元勇者提督 作:無し
Link基地 地下プール
綾波
綾波「さて、ガングートさんの矯正を始めましょうか」
ガングート「…矯正?どういう事だ?」
綾波「今から、貴方と私の1対1で勝負します、私は…」
革手袋を装着する
綾波「この手以外使いません」
ガングート「…なんだと?」
綾波「ガングートさんが私に蹴りを使わせれば勝ちで良いでしょう、私を倒すことは不可能ですから…タシュケントさんから聞きました、私と川内さんの勝負を見ても全く恐怖する様子もなかったと」
ビスマルクさんは即座に艦娘になる道を閉ざしたのに
綾波「はっきり言って異常です」
ガングート「私に恐怖しろと?」
綾波「いいえ、死んでください」
平手をガングートさんに叩き込む
脳が揺れたガングートさんはバランスを失い、膝を突き、次に手をつく
ガングート「なん…なにが…?」
綾波「立ちなさい、もう始まっていますよ」
顎に手をやり、ガングートさんの顔を持ち上げる
綾波「簡単には、気絶させません」
ガングート「…これの意味は…!」
綾波「自分で見出しなさい」
ガングートさんがよろよろと立ち上がり、後進する
主砲を構え、私に照準を合わせる
綾波(地下室の電磁バリアは…よし、これで問題ない…)
綾波「さあ、遊びましょう?」
ガングート「ッ!!」
砲撃の為に引き金を引く瞬間、ガングートさんは歯を食いしばる
綾波(さて、見計らうか)
ガングートさんの砲弾の的中率は56%有効な砲撃である確率72%
外れる際にブレる確率、右に67%上が12%下が18%左が3%
左に一歩、歩いてかわす
ガングート「…!」
綾波「どうです?当たりそうですか?」
驚いた時、2度瞬きをする
気合を入れる時、気を引き締める時、瞬きより少し長く目を瞑る
ガングート「…くそっ!!」
綾波(そう、今だ)
ガングートさんが目を閉じる瞬間を待っていた
視界の外に一度消えて仕舞えば、驚いたガングートさんは2度瞬きをする
ガングート「き、消えた!?」
この2度の瞬きの間に、目の前に現れ…
綾波「さあ、いきますよ…!」
拳を握り、殴る
ガングート「ぁが…!」
一撃いれたら離れる
綾波「さあ、もう一度」
ガングート「この、ふざけて…」
生意気な言葉を吐くと言うのなら、プールの水を手で掬い、目に向けて飛ばす
ガングート「なっ!?」
綾波「御託は、いらないんですよ」
平手で頬を打つ
綾波「強くなりたいんでしょう?」
手を戻す軌道で首を殴りつける
ガングート「ぐ…ぁ…!?な、なんだと…?」
綾波「強くなるか、死ぬか、二つに一つです」
ガングート「矯正はどこに行った…!」
綾波「強くなれば自然と治りますよ」
眉間に手刀を叩き込む
ガングート「くそっ!!こんな事になんの意味がある!!」
綾波「見いだせ、と言いましたよね?」
口を開く度、殴りつける、叩く、徹底的に叩き、殴り、教え込む…痛みを
ガングート「ぐ…ぁ…!」
綾波「へばるには早いですよ?戦艦なんだからもう少し…やる気見せなさい」
ガングート「言われなくとも…やってやる…!!」
ガングートさんが砲を向ける度、私はそれをすり抜け接近し、徹底的に殴打する
顔の形が変わることはないだろう、力を入れて攻撃しているわけじゃない、角度、速さ、力加減、全てが適切だ
この暴力は計算されている、痕は残らない、後遺症も何も、無い
この時間はただただ苦痛が続くだけだ、ストレスでおかしくなるか、理解するまで
心が折れれば、変われる
普通はそうだ、大きい心境の変化で解決できると思っていたのだが…
ガングート「…ま、負けだ…もう、やめてくれ…!」
綾波「なんでですか?」
ガングート「もう無理だ!頼む、やめてくれ!」
綾波(まだ恐怖心が芽生えてないのに心が折れている…懸念していた事態が起きてしまったか)
綾波「無理じゃありませんよ、あなたはまだ生きてるじゃないですか、死ぬまで続けますよ」
ガングート「そ、そんな…」
綾波「立ちなさい、立って私と向かい合いなさい…徹底的に壊してあげます」
ガングート「やめてくれ…!無理だ!弾は当たらない、近寄られても抵抗する隙もない…!」
綾波「死んでも良いんですね?」
ガングート「……」
ガングートさんが項垂れ、水面を見る
もうその目には開始時の闘志はカケラもない
これでは、何にもならない
