元勇者提督   作:無し

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連星と狼

The・World R:1

Σサーバー さざめく 一夜の 錬金術

重槍士 青葉

 

月夜の草原のエリア

空いっぱいの星が輝くエリアにいつのまにか転送された

このゲームに自動的なエリア移動は存在しない、エリアを移動する際は必ず自分の意思でタウンに帰り、別のエリアに行く…

ましてやサーバーを移動するとなるとタウンに帰ってから別サーバーに移動する必要がある…

ありえないことが起きている、だけど…それを楽しんでしまっている

 

アルビレオ「…星、か」

 

アルビレオさんが双眼に寝転がる

 

ほくと「それ、どうやるの?寝転がるやつ」

 

アルビレオ「コマンド、/lieだ」

 

ほくとさんが原っぱのベッドに横になる

 

思えば、アルビレオさんはエモートの使い方が上手い、その世界の住人かのような振る舞い…それがアルビレオさんの…渡会さんのThe・Worldへの想いか

 

ほくと「…ねー、そろそろ生き返らせてよ」

 

そろそろ怨念のこもった声で蘇生を要求される

 

アルビレオ「気は進まないが」

 

アルビレオさんがいやいやにほくとさんを蘇生する

 

ほくと「わーい!」

 

アルビレオ「ちょろちょろすんな、ここも初心者には危険なエリアであることに違いはない…っておい!」

 

ほくと「わっ!魔法陣だ!」

 

魔法陣がほくとさんに反応し、大量のゴブリンを召喚する

 

2人がかりで速攻ゴブリンは始末したが…

 

アルビレオ「言ってるそばから…」

 

ほくと「ドンマイ!」

 

青葉(まだあと一匹、ゴブリンがいますね)

 

アルビレオ「気にする!」

 

ほくと「えぐっ……ごめんなさい」

 

アルビレオ「モーションで無闇に泣くな、/cryを乱用するな、そんなモーションコマンドばかり覚えてないでマップをよく見て歩く事を覚えろ…!」

 

ほくと「アルって仕切り屋さん?」

 

青葉(まあ、鎮守府一つ仕切ってますし…)

 

アルビレオ「悪かったな、仕切り屋で、その仕切り屋のところに押しかけてパーティを組んでるのは誰だ?誰だ?誰だ?」

 

ほくと「わたし」

 

アルビレオ「だったら…」

 

クスクスと笑う声がした

 

青葉「…リコリスさん?」

 

ほくと「あれ?リコちゃん、目が…」

 

eye.cyl

eyeとは読んで字の如く、目の事

そして….cylはLycorisの頭文字三つだ

raeはear、つまり耳のこと…リコリスさんの耳

 

アルビレオさんに聞いたが、最初にeciov.cyl、つまり声を手に入れていたらしい

拡張子を気にしていたが…改めて見れば単純だった

 

目、耳、声…

それらはコミュニケーションの手段であり、相手のことを理解する為に…

 

アルビレオ「…心」

 

そう、心を伝え、理解するためのもの…

 

アルビレオさんが何か言いたげにこちらをみる、ささやき(ウィスパー)に切り替える

 

アルビレオ「…判断とは、自分の意思を決める行為だ…ネットゲームにおいて声がなくてもチャットができる、消音だとしても不都合はない、目を瞑っていても…ゲームは起動できる、判断ができなくなるが」

 

青葉「…そうですね」

 

アルビレオ「…判断とは自分の意思を決める行為だ、NPCにはその意思が存在しない」

 

青葉「……そうでしょうか」

 

アルビレオ「…何?」

 

青葉「…出過ぎた事を言うようですが、随分とこのイベントに入れ込んでいるように見えたので…」

 

アルビレオ「イレギュラーだからだ、このイベントが今までのThe・Worldのどのイベントとも違う、だから…確かめたかっただけだ」

 

青葉「確かめる。?」

 

アルビレオ「……オフラインゲームでチートやバグ技を利用した事は?」

 

青葉「…無いと思いますけど」

 

アルビレオ「お利口さんだな」

 

鼻にかかる言い方だ

 

アルビレオ「オフラインゲームでバグ技を使っても…それで生じる利益も、不利益も…全てそのプレイヤー1人のものだ、だがオンラインゲームでそれを行うとどうなる」

 

青葉「…経済の破壊…」

 

アルビレオ「それだけじゃない、インチキした奴等が良い目を見るのであれば他のプレイヤーたちのやる気を失う、改造(チート)複製(デュープ)が横行し、悪人たちが良い目を見れば規約に則った善良なプレイヤーは意欲を失う…!」

 

そうなれば、街から人は消える

エリアでの出会いも無くなり、ボスに誰かが挑むこともなくなる

誰にも必要とされなくなる世界

 

それは、よくないゲーム…か

 

リコリス「アルビレオ」

 

いつのまにかほくとさんと戯れていたリコリスさんがアルビレオさんを呼ぶ

 

リコリス「ついてきて」

 

リコリスさんがくるりと振り返り、走り出す

これが…NPCなのだろうか?

