元勇者提督   作:無し

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引き分け

離島鎮守府 執務室

秘書艦 アケボノ

 

漣「おいっすー……あれ?ボーノだけ?」

 

アケボノ「それが何?」

 

漣「いや、ご主人様は?明石さんに呼んで欲しいって頼まれたけど…居ないって事はゲーム中?」

 

アケボノ「いいえ、中央に呼び出されてます、朝潮さんの事で」

 

漣「なるほどね……あー…うん、その…」

 

アケボノ「無理に言葉を紡ぐ必要はないわ、もし、たとえ深海棲艦になったのなら私たちで元に戻せばいい…永劫の時ですら、取り戻す機会はある」

 

漣「……あー、あとこれ」

 

アケボノ「…曙の移籍願い…?呉に……アイツ、まだ朧を追うつもりね」

 

漣「みたい…でも、ボーロが心配なのは…」

 

アケボノ「わかってる、直接話すべきね……今のアイツじゃ何もできない事…直接教えなきゃわからないんでしょ」

 

ガンッと扉を蹴る音がする

 

曙「誰が、何もできないって?」

 

アケボノ「聞いてたのね、その通りの意味よ、今のアンタじゃあの力も無ければ…」

 

曙「表に出なさい、ぶちのめしてやるから」

 

アケボノ(ま、私に勝てたとしても綾波に勝てる事にはならないけど)

 

アケボノ「いいわ、漣、改二艤装を2人分出してくれる?……いや、やっぱり…直接取りに行くわ、せっかくだし本気で相手しなきゃ意味ないでしょ」

 

曙「上等」

 

 

 

 

演習場

 

アトランタ「何あれ」

 

アイオワ「…同じ顔が2人居るって聞いてたけど、本当なのね…」

 

キタカミ「おーい、漣、これ何やってんの?」

 

漣「あ、キタカミさん…その……ケンカ…?」

 

キタカミ「……漣、アケボノに伝言頼める?」

 

 

 

アケボノ「キタカミさんが?」

 

漣「うん、観てる人も多いしって…」

 

アケボノ「駆逐艤装のみか…」

 

手札は、汎用的な綾波型と朝潮型、速度の島風型、そして火力が桁外れの夕雲型…

 

アケボノ「……ま、良い…か」

 

曙(…あの艤装、確かベースの綾波型艤装…つまり、綾波が改造する前の、本来の綾波の艤装…)

 

アケボノ「さあ、やりましょうか?」

 

曙が両手に双剣を持ち、クルクルと回して構える

 

曙「……そうね、始めましょ」

 

アケボノ「燃料、足りると良いわね」

 

今の曙は燃料を消費しなくては炎を使えない

つまり時間をかければ私に負けはない

 

曙「……」

 

アケボノ(真剣な曙とやりあうのはレ級の時以来かしら、まあ……問題はない…)

 

曙の双剣に赤々とした炎が灯る

 

曙(…今の私じゃ、これが限界か…熱い、肌が焼けそうに熱い…)

 

曙「…スタート、よ」

 

 

 

教導担当 キタカミ

 

アトランタ「ねぇ、何でアイツ剣なんか使ってんの?圧倒的に不利じゃん」

 

アイオワ「それよりも炎の方が不思議よ、操ってるみたいに…」

 

キタカミ「そんなに変な話じゃない、あの2人の距離感の問題だよ、あの2人はただ、距離が無いだけ」

 

ここまで響く声で曙が叫びながら斬りかかる

 

キタカミ(…それは剣技って感じじゃないなぁ……もう、怒り任せに振ってるみたいな…)

 

曙の攻撃を距離を取り続けることでかわすもう1人のアケボノ

お互いがお互いを理解しているからこそ、この圧倒的に有利不利の分かれた状況ですら致命打は未だに出ない

 

アケボノ(…カートリッジを使えば今すぐにでも終わる、だけどもう少し…)

 

曙(絶対…負けない…負けるもんか…!)

 

曙の艤装が火を噴く

 

ワシントン「ね、ねぇ、背中燃えてるけど…!」

 

キタカミ「…ありゃぁ…ガチだねぇ…」

 

曙を赤々とした炎が包む

 

曙(アンタがカードを切らないなら…私が先に切る…!)

