元勇者提督   作:無し

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不手際

大湊警備府

駆逐艦 五月雨

 

徳岡「演習?呉とか…?」

 

涼風「おうよ!依頼の書類が来てた!」

 

書類仕事をしながら話に耳を傾ける

 

徳岡「呉っつーと…化け物軽巡艦隊じゃねぇか、怪我でもしたらどうすんだ…」

 

睦月「軽巡8人と駆逐1人にゃしぃ、日本海の海戦で傷を負ったことのない、佐世保との演習に完全勝利の最強艦隊と名高い艦隊だよ!」

 

徳岡「三崎なら無茶はさせないだろうが…ん?駆逐って誰だ?」

 

涼風「炎使いの曙って話だけど、毎回艤装を使い潰してるせいで艦隊メンバーを増やせないって噂も…」

 

手元に演習依頼の書類を見つける

 

五月雨(呉かぁ…睦月ちゃんが那珂さんに会いたがってたしー…)

 

承認して次の書類を漁る

 

徳岡「…渡会から聞いた話じゃ相手した奴も艤装潰されたって言ってたぞ…やめだやめだ、北方海域が安定してきたとこなんだ、それに弥生のこともある、今は下手な刺激はない方がいいだろう」

 

睦月「えー!……うう…弥生のためなら仕方ないか…」

 

涼風「心配だなぁ、ずっと引きこもっちまって…何があったのか誰も知らないんだろ?」

 

睦月「うーん…それが…この前聞いたら友達がネットゲームをしてて意識不明になったって…」

 

涼風「友達?」

 

睦月「もう何ヶ月も前からああだし、心配にゃしぃ…」

 

徳岡「とりあえず…今回はお断りだ、涼風、どこに書類があるかわかるか?」

 

涼風「あー…探してくる」

 

五月雨「あ!涼風、どこいくの?」

 

涼風「郵便を確認に…」

 

五月雨「ついでに書類提出してほしいんだけど…」

 

涼風「五月雨にやらせっと出す前に破れたり濡れるからなぁ…この涼風様に任せとけぃ!」

 

書類を一通り渡し、涼風を送り出す

 

五月雨「よーし!午前のお仕事終わりです!」

 

徳岡「相変わらず早いな…」

 

睦月(書類仕事だけは五月雨が一番にゃしぃ…)

 

五月雨「ところで演習楽しみですね!」

 

徳岡「…ああ、いや、今回は断ることにした」

 

五月雨「え?」

 

睦月「ちゃんと聞いてなかった?」

 

五月雨「……あの、私承認しちゃいました…」

 

徳岡「な、なに!?」

 

睦月「oh…」

 

五月雨「あ、追いかけないっとぉぉっ!?」

 

立ち上がった際にこけて床に顔から突っ込む

 

睦月「大丈夫…にゃっ!?」

 

徳岡「お、おい五月雨!血が出て…救急車!」

 

五月雨「あえ…?だ、大丈夫ですよ…おでこが切れちゃっただけみたいなので…」

 

睦月「と、とりあえず救急車〜!もしくはメディーック!!」

 

 

 

 

 

五月雨「ごめんなさい、お騒がせして…」

 

睦月「大事なくて良かったにゃ」

 

徳岡「…病院の先生、偉く落ち着いてたな…」

 

五月雨「週に2回はお世話になってますから…」

 

睦月「派手な怪我が多いにゃしぃ…」

 

涼風「おーい!」

 

五月雨「あ、涼風」

 

涼風「無事そうで良かったー、五月雨が救急車で運ばれたって聞いたから、今度こそは死んだのかと思って走ってきたぜ!」

 

睦月(不謹慎にゃしぃ…)

 

涼風「五月雨に渡された書類は無事だから安心しな!」

 

五月雨「……あ」

 

徳岡「…電話で問い合わせるわ」

 

睦月「もはや年貢の納め時と思う方がいい気がするよ〜…」

 

 

 

 

 

 

呉鎮守府

駆逐艦 曙

 

曙「…よっ」

 

帰ってきて早々川内に出迎えられる

 

川内「どう、収穫は」

 

曙「何もない、朧は勿論…綾波なんて影すら見えない…アイツらはどこにいるの?何のために…」

 

あの力を…

 

川内「神通が言うには、日本に居ないんじゃないかってさ」

 

曙「瑞鶴にも言われた、それより神通本人は?まだ帰ってきてないの?」

 

川内「青葉と一戦やりたいって言って帰ってこないねぇ…でもその青葉がずっと引きこもってるらしいし」

 

曙「なにやってんの?」

 

