元勇者提督   作:無し

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数刻前

特務部 隠し部屋

提督 倉持海斗

 

エレベーターが降り始めて、どのくらいかした後にホテルの廊下のように複数の部屋がある廊下にたどり着く

 

海斗「…ここは?」

 

数見「ここで朝潮さんを保護します、オフィスから入るにも特殊なセキュリティで基本的には開けられません、私にも」

 

海斗「…じゃあ、ここの管理は誰が…」

 

きゅるきゅると車輪の音が背後からする

 

海斗「!……キミは…」

 

車椅子に座った両脚のない、包帯と眼帯の少女…

随分と間違えてしまったが…間違いない

 

海斗「綾波…直接会えるとは思ってなかったよ…」

 

アヤナミ「…いいえ、私は正確には貴方の言う綾波ではありません」

 

海斗「……そうか、キミはもう一つの人格の…じゃあもう1人の綾波は?」

 

アヤナミ「ここには居ません、どうぞ、ご案内します…ここの管理人として」

 

海斗「キミが…」

 

数見「…倉持さん、彼女の存在はどうか外には」

 

海斗「わかってます」

 

自身で車椅子を動かし進むアヤナミの後をついていく

 

アヤナミは全身を包帯で包み、所々から覗く肌には火傷の跡

片目は眼帯で隠している事もそうだが極め付けは両脚がない…

 

海斗「ひとつ、聞いてもいいかな」

 

アヤナミ「私の片目は失明しています、両脚は深海棲艦の時に生やしたものですので人間に戻った事でだんだん腐敗したため切除しました、火傷は焼却処分されそうになった際の名残りです」

 

海斗「……」

 

言葉が出なかった

全て答えられた上に、僕にはどうしようもない

軽い言葉をかけるのは…いや、かけられる雰囲気ではない

 

アヤナミ「…どうか、お気になさらず…私は今幸せですから」

 

海斗「え…?」

 

アヤナミ「私は…その、漸く正しく生きていられるんです、だから…幸せなんです」

 

海斗「…君が望むなら…」

 

アヤナミ「何も望みません、私と一緒にいる人はみんな不幸になってしまいます」

 

何も言わせないと言う意志を感じる

何も、許さないと…

 

一つの部屋の扉が勝手に開く

 

アヤナミ「この部屋です」

 

海斗「…朝潮」

 

朝潮「司令官…その、こ、ここに居れば…」

 

海斗「うん、大丈夫だよ」

 

アヤナミ「ご安心ください、私のセキュリティが守ってみせます…」

 

数見「食料や娯楽も一応完備してあります、食料だけなら1年は持つ筈です」

 

アヤナミ「全て冷食ですけどね…朝潮さん、しばらくご不便をおかけします、ですが私達があなたを元の場所に返してみせます」

 

朝潮「…はい」

 

アヤナミ「…よかったら、少しお話しでもどうですか?司令官も、朝潮さんも…」

 

海斗「…そうさせてもらうよ」

 

朝潮「はい」

 

数見「…私はこれで、ごゆっくり」

 

数見さんを見送り、奥のキッチンに綾波が向かう

車椅子になっていると言うのに手慣れた様子でティーセットを用意する

 

朝潮「手伝います」

 

アヤナミ「いえ、どうぞ座っててください…その、少し違うかもしれませんけど、お客様ですから」

 

綾波がティーセットの乗ったトレーを膝の上に置き、車椅子を押して近寄ってくる

 

海斗「…大丈夫?」

 

アヤナミ「…その、慣れたので…ええと、好きなカップを選んでください、どれでも私から飲みましょう…せめてもの…」

 

毒が入っていないことを証明したいのだろう…

 

海斗「その必要はないよ」

 

1番近いカップを手に取る

 

アヤナミ「……そうですか」

 

アヤナミが朝潮の前にカップを置く

 

海斗「…アヤナミ、聞きたいんだけど…」

 

アヤナミ「なんでも、お話しします……ですが気になってるのは、The・Worldの中の綾波の事ですよね?」

 

朝潮「The・Worldの中の…綾波さん?」

 

海斗「うん、君なの?」

 

