元勇者提督   作:無し

443 / 625
目撃者

The・World R:1

Ωサーバー 病める 囚われの 堕天使

重槍士 青葉

 

青葉「…あ、来た…」

 

ほくと「あれ?青ちゃん…まだ10分くらいあるよ?」

 

青葉「えっと…はい、まあ、でも…来るかなって」

 

青葉(カイト達が)

 

ほくと「んー、あと10分、まだ来ないかなぁ…」

 

エフェクトと共にアルビレオさんとリコリスさんが転送されて来る

 

ほくと「ビ〜ンゴっ!」

 

アルビレオ「あ……!」

 

ほくと「おはよー、アル!昨日はよく眠れた?」

 

青葉「おはようございます」

 

アルビレオさんが驚いた様子で固まっている

 

ほくと「びっくりしてる?」

 

アルビレオ「何故、ここにいる…」

 

ほくと「昨日の2人、帰り際に9時からここでイベントに挑むとか言ってたでしょ?あれって最後にアルをもう一度誘ったわけだよね、だからアルもきっと来ると思ったわけ!男同士の語らぬ友情ってやつ?結構好きだな、そういうの、君ってそういうキャラだもん」

 

青葉(意外と人のことをよく見てる…)

 

アルビレオ(で、ここで待ち伏せされたわけか…思惑にハマってしまったわけか……我ながら、情けない)

 

ほくと「君が戻ってくるのを待ってたら徹夜で監視しなきゃいけないじゃん?ここなら時間もわかってたし、ぐっすり眠って早起きして待ってたってわけ」

 

アルビレオ「おりこうさんだな」

 

ほくと「頭いい?頭いい、頭いい、わたし?」

 

アルビレオ「だが少年漫画に毒されすぎだ、おれはあの二人と友情のパーティを組にきたわけじゃない」

 

ほくと「は?じゃあ、何しに来たの?」

 

青葉「見届けに…ですか」

 

アルビレオ「…ああ」

 

ほくと「えっ…見てるだけ?本当に!?」

 

アルビレオ「おれは昨日パーティ入りを断ってるんだ、今更」

 

ほくと「意地っ張りだなぁ〜!アルってひょっとして意外と子供?」

 

アルビレオ「おれはソロだ」

 

ほくと「またそれかぁ…でも、私とは組んでくれるよね?」

 

アルビレオ「え?」

 

ほくと「だってわたしは特別なんでしょ?」

 

アルビレオ「あのな……きみはどこのタチの悪い女だ、どっからそんな根拠のない自信が湧いて来る…」

 

ほくと「だって昨日言ったじゃん!」

 

アルビレオ「言うか、そんなこと」

 

ほくと「うそだー!わたしは特別だからパーティ組んでるって!言ったもん!言ったもん!言ったもん!」

 

アルビレオ(そんなこと言ったか…?)

 

青葉「…あ、言ってますね…」

 

ログを遡り、引用する

 

青葉[アルビレオ[…こいつは特別で……とにかく、おれはソロで、パーティーは組まない主義だから]]

 

アルビレオ(…言っていた…)

 

ほくと「わたし達とリコちゃんのイベントをクリアしたい、とも言ってた!」

 

アルビレオ「うそ?」

 

ほくと「うそじゃないもーん!」

 

該当する会話を引用する

 

青葉[アルビレオ[返事はしなくていいから黙って聞いてくれ、しばらく、お口にチャックしてろ、リコリスのイベントは…つまり、誰にも知られず、おれたちだけでクリアしたい]]

 

アルビレオ(…こ、これは…二つとも其の場凌ぎの言い訳…)

 

ほくと「其の場凌ぎの言い訳だった…とか、言わないよね?アル?」

 

アルビレオ「ぐ…」

 

ほくと「The・Worldでほかのプレイヤーに嘘つくのは立派なマナー違反でしょ?」

 

アルビレオ「…わかった…パーティ組めばいいんだろう」

 

青葉(ほくとさん、子供だと思ってたけど結構なやり手だ…)

 

ほくと「組めば、いいんだろう?」

 

アルビレオ「…組もう、きみたちとはいいパーティになりそうだ」

 

ほくと「やほ、リコちゃん」

 

パーティ申請を受け、少し頭を悩ませる

 

青葉(…私への申請…受けた方がいいのかな…邪魔したくはないけど、見届けたい気持ちがあるし…)

 

アルビレオ「…組まないのか?」

 

青葉「あ、いえ…参加します」

 

アルビレオ「そろそろ9時だ、ここから離れるぞ、チャットをパーティモードにしておけ、声が届くと名前が表示される!」

 

