元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 医務室
駆逐艦 春雨
春雨「…本当に?そんな筈…」
川内『とにかく連絡したから、こっちからは以上、わかった?』
…急に告げられる綾波さんの不調…それも使う薬などから殆ど死者同然とまで言われては納得も何もないだろう
しかし…外傷ばかりに目をやって体内をロクに見ていなかった…?
いや、とにかく検査しないと…
春雨「…そんな…」
言って仕舞えば、見落としだった…
そう、ただの見落とし、小さい、本当に小さい傷が化膿して広がるように…どんどん進行を許した
私が見落としたせいで、綾波さんの体内はボロボロだった…
最悪だ…最悪だった、私のせいだ…
幸い、ここには医療設備が充実している…だけど、それでも治せる病気と治せない病気がある…
綾波さんの病気は治せる病気だった、そもそも病気ですらなかったと言うべきか…怪我による臓器のダメージ…それを体は必死で治そうとしていた
それを助けるために様々な薬が投与されていたのにそれが途切れてしまった
結果として…小さな理由だろうが感染症などにかかりやすくなり、臓器が病気と呼ばれる状態になった…全ては私のせいだ、言い逃れるつもりはない
ただ、頭を悩ませているだけだ…
なんて伝えよう、どうしよう
率直に「貴方に余命宣告しなくてはならなくなりました、全て私が悪いんです」とでも言うのか?
無理だ、情けない話だがとても言えない
次の案は…
とんとん
肩を叩かれてふりかえる
ぐにゅっと人差し指が頬に突き刺さる
イムヤ「…どうなの?綾波の検査結果」
春雨「貴方に見せても、仕方ないでしょうね」
イムヤ「なんだとうっ!?」
春雨「……いや、むしろ貴方にも話すべきか…本当は先に敷波さん達にも…」
イムヤ「そんなに悪いの?」
春雨「…ええ、その…」
まだ、言葉ができてないのに
イムヤ「…そっか、カルテ貸して?」
春雨「え?」
イムヤ「これ?」
私の手からカルテを奪い取り、医務室のドアを開ける
そこには、綾波さんと敷波さんがいた
春雨「な…なんで?」
敷波「流石にさ、急にあんな大掛かりな検査をし始めたら怖いじゃん…」
アヤナミ「……」
綾波さんはマジマジとカルテを見る
春雨「あ、あの…ごめんなさ…」
アヤナミ「知ってました…永く保たないのは…」
春雨「え…?」
アヤナミ「だから、気にしないでください…」
春雨「違うんです!…私が悪いんです!最初の検査の時、もっと詳しく調べていれば…」
アヤナミ「…え…?」
春雨「ここに来た時にもっとちゃんと調べていればここまで悪化はしなかった!見落としさえしなければ、わかっていたらこんなことになりはしなかった…!」
敷波「…春雨…」
アヤナミ「……」
綾波さんは、ただ項垂れていた…
敷波さんとイムヤさんは言葉を失っていた…
アヤナミ「…なんで…」
春雨「……」
アヤナミ「…あなたは、お医者様なんですよね…?なんで…!」
…次に、綾波さんから向けられた目は…憎しみのこもった目
その目に、私は何も言えなくなってしまった
春雨「っ……」
私の心にどこか、許されるのではないかという気持ちを持っていたのだろう…その一言に、向けられた憎しみに…何かを打ち砕かれたような気持ちになった
アヤナミ「なんで…そんな事、言わなかったら、私はこんな気持ちにならなかったのに!!」
敷波「あ、綾姉ぇ…」
春雨「ごめん、なさい…」
何処かで甘えていたのだろう、許してもらえると思っていたのだろう、だからこんなにショックで、辛くて…
アヤナミ「なんであなたが泣いてるんですか…!泣きたいのはこっちです…!!」
春雨「ごめんなさいごめんなさい」
もう、そこからはなにも…覚えていない…
どれくらい謝ったのかも、どれくらい、怒られたのかも
私は心の中の優しくて甘い綾波さんを期待していた
でも、そんなの…
波止場
いつのまにか、ここに居た
脚を投げ出し、波止場に座って泣き腫らした目をおさえていた
ここに居ると死の感覚が肌をなぞる様な、落ち着かない感覚に襲われる
その分だけ、私のしてしまった罪を…認識できる
