元勇者提督 作:無し
イギリス
綾波
綾波「…っ…私、寝て…?」
顔に手を当てる
頬に冷たい跡…泣いていた…?
まだ頭がぼやける、眠気が取れず、疲労も重くのしかかる
グラーフ「起きたか」
リシュリュー「泣いてたみたいだけど、どんな夢を見たの?」
涙を流すような夢…か
なのに、何でこんなに…心が暖かいのか私にはわからない
だけど…
綾波(…あなたの幸せは、私の幸せです)
きっと、今彼女は幸せなのだろう
綾波「……さあ、どんな夢なんでしょう、覚えてません」
グラーフ「そうか、それは…良かったか?」
綾波「いいえ、残念な気持ちですが…私には勿体無い事です」
リシュリュー「勿体無い…?」
頭はぼうっとしていて、微睡の中に意識を置き去りにして
綾波「…私には、幸せなんて…」
グラーフ「…幸せな夢だったのか?なのに泣いていたのか…?」
グラーフさんに手を差し出す
グラーフ「…握手か?」
グラーフさんの手を握り、リシュリューさんに手を差し出す
リシュリュー「……」
2人の手を握る
綾波「……暖かい、ですね…」
グラーフ(…こんな表情を、するのだな…まるで、本当に幼い子供の様な…)
リシュリュー「…綾波、貴方は、一体…」
綾波「……少し、疲れてます…もう少し眠ります」
グラーフ「お、おい、せめて手を離せ」
リシュリュー「…ダメみたいね、でも…」
グラーフ「どうなっているんだ、私には綾波がわからない」
リシュリュー「…私も、今の綾波はまるで子供の様…普段とは…」
グラーフ「……綾波は、まだ子供だ」
リシュリュー「…かもね」
グラーフ「私達よりも歳が下で、なのに誰より賢くて、周りを優先することができて……おい、起きろ、綾波」
リシュリュー「無理に起こす必要はないんじゃ…」
グラーフ「一つだけ聞きたいことがある、今すぐにだ、貴様は真実しか語らないと言ったはずだ、今答えろ」
体を強く揺さぶられ、重い瞼を無理矢理開く
綾波「ん…」
グラーフ「答えろ、綾波…お前は今、幸せなのか…?辛いんじゃないのか…」
幸せ…?
幸せ、か…綾波は向こうで楽しくやってるだろうし…
敷ちゃんは綾波と一緒に居られれば幸せだし…
じゃあ、私は…
綾波「…消えられれば、楽なのにね…」
グラーフ「…なに…?」
…今、何を…?
自分が何を言ったか、必死に思い出す、脳が覚醒していく
綾波「っと……おや、寝ぼけていた様です…幸せか?幸せですよ、もちろん…ああ、失礼、いつの間に手を?」
2人の手を離し、頬を軽く叩く
リシュリュー「…グラーフ、少しいい?」
グラーフ「…わかった」
2人を見送り、ため息を吐く
綾波「…やっぱりダメだなぁ…私…」
廃墟
綾波「満点です、ここなら誰も巻き込まないでしょう」
案内された物件を一通り歩き、改めて評価する
グラーフ「…ここは廃墟だぞ、それにここには電気も通っていない」
綾波「人通りはないし、4階の高さもある…電気が通ってるなんて条件はありませんよ、完璧な物件です」
グラーフ(滅茶苦茶なことを…)
グラーフ「それで、ここに住むのか」
綾波「まあ、少しの間です、ここは使い潰します」
タシュケント「使い潰す?」
