元勇者提督 作:無し
The・World R:1
重槍士 青葉
青葉「…ホームのキー…たしかホームっていうのはR:1にある、個人ユーザーが使えるお家…」
要するに、自分専用のプライベートスペースがもらえるという事…
位置はマク・アヌの奥、決してゲームに役立つ訳では無いため、完全にそういうロールを楽しむ為のスペース…
青葉「ここ、か…」
かちゃり、鍵が空いた音と共に扉が開く
青葉「…?あ、あれ?」
中に、誰かいる…
青葉「ま、間違えました!!」
ばたん、とドアを閉じ、頭の中で整理する
おかしいだろう、この鍵を使えば自分の部屋にアクセスできる筈だ、なんで他の人の部屋に?まさか共用ホームなんてシステムがあったのか…?
R:1のことは記事を書いて、色んな人の思い出話を聞いて、そうやって情報を集めている
でも、ホームは共用なんて…聞いた事ないけど
目の前の扉が開く
アルビレオ「……あの」
青葉「あ、ひゃい!?」
…アルビレオさん…間違いなく、渡会さん…佐世保の司令官
アルビレオ「どうやって開けた?」
青葉「え、ええと…さ、さっき!ボスモンスターから出た宝箱で…ホームキーをもらって…その、使ったら…」
アルビレオ「……バグか?…災難だな、それじゃあ…あ、おい!」
アルビレオさんの脇をすり抜けて小さな女の子が出てくる
そして、私に手を伸ばし、じっと見られる
青葉「ほぇ?……え?」
つい、凝視してしまった…
燃えるように赤いケープに身を包んだ女の子
これが、ゲームの中のグラフィックなのか?と思うほど繊細なデザイン…
アルビレオ「…見える、のか…?」
青葉「へ?…あ、この子の事…?」
アルビレオ「……入ってくれ」
青葉「え?でも…」
アルビレオ「聞きたいことがある」
結局押し切られ、部屋の中に…押し切られて引き摺り込まれるというのも妙なものだが
アルビレオ「…このNPCについて知ってることを教えてくれ」
青葉「…は、はい?知ってる事?」
アルビレオ「他の誰にも、このキャラクターは見えてない、だけどあんたには見えている、何か知らないか」
青葉「え?他の人見えてないんですか?」
見れば見るほど異端だ
ボブヘアの、顎の線で揃えたプラチナブランドの髪に赤色のメッシュ、透けるように白い肌、燃えるように赤いケープ
でも、1番目を引くのは裸足なこと
この世界に裸足のエディットなんてないはず…
あと、ずっと目を瞑ってるのはなぜだろう…
アルビレオ「ああ、基本的には誰も見えてない、はずだ…そこの奴以外は」
アルビレオさんが奥に視線をやる
ほくと「うーん、やっぱりこっちの家具の方がいいかなぁ…」
白を基調にしたエルフの女の子の魔法使いといったイメージか
ターゲットして名前を確認する[ほくと]…北斗七星…
青葉「…あの方は?」
アルビレオ「…泣き落とされた」
青葉「はぁ…?」
アルビレオ「…いや、そこはいいか、とにかくパーティーを組んでいるんだが、パーティーを組んでいる相手だと見えるらしい」
青葉「な、なるほど…ところで、その…」
入ってきた時に思ったが、インテリアがめちゃくちゃだった、シンプルなテーブルや飾り棚に合わないピンクなカーペットやカーテン、独特なセンスだと思っていたが…
気がつけば、テーブルやソファもそのピンクに染まりつつある
まあ、要するに…あのほくとさんという人がこの部屋を侵食していると言うことか…
ドンドン!ドンドン!
せわしなくホームのドアをノックされる
アルビレオ「またか……?」
うんざりした様子で立ち上がり、アルビレオさんがドアノブに手をかける
私も立ち上がり、様子を伺う
オルカ「やあ!」
アルビレオ「あ……さっきの?」
オルカ「そっ!一緒にボス殴ってた……悪ぃね、いきなり訪ねてきて」
そうだ、この人私の隣でボスを攻撃していた人だ…!