肩をトントンと叩かれる
右肩に置かれた手の人差し指を掴み、逆方向に曲げる
イムヤ「あだだだだだっ!?」
春雨「…なんですか」
イムヤ「…春雨がさ、死んじゃうのかなって…」
優しく、そして…儚い笑顔
この人はこんなに綺麗だったか
イムヤ「…どうかした?」
生と死を…誰よりも味わってきた人だ、深海棲艦として、人間として…両方の時を誰よりも苦しみ、生きながらえてきた人だ、だからこんなに綺麗に見えるのだろう
イムヤ「知ってる?ほら、夕焼け」
海に沈む夕焼けをイムヤさんが指す
イムヤ「この時間はさ、逢う魔が時って言って、妖怪や幽霊みたいな悪いモノが出るんだって」
春雨「え…?なんですか?それ…」
イムヤ「…春雨を深海に連れて行かれるんじゃないかなって」
春雨「……だから守りに来た?…冗談でしょう」
私はなんの役にも立たない愚図だ、捨て置いてくれていいのに…
イムヤ「…そういえばさ、私は何回か深海棲艦で…死んだり生き返ったり繰り返してるけどさ」
春雨「…そうですね…」
両肩を掴まれ、顔を近づけられる
イムヤ「……そういう悪いモノに一番近い存在だと思わない?」
春雨「っ〜!?!?」
イムヤ「あはははっ!そんなに驚く?あははっ!おもしろ!」
春雨「あ、あなた…!本当に…!!」
イムヤ「…悩み、吹っ飛んだ?」
春雨「……う…」
一瞬、忘れてしまった…このバカげた一瞬の出来事のせいで…私の罪を
イムヤ「あのさ、春雨…大丈夫、綾波は記憶を失ってて、アメリカ連中に監視されて…そんな理不尽な中で少し疲れちゃったんだよ、八つ当たりの一つもしたいんだよ、だからさ…ね?」
やれる事をやるべきだ
私ができるのは、延命くらいだとしても…
イムヤ「春雨、今は項垂れる時じゃないんだよ」
ぐいっと顔を持ち上げられる
夕焼けに目を細める
イムヤ「前を見よう?ね?」
イムヤさんが立ち上がり、私の隣にくる
イムヤ「…人は死ぬよ!みーんな、死ぬ…少なくとも2回生き返ってる私が言うと説得力ないけどさ!」
イムヤさんは、私に向いて、ニッと笑い…
イムヤ「でも、でもさ、生きて死ぬ人生、楽しくないと損でしょ?綾波は今底の底の底に居る!なら私達がやるべきことは…綾波を生きててよかったと思わせる事!」
春雨「…生きてて、良かった…」
イムヤさんが背中から海に落ちる
春雨「あ…」
イムヤ「ねっ」
派手に、大きく音を立て、私の服を濡らして海に落ちていった…
…なんとも迷惑な人だ、本当に…
そろそろ日が沈む、帰らなくては…やるべき事をやらないと
肩をトントンと叩かれる
振り返り、頬にぐにゅっと人差し指が突き刺さる
春雨「……え?」
イムヤ「やっ」
春雨「……」
首を戻し、海を見る…そしてもう一度振り返る
イムヤ「どうしたの?春雨」
春雨「……あ、れ、濡れてない…?」
あんなに派手に濡れた服が、濡れてない…
イムヤ「春雨?」
イムヤさんも、濡れていない…
春雨「……あの、イムヤさん?」
イムヤ「ん?」
春雨「逢う魔が時って知ってます?」
イムヤ「え?」
春雨「……なんでもありません」
…今日はなんだか寒いな…
イムヤ(逢う魔が時なんて、春雨はホラーとか好きなのかな…それともあの映画見たのかな…あ、今度一緒に映画……ってそうじゃなくて…)
イムヤ「あ、あれ!?春雨!春雨ー!?せっかく励ましに来たのに…」
アヤナミ「……なんの用ですか」
春雨「とりあえず、点滴をうたせて下さい」
アヤナミ「ちょっ…そんな勝手に…!」
無理矢理、点滴を打つ
春雨「…私に、貴方の時間を作らせてください…」
アヤナミ「……あなたは既に失敗してます」
春雨「わかってます、だから、ええと…!」
とにかく、必死に言葉を紡ごうとする
アヤナミ「……次は失敗しないでください」
春雨「…え?」
自分がどんなに間抜けな顔をしているのか、想像もできない…そしてそれが何度目なのかも
アヤナミ「…どのみち、ここにお医者様はあなただけなんですよね…?私が少しでも生きるためには…あなたを頼るしかない…だから…」
…どうして、こうなのか…
この人はどうして…
求めたのは私だ、チャンスを求める私に応えてくれた…
