元勇者提督   作:無し

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記憶喪失

離島鎮守府

駆逐艦 春雨

 

アケボノ「…貴方は呉に行かなくていいんですか?」

 

春雨「残る理由ができてしまいましたから」

 

綾波さんがここに来るほんの数時間前、川内達は呉へと移った

私は遅れて行くくらいのつもりだった、だけど…

どうしても離れられない理由ができた

 

アケボノ「…あまり入れ込まない方がいいですよ」

 

春雨「心配ありません、今の綾波さんには何かをする力がありません…触診しましたが、筋肉が衰えている、つまり動かしてないんです、あの身体で私達を制圧することは不可能だし…あの身体では誰かの助けなしには生きられない」

 

アケボノ「だから貴方が面倒を見ると」

 

春雨「それが道理でしょう、何より私は医官です」

 

アケボノ「…ヘルバさんには」

 

春雨「報告したところ、大変驚いておられました…あの人は何を考えているのか私には計り知れないところがあります、綾波さん同様に」

 

アケボノ「驚いていた、というのが納得できませんね」

 

春雨「ええ、なので聞いてみたところ…最近までに複数回のハッキングがあったそうなんです、それもヘルバ様のシステムに穴を開けるほどの…綾波さんがやったとしか思えませんが、そうでもないのなら…」

 

アケボノ「…2週間ですか、本当に2週間前なのですか?綾波さんがその怪我をしたのは…曙が襲われ、朧が失踪したのは10日ほど前ですよ?」

 

春雨「……わかりません、私もそこが気がかりでした、日数を測り間違えたのか、はたまた…」

 

イムヤ「春雨!ちょっと来て!綾波の意識が戻ったの!」

 

春雨「!わかりました、すぐ行きます!」

 

アケボノ「…春雨さん」

 

春雨「…ええ」

 

 

 

 

医務室

 

アヤナミ「…貴方は、誰ですか…?」

 

春雨「…成る程、こうなってしまったのですね…」

 

アケボノ(…演技の可能性もある、必要に応じて殺す用意も…)

 

イムヤ「とりあえず、敷波と自分の名前だけは教えてある…だけど…」

 

春雨「…私は春雨と申します、貴方の主治医です」

 

アヤナミ「主治医…私の身体は、どうなってるんですか…?」

 

春雨「……片目、両脚を失い…全身に大きな火傷の痕があります」

 

アヤナミ「…どうして…?」

 

春雨「戦闘の結果、とされていますが詳細は不明です、しかし、ゆっくり時間をかけて治療していきましょう」

 

アヤナミ「……はい」

 

春雨「…思ったより落ち着いていますね、もっと取り乱すと思いましたけど」

 

アヤナミ「…何となくわかります、騒いだって何も変わらないと思ったんです…」

 

春雨(…鋭くて賢いところは、変わらないか)

 

 

 

 

食堂

 

満潮「え?私達に?」

 

如月「料理を、教えて欲しいって言われても…」

 

敷波「お願い!どーしても、やってみたいんだ」

 

春雨「思い出の味を食す事で記憶を取り戻す事例もあります、どうか協力してくれませんか?」

 

満潮「…でも…」

 

如月「あの綾波さんでしょう…?」

 

敷波「…大丈夫だから、今の綾姉ぇは1人じゃ何もできないし、最後にはちゃんと心を入れ替えてた…だから…」

 

春雨「何かあったとして、責任は私が取ります、お願いします」

 

後頭部を杖で叩かれる

 

キタカミ「馬鹿言ってんじゃないよ、自分が何言ってるかわかってる?責任取るって…どんな責任を取るつもり?ここの連中全滅したとして責任取れんの?」

 

春雨「……拒絶し、停滞することは簡単です…しかし、受け入れて前に進む事だってできる」

 

キタカミ「綺麗事言ってんじゃないよ、綾波のせいで全滅しかけたんだよ、あんただって殺されたでしょ?なんでそんな夢見てんのさ」

 

春雨「…夢じゃない、私は…今の綾波さんを信じてる…あの時の、最後に見た綾波さんを、信じてる」

 

キタカミ「じゃあ呉に連れて行ってやってりゃいいじゃん、こっちまで巻き込まれるなんてごめんなんだよ…!」

 