オルカ「さっきショップの前にいるのを見かけたもんで」
アルビレオ「後をつけて、この部屋の場所を?」
オルカ「ちょっと悩んだけど……やっぱり声をかける事にした、気に障ったらごめんな!」
青葉(…ロールプレイ…)
この人の言動の端々から此方に不快感を与えないように気遣う丁寧さを感じる、フランクな喋り方はロールプレイ
アルビレオ「……いや、まったく、そういうのもありだ」
オルカ「よかった!安心安心」
アルビレオ「女の子をしつこくストーカーして、ハラスメント行為でアカウント停止になった奴もいたから、そのへんは気をつけたほうがいいが」
オルカ「ははは!」
ふと画面の端を見るとパーティーの申請がアルビレオさんから来ていた
とりあえずそれを承認する、画面端のテキストのところに
アルビレオ[悪いんだけど、この子についての話は後になりそう]
青葉[あ、大丈夫です!]
アルビレオ「メンバーアドレスを?」
気づけば向こうではメンバーアドレスを交換しないかというやりとりになっていた
オルカ「そっ!おれたちとパーティーを組まない?」
アルビレオ「またか」
オルカ「え?」
アルビレオ「…いや、こっちの話」
察するに、ほくとさんはアルビレオさんに泣きついてパーティーを組んでいるのだろうか
オルカ「さっきの、君の戦いっぷりを見て、感動した、ぜひとも仲間に誘いたいと思った」
アルビレオ「おれは誰ともアドレスは交換しない、そういうプレイスタイルだ、悪いけどほかをあたってくれ」
オルカ「そのコは?」
アルビレオ(リコリスが見えているのか…?)
ほくと「やっほ〜!なになに、なんの話?」
アルビレオ(違ったか)
アルビレオ「…こいつは特別で……とにかく、おれはソロで、パーティーは組まない主義だから」
オルカ「パーティー組んでる設定になってるようだけど」
アルビレオ(……)
アルビレオさんの渋い顔が背面からでも見えるようだった
自分の言葉を一瞬で否定する証拠が続々と出てくるのだから
ほくと「なになに、なにしゃべってんの?こっち聞こえないんだけど?」
声の高さや言動、何よりインテリアのセンスから中学生くらいなのか、人の話になんの躊躇いもなく入っていくのはやめた方がいいと思うけど…
アルビレオ「ところで、オルカさん」
オルカ「さんづけは、こそばゆいな……オルカでいい!」
アルビレオ「ではオルカ…さっき、おれたち、と言ったけど?」
オルカ「ああ!相棒がいる」
オルカさんが横を向いてモーションで手招きをした
バルムンク「ソロだというなら、無理に誘うこともなかろう」
おっくうそうな声と共に別の剣士が出てくる
そうだ、もう1人の一緒にボスを殴ってた…
オルカ「こいつ、バルムンク!いちおー、わが相棒ね」
白銀のプレートアーマーの輝きが映える、野生的なオルカさんとは対照的な、凛々しい聖騎士ふうのデザイン…装備してる武器は細身の片手剣…
青葉「……あのグリップ…なんて剣だっけ…」
知ってる、当時をプレイしていない私が知ってるくらい有名なレアアイテムだ…
それに、バルムンクという名前は由緒ある名前、ファンタジーRPGではギリシア、ケルト、北欧神話、叙事詩に基づいた名前は人気がある。
バルムンクと言えば、ゲルマン神話の英雄ジークフリートの剣の名前…。
そういう人気の名前をつけられるのは古株である証…
アルビレオ「ふたりパーティで最後のひとりを探してるわけ?」
オルカ「そう!なかなかレベルが釣り合うやつがいなくてね…わが相棒のおめがねにかなうような、人間の質も高いプレイヤーが」
バルムンク「The・Worldでのソロプレイは珍しい」
そうだ、このゲームはパーティを組んでも経験値は分配されない、1人でも3人でも、一人あたりのもらえる経験値は同じ…
このゲームはパーティ推奨のゲーム…メリットはアイテムを独占できることくらい
オルカ「バルムンクもおれと組む前はソロだったよな?」
アルビレオ「ほう..ソロで、そこまでレベルを上げたの?」
バルムンク「……最初のころと、最近、オルカと組んだ分以外は」
アルビレオ「すごいね」
バルムンク「そうだろうか?ソロプレイなら、だめな仲間をあてにして、仲間のへまのために死ぬことはない」
青葉(…キツイ言い方…)
だけど的外れじゃない、突出した強者になる程、独りになる