春雨「…私ができる全てを、あなたに」
今度は私が応える番だ
医務室
春日丸「…私にできることはありますか?」
春雨「春日丸さん…?」
春日丸「アヤナミ様のために、何かできることはありますか?」
春雨「……では、薬品の在庫を確認している間この部屋を見張っていてくれませんか?」
春日丸「え?」
春雨「綾波さんの命を狙う輩が何をするか、分かりませんからね……あと、注射器の数を確認しておいてください、少しでも濡れていたり、おかしなところがあればとにかく教えてください」
春日丸「わかりました」
…私にできるのはただの延命処置
だけど…
春雨(……今は不可能ですが、腫瘍のように手術で取り除いて終わることではありませんが…決めました、綾波さんをできる限り永く生かす…と)
執務室
秘書艦 アケボノ
提督がThe・Worldにログインしてから一時間程、だいたい毎日3時間、最近は作業が終わるのが早くなったから少しずつプレイ時間が延びつつある
その間、私はただ秘書艦として、護衛としてここにいる
そう、ただの護衛として
だからこうやって侵入者を締め上げることは仕方のないことだ
アケボノ「ご理解いただけますよね?サミュエル・B・ロバーツさん…盗聴器、それから監視カメラ…これをここにつけようとしているなんて、まさかスパイ行為を働くつもりですか?」
サミュエル「は、離して…!痛い…!」
アケボノ「私はあなたを殺してもいい、だってあなた達はアメリカから見捨てられ、日本ではなく提督が受け入れただけの存在、ただの賠償艦、人権なんてないんですよ」
肩を踏みつけ、右手を変な方向にへし曲げる
きっと折れそうな程痛いのだろう、後悔するほどの痛みを感じているのだろう
アケボノ「とりあえず、脱臼で済ませてあげます…階段から落ちたことにでもしておくといい」
サミュエル「あっ…待っ…」
叫び声を消すためにカーペットに顔面を押し付ける
アケボノ「提督の邪魔になるでしょう…静かにしてください……っ」
ソファの裏に引き摺り込む
海斗「…あれ?……気の所為かな、ごめん、なんでもないよ」
アケボノ(…危なかった、提督に見られたらやめるように仰るだろう、だけどそれではいけない、もし提督を狙っていたのなら…)
アケボノ「…おや、締めすぎてしまったか」
失神したサミュエルを医務室へと運ぶ
道中、サミュエルを囮にしたアトランタも捕まえて連行する事にした
春雨「…あの、私すごく忙しいんですけど」
アケボノ「脱臼だけです、それでは」
春雨「ちょっ…」
サミュエルを置いていき、アトランタを連れ回す
アトランタ「…なんのつもり?さっさと解放してくれない?」
そう言いながらも、目には怯え…
痛覚が、恐怖が教えているのだろう…逆らうなと
アケボノ「……私は、あなた達が邪魔で仕方ない、提督はお優しい、だからあなたたちに手を出すなと仰る…私は提督の前ではあなた達をどうにもしません、というか何もしなければ何もしません」
言いたいことはわかってるはずだ、大使館でコイツらは隠しカメラや盗聴器、それだけじゃないたくさんの何かを受け取っている
そしてそれを秘匿している
アトランタ「だから、何」
アケボノ「あなたを見世物にしてもいいなと思いまして…見せしめにして、無理矢理作戦を失敗させようかと」
アトランタ「…アンタみたいな奴のこと言うんだろうね、下衆って」
アケボノ「ええ、そうですよ?さて、選んでください…あなたが痛い目にあう前に隠してるモノ全部出すか、痛い目にあって他の人に出してもらうか」
アトランタ「……」
アケボノ「私は不器用なモノでね、提督や…ここにいる仲間を守る手段が他に思いつきませんでした…あなた達のせいで、安心して眠ることさえできない」
64、大使館から戻って以降定期的に確認した結果、64の盗聴器が発見された、隠しカメラはまだ使わせていない…はずだ
部屋を調べても何も出てこない、土に埋めたかどこに隠したか…
とにかく、このまま捨て置くつもりは毛頭ない
アケボノ「あなた達がアメリカとのつながりを…祖国との関係を断ち切るなら、私も態度を変えたのに」