青葉「は、はい」

 

ほくと「はいはい…」

 

病める囚われの堕天使

このエリアは吹雪のエリアだ、一歩歩けばホワイトアウトする猛吹雪に襲われる

 

青葉「…ザワン・シンの場所、わかるんですか?」

 

アルビレオ「この嵐の中心に、奴はいる」

 

つまり、このマップが使えなくなるほどの猛吹雪はそのモンスターのせいだと言うことだ

視界が悪過ぎて5メートル先見えない…

 

アルビレオ「逸れるなよ!」

 

ほくと「ね、ねぇ!アル!?どこ!?」

 

青葉「言ったそばから…」

 

ほくと「あれ?」

 

戦闘用のBGMが急に流れ出す

 

アルビレオ「バカっ…魔法陣だろ、そりゃ…!」

 

ほくと「うわわわわわわわわっ………」

 

ほくとさんのHPゲージが一瞬で消失し、赤く染まった

倒されたPCは薄暗い、半透明のお化けになり、蘇生を待つために近寄って来る

 

青葉(でも、蘇生の余裕なさそう…!!)

 

モンスターとの戦闘に1分かかった、たった一体の大型モンスターに二人掛かりでそれだけかかる、ノーマルモンスターとしては…破格すぎる強さ

 

アルビレオ「やはり、ここのモブは強い…」

 

ほくと「はやく!生き返らせて!」

 

アルビレオ「わかったからわめくな…」

 

ほくと「ううううう…パーティ組んだ初めての戦闘で見殺しにされて死ぬなんて」

 

青葉(あ)

 

アルビレオさんの視線が一瞬キツくなった気がした

 

アルビレオ「やっぱやめとこう」

 

ほくと「は?」

 

アルビレオ「蘇生の秘薬がもったいない」

 

青葉(まあ、勝手に逸れて一撃で死んだ上に見殺し扱い…は、ちょっと…)

 

ほくと「この…薄情者っ!ひとでなしーーー!!」

 

アルビレオ「そのレベルじゃ、ここのモンスターには歯が立たない、どうせまた一撃で死ぬんだからいっそ死んだままでいた方がいい、ある意味不死身だからな」

 

アルビレオさんが肩をすくめながら言う

 

ほくと「やだー!コントじゃないんだからぁ!死体のまま歩くなんてみっともない!」

 

アルビレオ「時間がない…行くぞ!」

 

青葉「はい…!」

 

ほくと「これじゃ…ドラクエでいう棺桶を引きずってる状態だよ…」

 

おばけは蘇生をしてもらうために一定以上離れることができない、つまり移動速度を上げるようなアイテムを使うときも節約ができる…という合理的な言い訳が頭の中で組み上がる

 

青葉「アルビレオさん、前にもここに来たことが?」

 

アルビレオ「ああ、だが何故?」

 

青葉「さっきボスの位置を知ってましたから…戦ったことが?」

 

アルビレオ「一度だけ…呆気なく殺された」

 

ほくと「アルでも死ぬんだ!」

 

…アルビレオさんでも攻略不可能なイベント…

つい、あの2人に攻略を譲るのが惜しく感じられる…いつの間にか私はゲーマーと呼ばれる人種になっていたらしい

 

アルビレオ「ソロだったからな…負け惜しみと思われそうだが、もともと倒すつもりはなかった、ただ攻略の糸口だけでも掴んでおきたかった」

 

ほくと「…惜しいとこまで行ったの?」

 

アルビレオ「いや、攻撃が全く通じなかった」

 

青葉「全く?」

 

アルビレオ「武器を持ち替えながら全属性のスキルを試したが、誰も通用しなかったし通常の物理攻撃も勿論効かない」

 

ほくと「だから攻略不能のイベント…」

 

アルビレオ「ダメージを与える方法がないんじゃプレイヤー達が非難するのも無理はない、とにかくダメージを与える…でも偶然の一撃ではダメだ、戦略を見つけないことには」

 

青葉(攻略法…ザワン・シン、どうやって倒せばいいんだろう…)

 

アルビレオ「だが、必ず攻略法はある」

 

青葉「え?」

 

アルビレオ「The・Worldはいいゲームだからだ」

 

オルカさんが言い切ったように、アルビレオさんもこのゲームを信じ、言い切った…

 

青葉「…そうですね、The・Worldは、いいゲームです」

 

何度も救われてきたこの世界だ、一介のボスモンスターに攻略法が無いわけがない…!