綾波「トラップハウスです、リシュリューさん、交通量の調査は」
リシュリュー「終わってるけど…」
綾波「…この辺りは一日に一台通るかどうか、か…イギリス政府に要請して通れないようにしてもらいましょう、マックスさん、レーベさん、海岸付近に穴を、深くなくて良いです、たくさん掘りまくってください」
レーベ「…地雷?」
マックス「相手は深海棲艦なんじゃ…」
綾波「私がここにいるから、相手は攻めてくることを選ぶでしょう」
駆逐古鬼は私に執着している、そしてあのふたりと駆逐古鬼は確実に繋がっている
ならば…仕留めてやる
プリンツ「そもそも、ここにいるのがバレたら吹き飛ばされるんじゃ…」
綾波「いいえ、深海棲艦の艤装を一時的にハッキングします、それにより艤装を使えなくなった深海棲艦は私達の目の前まで足を運ぶ必要に迫られる」
グラーフ「何!?そんなことができるのか!?」
綾波「ええ、可能です」
グラーフ「だったら何故最初からそうしない…!」
綾波「…色々あるんですよ」
私の身体の機能を、殆ど破壊する
文字通り捨て身の作戦、この身体は意識を保つ事も難しくなるだろう…
綾波(…大丈夫、後のことはすでに話してある、帰るルートもみんなに伝えた、だから…心配はない、日本に身体を持ち帰ってくれれば後は操作できる…)
綾波「あれ、朧さんは?」
グラーフ「…見ていないな」
…一抹の不安が頭をよぎる
綾波「…海の匂いがしたら、撤収しろと言ったのに…」
大きく息を吸い込み、あからさまにため息をつく
綾波「総員、戦闘用意、朧さん助けに行きますよ」
グラーフ「助け?朧は今どうなっている」
綾波「多分、深海棲艦を相手にしようとしてますね…ったく、あの人は脳みそが筋肉なんですか?」
駆逐艦 朧
朧「…思ったより、強いかもね」
欧州棲姫「……愚カナ、1人デヤッテクルナド」
欧州水鬼「…バカメ、ココデ沈メ」
強く、匂う…カートリッジの力が、滲み出している
朧(あのカートリッジをそのまま渡すなんて、絶対にダメだ…アタシが止める)
カートリッジを挿入し、強く意識する
目に熱が籠る
朧「アタシが、やる」
バチバチと弾ける様な音が艤装から鳴り始める
朧「…くらえ…」
右足で踏み込む
地面が砕ける
欧州棲姫「ナ、ナンダ…!?」
欧州水鬼「キック…?!」
右脚を軸に蹴りを放つ
空気を穿つ程の勢いが2体の深海棲艦に迫る
朧「っ…!?」
金属音が響き、脚が痺れる
朧「鉄の球…!?」
アタシよりも大きな鉄の球に蹴りを防がれる
沖棲姫「ヒャハハッ!」
朧(これも深海棲艦…!)
欧州棲姫「アンツィオノ装甲ガヘコンデイル…ナンテ威力ダ…!」
欧州水鬼「…油断ハセズ、殺ス」
朧(アタシの蹴りが通用しない…今迄のとは違う深海棲艦……でも、やってやる…)
主砲を構え、撃ちながら距離を取る
欧州棲姫「逃ガスカァ!!」
朧(艦載機…!?お、おかしい、動きが…読めない…!?)
綾波
綾波「戦闘の報告はこの辺りですか!」
グラーフ「艦載機の発艦許可が降りないと艦載機を使った捜索もできないとはな…不便がすぎる」
綾波「イギリス領である以上仕方ないでしょう、それよりも…」
周りを見渡す
遠くに見える黒煙…
綾波(あそこか…!)