となると…実験を進める為にサブプランを使うしかない
綾波「あなたの祖国の艦娘の死亡率は世界でトップです」
ガングート「…なに?」
綾波「そして、あなたがそれを維持するのに一役買うわけだ、なんともちんけな世界一位か」
ガングート「き、貴様…!」
綾波(なるほどな、根底が見えた…だけど、これは私の…私に解決できる問題なのか)
掴み掛かろうと近寄ってくるガングートさんはとてもゆっくりで、千の思考を巡らすことすらできた
しかし…真に彼女の為になることが導き出せない
手を、一度振るった
ガングート「…っ…」
綾波「その傷は、私の覚悟です…今までの生半可なお遊びとは違う」
ガングートさんの左目の下から血が流れる
頬を伝い、ぽたりぽたりと水面に血が滲む
綾波「…何が祖国か、何が国か、そんな大きな物でしか自分を形容できないのですか?貴方は矮小な人間だ…何故国を語る、何故烏合の衆を声高に、誇らしげに語る!!」
ガングート「…烏合の衆だと…!?ふざけるな!祖国を馬鹿にするのも大概にしろ!!」
綾波「馬鹿にする?いつ私が馬鹿にしたと言うのですか!勘違いするな、馬鹿にされているのは貴方1人だ、ガングート!貴方ただ1人を非難し、否定し、糾弾している!」
ガングート「なんだと…?」
綾波「貴方はロシアを背負っているつもりですか?その小さな小さな体で?その弱く、か細い腕で、狭く、人1人背負うのがやっとな背中でロシアという国を、そこに住む人間を背負ったつもりか?驕り高ぶりも大概にしろ!」
ガングート「……っ」
綾波「貴方はこう考えている、自分の命がロシアのために使われるのなら有意義だ…と、ロシアの艦娘の養成システムに組み込まれているのは知っていましたが、まさかそうまで信じ込んでいるとは笑い物だ…!」
タシュケントさんは、そこまで深く信じ込んでいなかった
だから軽視していたがタシュケントさんが特別なのだ
ロシアの艦娘の死亡率の高さはこれが原因だ
綾波「あなたはお荷物だ、邪魔だ、弱く惨めなあなたでは川内さんに勝つどころかいつかその辺の深海棲艦に倒される、味方を何人も巻き添えにして…!」
ガングート「…貴様…!」
綾波「事実です、何れそうなる、あなたはみんなを巻き込んで死ぬ…だから、せめてもの酬いです…私がここで殺します」
ガングート「…何…」
綾波「あなたのせいで私は部下を失いたくはない、処分します」
脚部艤装に手を触れ、起動する
空気を吸い込む音が木霊する
ガングート「な…だったらLinkから除名すれば良いだろう!?」
綾波「…関係ありません、私の部下は私が始末します」
ガングート「やめ…!」
ぐおん
空間が歪む音ともにガングートさんが水面に吸い込まれる
綾波「……まだ、わかりませんか…」
頬を涙が伝う
綾波「これが、死の恐怖です…これでも、理解できませんか…だとしたら…」
茫然としたまま、水面に横たわるガングートさんを見下ろす
綾波「私は本当に、あなたを殺すしかなくなる…Linkの事をあなたは知り過ぎているから…」
ガングート「………私、は…」
ぽつり、と…
ガングート「…これが、恐怖なのか、わからない…必死だった、ただ、逃げようと、かわそうと…それすらも、できなくなる…これが…」
綾波「…それが、恐怖です…」
ようやく、紐付けが終わった…
これで、第一段階が終わったところだ…
ガングート「…これが、恐怖…なのか」
ガングートさんには危機管理能力がない
危険を察知できないし、迫る危険を防げない
艦隊のメンバーとして型にハマった動きをする事でその能力が有るように見えるだけで…実際には欠落しているし存在しない
だからまず、恐怖を抑え、本能を呼び覚ます必要に迫られていた
と言っても、グラーフさんほどの問題ではなかったため二の次になったのだが
綾波「…常勝の将は居ません、居たとしても小さい敗北が計上されていないだけ、その小さい敗北も…あと少し戦えば敵を倒して勝てたかもしれないし、逆に自分たちを苦しめ、全滅していたかもしれない…」
ガングートさんに手を差し伸べる
綾波「ガングートさん、あなたには酷かもしれませんが、国は捨ててください…少なくとも、あなたは国によって殺されかけている」
ガングート「……」
ガングートさんは何も言わずに手を取り、起き上がる
