元勇者提督   作:無し

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共鳴

イギリス 廃墟

駆逐艦 朧

 

目の前の煙幕の中の深海棲艦の位置を、匂いで掴む

 

朧(…当てられる、だけど…防がれる、それならどう対処すればいい?)

 

今も下から騒音が響いてくる

早く制圧して下へ向かわないといけないのに、このままでは時間だけが過ぎてしまう

このままではみんなが危険に晒されるだけだ

 

朧(装甲が無くなったなら、普通の砲弾も効く?…いや、ゼロ距離の散弾で火力を集中させ…)

 

朧「っ!?た、タシュケント!登ってきてる!外!」

 

そうだ、今は一対一の模擬戦なんかじゃ無い

殺し合いだ、そして敵は大量に居る

 

タシュケント「く、ヤバいかも…!」

 

タシュケントを助けに行く余裕はない、ザラさんとプリンツは戦えない

力を込めろ、意識を集中しろ

アタシは…綾波型駆逐艦、朧

アタシがここで負けるわけがない、間に合わせられないわけがない

 

アタシはどうすればいい

アタシができる最善の手段…

 

朧(…い、や……アタシ1人じゃないんだ…これなら…)

 

…繋がった

 

両手の主砲を空中に放る

腰の艤装からハンドガンを取り出し、嗅覚を研ぎ澄ます

 

朧(…借ります、この力を…)

 

引き金を立て続けに引く

主砲のハンドガードの中の引き金を撃ち抜き、主砲から砲弾を放つ

 

朧「…やった」

 

血の匂い…手応えはある

降ってきた主砲を掴み、無線機を繋ぐ

 

朧「タシュケント、大丈夫?」

 

タシュケント『あぇ…?あ、お、朧…今の…』

 

朧「無事みたいだね、しばらく繋げないから…頑張って」

 

両手の主砲を深海棲艦に向け直し、引き金を絞る

 

首を振り、無線機を振り落とす

 

朧「行くよ!!」

 

とにかく、深海棲艦があの艦娘を庇うならそれも利用する、なんでもいい、全部使って勝つ

蹴りと殴り主体のファイトスタイル…

リスキーでも確実なインファイトで叩き潰す…

相手を守る装甲がないのなら

 

朧「叩き潰す!!」

 

深海棲艦の砲撃を弾きながら詰め寄り、インファイトに持ち込む

 

ジャービス「な、なにが起きてるの…!?なにも見えない…!」

 

艤装がぶつかり、火花を散らす

煙を吹き飛ばし、視界を晴らす

 

朧(この深海棲艦、装甲がなくても硬い!)

 

殴るほどに拳が痛む、蹴るたびに脚部艤装から聞いたことがない音がする

 

朧「っ…やぁぁぁぁぁッ!!」

 

渾身の蹴りが周囲の煙を吹き飛ばし、視界を晴らす

 

沖棲姫「ヒャヒャヒャ!バケモノメェッ!!」

 

朧(上手く、いけぇっ!!)

 

蹴りの勢いを身体に残したまま、先に蹴りに使った脚を軸足にし、勢いを移して…

 

朧(もう一撃…!)

 

朧「はぁッ!!」

 

勢いを、最大限に利用した回しかかと蹴りを叩き込む

人体と艤装の一番硬い部分を顔面に叩き込む

 

沖棲姫「ヒャ…ヒャ…!」

 

艤装のスイッチを操作し、脚部艤装を起動する

あたりの空気が脚部艤装に吸い込まれ始める

 

朧「トドメ!!」

 

沖棲姫「…ア…?ナ、ナンダコレ!!ハ、ハナレラレナイ!?」

 

吸い込み口に深海棲艦がくっつく

 

朧「…逃げられないよ…!!」

 

圧縮された空気が脚を切り裂く、痛みで頭がおかしくなりそうになる

 

朧「っ……!!…りゃぁぁぁああッ!!」

 

