元勇者提督   作:無し

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コーヒーブレイク

ドイツ 輸送機内

綾波

 

綾波「作戦完了、お疲れ様でした」

 

グラーフ「作戦というか、行き当たりばったりな戦いだったがな、しかし…彼らは大丈夫なのか?酷く苦しんでいた」

 

綾波「問題ありません、彼らは私がこの薬品を注入した結果ああなっているだけです、ちなみにこれの効果は体内の深海棲艦の細胞を殺して体内に増殖性の強いナノマシンを埋め込んでるんです」

 

グラーフ「ナノマシン?」

 

綾波「あなた達の使う艤装にはないですけど、旧式のシステムにはこれが含まれていました、身体の細胞を名のマシンに置き換えることで生命活動を無理やり正常に戻します」

 

グラーフ「……私はその手の話は理解できないが…」

 

綾波「大丈夫、私がわかっていれば問題ありませんから…さて、状況を再整理しましょうか、ここはドイツ軍の飛行場、この輸送機は私達が乗ってきたもの、ここまでは良いのですが…何故中にあるはずの機器類が何処かに運び出されているのでしょうか」

 

グラーフ「…盗まれた?」

 

綾波「"借りてるだけ"かもしれませんね、解体(バラ)して内部構造を理解したところで私じゃないと使えないんですけど…まあ、現状私にしか深海棲艦を人間に戻す手段はない…と思ってるなら、仕方ないか」

 

ため息を吐き、窓の外を眺める

 

綾波「しかし、ドイツ軍の一部は協力的でよかった、私達をどのくらい匿ってくれるかは置いておいて……この薬品をどうやって国中の人間に摂取させるか」

 

グラーフ「…素直に話してもダメか」

 

綾波「当たり前でしょう、名の知れた名医でも嫌ですよ、それにたくさんの人が苦しむ姿を見てますし…あ、それよりも私の姿が世界に広まるのが1番困るなぁ…たぶん撮られてないと思うけど」

 

グラーフ「何故だ?人助けをしているのに…」

 

綾波「顔が割れてないのはいろんなところで役に立ちますし……」

 

綾波(何より、アヤナミを疑う人が出てくる…いや、アヤナミが疑われるだけじゃなく何らかの被害を受ける可能性もある……私が顔を変えるべきだな)

 

綾波「整形外科でも探そうかな…」

 

グラーフ「セイケイ?金のことか」

 

綾波「生計じゃなくて、顔を変えたいんですよ」

 

グラーフ「日本語は難解だな」

 

綾波「でも喋れて便利でしょう?私のシステム」

 

グラーフ「…ああ、だが何で日本語を即インストールされるように設計したんだ?公用語は英語だ」

 

綾波「日本以外で内緒話をする時に英語で喋ると公用語故に内容が筒抜けになる、日本語を知らない相手なら何言ってもバレないから楽ですよ」

 

グラーフ「そこまで考えてたのか…?」

 

綾波「あ、ちなみに私の前で内緒話はしないほうがいいです、ドイツ語フランス語イタリア語ロシア語英語と各国の読唇術もマスターしてますから」

 

グラーフ(どこまで本当なのかまるでわからん)

 

綾波「ちなみにグラーフさんは心の中で物事をつぶやくとき唇が動きます、私は真実しか喋りませんよ」

 

グラーフ(本当に解るのか…!)

 

綾波「今度は唇は動きませんでしたが、その表情でわかります、答えはJawohl(はい)ですよ」

 

グラーフ「…本当に恐ろしいやつだ」

 

綾波「ふふふ…おや、そういえばあなたに頼んだ人たちは?」

 

グラーフ「ああ、そうだったな、入ってきてくれ」

 

4人が入ってくる

 

グラーフ「彼女達には事情を話した、理解し納得した上でここにいる、Linkに参加したいとのことだ」

 

綾波「成る程、では対応した艤装と名前を、本名は使わない方がいい、記録に残ると二度と消せませんから、私以外には」

 

艤装とネームタグを配る

 

