元勇者提督   作:無し

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身勝手な救済

特務部地下 セーフハウス

駆逐艦 朝潮

 

朝潮「……今日はこれで終わりですか?」

 

アヤナミ「はい、器具を外していただいて結構です」

 

指示を受けてメガネの様な機械を外す

 

朝潮「これに何の意味が…」

 

アヤナミ「前に説明した通り、この処置はアウラをネットに返す為にどうしても必要なんです、それもThe・Worldに還すためには…」

 

ネットの中に還すといっても、The・World以外のどこかへアウラが行って仕舞えばたちまちどこかの国のハッカーに奪われる恐れがある

アウラは世界金庫のマスターキーにもなるし、核発射スイッチにもなる

都市部に毒ガスを撒くこともできるし、水を汚染することだって容易にできる…

そんな危険な代物を野放しにするわけにはいかない、The・Worldに還すしかない

 

アヤナミ「明日にでも、処置は終わると思いますよ」

 

朝潮「…それが終わったら帰れる…?」

 

アヤナミ「ええ、意外と早くて驚いてますか?」

 

朝潮「それは…数年帰れないくらいの気持ちでしたから」

 

アヤナミ「でもそれならもっと早い方がいいでしょう?…その、貴方が死んだことになってまだ1週間、早ければ早い程誤報は取り消し易いし、年越しは姉妹と一緒にしたいと思って」

 

朝潮「そうですか…でも、それなら…貴方もそう思ってるんじゃ…」

 

アヤナミさんは首を振る

 

アヤナミ「私の体は確かに綾ちゃんの物ですけど、私は綾ちゃんじゃない…私は…綾波じゃない、敷ちゃんの本当のお姉ちゃんじゃない…」

 

朝潮「…そんなの、私は敷波さんと親しくはありませんが…」

 

手で言葉を遮られる

 

アヤナミ「本当に戻るべきは綾ちゃんです、私が、私の意識が醜くこの体に縋り付いているのすら…間違ってるのに、自分のことは自分じゃどうにも……いえ、すみません、失礼します」

 

車輪を掴めば車椅子を止められる

簡単に、止められるのに…

 

朝潮「……」

 

私には、止められなかった

 

 

 

 

翌日

 

アヤナミ「VRスキャナ装着完了……アウラの状態は…まだ未覚醒、か…」

 

朝潮「覚醒?」

 

アヤナミ「…今のアウラは寝ている状態です、多大なる力を使い、もうその身に宿す力は僅かなものです…ですから力を溜める必要がある…せめてThe・Worldに安全に還すだけの、私の計算ならもう溜まるはずなのに…」

 

つまりは…ただのエネルギー不足…

 

朝潮「…アウラ、貴方に必要なのは、何なんですか…?私が差し出せるものなら、なんだって…」

 

アヤナミ「…人間とAIでは完全に違う…そうなれば、仕方ないか…」

 

朝潮「…アヤナミさん?」

 

アヤナミ「今綾ちゃんを呼んでます、綾ちゃんなら残りの必要な部分を埋めてくれるはずですから」

 

朝潮「…埋める…?」

 

 

 

 

 

 

特務部 オフィス

綾波

 

数見「…事前に連絡をしてほしいモノですね、貴方が来ると研究員が浮き足立つ」

 

綾波「そんな奴ら全員解雇して仕舞えばいいんじゃないですか?特務部って本来公安みたいなモノなんですから♪」

 

数見さんが眉間に手を当てる

 

綾波「……前に話した事、覚えてますか」

 

数見「…ああ、覚えています…ですが、もうですか?」

 

綾波「便利なんですけどね、今の状況は…でも私には贅沢です、後始末は頼みましたよ」

 

数見「……わかりました、書類の偽装は請け負います」

 

綾波「セーフハウス、誰も入れないでください、本土戦になった時に民間人を逃す時以外は……まあ、私が生きているうちはそんな事あり得ませんけどね」

 

数見「…わかりました」

 

 

 

 

セーフハウス

 

綾波「どうも、ドイツに発つ予定なのであと2時間しかありませんけど準備は?」

 

アヤナミ「できてるよ、お願いしていい?」

 

綾波「…貴方、自分が何しようとしてるかわかってるんですよね?ちゃんと覚悟の上なんですね?」

 

アヤナミ「…はい」

 

車椅子に座った自分の姿を改めて見つめる

包帯の隙間から覗く火傷痕、片目を隠した眼帯、両脚の傷口は入念に処置がしてあるが…まだ癒えていない

髪も昔より質感が悪くなってるし、スキンケアも怠ってる…

 

本当なら、私の姿なのに…

 