艤装から射出された空気の塊が深海棲艦を吹き飛ばし、壁に叩きつける

叩きつけられた深海棲艦はグズグズに肉体が崩れ、もはや原型を失いつつある

 

朧「…やっ…た……かはっ…ぁ…っ…」

 

床に膝をつく

脚への甚大なダメージ、もう立つのも辛い

 

朧「…っ!」

 

背後へと主砲を振り抜く

ナイフと艤装がぶつかり、火花を散らす

 

ジャービス「Lucky…やっぱり、Lucky Jervisは伊達じゃない…ね…!」

 

ギチギチと金属音が響く

 

朧「待ってよ…!これ以上やるなら……撃つよ…!!」

 

ジャービス「撃ったところで、ジャービスは1人じゃない、死ぬのは貴方だけ!」

 

朧(…1人じゃ、ない…?……まさか)

 

艤装のブーストで無理やり脚を動かし、蹴りで吹き飛ばす

 

ジャービス「ぁぐ…っ…」

 

朧「…クローン…って事…?だったら匂いがほとんどしないのも…納得できるかも…でも、そしたら…下にいた子達も…クローン…?」

 

ゾッとする

そんな事が許されるのか…?

 

朧「……」

 

無線機を拾い上げ、装着する

 

朧「タシュケント、そっちは無事?」

 

タシュケント『ぶ、無事だけどさ…さっきすごい揺れがあったでしょ…その時に階段が…』

 

…階段を横目で確認する

いや、階段のあったはずの場所を…

深海棲艦の死体と、大穴…うん、アタシのせいで階段が吹き飛んでる

 

朧「あー、ごめん、でも大丈夫、敵は仕留めたから」

 

タシュケント『…流石だね、ジャパンの艦娘ってみんな朧みたいなの?』

 

朧「…いや、一部かな、アタシより強い人もいるし…」

 

タシュケント(冗談キツイって…絶対に戦いたくないよ…)

 

タシュケント『取り敢えず、外の様子見てたんだけどさ…深海棲艦、全部消えちゃった…』

 

朧「消えた?」

 

タシュケント『そう、黒い渦に呑み込まれて消えた…』

 

朧「…綾波…」

 

朧(改二艤装を使ったんだ…確かに、アレ以外であの大群を倒すなんて無理だけど…)

 

タシュケント『…撤退したって事なのかな、取り敢えずケリがついたならみんなと合流したいんだけど』

 

朧「無理せずゆっくり降りて来て、アタシも合流したいけど…」

 

立ち上がる

骨が軋む様な痛み、脚部艤装の中は今頃血まみれだろう

 

朧「手は貸せなさそう」

 

ぐちゃぐちゃの深海棲艦の遺体に近寄る

 

朧(これ、意味あるのかなぁ…)

 

右手を突き出し、文様に力を込める

 

朧「データドレイン」

 

眩い閃光があたりを包む

 

朧「………よし」

 

 

 

 

 

綾波

 

綾波「…皆さんひどい怪我ですね、医薬品を買っていたはずです、出してください」

 

リシュリュー「はい、これ」

 

消毒液とガーゼを受け取り、汚れを取り除きながら丁寧に処置していく

 

グラーフ「…地下での戦いは不安になるな、いつ天井が崩れるか…」

 

綾波「よく耐えてくれました、朧さん達は?」

 

リシュリュー「…プリンツとザラを助けに行ったきり、でも無線が時々入ってるから、無事のはず…」

 

…胸を撫で下ろす想い、とはこの事か…

その場凌ぎの要塞が役立ってくれてよかった

本当ならもっとしっかりした要塞にするべきだったのに、時間も物資もなにもなかったが故、こんな中途半端なことに…

 

グラーフ「それより、貴様…顔の傷が消えてるぞ」

 

綾波「ああ、まあ、そうですね、ツイてました」

 