 

アルビレオ「氷壁だ」

 

ほくと「おー!南極みたい!」

 

2人の後を追い、氷壁のそばを駆け上がる

 

雪嵐が止んだ

ここが台風の目…!

 

嵐の音が止み、戦闘音が聞こえて来る

 

青葉「オルカさんとバルムンクさんです!」

 

いかつい剣士と銀の騎士が挑む、私たちよりも遥かに巨大な全高20メートルほどの…形の定まらないアレが…!

 

カメラを取り出し、シャッターを切る

 

数多の勇者を葬った、幻影のスペクトルドラゴン

虹色の罪竜…!

 

アルビレオ「アレが…ザワン・シンだ!」

 

エネルギーが体を形成しているのか、光の迷彩を纏っているのか、その姿は形の定まらない、曖昧な姿をしている

ザワン・シンの表面にさす光が時たま見せる四つ足のドラゴンは太古から伝わる西洋竜のようで…

 

アルビレオ「2人だけだ!まさか2人で挑むとは…!」

 

オルカさんとバルムンクさんは、たった2人ではるかに大きい巨竜と立ち会っていた

少し調べてみても、ザワン・シンとは攻略不可能と言われるようなイベントだった

攻略法は一切不明

あの2人が倒したのは奇跡かそれとも…

 

このゲームの伝説の一つを今レンズに焼き付けられる、そのことに何処か興奮する自分がいた

 

ほくと「ダメージ!入ってないよ!」

 

この距離ではモンスターをターゲットすることもHPを確認することもできない

だけど攻撃毎に表示されるダメージの数値や回復の数値は表示される

2人の攻撃は悉くダメージ0を連ねていた

 

ザワン・シンのブレスが2人を吹き飛ばす

 

アルビレオ「あのブレスには数種類あって、それぞれに属性に倣った追加効果がある、毒、呪い、マヒ、攻撃力ダウン、防御力ダウン……おまけに範囲攻撃だ…!」

 

ブレスのダメージはまだ低い、だが属性ブレスで弱ったところにくる直接攻撃のダメージが呆気なくHPを削りきる

 

ほくと「あぶない!」

 

ザワン・シンの尾が直撃し、オルカのHPを削り切る

おばけになる前に蘇生の秘薬で蘇生され、HPとMPを別のアイテムで完全回復し、休むことなく攻撃に移る

 

アルビレオ「…うまい」

 

青葉「え?」

 

アルビレオ「パラメーターダウンのデバフを削除するためにわざと死んだ」

 

青葉(そうか、デバフがかかっていたら攻撃力も防御力も、何もかもが低いんだ、だから死ぬことで一度リセットしてバフアイテムを使い、より有利な状況にした…!)

 

2人が熟練プレイヤーで、尚且つお互いの行動を理解し、モンスターの攻撃のタイミングを完璧に把握しているからこそできる、死ぬ前提の戦術…ソロプレイにはできない、パーティの醍醐味…!

 

ザワン・シンの光揺らめく巨体が上へと跳ね上がった

この距離だというのに、視界の外に消えるほど高く…!

 

アルビレオ「不味い!!」

 

青葉「アルビレオさん?」

 

アルビレオ「アレはおれが死んだ攻撃…!」

 

電撃のような効果音が耳をつんざく

鉄槌と化したザワン・シンの巨体がターゲットになったバルムンクさんを小石のように吹き飛ばした

 

アルビレオ「オルカ!」

 

オルカさんの動きに見て取れる動揺が感じられた

吹き飛ばされたバルムンクさんが視界から消えたのだろう

視界外のプレイヤーに蘇生や回復は使えない、そしてザワン・シンはすでに尻尾の攻撃モーションに入っている…!

 

青葉(間に合え…!)

 

無粋なことはできない、ただ祈るだけ…

 

アルビレオ「……しのいだか!」

 

バルムンクさんが立ち上がり、オルカさんへと回復アイテムを使う

2人のHPが全回復し、また立ち向かう

 

ほくと「でも、攻撃が通じないんじゃ!だめじゃん!」

 

アルビレオ「…ああ」

 

青葉(……アルビレオさんも感じてる、違和感があるんだ…今までブレスばかりの攻撃だったのに、何故物理攻撃を二回連続で使ったんだろう…?今までのパターンとは何が違った…?確か、あの2人の最後に持っていた武器は…無属性)

 

青葉「…リフレクト…?」

 

アルビレオ「見ろ、2人が攻撃をやめた…!」

 

オルカさんとバルムンクさんは、ザワン・シンを睨んだまま剣を下ろし、何かを考える様子を見せた

 

ほくと「…諦めたの?」

 

青葉「いいえ、違います…!気づいたんだ…!」

 