綾波「それと、何より先に…あなた達に謝罪しなくてはなりません、ごめんなさい、私のせいであなた達の人生を縛りつけ、選択の余地を奪い、命懸けの戦いを強いることになりました…恨んでくれて構いません、しかし私と共にある限り、あなた達を可能な限り傷つけないように努力します」

 

深く、頭を下げる

 

綾波「それでは、よろしくお願いします、プリンツ・オイゲンさん、レーベレヒト・マースさん、マックス・シュルツさん、U-511さん」

 

プリンツ「よ、よろしくお願いします!」

 

レーベ「僕たちは何をすればいいのかな」

 

綾波「簡単です、ドーバー海峡を奪取します、そのためにフランスに行きましょう」

 

マックス「ドーバー海峡を?」

 

綾波「フランスとイギリスを繋ぐ海峡…というのはご存知ですよね?あそこを確保すればイギリスが救われます、陸路がない孤島は他国と比にならない苦しい境遇にありますから」

 

グラーフ「だが、フランスは協力的なのか?」

 

綾波「リシュリューさんが交渉中です、まあ問題はないでしょう」

 

グラーフ「なぜそう言える」

 

綾波「ドイツの港を間借りする約束を取り付けてあります、他の国は海を使えていないしドーバー海峡一つでも取り返せるのなら海を通る許可は喜んで出すでしょう」

 

グラーフ「そうか、流石に手が速いな…」

 

綾波「ちなみに英仏海峡トンネルは壊されてますしイギリスはかなり苦しい状況です、急いで助ける必要がありますね」

 

さて、そうなればイギリスには少しくらい協力的な姿勢を見せてほしいのだが

 

ユー「…あの、その……ユー、戦い方、わからない」

 

綾波「勿論戦い方は教えますよ、でもその前にやることがあるので……ちょっと首相に会いに連邦首相府まで遊びに行ってきますね」

 

グラーフ「ああ、わかっ……なんだと?!」

 

綾波「5時間で戻ります、それでは」

 

騒ぎ立てるグラーフさんを無視して輸送機を出る

 

 

 

5時間後

 

 

綾波「ただいま戻りました」

 

グラーフ「…きっかり5時間…か」

 

綾波「グラーフさん、コーヒーを淹れてくださいませんか?少し休みたくて」

 

グラーフさんが驚愕の表情をこちらに見せる

 

綾波「なんですか」

 

グラーフ「……よく私に頼んだな、貴様は自分が口にするものは誰にも任せないような奴だと思っていた」

 

綾波「正解です、私は基本的に誰かに私の飲食物を任せません、ですがLinkのメンバーなら話は別、でしょう?」

 

グラーフ「…信頼の証か、良いだろう、美味いコーヒーを淹れてやろう」

 

綾波「では奥の棚の3段目にある…コナで、フレンチに仕上げてあります、ミルはテーブルにありますから」

 

グラーフ(さらっと高いモノを…)

 

グラーフさんがコーヒー豆を挽き、湯を沸かす

 

グラーフ「Linkは随分と金が回ってるようだな」

 

綾波「いいえ、そんな事ありませんよ」

 

グラーフ「そうか?給与明細を期待したのだが」

 

綾波「それは各国から出ます、金額は一律になるようにしてますけど…ええと、電卓はここか……まず基本給、それと危険手当に…なんだっけ、まあ、各種手当を含んでこのくらいです」

 

電卓を見せる

 

グラーフ「…それは、円か」

 

綾波「ユーロですよ」

 

グラーフ「一般のサラリーマンの3倍はあるぞ…」

 

綾波「命懸けの仕事ならむしろ安いくらいです、特に我々の仕事は他よりも危険ですから、あとお湯沸きましたよ、グラーフさんは沸騰したお湯を使うんですか?」

 

グラーフ「また、今少し冷ます……こんなものか……しかし、その…日本はずいぶん裕福なようだな、貴様1人の部隊にこんな輸送機や…今は無いが研究機器を用意したり…」

 

綾波「…自前です、全部自分で買いました」

 

グラーフ「なっ……」

 

綾波「ちなみに日本政府からは一円ももらってません、なんなら日本政府はLinkの存在を知りません」

 