アヤナミ「いいえ、しかしその時は意識を共有しておりましたので、全部わかっています…司令官を私のそばに転送させたのも、その後の会話も全て知っています」

 

海斗「…そっか」

 

朝潮「…その、よくわかってないのですが」

 

アヤナミ「どこから話したものか…そもそもの私たちについて話すべきでしょうか…今の私たちは…完全に分離しています、いえ、正確には深いところで繋がっているのですが…」

 

アヤナミが片手を眼帯に当てる

 

アヤナミ「この目の中には、何もありません…その、ゴレを摘出する際に…潰れました、不慮の事故というより、力の暴走に近いものです、同じ轍を踏むことの無いように覚えておいてください、因子を抜き取る行為は危険です」

 

海斗「…わかった」

 

アヤナミ「敷ちゃんや数見さんの例もあります、無傷で済む場合もありますが最悪失明します……さて、それよりですが…今、もう1人の綾波は大湊警備府の側にアジトを構えています、なにぶん、その辺りが都合が良いので」

 

朝潮「都合…?」

 

アヤナミ「…ええと、今の綾波の身体は…私の細胞を培養して作ったクローンに過ぎません、しかし脳にチップを埋め込むことで様々な制限をかけています」

 

海斗「制限って…」

 

アヤナミ「例えば、体を自由に動かすには私の許可が要りますし…戦おうとするとひどい頭痛に見舞われます」

 

海斗「…それは…綾波が危険だから?」

 

アヤナミ「いいえ、つけると言ったのは本人ですし、理由は保護の為です…私は…その…所詮、元々は…後からできた存在で…」

 

アヤナミは自身が後天的に産まれた人格である事を気にしてか、それ以上は言葉を紡がなかった

 

海斗「…今の綾波は、何をしているの?」

 

アヤナミ「…今はまだ話せません、ですがあなたたちに害をなす敵となるつもりはありません…その、ええと……あ…私がなんで生きているかも…お話しするべきですね」

 

朝潮「…そう言えば、そうですね…」

 

アヤナミ「私は…その、地獄に受け入れ拒否されてしまったもので…」

 

朝潮「…はい?」

 

アヤナミ「私が堕ちられる場所が無いんです、だから死ななくて……そ、その…やりすぎたと言うか…隠り世に行き場がないもので…死ななくて…」

 

海斗「えっと…」

 

アヤナミ「い、色々試したんです…でも、全部ダメでした…銃口を口に咥えて撃っても何故か不発になるし、首を吊ろうとすると縄か天井が壊れる…私は死なせてもらえないんです…だから、その…」

 

海斗「…そう言うことか…The・Worldで綾波に会った時聞いたんだ、「死ぬ為に今は善行を積む」って言ってたけどようやく意味がわかったよ…」

 

アヤナミ「別に、天国に行こうとしてるんじゃありません…私達は死ねるならそれでいい…1番苦しめる地獄に堕ちられるならそれで…」

 

朝潮「…地獄に落ちるために、生きている…?」

 

アヤナミ「……はい」

 

海斗「綾波は、覚えていてくれたよ」

 

アヤナミ「いつでしたか…私により多くを幸せにすることが償いだと説いてくださったのは…ですが、世界は私の償いを求めていない、私は裁かれるべきなんです」

 

海斗「…お願いだ、死のうとしないで欲しい」

 

アヤナミ「…相変わらず、狂っておられるのですね…私はあなたの部下を何人も殺したんですよ…生き返りはしましたが、私は…」

 

海斗「それはわかってる、だけど…敷波には君が必要なんだ、君を求めている子がいるんだ」

 

アヤナミ「…それは、(綾波)であって…(アヤナミ)じゃ無い……」

 

海斗「…君も、綾波だ…」

 

アヤナミ「……すみません、勝手で申し訳ありませんが茶会は終わりにしましょう…それと、最後に…これを」

 

アヤナミが此方になにかを差し出す

 

海斗「……これ、何…?ディスクみたいだけど…」

 

アヤナミ「司令官、貴方は勇者です…勇者カイト、もう一度立ち上がる事を世界が求めているのならば…立ち上がってください」

 