アトランタ「…ハッ…どうだかね、アンタみたいなやつがさ、優しくなったところで気持ち悪いだけだよ」
アケボノ「……」
振り上げた拳を、止められ、振り返る
潮「アケボノちゃん、提督が探してたよ?」
アケボノ「潮…漣も…」
漣「そう言うことなんで、ほいじゃ」
アトランタ「……」
漣「…ボーノさ、最近良くないよ、ね?わかってるでしょ?自分で」
アケボノ「…提督が探していたと言うのは?」
嘘なのは知ってる、提督は大体18時前後まではログアウトしない…摩耶さんの家の食事の時間、らしい…
潮「…私達、知ってるから…知ってるけど、見て見ぬ振りは…できないから…」
アケボノ「止めないで、アイツらが情報流しまくってるせいで何が起きるか…」
漣「わからないけど、まだ何も起きてないよ」
そうだ、まだ…何も起きてはいない
だけど…
潮「…アケボノちゃんがみんなを守りたいのはわかってるけど、そんなやり方、提督は喜ばないよ…?」
アケボノ「だったら、どうしろって言うのよ…」
漣「堂々としてればいいんだよ、目の前で盗聴器ぶっ潰して、無駄でしたねって」
アケボノ「…それじゃ根本的な解決には…」
漣「ね、ボーノ…曙って漢字書ける?」
メモとボールペンを渡される
自分の名前だ、それは当然書ける…[曙]と書いて渡す
漣「うん、よく見て…ほら、真ん中に土、これが大地ね?」
アケボノ「何、何が始まったのよ」
漣「いいから!ほら、日が三つあって、土の周りを回るような漢字でしょ?太陽が登ってるみたいじゃん」
アケボノ「…うん、それで?」
漣「太陽は何度だって登る、ボーノはさ、何度も登る太陽なんだよ、太陽は雲に隠れることもあるけど…ずっと曇りじゃない、そろそろ晴れてほしいな…って」
アケボノ「……漣」
漣「ホントはキタカミサマに曙って字の成り立ちを聞いたんだけど忘れちゃったからさ!でまかせなんだけど!」
漣が笑いながら続ける
漣「太陽、お天道様なんだから、ね?」
アケボノ「お日様、か…」
潮「…あ、あと…ホントは曙って日と署でできてて、署の方が焚き火の意味、つまり太陽が焚き火のように赤々と…」
漣「ウッシーオ…覚えてたんなら先に言ってよ…」
アケボノ「…私は、漣の言ってた方が好き」
漣「ボーノ…!アイラービュー!…あら?」
抱きつきにきた漣をかわし、潮の肩に手を置く
アケボノ「でも、曙の一番上にあるのは日じゃないから覚えておきなさい」
漣「ボーノ…厳しい…」
アケボノ「太陽、太陽か……」
私には、少し荷が重いだろう
でも、そうだ…私にも太陽がある
アケボノ「私は太陽にはなれない」
潮「え?」
アケボノ「だって私の太陽は提督だから、でも漣は教えてくれた、太陽は何度だって登るって…太陽はいつだって私を照らしてくれる、灯りを分けてくれる」
漣「うん?」
アケボノ「…私はそれを見上げるだけでいい、明るい世界に居られるだけでいい…それなら私は信じられるから…私は、ただ堂々と空を見上げられるから」
潮「…これは、どうなったのかな…」
漣「…ま、どうでもいいんじゃないですかね、本人が満足げだし…」
アケボノ「…だめだった?私なりの…落とし所なんだけど」
漣「んーや!ボーノらしいなって!」
潮「うん、アケボノちゃんらしくて、私は好きだよ」
漣「んまっ!告白なんてウッシーオったら大胆…!」
アケボノ「……そうね、じゃあ潮、行きましょう」
潮の手を取り廊下を歩く
潮「ひゃっ」
漣「え?漣は置いてけぼりですかな?」
アケボノ「アンタが言ったんでしょうが、私達デートだからついてこないでよ?」
漣「オーマイガッ…え?マジ?」
潮(…アケボノちゃん、ちょっと余裕が戻ってきたみたいで良かった…)
アケボノ(晩御飯、カレー食べさせてもらえるかなぁ…満潮さんと如月さんにカレー禁止にされたし…)
漣(あの2人の見つめ合う雰囲気…ガチ!?これはガチなのか…?ウッシーオの目は…完全にボーノを…!……コ、コレは、事件なのでは…?うーん…いや、でも…うーん…)
アケボノ「何してんのよ、ほら、さっさと晩御飯食べに行くわよ」
潮「行こ、漣ちゃん」
漣「おっひょー!待ってましたー!!よかった!」