アヤナミ「…綾ちゃん?」

 

綾波「っと…鏡を見てうっとりしてました、さて、始めましょうか」

 

この行為は、残酷な救済

私は、私であってアヤナミじゃない

 

私の…最大限の、できる限りの…

 

罪滅ぼし

 

朝潮「…これは、何が起きているんですか?」

 

アヤナミ「ローカルネットワークに接続し、アウラへとアクセスしています」

 

綾波「アヤナミ、朝潮さんの手を握っていてあげてください、不安でしょうから」

 

朝潮「いえ、別に…あ、どうも…」

 

2人が互いの両手を握ったのを確認し、作業を始める

 

アヤナミ「…あ、れ……綾ちゃん…?今、何を…」

 

パソコンから離れ、ケーブルを手に取り2人に近づく

 

朝潮「……何だか、不思議な感覚…暖かい…」

 

アヤナミ「…私の、データを一部送り込んでいます…だけど、何か、おかしい…ような…あっ!?」

 

朝潮「な、何!?手、手が動かない!」

 

2人の手をケーブルで結び、離れなくする

 

綾波「……ま、貴方は私の罪を背負う理由、ないですよね?」

 

アヤナミ「え……だ、ダメ!綾ちゃん!やめて!」

 

今更気づいてももう遅い、抵抗できない様にしたんだ、ゆっくりと間違いなく、進める

 

朝潮「これは、何、を…」

 

綾波「……朝潮さん、教えてあげますよ、アヤナミはAIDAなんです、私に寄生した…所謂良性のAIDA」

 

朝潮「良性の、AIDA…?」

 

綾波「菌に悪性良性がある様にAIDAにもあるんです、そしてアヤナミは良性だった、アヤナミは時が経つにつれ自我を持ち、私から乖離した人格になり……そして今のアヤナミは…私の身体を扱う主人格となった」

 

朝潮「…人格…それを、どうするつもりで…」

 

アヤナミが悲鳴をあげる

頭を振り回して、懇願する様な言葉を叫び、取りやめることを願う

だけどもう、止まらない

 

綾波「記憶を消します、酷い仕打ちかもしれませんが…なんです、その……アヤナミは悪い事は何もしてません、どうか貴方たちのところで受け入れてあげてくれませんか?」

 

朝潮「…え…?」

 

綾波「…無理にとは言いません、佐世保でも呉でも大湊でも良い、何処かにいければ、きっと…ですが、倉持司令官なら受け入れてくれると思って…その…」

 

…素直に言葉を紡ぐのは、難しいな…

 

朝潮「…わかりました」

 

綾波「ありがとうございます…」

 

アヤナミの肩に手を置く

 

綾波「…アヤナミ、貴方は幸せになる権利があります、人は産まれた時から誰にでもその権利がある、周りが後押ししてくれるかは分かりませんが、少なくとも貴方は周りが背中を押してくれる理由がある」

 

アヤナミ「ダメ、そんなの…!」

 

綾波「…貴方は私です、でも私じゃないんです……どうか幸せに生きてください、貴方の幸せは私の幸せです」

 

アヤナミ「ちがっ…その権利は私なんかには…!」

 

綾波「……私の理知的な頭では…いや、頭でっかちな私には…素直な感情に対してなんて答えていいかわからない…」

 

アヤナミ「…お願い、綾ちゃん…やめて…」

 

綾波「…やめません、貴方には権利がある、あとは貴方がもがくだけ、そんな身体でごめんなさい、頑張って…きっと、楽しくて楽な道じゃないけれど」

 

完全にデータを移し終えたことを知らせるシステム音がなる

VRスキャナを取り外すと虚な目のアヤナミと目が合う

 

アヤナミ「……」

 

綾波「…今まで辛い思いをさせましたね、貴方は私です、貴方こそが綾波なんです…間違った道に貴方まで進むことはありません、貴方は幸せに生きる権利がある」

 

綾波を抱きしめる

 

綾波「……さようなら、2度と合わなくていい事を願ってます」

 

手の拘束を解き、朝潮さんのVRスキャナを外す

 

朝潮「…これは…」

 

綾波「精神が負荷に耐えきれず一時的に機能停止してるんです、2、3日も経てば治るはずです……だからその…」

 

朝潮「…この方を、アヤナミさんを…」

 

綾波「ええ、身体は本物です…精神すらもそうだと言っていい、だから…お願いします、綾波を離島鎮守府に…」

 

朝潮「……わかりました、私が、何とかしてみせます」

 

綾波「他の方には…」

 

朝潮「司令官は気付くと思いますけど…」

 

綾波「…問題ありません」

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府

駆逐艦 朝潮

 