海斗「…これは…」

 

アヤナミ「強化セキュリティプログラムです、これさえあれば…より強い負荷にもPCボディは耐えられる筈です…それ以外の機能はつけていません、ですから…あとは、司令官次第です」

 

ディスクを受け取る

 

海斗「…ありがとう、なにかを変えてしまった以上…その責任は取るつもりだよ」

 

 

 

 

 

 

アヤナミ

 

アヤナミ「……はぁっ…はぁっ……か、数見さん…て、手…手を、貸してください…!」

 

数見「はい、わかってちますよ」

 

差し出された手に縋り付く

肩で大きく息をしながら、息を整える

 

アヤナミ「おぇっ……ぁ…はぁ…はぁ……ご、ごめんなさっ…ぁ…」

 

やはり、ダメだ、私に理解者なんていない方がいい

私に優しい言葉を投げかける人なんていない方がいい

 

揺らいだらはしない、だけど…

 

アヤナミ「…は…ぁ……あ……お、おち、おちつきました…ぁ…」

 

数見「アヤナミさん、お疲れ様でした」

 

アヤナミ「…あ、ありがとうございます…」

 

数見「…しかし、ありのままに振る舞えばよかったのではないでしょうか、貴方は…」

 

アヤナミ「ダメ…ふ、不安を覚えさせちゃいけません……わ、私に仕事を…させてくれてるんですよ…?ぜ、絶対!やり遂げます!だから、不安を感じさせたりなんかしない…!」

 

数見「…そうですか」

 

とは言っても、私の心は限界だ、心臓が痛い、今の血圧はどのくらいなのか、私はもう限界に近い…

死にはせずとも活動限界はある、この身体は体力が想像以上に低い、少し動いただけでもう眠い、目を擦り、必死にデスクに戻ろうとしても.体が動かない

 

アヤナミ(ダメ…まだ今日の分の…仕事が終わってません……)

 

ああ、もう指先すらも重い…

 

アヤナミ「………くぅ…すぅ……」

 

数見「…はぁ…」

 

 

 

 

 

某所

綾波

 

綾波「…応答しない…ったく、私がそっちを使うと何度も言ったのに…無理しなくてよかったものを」

 

朧「…何か言った?」

 

綾波「いいえ、さて……しかし、朧さんもメンバーに加わり一応6人になったのです、これでフルメンバーの出撃も可能か……おっと、チームの名前を1人だけ知らないのはかわいそうですね、教えてあげましょうか?」

 

朧「…話がコロコロ変わりすぎてついていけてないんだけど」

 

綾波「貴方も我々の仲間になった以上、自分の属する組織の名前は知るべきでしょう?…我々はLinkです、プロジェクト名でもあるのですが、Project Link それが私達の名前です」

 

朧「リンク…?」

 

綾波「組織としての目的も教えてあげましょう、前に軽く話しましたよね?世界の正常な機能を取り戻すと…」

 

朧「…うん」

 

綾波「我々の仕事は世界中の海と空を取り返し、世界をリンクさせる事、だからProject Link です、わかりやすいでしょう?」

 

朧「…ちょ、ちょっと待って…?綾波、綾波は…もう悪い事をするつもりはないの…?」

 

綾波「ええ、勿論」

 

朧「……じゃあ何であんな事…」

 

綾波「私達は秘密組織なんです、表に出て戦うことは許されていませんから…全てが秘匿されなくてはならない、それが理由です」

 

あっけらかんとする朧さんを横目に話を続ける

 

綾波「しかし、秘匿すべき情報は多すぎます、朧さんにはしばらく家に帰れない事を理解してもらう必要がありますが」

 

朧「……大丈夫、本当に良かったよ、綾波ともう戦わなくてよくて」

 

綾波「そうですねぇ…どのみち今の私は戦うボディとは言い難いです、が…戦わなきゃならないでしょうねぇ」

 

それは、間違いなく…義憤に駆られた艦娘との戦い

 

綾波(出来れば、無価値な争いはしたくありませんが…情報開示が難しい契約である以上避けられないだろうな)

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