元勇者提督 作:無し
フランス ホテル
綾波
リシュリュー「……」
綾波「どうしました、口を閉じてください、だらしないですよ?」
グラーフ「…なあ、リシュリュー…ここは…」
リシュリュー「値段を調べたことはないけど…その…多分、このくらい」
タシュケント「…円?」
リシュリュー「ユーロ…」
ザラ「…フランスの人達と何を話したんですか…?」
綾波「技術を売っただけです」
タシュケント「技術…?」
綾波「カートリッジの技術なんですけど、これ」
カートリッジを一つ取り出して見せる
タシュケント「…それは?」
綾波「起動しておけばオートガードしてくれる…まあ、いわゆる電磁バリアですね」
タシュケント「…ホントに?」
綾波「ええ、まあ特許の都合上その名前を使うのは問題ありますし、オートガードのカートリッジとでも名付けましょうか」
朧「売り出すつもりなんだ」
綾波「技術を秘匿しても科学は発展しませんからね、それにおかげでこんなホテルに国が泊まらせてくれる、活動資金も手に入れた……ああ、リシュリューさんさっきの食事代はどうも、ごちそうさまでした」
リシュリュー「…いや、うん…」
タシュケント「…とりあえず、これからどうするつもりなんだい」
綾波「ドイツに来た時の様に輸送機を手に入れて空路…と言いたかったんですが、次はカスタムされていないノーマルの輸送機になるでしょう、そうなると海上は通れないし制空権の問題もある」
リシュリュー「…飛行機は?大陸内なら安全に通れる」
綾波「そのつもりで考えてます、しかし今は空路は馬鹿みたいに高いですねぇ」
タシュケント「需要は高いからね」
綾波「まあ、一番の問題は通常の出入国手続きができない点ですよね、リシュリューさんが居なければフランスにも入れませんでしたし…パスポートや身分証明書類を発行しようにも…」
私には戸籍がない、いや、私1人ならなんとでもできるけど…
ザラ「…偽造したりは?」
綾波「今の技術ならまずバレないものを作ることは可能です、ですが技術が進歩して偽造がバレたら?…貴方たちの人生についたタトゥーは消えませんよ」
タシュケント「リスキー過ぎるってこと?わざわざ昔の履歴とか調べないと思うけどなぁ」
綾波「万が一…その万が一で失う代償が大きすぎます」
犯罪歴となればこの先の人生がどうなるかわからない
特にパスポートの偽造はどこでも問題になってる、ここで下手に偽造をしてしまえば近い未来に過去の使用履歴から偽造パスポートを洗うなどの際に私達にも手が伸びるだろうし…
綾波(考えものだな…どうしたものか)
タシュケント(…綾波、考えすぎで自分の首を絞めてる様に見えるな…)
リシュリュー「それじゃあどうするつもり?」
綾波「今日一日はゆっくり考えます、陸路では帰るつもりはありませんのでご安心を」
陸路だけはない、時間がかかり過ぎる
空路は手持ちに使える物がない
海路は……論外か
ザラ「あのー、綾波さん」
綾波「…はい?」
綾波「自家用機ですか…」
ザラ「はい、あんまり物がない状態なら十分全員乗れます、実は前からタシュケントさんと相談してて」
タシュケント「まあ、一応ロシアの軍に居るわけだし飛行場に着陸できる様に交渉はできるよ」
綾波「…しかし、まさかザラさんがプライベートジェットを持ってるとは」
ザラ「意外でしたか?でもこれなら帰れるでしょう?」
綾波(まあ、出国手続きはうまくやるか、EU間なら逐一面倒ごともないし…)
綾波「それで行きましょう、タシュケントさん、交渉は任せました、明日からイタリアに向けて移動します、どの州が良いですか」
ザラ「ヴェネツィアでお願いします、そこにあるので」
綾波「わかりました、そこまで陸路で…2日でたどり着けるか」
ザラ「トリノで一泊しましょう、良いところですよ」
綾波「ええ、存じ上げています」
綾波(とりあえず、うまくやれば4日で日本に帰れる…そうしたら少しの準備期間を設けて、ようやく本格的に再開できる……そううまくは行くとは思えないし、サブプランを用意しておかないと)
綾波「…あ、そうだ、ジェーナスさんに用が有ったんでした…それでは失礼」
ザラ「はい、あんまり休めなさそうですけど…ゆっくり休んでください」
ジェーナス「熱源感知の他の力?」
綾波「ええ、まあ機械的に捉えるならそう言う機能が備わっている…なら、他にも機能があるんじゃないかと思いまして」
ジェーナス「…無くは無いと思うけど…」
綾波「どんな力ですか?」
ジェーナス「毒、毒煙を噴いたりね」
綾波(毒か、もしそこらの深海棲艦も使えるなら…解毒薬がいる、ジェーナスさんから抗体をとれるか?)