二式大艇のハッチが開き、眩しい陽射しが差し込む

一週間ほどしか経っていないが何とも久しぶりに感じる…

 

海斗「おかえり朝潮」

 

朝潮「…朝潮、ただいま戻りました」

 

きゅるきゅると嫌な音を鳴らす車椅子を押しながら、ハッチから降りる

 

海斗「……大丈夫、わかってるから」

 

朝潮「…はい」

 

アヤナミさんを受け入れてくれる人は果たしてどのくらいいるのか

それすらもわからないけど

 

朝潮「…司令官、私は山雲達のところに」

 

海斗「うん、早く行って安心させてあげて、アヤナミは僕が…」

 

敷波「アタシが、つれて行くよ」

 

朝潮「…敷波さん、いつの間に…」

 

敷波「……ここに連れて来たってことは、別にリンチするつもりも何も、無いんだよね…?アタシは、司令官やみんなを信じていいんだよね?」

 

敷波さんの目には、疑念と不安が色濃く現れていた

隠す事すらやめたその表情は…もはや敵意ともとれる

だけどそれは、ただ姉を守りたい一心の想い…

 

海斗「そんな事はさせない、何かあったらすぐに言って」

 

敷波「…ありがとう、司令官…」

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 敷波

 

春日丸「…何と、おいたわしいお姿に……綾波様…私のせいで、この様な姿に…」

 

春雨「…まさか、本当に生きていたなんて…」

 

イムヤ「…でも、こんな姿…どうして…?」

 

敷波「……司令官から聞いた話では、激しい戦闘の後動けなくなっているところを保護されたらしくて、ほとんど植物状態みたい」

 

春雨(…この肌の感じ、火傷の痕や髪…時間が経ち過ぎている…)

 

春雨「その戦闘の相手は?いつ保護したのかはわかりますか?」

 

敷波「二週間くらい前、らしいけど……その、春日丸は特にだけど…もし元に戻っても…悪い事はさせないから」

 

春日丸「わかっています、私も綾波様に悪事を働いて欲しいとは思っていません、ただ私は綾波様に幸せになって欲しかっただけです…」

 

春雨「一度医務室に、怪我の具合を見ないといけませんから」

 

敷波「わかった」

 

 

 

 

 

春雨「…本当に酷い、両足は鋭利な刃物で切断されてるので治りがまだ早いですが全身の火傷は…完治しても痕が大きく残るでしょうね」

 

敷波「…そっか」

 

春雨「目も潰されて…くり抜いた痕…綾波さんは自分で目を抉り、脚を落とした可能性があります、綾波さんも医学や人体についての知識は充分にありました…傷の悪化を防いでこの様にした可能性があります」

 

イムヤ「…何があったの?綾波に…」

 

春雨「わかりません、ですが……何かが起きている様な気がします、私たちには測りきれない何かが」

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 山雲

 

山雲「お帰りなさ〜い、朝潮姉さん?」

 

朝潮「…その、ただいま、山雲」

 

山雲「みんな今哨戒にでてるから〜」

 

満潮「その、お帰りなさい」

 

山雲「満潮ちゃんと〜、2人占めね〜」

 

朝潮「……ええ、そうしてください、会えない間、寂しかったでしょうから」

 

山雲「寂しかったのは朝潮姉さんでしょう〜?」

 

朝潮姉さんを満潮ちゃんと挟み込む

 

満潮「…あったかい」

 

山雲「ふふ〜♪」

 

 

 

 

Link拠点

綾波

 

綾波「…どうですか?カヌレ」

 

リシュリュー「…美味しいけど、何か違う…塩でも入れた?」

 

綾波「ええ、悪くないでしょう?」

 

リシュリュー「……そうかもしれないけど、不愉快な味ね」

 

綾波「…そうですね、これじゃあ幸せな味じゃないか…仕方ない、そろそろドイツにいきましょうか」

 

グラーフ「…ああ、だが……綾波、貴様帰ってきてから様子が…」

 

朧「うん、何かおかしいよ…」

 

綾波「……どうかお気になさらず」

 

グラーフ「1日だけ遅らせてみないか、私たちの作戦指揮を担当する貴様がそうでは……不安がある」

 

綾波「そうはいきません、1日遅れれば犠牲者がどれほど増えるか………いや、らしくない事を言うものではないですね、わかりました、1日遅らせましょうか」

 

…私を信頼してくれる事は嬉しい

私を信じ、従ってくれる事は嬉しい

だけど…私にはあんまりにも贅沢なんだ

 

綾波(……軌道に乗ったら、軌道に乗るまででいい…だから、もう少しだけ…この幸せを私も味わう事を許してください)

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