元勇者提督   作:無し

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命令

アメリカ 某所

戦艦 サウスダコタ

 

サウスダコタ「…送って欲しいって、何の為に?海は危険しかない、それに頼むなら他のやつに頼めば良い、私は…疫病神扱いされるからな」

 

男「君が良いんだ、頼む、どうしても日本に渡らなくてはならない」

 

サウスダコタ「何のために」

 

男「…侍に会いに」

 

彼は、謂わば先生だ、私達に色々なことを教えてくれた恩師だ

あんなに真剣な眼差しで頼まれて断るわけにはいかなかった…

 

サウスダコタ「…わかった、負けだ、ジャパンならアイツらにも会うだろうしな……その、よろしく伝えてほしい」

 

侍に会いに行く、馬鹿げた事を言っている様にも聞こえるが…

私達は先生が侍という言葉に特別な思い入れがある事を知っている、昔、日本語を教わった時に聞かされた、日本にはまだ侍がいると、見てくれではわからないが、紛れもない侍だ、と

 

それに会いに行くというのなら…協力しない道理はないだろうな

 

 

 

 

イギリス 某所

綾波

 

綾波「ま、何とか形にはなりましたね」

 

全員分の艤装の修理を完遂する

私が使う分も…一応はあるが大幅に性能は落ちた

が、それはハンデとしておこう

 

綾波(何もさせなければ良い、不意を打てばチャンスはある…)

 

あの硬さ、間違いなく駆逐棲姫と同等…いや、駆逐水鬼レベルはあるか?

深海棲艦を超えた私の力なら圧倒できるかもしれないが、ただの綾波ならまず勝ち目は薄い、となれば…組み立てるものは簡単だ

 

負けるつもりで戦うやつには勝ち目がない、私は全力で勝ちに行く

しかし、私の体は限界を迎える一歩手前

 

綾波「……全部合わせてようやくいいハンデ、ですよね」

 

データドレインはある

プロテクトを外せば、私の勝ちだ、だから、勝てるのに…

不安は消えない、消せない

 

 

 

 

朧「これ、カートリッジ?」

 

綾波「ええ、全員分作りました、材料はイギリス持ちです、代償は技術の公開ですね」

 

グラーフ「カートリッジとはなんだ?」

 

綾波「簡単に言えば強化装置です、ナノマシンに作用する身体強化系と艤装、主に砲弾に作用する艤装強化系に分かれますね」

 

リシュリュー「ジャパンの艦娘はそれを使うのね」

 

綾波「ごく限られた人だけですがね、しかし身体強化系のカートリッジは作成する環境を作れなかったので」

 

カートリッジを配る

 

綾波「艤装強化系のみです、使い方は簡単、艤装に挿入するだけ、良いですか?」

 

カートリッジを艤装に入れる動作を見せる

 

タシュケント「これ、強化ってどんな感じなの?」

 

綾波「火力増大と言えばわかりやすいでしょうか、単純に炸薬を強化するもので纏めてあります」

 

朧「…なるほどね、使いやすい」

 

綾波「朧さんにはこれを」

 

特殊弾を渡す

 

綾波「スモークと、散弾…それから」

 

グラーフ「それはビーンバッグ弾か」

 

綾波「ええ、非殺傷の弾丸で当たった部位の筋肉を痙攣させるとおもえばわかりやすいのではないでしょうか」

 

朧「……対人用だね」

 

綾波「はい、必要になる事もあるでしょう」

 

グラーフ「ドイツの様にか」

 

綾波「いいえ、ドイツとは話が違います…世界は思ったより綺麗じゃない、人間の脅威相手では…朧さん、誤って殺しかねませんし」

 

朧「信用ない…?」

 

綾波「あなたは強すぎる、蹴りの角度を誤れば人は死にます」

 

グラーフ(確かに、こいつに喧嘩を売った時は殺されかけたな…)

 

綾波「あなたの恐ろしいところはその身体能力と抜群の戦闘センスです、あなたの選択センスは非常に素晴らしいですが、言わばそれは人殺しの能力、特に…普通なら培われないその能力を環境が育ててしまっている」

 

朧「…だから加減してそれを使え、と」

 

綾波「もし必要になったらです、殴るだけなら間違えても殺すまではいかないでしょうが」

 

朧(…なんか、戦うの怖くなるなぁ…)

 

グラーフ「それより、言われた通りの物件を調べてきた、これが資料だ」

 

綾波「……全部、何かしらの条件が合いませんね」

 

グラーフ「当然だ、貴様の出した条件は無理難題としか言いようが無いだろう、なんだ、海の近くで尚且つ4階立て以上、敷地はできるだけ広く、周りに家もなく、人通りのない場所にある誰も住んでいない建物だなんて」

 

綾波「必要なんです、もっと探してください、可能な限り早く…時間はありませんよ」

 

グラーフ「……わかった」

 