ジェーナス「…なんでそんなこと気にしてるの?」
綾波「深海棲艦は常に進化しています、ですので情報を常に新しく、尚且つ対策もより強力にしなくてはいけませんので」
ジェーナス「ふーん」
綾波(しかし、熱源感知に毒か…まるで蛇の様な…いや、あながち間違いじゃ無いのかもしれない、ウミヘビ…そのくらいに思うことにしよう)
離島鎮守府
駆逐艦 春雨
春雨「…よし、業務終了…」
足早に医務室を出て食堂を目指す、まだ間に合うだろうか
春雨「ああ、まだ居た、と言うか食べてないんですか?」
敷波「来ると思ってたから」
春日丸「どうも、今日の夕飯はハンバーグですよ」
イムヤ「あ、いつも通り魚のミンチだけどね」
春雨「そうですか…綾波さん?」
アヤナミ「あ…えと、こんにちは」
…綾波さんは精神的に弱り始めている
理由は不明瞭、恐らくは…
アイオワ「Hi この席良い?」
ワシントン「自由席だものね?」
わざわざ近づいてくるアメリカの犬どもか
…四六時中監視の目があるせいで綾波さんは精神的に参ってしまっている
警戒する気持ちは理解できるが、私の患者につきまとわれるのは困る
春雨「その先は私が先に座ろうとしていました、アイオワさんの席にはアケボノさん、あとその隣の席は…あー…倉持司令官が来る予定です」
敷波(普通の時間には絶対来ない2人だ…適当言ったな…)
アイオワ「…シレイカン…
ワシントン「アイオワ、やめときなさい…オニが来るわよ」
アケボノさんは最近様子がおかしいこともあり、一部では鬼だの般若だのと呼ばれている
まあ、要するにこの2人を黙らせる為のとっておきだ
アイオワ「…Sorry やっぱり別の席にする」
ワシントン「じゃ」
綾波さんを見張るのは良いが…
危うい
もしかしたら殺すつもりなのかと思う目をしている、あの2人は躊躇いというものが無いのか.
ガタガタと大きな音が食堂の入り口から聞こえてくる
敷波「うわっ…」
春日丸「……どうやら春雨さんは嘘つきにならずに済みそうですね」
春雨「…うわぁ…」
アメリカの戦艦2人が食堂の入り口で駆逐艦の前で平謝りしている様はいつ見ても見応えがある
少なくとも、私の患者に害を成す存在には私は優しく対応する道理はない
春雨「アケボノさん、そんな所に居られずに此方に」
アケボノ「……ええ」
アケボノ「珍しいですね、私を誘うなどと…」
春雨「ちょっと理由があったんですよ、それより…何故あの2人を通りがかりにボコボコに?」
アケボノ「カマをかけました、また提督の悪口を言いましたね、と…素直に認める物ですから殺そうと思いまして」
イムヤ(ま、前よりずっと物騒になってる…)
アヤナミ「…そ、そんな事しちゃ…いけない…と、思います……)
アケボノ「良くないことでしょうね、提督も私がくだらない相手に手を出す事を嫌います」
春日丸「ならやらなければ良いのでは…?」
アケボノ「いいえ、私にとっては提督を愚弄される事の方が耐え難い…私は提督にとって道端の石ころ位の存在で良いのです、できればお役に立ちたい、しかし…負担になりたくない」
春雨「…血色は良くなっています、ちゃんと食べて寝ている証拠です、しかし…どこかやつれている」
アケボノ「…何が悪いのやら」
イムヤ「あー…あ、そうだ、アケボノ今日は早くない?いつもご飯の時間遅いのに」
アケボノ「…まあ、その…提督に食事に行く様にと指示されましたので…思えば提督も事務仕事をこなすのが速くなられましたし、私はいらないのかもしれません」
イムヤ「あーもう…すぐそうやって…メンヘラになる…」
春日丸「めんへら…?」
春雨「心の病気患ってる人のことですよ、メンタルヘルスが必要な人のことです」
綾波さんがアケボノさんの方を見て笑う
アヤナミ「大丈夫…私より要らない人なんて居ませんから…」
春雨(…ブラックジョークがすぎる…)
アケボノ「笑えませんよ、それ」
春日丸「アヤナミ様、どうか御自身を軽んじる発言はおやめください…」
春雨「そうですね、言葉と言うのは…口に出した言葉というのは中々重い物です、気づけばその通りになってしまうこともある…会話とは一種の洗脳です、どんなに口下手な人でも常日頃からそう言うだけで相手にそう思わせる事になる…」
アケボノ「あっ…」
アケボノさんが自分の食べる分の乗ったトレーを掴み、逃げ出そうとする
アケボノさんの視線を追うと満潮さんから食事を受け取っている倉持司令官が見つけられた
イムヤ「はい、逃げない逃げない、司令官〜、ご飯食べるならこっち来ない?」
アケボノ「イムヤさん、何を…!?」
海斗「お邪魔して良いの?」
イムヤ「勿論、アケボノの隣空いてるから」