 

アケボノ「焼け死ぬつもり?」

 

曙「バカね、切り札はお守りじゃないのよ…!」

 

曙の炎が放つ熱気がここまで吹き付ける

 

漣「……炎が、青く…」

 

キタカミ(…溶けてるね、匂いが酷い…)

 

曙「っらぁぁぁぁッ!!!」

 

アケボノ(蒸気と炎の壁で視界が…)

 

炎で行手を遮られたアケボノ、そしてそれに詰め寄る曙

炎を纏った斬撃が異様な音を立てる

 

アケボノ「ガードに使った艤装が…」

 

曙「そんなもん、全部溶かして…刻んでやる…!!」

 

アケボノが距離を取ることを一切許さず、徹底的に追撃…

ガードに使った艤装はとことん溶かされ、切断され…

 

アケボノ(マズイ、ガードできない…!)

 

曙「ッ!!!」

 

曙の艤装が小さく爆発し、音を立てて海に落ちる

 

キタカミ「……オーバーヒートを無視して戦い続けてた、そりゃそうなるか…」

 

この勝負、アケボノにはまだ手札がある、けど…

 

アケボノ(…焦りはしたけど、勝ちは勝ちね)

 

曙「……ハッ…アハハッ!」

 

アケボノ「…何?熱さでおかしくなった?」

 

曙「アンタのその勝ち誇った顔…!ほんとに馬鹿よね…あたしが艤装無くなったくらいで止まると思ってんの!?」

 

曙が飛びかかり、もう1人のアケボノを海面に押し倒す

 

アケボノ「このッ……!」

 

曙「あたしは朧を追う!綾波も朧も捕まえて…ブン殴って!連れて帰ってくる…!」

 

アケボノ「アンタにできるわけないでしょ!?行ったって犬死にするだけよ!」

 

曙「かもしれない、だけど…!アンタの本音はただあたしを手元に置いておきたいだけ!」

 

アケボノ「!…そんな事…」

 

曙「自分で気づいてないなら…とことん教えてやる!アンタは自己中で周りを束縛して結局自分の思い通りにならないと苛々する、あたしと何も変わらない!アンタはただこれ以上失いたくないだけ!」

 

アケボノ「……失いたくなくて何が悪いのよ…!」

 

曙「取り戻したいなら、賭けなさいよ…!あたしに賭けてみなさいよ!!」

 

アケボノ「……」

 

曙「アンタがあたしを信じてるなら…あたしを認めてるなら、今ここで賭けてよ…!」

 

アケボノ「……」

 

アケボノが主砲をもう1人の曙の顎に突きつける

 

曙「っ……いつの間に…」

 

アケボノ「…アンタは、物事の表面を掬ってそれで満足してるのよ、深いところでは何が起きてるのかを考えてない…わかったつもりで正しくわかってはない」

 

曙「…!」

 

アケボノが主砲を投げ捨て、両手を広げる  

 

アケボノ「…疲れた、終わりよ」

 

曙「……」

 

アケボノ「一勝一敗、引き分けね」

 

曙「…あ…?」

 

アケボノ「演習は私の勝ち、だけど…口はアンタの勝ち、私はアンタに賭けてもいいと思った……朧の事、任せたわよ」

 

曙「…任せときなさい」

 

戻ってきた2人の頭を杖で叩く

 

アケボノ「痛っ」

 

曙「何すんのよ!」

 

キタカミ「こっちのセリフだよ、何やってんの?演習でどんだけ燃料使って艤装一つ丸々使い物にならなくして…挙句手札見せてさ……本当に何やってんの?」

 

アケボノ「それについては申し訳ありません、始末書は私が書きます」

 

キタカミ「当たり前でしょ…」

 

曙「…どうしても、話つけたかったの」

 

キタカミ「曙も曙だよ、たしかにここに在籍してたら1人だけ本土で朧捜索なんて周りに迷惑がかかるからって呉に行くのはわかる、そうすれば他の綾波型に迷惑がかかることも無い…だけど呉の連中は許可したの?」

 

曙「それは…まだ」

 

アケボノ「……呆れた、話つけてから来てるんだと思ったのに…」

 

キタカミ「…とりあえず、あの距離だし何話してたかはバレてないだろうけど…綾波のことは絶対言わないようにね、特にアメリカ連中の前では」

 

アケボノ「勿論です」

 

曙「わかってる」

 

 

 

 

執務室

 

キタカミ「ってことがあったんだけどさ…」

 

海斗「ごめんねキタカミ、後始末させちゃって…」

 

キタカミ「別に良いけどさぁ……朝潮に会ったの?」

 

海斗「うん、その…今後は会わないようにするけど」

 

だけどそれだけじゃない、昨日とは違う紅茶の匂い…

それとかなりうっすらとだけど、消毒液と薬品の匂い…朝潮に匂いがついたんじゃない、ちゃんと交換されてる…

 