ガングート「…国を捨てろ、か…国に殺されかけている、か…わからん、私には全くわからん話だ…何も、考えられない」
綾波「…強い恐怖に晒され、思考回路が働いていないんです…落ち着いてからゆっくり考えてください」
プールから上がったガングートさんは狭霧の支えでなんとか歩き、地下を後にした
綾波「……目の下の傷…普通には消せないな…」
革手袋を装着していたのに、つい加減を忘れてしまった…
爪先が裂いた数センチ程の小さな傷だが、女性の顔に傷をつけたというのは問題だ
綾波(傷痕は消そう、悪い事をしてしまった…ガングートさんには難しい問題を投げかけているのに私は何もしていない…)
少し、憂鬱だった
綾波「…おや」
3人分の話し声が聞こえて来る
タシュケント「それでそんなところに絆創膏を?てっきり朧の真似かと思ったけど」
ガングート「ああ、そういえば朧はいつも絆創膏をしているが…なんでだ?」
朧「アタシは…ちょっと大きい傷跡が…」
ガングート「それはすまん、無理に言わせたな…悪かった」
朧「別に良いけど…ガングートさん、綾波に頼めば傷は消してもらえるんじゃない?」
ガングート「…いや、これは残そうと思う、傷跡が私に教えてくれると思うんだ、恐怖を…」
タシュケント「…綾波も無茶なやり方をしたよね、でもガングート、君が自分の命を認識してくれて嬉しいよ」
綾波(この口ぶり、タシュケントさんはガングートさんの欠点を…いや、ロシアの艦娘の欠点を知っていたのか…)
ガングート「…ああ、自分の命か…言われてもなんとなくピンとこないが…私は、今生きているのだな…死んでいないということだけで、十分すぎる…どうか他の仲間にも伝えてやりたいが…言葉では理解できるものではないな、これは」
綾波(…それがわかったのなら、ようやく始まり、か)
演習場
ガングート「な、なんだ?もう前みたいなのは無しで頼むぞ?」
綾波「ええ、これから理論で進めていきます」
ガングート「り、理論…?」
綾波「タシュケントさんとの戦いで見せた反転、アレは決して有効ではありませんが…」
ガングート(有効じゃないのか…!?)
綾波「使えて損はありません、まず重心などのデータを取りましょう」
ガングート「…戦闘訓練じゃないのか」
綾波「あなたは基礎戦闘能力で言えば決して低くない、たとえば…」
魚雷を一本抜き取り、クナイのように構える
綾波「これは私と川内さんが戦った時に感じた通りに動くだけですが…」
間合いを殺して詰め寄りながら魚雷を首に押し当てる
ガングート(み、見えなかった…瞬きもしていないのに…!)
綾波「川内さんは常に3人で戦っています、自分1人の技術ではなく味方の技術を積極的に取り入れる様は…あれ?どうしました?」
ガングート「…その、多分……私の時は川内は、手を抜いていたんだな…」
綾波「当然でしょう、よその国の軍人を殺したら戦争ですよ?」
ガングート(それをやろうとしていた貴様は…いや、やめておこう…)
綾波「勝ちたいなら、手札を増やしましょう…技量で負けているなら搦手で、とにかく大味な戦いが得意な戦艦でもやれることは沢山ありますから」
ガングート「例えば」
綾波「水上機、魚雷、なんでもアリなんですよ」
ガングート「…なんでもか」
綾波「ええ、徹底的にいきましょう、急反転はおそらく…」
ガングートさんを飛び越え、背後に周る
綾波「こんな感じであんまり意味をなしませんが…」
ガングート(…日本人はみんなニンジャだと聞いていたが…なんだ、今のは…屈む様子も無く跳んだぞ!?)
綾波「他にもこんな手段で…って聞いてます?」
ガングート「あ、ああ…」
綾波「それと、基本戦術として近づかせないのも大事ですが…まあ川内さん相手に当てられるなら苦労はしません、特に着地を狙ってもあの人は魚雷を炸裂させてエアダッシュします」
ガングート「エアダッシュ…?」
綾波「空中で加速するって意味です」
ガングート(やはり人間じゃない…)
綾波「とにかく、接近を許した際には駆逐艦砲のような取り回しを優先したぶきも視野に入れるべきです、わかりましたね?」
ガングート「ああ…」
綾波「…?……ああ」
脚を少し動かすたびにガングートさんの身体が小さく跳ねる
綾波(クスリが効き過ぎたか、まあ良い治療だったと思いましょう)
綾波「さ!始めますよ!」
ガングート「搦手をとにかく習得してやる…!」