キタカミさん、アケボノさん、綾波さんのように…
アルビレオ「3人でパーティを組んだとして、どうするつもりだ……オルカ?きみなら、2人でも攻略できないエリアはままずないだろう」
オルカ「それが、あるからさ……アルビレオ」
アルビレオ「ん?」
バルムンク「"ザワン・シン"」
青葉「ザワン・シン…?」
聞いたことはあるような…気がする
オルカさんとバルムンクさんを部屋に招き入れ、改めて話をすることになった
オルカ「おっ、そうだった、おれたちはあんたも気になってたんだよ」
バルムンク「…ダブルMVPは、見たことがなかったからな」
青葉「あ、あはは…恐縮です…」
アルビレオ「…きみも、MVPだったの…?」
青葉「はい…ええと、ホームキーをもらって…使ったら、ここが…」
オルカ「あれ?そっちはお仲間ってわけじゃなかったの?」
青葉「…ええと…」
アルビレオ「ついさっき会ったばかりだ」
オルカ「へぇ…てっきり、このずいぶんとかわいいホームは…すごく意外だ」
アルビレオ「間違っても、おれの趣味じゃない」
ほくと「わたしがコーディネートしたの!」
バルムンク「目が痛い」
パーティーチャットでアルビレオさんが呟く
アルビレオ[リコリスのことは、この2人には言わないでくれ]
ほくと「なんでー?」
青葉(…この人、初心者だ…パーティーチャットを読んで全体チャットで返してる…!)
人によっては常識のない行為とも捉えられる…
オルカ「……なにが?」
バルムンクさんがアルビレオさんを注視する、明らかにないしょ話がバレている…
アルビレオ[返事はしなくていいから黙って聞いてくれ、しばらく、お口にチャックしてろ、リコリスのイベントは…つまり、誰にも知られず、おれたちだけでクリアしたい]
青葉(おれ、たち…?私は、関係ないよね…?でもそれならウィスパーを使うはず…)
ほくと「りょーかい!」
オルカ「……なに?了解って?」
オルカさんの声に怪訝な雰囲気が含まれる
なんというか、アルビレオさんには同情するしかない…
しかし、"リコリスのイベント"…あの女の子はリコリスという名前なのだろう、だとしたら…"ヒガンバナ"…
青葉(判断しかねてだけど、このアルビレオさんは過去の世界のアルビレオさんだ…きっと、すごく大事な記憶だ…)
渡会さんの名刺には全て手描きのヒガンバナが描かれている
それ程思い入れがあるんだ…私が深く関わるのは良くないだろう…
アルビレオ「ザワン・シンだったな、オルカ」
オルカ「そう」
アルビレオ「The・Worldでも最高難易度と名高いイベントだ」
オルカ「最高難易度というより、最近じゃ、攻略不能とまで悪評が立っている…たとえイベントエリアに行っても、なみの中級パーティじゃザコも倒せず全滅、最高レベルまで上げた現行バージョンの最強装備を揃えた3人パーティでも、ボスには勝てないと……」
そんなにヤバい代物だったのか…
ザワン・シンについて私の記事への書き込みから探る
アルビレオ「うわさだな」
オルカ「アルビレオはザワン・シンのワードを?」
アルビレオ「エリアは"病める 囚われの 堕天使"……だったか、行ったことはある、攻略を目指したことはないが…」
オルカ「ソロでは……無理だろうな」
アルビレオ「そういうことだ」
自分が死んだら誰も蘇生できない、ソロでの攻略難易度は跳ね上がる…
オルカ「でも、ザワン・シンは決して攻略不能じゃない」
アルビレオ「なぜそう思う?」
バルムンク「クリアできないイベントが存在すれば、それはバグだ、まともなゲームではない」
オルカ「……少なくともいいゲームではないと思うんだ、おれたち……The・Worldはいいゲームだと信じてるから」
アルビレオ「だから、攻略できると?」
オルカ「そう!この"世界"を信じたい!」
アルビレオ「The・Worldがすきなんだな」
オルカ「もちろん、アルビレオだって、だからそこまでキャラクターを育てて愛着が持てるんだろ?」
アルビレオ「その通りだと思うよ」
バルムンク「アルビレオ」
バルムンクさんが言いづらそうに口を開く
バルムンク「おれたちは……たいていの武器はグラフィックを見れば名前がわかるんだが」
アルビレオ「この槍か…」
青葉(……それは、私も気になっていた、神槍ヴォータンは私の手にある…なら、あれは?)