春雨「……それは、そうかもしれませんが…」

 

キタカミ「少なくとも、私は譲るつもりはない…あんたの友情ごっこでどれだけの人間を危険に晒すつもりなの?…今すぐにでも殺すべきなんだよ、綾波はそれだけ危険なんだ」

 

春雨「今の綾波さんには記憶も無ければ両足も、片目もない、筋肉も衰えていますし1人では何も…!」

 

キタカミ「それが、正しい証拠は?…正直に言うよ、私は綾波が怖い、何もかも奪われそうで、怖くて仕方ない、次はあるの?次、綾波が敵対して…私達は勝てるの?」

 

春雨「…人間の1番大きな感情は、恐怖です…恐怖を使えば何だってできる」

 

キタカミ「綾波はそれを操るのが得意だったよね」

 

春雨「……ええ…そうですね」

 

キタカミ「綾波が記憶がない事すら、悪魔の証明だ…それに、自分の才能に気づいてそれを利用しようとしたら?春雨…アンタには綾波は殺せない…」

 

春雨「……」

 

敷波「アタシが、ケリをつけるから」

 

キタカミ「…敷波、四六時中実の姉に銃口向け続ける覚悟はいいの?引き返せないよ?」

 

敷波「それで、いいから…お願いします、綾姉ぇにはもう行く場所が無い…ここに来たって事は本土に居場所がないって事だから、だから…お願いします」

 

キタカミ「……私はもう知らないから」

 

敷波「…ありがとうございます、キタカミさん」

 

キタカミさんの許可なんて、本当なら必要ない

倉持司令が許可した時点で、必要ない、だけど…

キタカミさんは殺す、情け容赦なく、躊躇いなく

害になると判断した時、誰にも許可を求めず迷わず引き金を引ける、だからこそ…互いに納得しなければならない

 

春雨「…生きた心地が、しませんでした」

 

敷波「……でも、話しに来てくれるだけ優しい対応だったよ…」

 

キタカミさんなら、"特務部の新人"の正体が分かった時点で、殺しても良かったはずなのに

 

 

 

 

 

教導担当 キタカミ

 

キタカミ「…薬品の匂いも、消毒液も、同じだった…間違いなく綾波が特務部の新人だった…提督は会ったんだよね?じゃあ話が合わないよね?」

 

海斗「…そうだね、参ったな、口止めされてるんだけど…」

 

キタカミ「提督は何をもってしてみんなに危害がないと判断したのか、それを教えてくれないと私は納得できない…何もわかってない春雨たちを追い詰めても意味なんかない、提督にしかわかってないことがあるんだよね?」

 

海斗「……綾波が善人だって保証なんてどこにもない…」

 

キタカミ「……」

 

海斗「だけど、悪人だって決めつけるのも難しいんじゃないかな?」

 

キタカミ「今までやってきた事は?」

 

海斗「…死者を裁く法は存在しない」

 

キタカミ「今、生きてる綾波は?…いや、何か、おかしい…」

 

海斗「……キタカミには隠し通せないか…あのアヤナミは…多分、敷波や春雨への罪滅ぼしなんだと思う」

 

キタカミ「罪滅ぼし…?」

 

海斗「綾波は自分の消失によって敷波たちの心に傷痕を残す事くらい想像できたはずだ…だから、代わりをたてた」

 

キタカミ「……待ってよ、じゃあ…アレは…」

 

海斗「すごく良く似た、別人…かな」

 

キタカミ「……本物は?」

 

海斗「朧が一緒にいるはずだよ、でも僕は何も知らない」

 

キタカミ「……こう言うの、なんて言うのかな…やるせないっていうか…」

 

海斗「少なくとも、キタカミが心配してる様な事は起こらないと思う…綾波が僕たちの敵として立ち塞がる様な事はもう」

 

キタカミ「……それの証拠は」

 

海斗「…無いよ、だけど…あと一回だけ、綾波を信じてみたいんだ」

 

キタカミ「…そう、私は私の判断で撃つよ」

 

海斗「…止めちゃダメ?」

 

キタカミ「みんなを守れないからダメ、だから…提督、撃たせないでね」

 

海斗「わかった」

 

