元勇者提督   作:無し

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ミステイク

輸送機内

綾波

 

綾波「直接注射するよりは不確かな手段ですがこの際こだわりは要りません、散布の用意は?」

 

グラーフ「完了している、だが屋内にいるものには聞かないのでは無いか?」

 

綾波「その辺は、後から潰せば良い…ドイツでの仕事はこれで終わりにしましょう、陸戦は私たちの専門では有りませんから」

 

朧「散布開始、薬液の散布問題なく進んでるよ」

 

綾波「良し…」

 

グラーフ「……ナノマシンを使うといっていたが、問題はないんだろうな…?」

 

綾波「このナノマシンが喰らうのは死んだ細胞だけ、つまり深海棲艦の細胞だけです、死体とか食肉には反応はしますが繁殖する為の熱エネルギーが足りずに死滅します」

 

グラーフ「地面に落ちたナノマシンに対する太陽光や調理した熱い食べ物は?」

 

綾波「ナノマシンが繁殖したとしても、これには何も宿っていません、謂わば義手や義足のような物です、それだけ有っても意味がない、アタマが必要になる」

 

グラーフ「つまり、問題ないんだな?」

 

綾波「大丈夫、何かあっても後始末は私がします……っと?」

 

警告音が機内に響く

 

グラーフ「な、何が起きている!?」

 

綾波「深海棲艦の攻撃ですね…ミサイルか、左舷、フレア射出」

 

フレアをばら撒き、ミサイルを誘導する

 

綾波「熱感知ならなんとでもなりますが、問題は対空砲…アナログに干渉するのは難しいんですよねぇ…」

 

さっさと操作板をいじる

 

グラーフ「どうする、こんな無茶な事をするとは思わなかったぞ…!」

 

綾波「あなたはそうでしょう、でも私は想定済みです、後2回攻撃されたらこちらから攻撃する許可も取ってます、後ろの棚に書面、後音声記録、向こうは冗談程度に思ってたみたいですが」

 

グラーフ「…バケモノか、貴様は…」

 

綾波「ええ、文字通り二度化けました」

 

オートパイロットを起動し、パラシュートを背負う

 

朧「え、綾波?」

 

綾波「ただ、アナログに落とされる可能性も充分あるので、安全確保のために私は下に張り付きますね」

 

グラーフ「飛び降りるのか!?」

 

綾波「違いますよ、ブーツが脱げてワイヤが切れた時用のパラシュートです、私はこの機の底に張り付くんですよ」

 

朧「え、いや、意味わからないんだけど」

 

綾波「このブーツ電磁石が入ってて、それで底に貼り付けるんです、わかりました?」

 

グラーフ「わかる訳ないだろう、何をしたいんだ貴様は」

 

綾波「ま、そういう事で」

 

ハッチを開き、安全具をつけて輸送機の底面に逆さに立つように磁石で張り付く

 

綾波「……寒っ」

 

高度5000メートル、速度300ノット

普通なら死にかねないな

 

綾波(まー、問題ないでしょう…)

 

かちゃりかちゃりと安全具を鳴らしながら歩く

 

綾波「はー、毛布ほしい…」

 

カートリッジを起動する

炎が私を包み込む

 

綾波(…凍死…には時間が足りないか、滑走路に突っ込んでも何故か生き残るんだろうな……なんにせよ、温かい…)

 

赤々と炎が燃える

 

綾波「……きましたか、機銃での射撃……さあ、曙さんの真似をしましょう」

 

手を、地に向けて振り上げる

炎が対空砲の弾を悉く溶かし、空中で炸裂させる

 

綾波「落っこちないでくださいよ、民間人に当たったらどうなるか…しかし、逆に暑くなってきた…」

 

攻撃が止むまで、それを続けるほかない…

しかし、何事も有限だ、この力は私の体力を消費する…

 

綾波「……疲れて、きた…」

 

ワイヤーがピンと張る位置に移動し、電磁石を切り、ハッチを軸に振り子のように揺れながら輸送機の内部に戻る

 

綾波「…ふぅ…よく曙さんはこれを使えるな…さすが適格者…私じゃキツイ…」

 

黄昏の書・炎のカートリッジを切り、収納する

 

朧「綾波、予定ルートの60%が完了してるよ」

 

綾波「進路変更、戻ります…今なら私が死ねそうなので」

 

今頃地上は阿鼻叫喚だろう、深海棲艦を判断する装置で街中を観測したが、実に約40%もの人間が深海棲艦に変質しつつある状態だった

つまり、10人いれば4人はいきなりのたうち回って苦しむのだ、きっと酷い事になるに違いない

 

グラーフ「残りの薬品はどうする」

 

綾波「全てドイツに…いや、EUに提供します、ドイツはいい宣伝になるでしょう」

 

グラーフ「言ってる事だけ聞けば、悪い意味にしか取れんが」

 

綾波「それよりグラーフさん、食べ物と飲み物が欲しいです」

 