オルカ「どこで手に入れたんだ?やっぱり、イベントの賞品かなにか?槍の名前は?」
オルカさんがワクワクした様子で尋ねる
アルビレオ「秘密だ」
バルムンク「なぜ?」
アルビレオ「教えられない、教えたくない」
ば「不正規な…データ改造アイテムではないだろうな?」
オルカ「バルムンク……!いきなりそれは失礼すぎる!」
アルビレオ「いや…言葉を濁したこっちが悪かった、誤解を受けても仕方ない」
バルムンク「…すまない…アルビレオ」
アルビレオ「……神槍ヴォータンだ」
青葉「え?」
バルムンク「ニーベルングの指環にある神の槍か」
アルビレオ「詳しいな…まあ、きみなら知っていてもおかしくない」
オルカ「どういうこと?」
青葉「ニーベルングの指環は…北欧神話や中世ドイツの叙事詩、ニーベルンゲンの歌を基にしてるんです、英雄ジークフリートと、その剣バルムンクのお話…」
バルムンク「ワーグナーの歌劇をあえて神対人の構図で解釈すれば、ヴォータンの槍は神の秩序を貫くもの、契約と権威のシンボルとして扱われている」
青葉(契約と、権威のシンボル…)
私のヴォータンに目を向ける
オルカ「なんか……ほんとに悪ぃ!無理に聞き出したみたいで」
アルビレオ「いや、君達には誤解されたままでいたくないと思った…そうだな、だから少し教える、この槍はフラグメント時代のものだ」
オルカ「β版の!?アルビレオはテストプレイヤーだったのか?」
アルビレオ「…ああ」
オルカ「すげぇ!すげぇ…なあ、バルムンク!バルムンクもそうだったんだ!」
…確か、The・Worldのテストプレイヤーは1024人しか公募されなくて、倍率は相当高かったはず…
アルビレオ「この槍は今のThe・Worldでは入手できない、だからあんまり話したくなかった」
オルカ「そっかぁ…フラグメント時代のレアとなれば欲しがるやつは大勢いるよなぁ…その槍、かっのいいし!」
アルビレオ「手放すつもりは毛頭ない、一々トレード断るのうざいだろ?」
オルカ「これ!すごーくよくわかる!」
青葉(……私の槍と、同じ名前で…全然違うヴォータン…)
頭を悩ませる、もし私に聞かれたらどうする…?
オルカ「それでアルビレオ…」
アルビレオ「悪いが、パーティは無理だ…今は別のイベントを進めているんだ、悪いな」
オルカ「しかたないな、すげー残念だけど」
アルビレオ「The・Worldでいつか組んだみたいと思ったプレイヤーは君らが初めてだ」
オルカ「…うれしいよ!…あ、そうだ、君は?」
青葉「…私も、遠慮しておきます」
オルカ「いやー、残念だな…あんなにアイテムとスキルの組み合わせが上手いプレイヤーは初めて見たのに…」
青葉(…私、上手いのかな…そんなことないと思う、けど…)
オルカ「…よし!明日、朝9時からザワン・シンに挑む!」
雄々しく、そう宣言する剣士は背景も気にさせないほどには絵になった
つい、パシャリとシャッターを切ってしまったが、特に怒る様子もなく2人は出て行った
アルビレオ「……随分と待たせた、ええと、ごめん」
青葉「ああ、いえ…」
アルビレオ「それで…この子の…リコリスの事なんだが…」
青葉「私には何も、わかりません」
アルビレオ「そうか」
……個人的に興味が湧いた
ただ、見届けてみたいと思った、だから私は、このイベントを取材してみようと思った
純粋に興味を持って、取材したいと思って取材する…
初めての事だ、だから、こんなに心がワクワクする…