『力が目覚める過程で気づくはずです、とにかく今は…喧騒を忘れ、覚醒する為に…目を閉じて、深呼吸して…』
…止むを得ず、目を閉じる
周りの音が何も聞こえなくなったかのような…静寂が私を包む
『貴方には、イニスの因子が宿っている…貴方は力を持っているんです、それを活かしましょう…さあ、私の声をよく聴いて…貴方の力を…ちゃんと意識して…そうです、良い子ですね…』
まるで、見えているかのように私を…
五月雨「…っ…?貴方は、まさか…」
綾波『ええ、ですが今貴方がこの場を乗り切るには私の指示に従うしかありませんよ』
目が、焼けるように熱い…
しかし痛みはなく、嫌な感じもせず…ただ闘志が湧くように…
綾波『良いですよ、今の貴方なら力の使い方がわかる…貴方を誰も止める事はできない…大丈夫ですよ』
目を開く、辺りの騒がしい音が一気に流れ込み、頭が痛くなる
綾波『大丈夫、慣れれば楽になります…さあ、目の前の敵を見て』
こちらへと飛びかかってくるイ級、主砲の先端を突きつけて、撃つ
ガラスが割れるような音…後はどうすればいいか、自然にわかる
艤装のカートリッジを入れ替える
五月雨「…データドレイン…」
光線がイ級を貫き、消滅する
五月雨「……なんで、私にこんな力…私に、何を…?」
綾波『それはまだ言えませんが…貴方なら十二分に戦える、貴方は敷波以上のスナイパーですから』
片っ端から、仕留める
撃ち込み、壊し、貫き…
白露「さ、五月雨…」
夕立「…やっぱり、ズルいっぽい、夕立達はたまたま手に入らなかった…それだけなのに」
不公平、不平等なこの世界…だけど、力を手にしたら…
五月雨「責任は、果たします」
私が果たせる責任には限度があるけど
五月雨「…殲滅、完了…」
周囲の深海棲艦を撃破し、アメリカの艦隊の付近の深海棲艦を撃ち砕き、掃討する
綾波『よくできました、優秀なスナイパーさん♪』
五月雨「…あの…その…」
綾波『なんですか?』
五月雨「私、貴方に…謝らなきゃ……その、ごめんなさい、貴方の…妹を撃って…」
綾波『…バカな人ですね、戦争してる相手を撃ってそれを後悔するなら貴方は戦争自体が向いていない』
五月雨「だとしても!私は…もし私がもっと強かったら、殺さない手段があったかもしれない…和解できたかもしれない…」
綾波『……貴方がバカな人でよかった』
五月雨「ほぇっ?」
綾波『リシュリューさんに伝えてください、回収地点Cにて合流、速やかに戻るようにって』
五月雨「え?あ、リシュリューさんって言うのは…」
リシュリュー「私、B?C?どっちだって?」
五月雨「Cです…」
リシュリュー「
五月雨「え、と…はい」
もう無線から綾波さんの声はしなかった
大湊警備府
五月雨「え?…無線、ジャックされてたんですか?」
徳岡「ああ、だが…まあ、上手くいってよかった…お前たちが無事で本当によかったよ」
夕立「疲れたっぽい〜…」
白露「お風呂入って寝る〜…」
五月雨「…じゃあ、私も……」
徳岡「ああ、ゆっくり休めよ」
五月雨(……嫉妬、安堵、不安…三者三様の声…夕立姉さんは…私に対して嫉妬してる…白露姉さんは帰ってこられて安堵してる…)
人の感情に晒されるのは、こんなに不安になるのか…
相手の感情が全て流れ込むように、声に乗って…音が私に教えてくれて…
五月雨(…怖い、力…)