再誕の力が発動したというのは…私に死ぬ意思が足りていないという事だろうか…

私の理性は…地獄へと落ちることを望んでいるのに、本能は生存を求めているのか…

 

軽く手当てを済ませ、地上へと誘導する

 

綾波「なっ……朧さん、なにがあったんですか…!」

 

ボロボロの朧さん、タシュケントさんもザラさんもプリンツさんまでも、全員出血している…

 

朧「…まあ、ちょっと…ボス戦?」

 

タシュケント「あれはちょっとじゃ済まないと思うけど」

 

朧さんがフラつくたびに血の匂いがキツくなる

 

綾波「…貴方、まさか…」

 

朧「うん、やっぱりキツイね、これ」

 

綾波「貴方…本当に……」

 

文句を言いたいのに、言葉がつながらない…

モヤモヤした感情をため息で殺す

 

綾波「無茶しないでください、本当に……朧さんには車椅子を手配します…さあ、傷口を見せて」

 

タシュケント「痛い!痛いよ!」

 

ザラ「あんまり叫ばないで…傷に響いて…」

 

プリンツ「余計に痛くなって来ます〜…」

 

綾波「…ごめんなさい、私が不甲斐ないせいで皆さんを傷つけた」

 

タシュケント「…なに言ってるんだい、みんな生きてるじゃないか、まさかあんな大人数相手に生き残れるなんて…」

 

ザラ「そうですね、何事も前向きに捉えましょう?」

 

グラーフ「少なくとも…私達は貴様に悪感情を向ける事はない、安心しろ」

 

綾波「……リシュリューさん、フランスから連絡は」

 

リシュリュー「待って、こんな状況じゃ電話もできないし…ええと、携帯見てない?」

 

レーベ「はい、落ちてたよ」

 

リシュリュー「ありがとう……あと20分位でブライトンに着くらしいわ、そこからル・アーブルに行ける」

 

綾波(…動きが遅いな、あまり期待していては日本に戻る頃には年の暮れだ)

 

綾波「…はぁ…あ?」

 

見慣れない人影…

 

朧「あ、忘れてた、自己紹介してくれる?」

 

ジェーナス「Hi!私の名前はJanus! よろしくね?」

 

綾波「…なるほど?」

 

朧「…アタシが深海棲艦から人間に戻しちゃったし、その…」

 

責任をとって面倒を見たい、か

朧さんらしくはあるが…

 

リシュリュー「どうするの?」

 

グラーフ「…フッ…まさかLinkのボスが来るもの拒むのか?なぁ、ボス」

 

綾波「なんですかそれ…あー、もういいや、ちゃんと面倒みてくださいよ?餌は一日3回、散歩とトイレもちゃんと…」

 

ジェーナス「ペット扱い!?」

 

朧「えーと…うん、頑張るよ」

 

グラーフ「そこは頑張るな、人間扱いしろ」

 

リシュリュー「ふざけてないで早くブライトンに行かないと…」

 

綾波「そうですね、急ぎますか…」

 

視界の端にウォースパイトが映る

 

ウォースパイト「送らせるわ、間に合わないだろうから」

 

綾波「車だけくれれば結構です、運転はしますので」

 

ウォースパイト「ならそうする」

 

気の長い旅だ、次はフランス…そして日本に帰るには…

 

早く、帰りたい…もう一度、顔を見たい…

赦されるのなら

赦されなくとも

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府 医務室

駆逐艦 春雨

 

春雨「…大丈夫ですか」

 

キタカミ「……無理…立てない…」

 

突如体調不良を訴え、倒れた

普段はまずありえない事態、キタカミさんが倒れるなんて、最近戦闘もなかったせいでみんな不安がっている…

 

ドアをノックされる

また見舞いだろうか

 

春雨「どうぞ」

 

アケボノ「すみません、不調なので休ませてもらえますか」

 

春雨「えっ」

 

キタカミ「…うわ…」

 

アケボノ「……これは、最悪かもしれませんね」

 

裏のツートップが、落ちたか

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