走りながら祈る事しかできない
ただ、無事を…
綾波「っ…」
朧「……綾波…」
欧州棲姫「…ホウ、遅カッタナ」
欧州水鬼「貴様ノ作ッタ物ハ私達ノ役ニタッテイルゾ」
感情を殺せ
綾波「…とりあえず、ソレ、下ろしてくれませんか?ウチのメンバーなんですよ、そのまま首を絞められていては死んでしまう」
欧州水鬼「断ル」
冷静になれ、落ち着け、私なら全員無事に連れ帰るくらい簡単だ
綾波「カートリッジの使い方、教えてあげますよ」
欧州棲姫「何?」
欧州棲姫が朧さんを投げ捨てる
朧「っ…ぐ…ぅ……」
落ち着け、目の前の状況を計算し、最善だけを目指せ
綾波「話を聞いてくれそうで良かった、アー…」
欧州棲姫「その名で呼ぶな」
頬を艦載機が裂く
血がダラダラと流れ落ちる
綾波「…それは失礼、ところで…カートリッジの使い方を教えます、その代わり此処は退いてくれませんか?」
欧州水鬼「…ソレデハタリナイナ」
綾波「…はぁ……明後日、私は南東の崖の側の一軒家にて貴方たちを待ちます、私はそれまで時間が欲しい」
欧州棲姫「ソレヲ呑ムトデモ?」
綾波「その二つのカートリッジの力を制御するのに…2日はかかりますよ」
欧州水鬼「…慣ラシノ時間…カ」
綾波「ええ、どうですか、悪い話じゃないでしょう?」
欧州棲姫「試シテカラダ、先ニ使イ方ヲイエ」
綾波「…カートリッジを起動して、うなじあたりに突き刺してください、深海棲艦の身体ならそれを呑み込む事で最適化してくれます」
2人が言われたままにする
欧州棲姫「…コ、コレハ…ア…ガァ…!?」
欧州水鬼「チ、チカラガ満チ溢レル…!!」
綾波「まあ、改二のカートリッジを使うとそうなるか…私もそうなったし……でも黄昏の書も近しい姿になるとは思わなかったな…」
アークロイヤル「……なんだ、と…?」
ビスマルク「…どうなって…」
綾波(…深海の気配は消えてない、ただ艦娘の力を上乗せしただけだ、悪意も何もかも、消えてない)
アークロイヤル「どうして人間の姿に戻っている…!」
ビスマルク「…力が許容量を越えた、というところ?」
綾波「そうですね、貴方たちの深海棲艦の身体では持ち堪えられないので人間の姿になった…と言うところですが、深海棲艦としての能力は失っていないはずです」
アークロイヤル「…ククク…ハハハ!!なんて力だ…これで、これで私は…この国に復讐できる…!」
綾波(…復讐…?)
ビスマルク「…確かに、これに慣れるには時間がかかる…2日ね、2日後が貴方の命日よ」
綾波(…どうやら、2日じゃ足りなさそうだ、大仕事が増えかねない)
廃墟
綾波「…とりあえず、一言言わせてください……馬鹿なんですか?貴方」
朧「うん」
顔色一つ変えず、そう返されては…困るしかない
綾波「…貴方は、死にかけているんですよ…もっと危機感を…」
朧「本当にごめん、みんなにも迷惑をかけたし…アタシは自分を過信してた」
綾波「……なら、今後どうするかは…」
朧「わかってる、突出した行動はしない」
綾波(物分かりはいいはずなのに何であんな事…)
朧「綾波…ありがとう、助けてくれて」
綾波「…今死なれては困るんです」
朧「…綾波はアタシの事、どう思ってるの?」
綾波「……優秀な兵士」
朧「そうじゃない、感情の話だよ」
綾波「便利であると感じています、悪感情は向けていません」
朧「……そっか、もう恨んでないんだ…」
綾波「……貴方…」
朧さんの襟を掴み、引き寄せる
綾波「まさか私に嫌われてるから死のう、とでも思いましたか?それともカートリッジを取り返せば好いてもらえるとでも?」
朧「…死ぬつもりはなかったけど、アタシは…どうしても綾波と仲良くなりたかった、綾波の言う通りにして、認めてほしかった」
…つい、魔が差した、私が感情に任せて手を出すなんて…
そうじゃないと説明がつかない
朧さんを叩いた手が、やけに熱い
綾波「馬鹿にしないでください…私は貴方を認めています、全員を個人として見て、その能力を評価しています」
朧「…違う、アタシを見て欲しいんだよ、駆逐艦朧じゃない、アタシを」
真っ直ぐと見つめられる
その目から私は、逃げ出してしまいそうになる
綾波「…ふざけないでください、そんな事で死にかけるなんて…」
朧「それについては本当にごめん、アタシが自分を過信してた、強いと思い込んでた、勝てると思ってた」
綾波「……人は簡単に死ぬ、よく覚えておきなさい」
肩を突き飛ばし、朧さんをベッドに倒す
朧「…ごめん」
綾波「二度とやらないでください……私の姉妹艦を名乗るならですが」
朧「…じゃあ、名乗ってみようかな…綾波型って」
…本当に、この人は苦手だ
私の心の穴を埋めようとしている
勝手に埋めるな、私の心には穴を開けておけ
そうしないと、冷静さを欠く