綾波「とりあえず該当する建物探しに今は全員向かって下さい」

 

タシュケント「戦闘訓練とかは…」

 

綾波「不要です、私は真正面から戦うつもりは全くありません、それと朧さん」

 

朧「なに?」

 

綾波「あなたはカートリッジの捜索に、海の匂いがしたらその時点で捜索を打ち切ってください」

 

朧「…わかった、2つとも絶対取り戻さないとだからね」

 

綾波「私はもうしばらく艤装を弄ります、また夜に、今夜は私が何か食べられるものを用意しましょう」

 

朧「やっぱり綾波が作るんだ」

 

リシュリュー「そう言えば、昨日食材もいくつか…」

 

グラーフ「…それはいいな、レーベ達もここの食事には頭を悩ませていた、厄介になっている身だが…食感のない野菜にギトギトのフライ…もうゴメンだ」

 

綾波「ええ、油だらけだし、野菜の栄養は煮汁に流れてるのにそれを捨てるし…あなた達の体を治すためにも食生活の改善は必須です、帰ってくるまでに全員分の食事を用意しておきましょう」

 

 

 

 

 

 

グラーフ「…確かに、貴様は全員分の食事を用意すると言っていたが…何故、この基地の食堂の厨房に立っているんだ?」

 

綾波「まあ、成り行きで、どうぞ、晩御飯のカレーです」

 

サラダとスープ付きのカレーをトレーに乗せ、渡す

 

朧「昨日の買い物でわかってたけど…うん、凄く久しぶりにカレー…美味しい…」

 

ザラ「変な感じしますね…ライスをこう食べるのは…うーん、美味しいんですけど、不思議な感じ…」

 

リシュリュー「そう?イタリアはリゾットがあるでしょ?」

 

ザラ「有りますけど…お腹いっぱいになるまでリゾットだけ食べる訳じゃないですし…でも美味しい…」

 

リシュリュー「…本当に、これは何を使ってるの?」

 

綾波「合わせ出汁を使いました、鰹と昆布の出汁なんですけど…お口に合いませんでした?」

 

リシュリュー「そうじゃ無いけど…牛でも鳥でも無い、魚とも違う…これがジャパンのfond…ダシ……興味深いわ」

 

綾波「しかし、ここの人たちも皆さんも…よく私の作ったものを躊躇いなく食べますよね…」

 

朧「アタシは何も入ってないって鼻でわかるし…」

 

グラーフ「いや、そこなんだ、何で貴様がここの兵士たちの食事を用意している」

 

綾波「キッチンを貸して欲しいって言ったらついでに作れって」

 

グラーフ(普通ありえないぞ、そんな事)

 

綾波「どうですか?美味しいでしょう?」

 

にこやかに話しかける

 

朧「うん、なんていうか…普通に美味しい、すごく普通のカレー」

 

グラーフ「普通…これが普通なのか?確かに上品では無いがレストランで食べる様なものとも違うのか?」

 

リシュリュー「ジャパンのライスカレーは大衆食よ、あなた達にとってのヴルストみたいなものね」

 

グラーフ「…私はジャパンで少し過ごしたが、一度も口にしてないぞ」

 

綾波「それはお店で食べるのではなく、家庭で作るのが当たり前だからです、グラーフさんは日本で何を食べたんですか?」

 

グラーフ「基本レストランだった、ほらLinkの基地のそばにあっただろう」

 

綾波(ああ、サイゼリヤ…)

 

ザラ「あそこのラムは美味しかったです…特にパウダーがすごく味に深みを出してました、トリッパがないのが残念でしたけど」

 

タシュケント(この人トリッパ好きだなぁ…)

 

グラーフ「あそこのグラタンもなかなかのものだった、しかし何より安かったな、言い方は悪いがあまり金銭を持っていなかったので助かったものだ」

 

綾波「まあ、コストパフォーマンス良いですからねぇ……あ…」

 

頭に、違和感…

完全にバレたな…アケボノさんに

 

綾波「ま、いいか…そんな事」

 

 

 

 

 

離島鎮守府

秘書艦 アケボノ

 

アケボノ「何を、何を考えて…!オーヴァン!!何で綾波に…!どうやって…いや、それよりも…最悪だ、綾波がコルベニクを…」

 

いや、待て

 

アケボノ「…ここにいる綾波は、誰…だ…」

 

アレは、誰なのか

私はいままで誰を警戒していた?

 

これを周りに明かす事で生じる事態は?