グラーフ「…わかった、直ぐに用意しよう」

 

床に倒れ込み、全身を冷たい床に押し当てる

 

綾波「気持ちいい…疲れた…」

 

朧「だ、だらしないよ?綾波…」

 

綾波「……今の私、余力がないんです…グラーフさん私からなんでも聞き出そうとするし…面倒なんです…」

 

体が冷え始めた頃に嫌々と立ち上がり、操縦席に体を投げ出す

 

グラーフ「待たせたな、ハムとチーズのサンドイッチだ、コーヒーは勝手に使わせて貰った」

 

綾波「どうも…ああ、生き返る感じがします…」

 

人間の身体は、これが無いと動かない…

体で熱エネルギーに変換されていくのがわかる…

 

綾波「下に降りたらリシュリューさんに何か作ってもらいましょう、彼女は料理が得意と言っていましたから」

 

あと少しだけ、そうすれば私の仕事はやっと一つ終わる

 

綾波「…っと、そうか、そうくるか」

 

眉間を親指と人差し指で力一杯に摘む

 

グラーフ「…どうしたんだ?」

 

綾波「我々はドイツに嫌われたようです、事前に話しておいたのですが、約束を反故にされたのかな」

 

認識できる限りでは、着陸予定地点には戦車に装甲車、兵士も山のように…

 

綾波(優秀だと引く手数多で辛いですねぇ…)

 

朧「何が起きてるの?」

 

綾波「私たちを捕まえるつもりのようです、差し詰め…昨日薬を注入した兵士たちが治癒したので私を飼いたいのでしょう、飼い殺しはごめんです、このままドイツを出ようかなぁ…」

 

グラーフ「何?どこに行くんだ」

 

綾波「イギリスですかね、話は既につけてあるので」

 

グラーフ「これも予測済みだったのか…?」

 

綾波「いいえ、でもサブプランは立てておく物ですよ…使うつもりはなかったけど」

 

燃料はギリギリ、突風一つで私のプランが崩れてしまう…どうしたものか

風一つに吹き崩されるプランなんて、私らしく無い…

 

グラーフ「イギリスに行くんだな?」

 

綾波「…止むを得ませんから」

 

……本当に、私らしく無い、私の邪魔をするものなんて力づくで排除すればいい、甘すぎる

甘さは正しいのか?必要なのか?私がやっていることはなんだ?彼らが私に向けているのはなんだ?考えろ、考えるのをやめるな

 

幸いにもドイツ軍は攻撃をして来ず、北海まで逃げる事は成功した

研究機材の回収を諦めたことも痛いが…

なにより、私が結末から目を背けたことが問題だ

あの薬品を使い、何が起こるのかを見届ける必要が有ったのに

間違いがあるなら私が直接正す必要があったのに

 

 

 

 

 

 

綾波「っ……?」

 

いつ、気を失った?

何が起きた?

 

輸送機が、墜ちている…ここは何処だ?

 

綾波「……どう、なって…何が起きて…」

 

ああ、そうだった…北海を飛んでいる時に、深海棲艦の攻撃を受けたんだ…

なんで私は防御体制を取らなかった?カートリッジで守れたはずだ、なのになぜ何もしなかった?

 

綾波「いや、そんなことどうでもいい…!」

 

周りは火の海、瓦礫の山…私以外の人員はどうなった

 

綾波「朧さん!…グラーフさん!リシュリューさん!タシュケントさん!ザラさん!…誰か!!返事を!」

 

立ち上がり、瓦礫を押し除け、探す

誰か、絶対に…死んでなんかいない

助けなきゃいけない…

 

なんで、私は傷一つないの?

なんで私は何処も痛くないの?

私は怪我一つせず、周りにだけ不幸が降り注ぐ

 

これが地獄だというのなら…筋違いだ、善良な人たちを犠牲にして私に罰を与える事を天が望むのなら、私が天すらも壊してやる…

 

綾波「…っ…あ…ぐ……」

 

目眩、吐き気…脳震盪でも起こしたのか

いや、そんな感じじゃない、ただのストレスだ、命には、関わらない

 

 

 

 

綾波「…全員、居た」

 

瓦礫の山を撤去し、漸く底に埋まった彼女達を安全な位置に移動させることができた…

しかし、薬品類は、グチャグチャに潰されていたり、土煙をかぶっていたり、衛生面からも使えない…

生きてはいる、大きい怪我もないように見えるが…このままじゃダメだ、病院に連れて行かないと

 

綾波「……少しだけ、耐えてください…」

 

こうなっては仕方ない、私は私の道理で動く事を選ぶ

車をなんとか手に入れて近くの病院に運び込まないといけない…

 

気配…何かが、近づく気配

邪な、何か…

 

綾波「ああ……」

 

反吐が出る、そうか、そうなのか…だったら納得がいく

 

両手にカートリッジを持ち、起動しようとして、止まる

 

"相手"はこちらの生存にまだ気付いていない

なら、なによりも優先すべきは…なんだ?