ザワン・シンはブレスを吐かず、直接攻撃すらしない…

 

アルビレオ「…まさか、ザワン・シンは攻撃を反射しているのか…!?」

 

BGMも風の音すらもない

明けない夜の氷原の戦場に空白の時が流れた

 

青葉「…そうだ、このゲーム、一部のボスはこっちから仕掛けないと攻撃してこない…だから勘違いしてたけど…」

 

ザワン・シンは攻撃をやめた

いや、違う…攻撃できないんだ

 

アルビレオ「ザワン・シンはプレイヤーが攻撃しない限り、反撃しない…?」

 

ほくと「え?」

 

青葉(……だとしても、ダメージを与えることにはつながらない……いや、そうだ…!リフレクトしてるなら、反属性…!)

 

アルビレオ「…ああ…!」

 

沈黙を破ったのは、オルカさんだった

剣に水を纏い、斬撃を叩き込む

 

それに呼応してザワン・シンは汚水のブレスを撒き散らす

 

青葉「行った…!」

 

そして、そのザワン・シンがブレスを吐いた瞬間に上空からバルムンクさんがザワン・シンに斬りかかる

炎を纏った斬撃で

 

とうとう、巨体にダメージの数字がポップする

 

アルビレオ「…どのブレスを吐くのかは直前のプレイヤーの攻撃で決まる、そしてザワン・シンは鏡のようなモンスターだ、だから…ザワン・シン自体もその属性に染まる」

 

青葉(確かこのバージョンのThe・Worldで設定されている属性は6つ、その内火と水、土と木、雷と闇は相克関係にある、そしてその相克の属性で与えた攻撃なら…!)

 

オルカさんとバルムンクさんが再び攻撃を放つ

今度はダメージが通らない…

 

アルビレオ「遅い!…ブレスを見てからじゃ遅いんだ!ブレスを吐く瞬間、受付時間はおそらくコンマ数秒かそこら…!」

 

ソロであればブレスを吐く瞬間に次の攻撃は間に合わない

3人パーティは乱戦になりがちで気付くことが難しい

 

アルビレオ「ふたりだから、か…」

 

口で言うのは簡単だが、気づくことも、実行する事も…難しい事だ

あの2人だけがやってのけられる、完璧な呼吸、タイミング…

美しいほどのコンビネーション…

 

炎を曳く一撃が、ザワン・シンのHPゲージを削り切った

 

咆哮を残し、七色の光の血をぶち撒け、氷原に身をなげうった

 

ほくと「…勝った…」

 

アルビレオ「攻略不能の伝説は崩れた」

 

ほくと「アル!見て!」

 

太陽が昇り、ザワン・シンの遺骸を焼き払う

明けない夜に、朝が訪れた…

足元の氷壁にばりばりと亀裂が走り、光が乱反射し、視界がホワイトアウトする

 

 

 

氷の氷壁が崩れ去り、封印が解かれた

深く、深く幽閉された何者かの姿が露わになる

 

アルビレオ「…六枚羽の…天使だと?」

 

ほくと「…つーか、だ、堕天使?」

 

翼を翻し、それは何処かへと飛び去る

ようやく解き放たれたそれが向かうのは、天なのか、それとも魔王の住処か…

 

 

もはやこのエリアは吹雪のエリアではなくなっていた

他のエリアと同じ、ありきたりなエリア…

 

ただ、一つだけ違うのはゆらゆらと落ちて来る天使の羽…

無意味な背景…

 

不意に、女の子の声が聞こえた

 

リコリス「わたしの、はね」

 

青葉(しゃ、しゃべっ!?)

 

ほくと「リコちゃんがしゃべった!」

 

青葉(…あれ)

 

ただ、何の意味もなく手を差し出した

その手の上に、羽が舞い降り…

 

[eye.cylを入手した]

 

青葉「えっ」

 

アルビレオ「どうした」

 

手に入れたアイテムをアルビレオさんに渡す

 

アルビレオ「eye…?」

 

アルビレオさんがハッとした様子になり、リコリスさんを見つめる

 

青葉「…あ」

 

アルビレオ「なんてこった、なんて初歩的な…!」

 

そうだ、実に単純な事だ

 

ほくと「どうしたの?アル?青ちゃん?」

 

アルビレオさんがリコリスさんに向き合う

 

パッと…リコリスさんの目が開く

 

リコリス「ありがとう、アルビレオ」

 

アルビレオ「みえるのか…」

 

リコリス「うん…うれしい」

 

リコリスさんが笑った瞬間、激しい音共に転送された

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。