グラーフ「……」

 

声も出ないといった様子でこちらを見られる

 

綾波「なので全て私が揃えたものです」

 

グラーフ「…資産家だな…」

 

綾波「……そんな事ありませんよ、私は一文なしです、これを買う時も自分のお金は四分の一すら払えませんでした」

 

グラーフ「……また、訳がわからない…」

 

綾波「私は孤児なんです、親が居ない、施設で育った孤児…そして国の政策により横須賀に行き…拾われて宿毛湾に行き、深海棲艦になり、人間に戻されて今まで生きてきた」

 

グラーフ「…楽しかったか?」

 

グラーフさんがコーヒーカップと菓子をならべる

 

綾波「シュトーレン…これ、食べてみたかったんですよ、買ってきたんですか?」

 

菓子を一口頬張る

 

綾波「…へぇ……パサパサしてるのかと思ったらしっとりと滑らかで…難しそうですね…」

 

綾波(…もし、3人でクリスマスを迎えられることがあれば…敷ちゃん達にも食べさせたいな…)

 

グラーフ「……何故だろうな、貴様を見ていると不自然な感情が芽生える、まるで、そう、壊れた時計のようだ」

 

綾波「失礼な人ですね、楽しかったかでしたっけ?楽しかったですよ、少なくとも自身の目標に向かって突き進む時は……イムヤさんと逃げた時も、レ級さんと遊んだり喧嘩した時も、深海棲艦として……何もかもを破壊しようとして、倒された時も…そして、今も楽しいですよ」

 

グラーフ「…そうか」

 

グラーフ(さっきのシュトーレンを眺める様子、まるで何かを想うような…哀しげで、楽しげな表情…綾波は…ここに居るべきなのか?誰よりも何かを犠牲にしているような気がしてならない…)

 

綾波「…少なくとも、私は役割を投げ出すことはしません」

 

グラーフ「また唇の動きか」

 

綾波「いいえ、ただそう言わなくてはならない気がしました」

 

グラーフ「……話を変えよう、金はどう工面したんだ?」

 

綾波「借りました、国の機関や、あなた達の国、あとは急に降って湧いたお金に困っていたネット記者とか、とにかく誰でもよかった、いろんな人にこの安い頭を下げて、力を借りて……ようやく漕ぎ出せた」

 

グラーフ「…国が貸してくれるものなのか?」

 

綾波「正規の手段ではありません、間違いなくダメなことをしましたし、返すアテなんて有りませんが……まあ、この身を売るくらいなら喜んで」

 

グラーフ「…貴様は、自分が惜しく無いのか…?」

 

綾波「私1人で残存する人類を救えるのなら、私の身を滅ぼすことに躊躇いはありませんね」

 

いつのまにか空になったコーヒーカップをひっくり返し、眺める

 

綾波「……最悪ですね」

 

グラーフ「なにをやっている」

 

綾波「カフェドマンシー…所謂コーヒー占いです、私はどの分野においても天才らしい」

 

…もし、コーヒーカップの底にヒトが見えたのなら…

誰かを求めている証拠

 

綾波「そういえばここの首相は物分かりがいい人で助かりました、薬品を国中に散布してくれるそうですよ」

 

グラーフ「本当か!?」

 

綾波「まあ、正確には私が勝手に噴霧するんですけどね、深海棲艦の調査で飛び回る許可をもらっただけなので」

 

グラーフ「おい、それでは一瞬で協力関係が破綻するぞ!」

 

綾波「大丈夫、うまくやりますから、それとプリンツさん達のLink参加も認めさせましたし…でも、まだまだ仕事が多いなぁ…」

 

さて、速い手段はある…

 

ドーバー海峡を奪取する

 

ドーバー海峡に居るであろう2体の深海棲艦を破壊する

 

人が人の形のまま深海棲艦になる現象、これの正体を明かすには…関わっているであろう奴らから詳細を聞き出すのが1番楽だ

 

綾波(でも、それだと……何人死ぬかな、ああ、前の私なら迷わずそうしてたのに…めんどくさいことばっかりして…でも、頑張らないと)


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