ここで怒りを発散する事なのか?間違えるな…

私がやれなきゃいけないのは、何なのかよく考えろ!

止まれ、私は何かに呑まれない、いつものように振る舞え、いつものように生きろ、そうすれば私1人で済む

一瞬が、生死を分ける

それが私の生死なら構わない、だが私のものではない、罪なき人の命なら…それは許されない

 

幸運にも相手はまだこちらに気付いていない、なら急いで…

どう運ぶ?どうする?考えろ、考えろ

 

浮かぶのは正しいとは到底いえないような手段ばかり

しかし迷わず実行するしか、ないわけだ

 

朧さんを背負い、ほか8名の艤装にアクセスし、無理やり体を動かす

ナノマシンや艤装接続部につながる神経をこちらで操作し、意識のない身体を人形のように操り、ゆっくりとこの場を去るしかない

 

綾波「…!」

 

目が合った

あの、忌々しいヤツと

 

駆逐古鬼「居タゾ!ソコダ!追エ!」

 

思えばこれも、私のせいだ

私がこいつのアジトを荒らしたからここにこんなヤツがきてしまった

私の余罪はあとどれほどあるのか、でも…

 

綾波「……」

 

奥歯が軋む、苛立ちが治らない

そうだ、こいつのやってる事は合理的だ、弱った敵を叩くのは賢い手段だ…だが、阿呆に負けるのは腹立たしい

 

片手で改二カートリッジを起動し、挿入する

駆逐古鬼に背を向け、急いでその場を離れ、先ほどまで立っていた位置を吹き飛ばす

 

綾波(…追ってこないで……来たら、私は誰も守れない…)

 

 

 

 

 

不時着した地点から数百メートルで街に入ることができた

幸運にも追撃はなく、病院へとスムーズに入り込むことに成功し、全員が検査を受けることができた

ここで問題になるのは、今の私は1円たりとも…いや1ペニーもない

体内に組み込んだ多少の電子機器ではできることも限られる

病院代はおろか、宿代や飲食物もどうしようもない

 

綾波「……はぁ…」

 

いくら私でも、ため息をつくことしかできないこともある

イギリスの軍に話はつけてあるとは言ったものの、見た目女児の私がそんな事を喋っても信じてはくれないだろう

 

程なくやってきた警察との話し合いは難航を極めた

こちらの主張は一切通らず、軍に話が行く様子もない

深海棲艦にやられた、と言っても私たちが密入国者でパイロットなどが見当たらないことから何か隠していると話にならない

 

結局頭痛に悩ませられながら私はその日を牢屋で明かすことになった

 

 

 

 

綾波「くぁ…あ…」

 

欠伸をし、眠気を露わにしながら考え事をする

流石に一晩経てばちゃんとした人間が話を聞きにくるだろう…

アジア人であることは分かっている様子だが、何人かはバレていない、そして喋れる言語は多彩…

何処の大使館に話を送るか困り果てた警官の顔を眺めるつもりもない

 

綾波「……え…?」

 

爆発音や砲音

悲鳴や怒号

そして、ここまではっきりと漂う血の匂い

 

テロでも起きたのか?そうじゃないだろう

寝ぼけている暇はない、何が起きたのかは明白だ

私を殺しに来た、駆逐古鬼がここまで追ってきた…

なぜ一晩おいたのかはわからないが、まず間違いなく…駆逐古鬼だ

 

私は衣服以外は全て没収され、何も戦闘手段がないというのに

 

いや、それよりも…私のせいでまた人が死ぬ

私のせいで罪なき人が殺されているのに、こんなシェルターに居る自分が1番、許せない

 

綾波「……出なきゃ」

 

カートリッジもない

艤装もない

身一つで牢屋から出るには?

何処にも出口はない、私はどうやって…

 

綾波「ッ!!…?」

 

牢屋の壁が吹き飛ぶ

 

プリンツ「た、助けに来たんですけど…」

 

レーベ「本当に牢屋に入ってるとは思わなかった…」

 

綾波「な、なんでここが…」

 

朧「アタシの鼻なら2キロ離れててもわかるよ、綾波」

 

綾波「朧さん…?いや、それより貴方達、動いても大丈夫なんですか…!」

 

プリンツ「多分…」

 

レーベ「グラーフ達はまだ動けないね…」

 

朧「アタシも、戦うにはちょっとキツイかな…」

 

綾波「……そうか、プリンツさんとレーベさん…貴方達はナノマシンの影響で治癒力が上がってるんだった…マックスさんとユーさんは!?」

 

プリンツ「外で見張りを…」

 

綾波「……よし、プリンツさん、朧さんを安全な場所に、私がなんとかしますから」

 

レーベ「1人で?」

 

綾波「いいえ、貴方達の力が必要です…戦い方を教えます…1人でも多く、助けるための戦い方を」

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