キタカミ「…詳細は聞かないでおくけど…私は全部納得したわけじゃないから、それも覚えといて」

 

 

 

 

キタカミ自室

 

キタカミ「はー……どうしたもんかねぇ…」

 

択捉「あ、あの…キタカミさん」

 

キタカミ「ん?あれ?1人?佐渡と松輪は?」

 

択捉「…その、食堂で捕まりました」

 

キタカミ「……」

 

 

 

 

食堂

 

佐渡「これ塩っ辛くて食えたもんじゃねー!」

 

松輪「口、いたい…」

 

敷波「やっぱ砂糖足りてないじゃん…」

 

春雨「いや、砂糖を入れたところで味が濃くなるだけです、水で薄めるべきでした」

 

択捉「あそこです」

 

大量に並んだ皿に乗ったみてくれの悪い料理達

そして顔を顰めながらそれを食べる松輪と佐渡…

 

キタカミ「……あのさぁ…私部屋戻ったばっかなのに…こんな事で呼び出され…っ…あー……春雨、敷波」

 

春雨「…ちょうど良いところに…すみません、これ何が悪いのか…あうっ」

 

春雨の口に料理を突っ込む

 

キタカミ「アンタ味見しながら作った?それとこんなもん小さい子に食べさせんな、味覚がおかしくなるでしょーが」

 

敷波「こ、こんなもんって…むぐっ…なんだ、思ったより美味しいじゃん」

 

春雨「…敷波さん、味音痴なんですか…?これは美味しいとは…」

 

キタカミ「それより、満潮と如月は?」

 

春雨「……逃げました、その…」

 

松輪「あ、危ないからって…離れてました…」

 

春雨「私は違いますよ!敷波さんだけです…!」

 

敷波「えっ…春雨もフライパン振りまわしてキッチンめちゃくちゃにしたじゃん…」

 

キタカミ「…2人ともとりあえず掃除してきて、使う前より綺麗にしてから戻って来てくれるかな」

 

春雨「…はい」

 

敷波「はーい…」

 

 

 

キタカミ「というか、これは何を作ったの?…まさか、このドロドロしたの肉じゃがとか?」

 

択捉「ビーフシチューらしいです」

 

キタカミ「……醤油と砂糖しか入ってないよ、このとろみは何?薄力粉でも入れたのかな…」

 

松輪「こっちは…わかめと卵のスープ…」

 

キタカミ「……塩多すぎるっていうか…塩蔵したわかめをそのまま使ってない…?というかビーフシチューと汁物…?」

 

佐渡「……なんか、お腹痛くなってきた…」

 

キタカミ「…佐渡、何食べた?」

 

佐渡「でっかい肉…」

 

キタカミ「……まさかローストビーフとか言ってた?」

 

松輪「言ってました…」

 

キタカミ(春雨、医者がそれで失敗するのまずいって…)

 

 

 

 

 

春雨「どこに行ってたんですか…?掃除が終わって待っていたのに…」

 

敷波「部屋にも居ないし…」

 

キタカミ「はい、とりあえず…ローストビーフ作ったやつ…手ぇ挙げて」

 

敷波が手を挙げたのを確認し、杖を振り下ろす

 

敷波「いだぁっ!?」

 

キタカミ「素人がそんな危険なもんに手を出すな!私もやった事ないっての…!絶対表面だけ焼いて出したでしょ!佐渡お腹壊してたよ!?」

 

敷波「えっ…えぇ…?ご、ごめんなさい…」

 

続けて春雨にも振り下ろす

 

春雨「な、何で私まで…!」

 

キタカミ「医者が隣に居てそれを放置するか普通…!」

 

春雨「…その…そんなもの作れるなんて博識だなと…」

 

キタカミ「明らかに殺菌できてないとかわかるでしょ普通……ああ、もう…なんで安全優先でやらないかなぁ…」

 

春雨「…その辺を教えていただければ…」

 

キタカミ「教えるよ、教えるけどさ……頼むから勝手なことしないでね…あと春雨」

 

春雨「…はい…?」

 

キタカミ「怯えなくて良いから、胃痛薬…後で分けてくれるかな、胃が荒れてるんだ」

 

春雨「…すみません…」

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