 

アケボノ「……落ち着け、よく考えろ…」

 

ダミーと碑文が強く共鳴した、その中で…

"悪意"は感じなかった

それを差し置いても、おそらくここにいるあの綾波は何もできない

状況とは流動的だ、人の心さえも

深層心理に作用するコルベニクに隠し事はできない、今悪意を感じないのなら、それは…それでいい、放置しても良い

 

アケボノ(綾波の目的は何もわからない、警戒はしなくてはならないが…それで私の仕事が疎かになっては提督に迷惑をおかけするのみ…それに、共鳴したというのに…随分遠くに…)

 

アケボノ「まさか、日本に居ない…?いや、まさかな」

 

 

 

 

 

軽空母 春日丸

 

春日丸「綾波様、大丈夫ですか?」

 

アヤナミ「えっと…はい」

 

綾波様の周りの障害を取り除き、場を整える

 

春日丸「しかし、綾波様、いきなりどうされたのですか…?菓子を作るのは…その身体では…」

 

アヤナミ「…何もしないでいるのは…すごく、気持ち悪くて」

 

春日丸(…わからなくはない、綾波様は何事も自分から進んでおやりになる方、周りに何もかもを任せるのは違うと…いや、でも…)

 

時間が経つにつれて、私には疑念が浮かぶ様になってきた

 

綾波様は、何故記憶を失ったのか、何故こうなったのか

 

アヤナミ「…できた」

 

ゆっくりとオーブンからクッキーを取り出す

オーブンプレートを調理台に置き、皿を探す

 

アヤナミ「熱っ…」

 

春日丸「あ、綾波様!何をしているんですか…!出してすぐなんですから触れば火傷するに決まっています!」

 

ただでさえ車椅子のせいで周りより視点が低い

そんな状態でクッキーを取ろうとするなんて…

 

アヤナミ「でも、焼きたてが一番美味しいですから…」

 

綾波様の手を氷嚢で冷やしながら「卑しい事はしないでください」と叱るべきなのか、それとも別に何か表現の仕方があるのかと頭を悩ませる

 

アヤナミ「はい」

 

気づけば口元にクッキーが差し出されていた

 

春日丸「…これは…?」

 

アヤナミ「…その…手伝っていただいたので…一番に、食べて欲しくて…」

 

春日丸「…その為に…?私なんかのために火傷したのですか?おやめください!これ以上傷つかない…で…」

 

やはり、違う…

疑念が、強くなる

 

アヤナミ「……ごめんなさい、でも…春日丸さんには特にお世話になってますから、せめて…」

 

クッキーを口に含む

 

ああ、いつぶりか、この感覚…

そして、確信してしまった、私は満たされてしまった…

 

春日丸「…アヤナミ様…」

 

アヤナミ「あ、あの…なんで、泣いて…?」

 

そうだ、やはりこの人は違う、だって、このクッキーは私を満たしてしまった…

綾波様じゃない、だけど…

 

春日丸「…私が、御守りしますから…今度こそ…」

 

アヤナミ様に抱きつく

この止め処ない気持ちを抑えられない、後悔と…自身への強い怒り…私が、あの時取った行動を何度も悔いた、だけど…

 

これは命令だ、綾波様は、アヤナミ様を守れと私に…

アヤナミ様を戦いに巻き込まず、幸せな世界にと…そう言っておられるのだ

 

アヤナミ「……春日丸さん…?」

 

春日丸「…はい…」

 

アヤナミ様が優しく背中に手を回してくれる

 

アヤナミ「…ありがとう、よく頑張りましたね」

 

春日丸「っ…?アヤナミ様…?」

 

アヤナミ「…包帯に、書いてあったんです…私が記憶を失う前に言えなかった事だって…書いてました、きっとあなたに対しての言葉…」

 

春日丸「…あまりにも、勿体無いお言葉です」

 

これが、救われたという感情なのなら…もしこれに永遠に身を委ねられるなら、何と幸せなのだろう

 

だけど、同時にこれは決意と覚悟だ

 

春日丸「…まだ、私は何もやり遂げていないのですから」

 

必ず、私がお守りする、絶対に…誰にも手を出させたりはしない

アヤナミ様に仇なす全ては、私が…

 

 

 

 

春雨「私達に?」

 

春日丸「はい、アヤナミ様からです、イムヤさんと、敷波さん、それから如月さんと満潮さんにも」

 

クッキーの入った袋を配る

 

イムヤ「綾波は?」

 

春日丸「お休みになられています、かなり疲れたご様子でした」

 

敷波「…美味しい…っていうかアタシが作ったやつより絶対美味しい……」

 

満潮「なんだか、優しい味よね」

 

如月「そうねぇ…ちゃんと食べる人のことを考えて作られてる味がする…」

 

春雨「え?わかるんですか?そんなこと」

 

満潮「…同じ配合で同じ様に作れば料理は同じ様にできるとか、思ってるんじゃない?」

 

春雨「違いますか」

 

如月「違うわよ…」

 

春日丸(…下手なこと言わなくて良かった)

 

敷波「…やっぱり、綾姉ぇは…綾姉ぇだよ、もう大丈夫、絶対に綾姉ぇは誰かを傷つけたりしない」

 

春日丸「…私もそう思います」

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