アケボノ(な、何を考えてるんですか…イムヤさん…)
イムヤ「ほら、ちゃんと食べ終わるまで席を立っちゃダメだからね?」
アケボノ「……わかりました、わかりましたから離してください」
イムヤさんの考えもわからなくはない
アケボノさんが倉持司令官に好意を向けているのは明らかだ、だがアケボノさん自身が変な方向を向いているせいでアケボノさんにフラストレーションが溜まっている様に見える…
アケボノ「…その、業務は…」
海斗「うん、終わってるよ、特に大した量もなかったから」
アケボノ「…そうですか…その、最近提督は作業が大変早くなられて……いえ、なんでもありません」
春雨(…必要とされたいタイプ、か…若干不満げだな)
イムヤ「そういえば綾波は司令官とはあんまり話した事ない?」
アヤナミ「…いえ、一日に一度はお会いしています」
春雨「…毎日ですか?」
海斗「うん、いつもお茶を持って来てくれるんだ」
イムヤ「へぇ…知らなかった、というか綾波が淹れてるの?」
アヤナミ「はい…私にできることをどうしてもやりたくて…」
春日丸「14時からキッチンを借りて軽いお茶菓子と紅茶を用意しております」
春雨「…つまり、貴方も一緒に?」
春日丸「はい」
春雨(その時間は流石に外せないな…)
アケボノ「マメなことに、茶葉と淹れ方を毎日変えてくれていて飽きはきませんね」
アヤナミ「…その…なんとなく…でやってるんですけど…もしかしたら記憶を無くす前は紅茶が好きだったのかも…」
春日丸「…そうですね、しかし紅茶にとらわれず、多様なものを試してみるのは如何でしょうか?何も記憶に固執することはありません、今のアヤナミ様がお気に召す物を探してみましょう」
アヤナミ「ありがとうございます…春日丸さん…」
イムヤ「今度そのお茶会にお邪魔しても良い?」
アヤナミ「ええと…」
綾波さんがアケボノさんの方を見る
アケボノ「何故私の顔を見るんですか、許可を取るなら提督にです」
イムヤ「アケボノが怖いんじゃない?」
アケボノ「……イムヤさん」
海斗「ま、まあ、僕は良いと思うよ」
イムヤ「じゃあ決まり、その時はイムヤもお菓子を持って行くから!」
春雨「ポテトチップス」
春日丸「よく食べてますよね、山雲さんに貰ったお芋で作ったお料理」
イムヤ「ぐ…あー……うん、流石にそれを持っていくわけじゃ…」
春雨「目を逸らすのはやめましょうよ、大丈夫ですか?紅茶はストレートで飲めますか?お砂糖、入れませんよね?」
春日丸「そう言えば初めて会った時からすこし…」
イムヤ「…ごめん、参加するの先になりそう」
春日丸さんと目が合い、互いに微笑む
どうやら向こうも独占欲が強いタイプらしい…
アヤナミ「その…でしたら、一緒にお散歩しませんか…?」
イムヤ「あー…ジョギング…うん、わかった、誘ってくれたらいつでもいくから!」
アケボノ「ごちそうさまでした」
さっさと食べおわったアケボノさんが席を立とうとする
イムヤ「待った、1人だけ席を立つのはどうなのかなぁ…」
アケボノ「…私は食事が終わったんです」
イムヤ「でもまだ休憩中でしょ?」
アケボノ「…業務に戻りますので」
イムヤ「まあまあ、それよりさ、いい加減アケボノにさんってつけて呼ぶのやめてほしいな〜って思ってるんだけど」
アケボノ「では、さっさとその手を離してくれますか?イムヤ」
春雨(うわぁ…怒ってる…)
イムヤ「アケボノ、遠回しに言ってるのがわからない?司令官はまだ食事中、すぐ隣で席立つのは不味いんじゃない?」
アケボノ「っ…!謀りましたね…!?」
イムヤ「何のことやら!さ、席に戻った戻った」
春雨「貴方、中々に強かなんですね」
イムヤ「まあ、大事な友達が悩んでるんだから、手を貸してあげたいじゃん」
春雨(その割には追い詰めてる様に見えますけど)
イムヤ「アケボノは…2度も裏切ったせいで司令官のそばにいちゃいけないと思い込んでるんだよ、仕事中なんて事務的な会話以外アケボノがシャットアウトするし」
春雨「…そうだったんですか?」
イムヤ「だから、まずは一緒にご飯を食べるのを当たり前にする…食事中位は司令官と普通に喋れる様にね?」
春雨「…それで最終的にどうしたいんですか」
イムヤ「んー…笑ってくれたらいいかな、そうしたらイムヤの作戦は終わり、面白いから楽しんでるけど…アケボノは本当に嫌かな…」
春雨(あの仏頂面を笑わせる…か、確かに面白そうだ)
春雨「やり遂げれば、関係なくなりますよ」
イムヤ「…だよねぇ」
私もうまく立ち回って…綾波さんをもっと笑わせてみたい
作っていない、心の底からの笑顔を、引き出してみたい