川内「ゲーム」

 

ゲーム…頭ごなしに否定はできない

青葉は仕事の一環でそのゲームに取り組んでいる

真面目に仕事してると考えると…

 

曙「そ…」

 

川内「…離島、戻りたい?」

 

曙「……そう思わないこともない、だけどあたしは本土でやる事がある…日本に居ないなら、どこまでも追ってやる…綾波だけは許さない」

 

川内「…ま、手は貸すよ」

 

みてなさい、今すぐ見つけ出して…細切れにして、ドロドロに溶かしてやる…

そして、朧を取り戻す

 

 

 

 

 

 

イタリア トリノ

綾波

 

綾波「は…へぁ……くしゅん!…し、失礼しました…うーん冷えちゃいましたかね…」

 

タシュケント「上着、貸そうか?このくらいならへっちゃらだし」

 

綾波「ああいえ、どうかお構いなく…」

 

タシュケント「しっかし…まるでヨーロッパ旅行だね」

 

綾波「平時なら楽しむ余裕もあったんですけどね」

 

横目でリシュリューさんを見る

 

リシュリュー「シャンパーニュ…リヨン…もっとフランスを知って欲しかったのに…」

 

グラーフ「そんな顔をするな、戦争が終わったらみんなで行けばいいじゃないか」

 

リシュリュー「何年先になるの…!」

 

ザラ「それよりー、夕飯のレストランは予約してますか?いいお店があるんですけど〜」

 

落ち込むリシュリューさんとは全く逆、ウキウキと楽しそうなザラさん…

 

タシュケント(ロシアで回るお店考えておいた方がいいかな…取り敢えず日本食とか久々だろうしスシとか…でもあんまり好きじゃないんだよね…あ、ボルシチ?)

 

アークロイヤル「本当に、これは部隊なのか?」

 

ビスマルク「学生の集まりみたい…」

 

綾波「そのくらいが丁度いいですよ、取り敢えず私はまだ仕事があるので…っ…、…ホテル、先にチェックインしましょう」

 

ザラ「綾波さん?」

 

…少し、ふらついた…

体は万端なはず…この感じ…

形容し難い、何かが介入する様な感覚…

アケボノさんがコルベニクを使って私の意識に割り込もうとしたのか…?

 

綾波「何でもありません、さ、ホテルに」

 

 

 

 

ホテル 自室

 

綾波「…まずい…ダメ、立ってられな、い…」

 

何とかベッドまで辿り着き、体を投げ出す

 

綾波(…意識、が…)

 

 

 

 

???

 

綾波「…夢?ここは、いや、この感覚…」

 

混濁した意識の中で勝手に口の中に紅茶を注ぎ込まれる

 

周りからいろんな声がする

もっと耳をすまそうにも、よく聞き取れない…

いや、よく見れば…視界が非常に悪い…

それに、聴力も非常に落ちている様な…

 

…意識しろ、慣れれば聞き取れる…

 

春日丸「アヤナミ様、大丈夫ですか?」

 

綾波「…え…?」

 

ぼんやりとしか見えていないが、まさか、ここは…

 

「大丈夫です」、となんとか発音する…

言葉で喉が震えるたびに振動で内臓が痛い

まさか、この感覚…

 

綾波(…私は、今アヤナミの意識とリンクしている…?なんで、ダミー因子の接続も、何もかもを物理的に切り離しているのに…?)

 

科学で証明できない何かが起きているのはわかった

だけど…何よりも悪いことに気づいた

 

綾波(…この身体、長くはない…いや、このままでは長く保たない…と言うことか)

 

感覚の無い脚や眼は問題じゃない

この感じは…

 

綾波(恐らく、体を修復するエネルギーが足りて無いんだ…特務部にいたときにしてた様な点滴もしてない様子だし…春雨さんなら適切な処置をしてくれると思っていたのに…見落としたのか…)

 

アヤナミは、今の状況に満足しているのだろう

だけど…私のせいでそれを奪うのは、私がそれを奪うのは許せない…

なんで私じゃなくてあなたが死のうとする…

 

春日丸「このお菓子、アヤナミ様が作ってくださったのですよ」

 

イムヤ「綾波って何でも作れるんだ…凄いなぁ…」

 

ああ、話しかけてきているのに…どうして、応えられない

私はなんと応えればいい

 

アケボノ「…アヤナミさん?」

 

「何でもありません」と応え、紅茶を口に含む

味がしない、味覚がないんじゃない、焦っていて味がわからない…

 

しかし、そうか、やはりここは離島鎮守府の執務室か…では、対面にいるのは…

 

綾波「っ…!」

 

目が合った、そして、この感覚…まさか…

 

海斗「…綾波…?」

 

…何…?