キタカミ「……特務部の…新人…?」

 

海斗「ごめん、それについては何も言えることはないんだ」

 

キタカミ「…隠し事、増えてきたね」

 

海斗「そうかな…」

 

キタカミ「提督、私は分別つく相手だと思ってるから言うけどさ…みんなが理解者じゃないんだよ、提督の仕事は表に出てやる荒事と違って見え難いんだよ、小さな嘘一つが簡単に信頼を壊す…」

 

海斗「そうだね、できるなら僕も隠し事はしたくないけど…」

 

キタカミ「……そう思ってるなら良いよ、だけどさ…信頼ってのはひっくり返せば憎しみだよ、信頼が深い分だけに簡単に憎しみになる、嫌われるって思ってるより簡単だからさ」

 

海斗「気をつけるよ、ありがとう」

 

キタカミ「…変だな…あれ?何か混じってるような…」

 

そう、匂いの奥に…

 

海斗「どうかした?」

 

キタカミ「…おかしいんだよ、体臭があんまり感じられないんだよね…普通香水とかつけてても体臭が少しくらい…」

 

海斗「…新人の人の事?距離が離れてたからじゃないかな」

 

キタカミ「……そっか」

 

海斗「そんなに気になる?」

 

キタカミ「いや……」

 

キタカミ(…そう、あの匂い……化膿した傷口みたいな匂い…もしかして、だけど……重症患者とか…?いや、二式大艇に乗ってた説明がつかないな…特務部のメンバーなんて絶対何かある、先に把握したいのに…)

 

 

 

 

 

 

某所

綾波

 

朧「ふッ…!はッ!やぁッ!!」

 

綾波「自主トレーニングですか、精が出ますね」

 

朧「…綾波」

 

綾波「どうです、私の集めた協力者は…なかなか粒揃いでしょう?」

 

朧「正直言えば…物足りないかな、全然だよ」

 

グラーフ「ふむ、聞き捨てならんな」

 

タシュケント「そうだね、君がどんな奴かは知らないけど…ずっと木を蹴ったり殴ったりしてるだけの奴にそう言われるのは心外だよ」

 

朧「……なら、試してみる?」

 

グラーフ「格闘技じゃないぞ」

 

朧「わかってるよ、誰かが…アタシに傷一つでもつけられたら勝ちでいい」

 

タシュケント「…舐めたこと言ってくれるね」

 

朧「今のアタシは、それだけ強い」

 

綾波(…朧さん、まさか…)

 

朧「4人で来ればいいよ、せっかく頭数いるんだし」

 

グラーフ「後で泣き言を言っても知らんぞ」

 

 

 

 

 

朧「…やっぱり、相手にならない…」

 

艤装が音を立てて地面に落ちる

 

グラーフ「なんだ…コイツ…!化け物か…!」

 

タシュケント「本当に傷一つないまま全員倒すなんて…」

 

朧「艦載機、今のままじゃ使えないよ、たしかに整った隊列や正確な飛行はすごくいいと思うけど…読み易い」

 

グラーフ「何…?」

 

朧「そっちの…タシュケントだっけ、速いんだからもっと大きく動いて敵の攻撃を誘導してみたら?リシュリューは戦艦なんだから攻撃を受けてあげなきゃ」

 

綾波「倒した上に指導までするとは、余裕ですね?」

 

朧「こんなのチームじゃない、アタシが今戦ったのは…4回個人戦しただけ、人数増やしたのが逆に悪かったね」

 

綾波「私もそう思います、朧さんの挑発に乗らず1対1で戦えば擦り傷くらいは……無理か、アハハッ♪」

 

おかしくってつい笑ってしまう

 

綾波「相手は私が認めた程の適格者4人、実力は決して低くないのに…まさかまさか!流石朧さんだ、システムを複合的に扱うことでそれを一蹴するとは…」

 

朧「…使ってないよ、アタシが利用したのは綾波の艤装と…この主砲だけ、ダミーは使ってない」

 

綾波(私の脚部艤装と明石さん製のその他艤装の複合仕様を褒めたつもりなんですけど、どこかズレてますねぇ…)

 

綾波「ええもちろん、わかっていますとも…それにしたって以前の蹴り一辺倒な戦い方からよく変わりました、素敵ですよ、見違える程に」

 

朧「……らしくないこと言うね」

 

綾波「あなたの目的が私を殺す事だとしたら…まだまだ足りませんけどね♪」

 

朧「撤回するよ、今の言葉」

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