 

隣から肩を叩かれ、目線が勝手にそちらに向く

 

敷波「…大丈夫?綾姉ぇ」

 

綾波「敷波…」

 

 

 

 

ホテル

 

綾波「っ!……はぁ……はぁ…!…うぅっ…!」

 

汗で全身が濡れている

気持ち悪い感覚…何より…

 

バスルームに駆け、込み上げるものを吐き出す

 

何が起きた、なんであんな事に?

私の身に何が起きている…いや、何よりも綾波は…!

 

頭が回らない

私は…

 

胃の中をすっからかんにし、口の中を濯いだ辺りで身体に力が入らなくなる

 

綾波「…なぜ、こんなに、消耗して…」

 

洗面所の前で倒れ、立ち上がることすらできなくなる

 

綾波「ぅぐ…ぁ……あ…!っ…!」

 

立て、立ち上がれ

私の体は何の異常もないだろう、なぜ私が寝転がっている

何故私はこんなところでくだらないことを考えている

私のやるべきことをやれ…!

止まるな…!

 

綾波(…頭では、わかっているのに…)

 

きゅるきゅると、錆びた車輪の回る音がすぐそばで鳴る

 

綾波(…この音…)

 

心臓が凍りつく感覚…確かな気配

何とか、見上げようとするも…体はもはや動かない

 

「偽善者」そう言われた気がした

それだけで、気配は消え、心臓の鼓動は早すぎるものの…正常に戻りつつあった…そう、体も動く

正常に戻りつつあったんだ、私の心以外は…

 

綾波「…っう……ぅ…」

 

頭と心が離れ離れになってしまう

私の体なのに、私の心なのに、私の理性で動かせない

 

綾波「…う…ぐすっ…ダメ、止まって…」

 

涙が、止まらない、止めようと思っても溢れてくる…

何もかもが終わった、私の中で何かを皮切りに全てが壊れつつある

 

私が偽善者なのはわかっている、だから地獄に行こうとして…

 

頭でそう考えるだけで、「偽善者」と言う言葉がチラつく

頭の中で必死に考えを逸らそうとするたびに…自分の本性が見えてくる

否定する度に、言い訳をする度に…

 

こんなに私は頑張っているのに

あんなに尽くしたのに

全部犠牲にして、みんなのためにやっているのに

 

そうだ、所詮私は偽善者なんだ、だから…誰も認めてなんかくれない

 

綾波「…ダメ…ダメだから…そう思っちゃダメなの…!」

 

心が叫んでも、頭は違うとわかっていても

 

アヤナミは全てを見透かしているのだろうか

私の黒い部分を、見透かしているのだろうか

 

だから、私に……何を、求めて…?

 

綾波「…あ…」

 

ダメだ、意識が落ちる…

 

 

 

 

 

 

ドンドンドンとドアを叩く音で目が醒める

よろよろと立ち上がり、ノブを捻る

 

グラーフ「おお、綾波…寝てたのか…?」

 

綾波「…何、ですか…?」

 

グラーフ(…目が、腫れてる…涙の痕…?)

 

綾波「…もう出発の時間ですか…?」

 

グラーフ「いや…ザラがレストランに行こうと言うのだが…何度呼びかけても反応がないものだからな、その…今タシュケントがロビーに行って…」

 

綾波「…そうですか……すみません、食欲がないので、私は無しでお願いします」

 

グラーフ「…そう、か…」

 

タシュケント「食べるって時は人に良いと書く…じゃなかった?」

 

綾波「…タシュケントさん…」

 

タシュケント「…日本語って難しいよね、相手の気持ちを利用した喋り方が必要になるし……特に、綾波なら無理に来なくても良いって言ったら無理してでも来てくれるでしょ?」

 

綾波「……」

 

そうだ、これが私の宝物だ

唯一許された幸せだ

 

綾波「わかりました…行きましょう」

 

グラーフ「そうか、良かった」

 

グラーフ(今の綾波を1人にしたくはない、誰かがついていてやらねばな)

 

…気を遣われてるのがわかる、私なんかに気を遣うなくても良いのに

 

…決めた

一度だけ、もう一度だけ、敷波の顔を見たい

アヤナミに一言謝りたい、春雨さんにアヤナミの体のことを伝えたい

 

やりたいことをあげればキリはない、だからそれを全部やる

全部やってから…終わろう

 

この幸せな時間は、すぐに終わるだろうから

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