アルビレオさんのいう、意思のない存在なのだろうか、それとも…目と耳で感じた声から状況を判断し、声でそれを伝えているのだろうか

 

出会ってわずかなこのNPCの少女に、私は深く感情移入していた…アルビレオさんとは違った

重ねていた、元AIだった私にとっては…消して遠い存在だとは思えなかった

 

ふしぎな風が吹いていた

私たちに吹き付ける風は、どこかふしぎで…リアルを感じさせた

 

ほくと「リコちゃん待って!」

 

リコリスさんは小さな泉の前で止まる

 

青葉「幻の泉…!」

 

アルビレオ「装備アップグレード用のイベントだ、あまりの装備をこれに投げ入れると…ん?」

 

リコリス「アルビレオ」

 

アルビレオ「…なんだい。リコリス」

 

アルビレオさんはロールしてみせた

リコリスと時を過ごしたアルビレオとして

簡単に壊れてしまいそうな、小さな体で、ハッキリとした声で

 

リコリス「おねがいね」

 

その一言ともにリコリスさんは泉に身を投げた

 

青葉「えっ!?」

 

ほくと「リコちゃん…?」

 

リコリスさんと入れ替わりに最適に目鼻をつけたようなキャラクターが飛び出す 

 

青葉「泉の魔人…!」

 

ほくと「キモっ!めちゃキモい!!」

 

ムッシュ「あなたが落としたのは、金の斧ですかァ?それともこの銀の斧ですかァ?」

 

このイベントには三つの選択肢がある

一つは金の斧、もうひとつは銀の斧、最後はどちらも違う

当然投入するアイテムは金の斧でも銀の斧でもないので最後が正解、しかし金か銀を選ぶと高値で売れるアイテムになる

 

アルビレオ「どちらも違う」

 

…正直リコリスさんを無視した選択肢が脳裏をよぎらなかったわけではないが、この選択肢で安堵した…

 

ムッシュ「正直、このレベルのアイテムになると僕では無理だねェ」

 

アイテム?レベル?

リコリスさんはNPC…いや、確かこれもイベントの道筋だ、上限のレベルを超えている場合金の斧と銀の斧に加えて投入したアイテムを返却する仕様…だったはず

 

ムッシュ「それじゃね〜〜〜!」

 

魔人が空へと消えるのを見送る

いつのまにか背後にリコリスさんが居た

アルビレオさんを見ると、固まっていた…

 

おそらく、あの拡張子のアイテムを見て…

何かに驚いて

 

アルビレオさんがふとリコリスさんを見つめる

 

アルビレオ(…やはり、濡れていない…当然だ、濡れた髪も、濡れた洋服も、そんなグラフィックはこの世界に用意されていない…)

 

何かを、見定めるように…そして、ハッとして

 

アルビレオ「なぜ、そう言い切れる…?」

 

…リコリスさんを見てそう言った

リコリスさんは何も言っていない…いや、ささやいたのかもしれないが…私の頭には、ふと…別のことが浮かんだ

 

青葉(…思えば、アルビレオさんは…渡会さんは、The・Worldのプレイヤーとして遊んでいるんでしょうか…それとも)

 

発言が別の、視点のように感じる

 

 

 

 

星空を眺め、腰を下ろす

 

ほくと「なんか…こうしてると気持ちいいね、ゲームなのに」

 

アルビレオ「ああ」

 

ほくと「しっかし、休日の朝からネットゲームとは……とほほ、不健康だねぇ」

 

青葉(うぐ…)

 

悪意のない言葉が突き刺さる

何を隠そう私は曜日感覚などとうに失っている、今日が休日なのも知らなかった……いや、ここは過去の世界だから曜日が同じとは限らないのだが

 

アルビレオ「罪悪感があるうちはまだ大丈夫だ、それが不健康と思えなくなったら」

 

ほくと「廃人ってやつ?廃人プレイヤー」

 

アルビレオ「そう」

 

私はどうやら廃人らしい

 

ほくと「アルは廃人だよね?」

 

アルビレオ「廃人っていうのは蔑称だ、安易に他のプレイヤーに対して使うな」

 

ほくと「はーい」

 

アルビレオ「…仕切り屋はうざいか」

 

ほくと「赤の他人にたかがネットゲームのことで説教されたら、カチンとくるけど…アルは違うから」

 

アルビレオ「違う?」

 

ほくと「パーティの仲間だもん」

 

ほくとさんが笑顔のエモーションを使って見せる

 

アルビレオ「たくさん笑うのは、いいことだ」

 

ほくと「ほぇ?」

 

アルビレオ「泣くのはほどほどにしておけ、リアルでも同じだろう、涙に信用がなくなる」

 

アルビレオさんの視線がほくとさんに向く

 

ほくと「ねぇ」

 

アルビレオ「なんだ」

 

ほくと「アルの目って星みたいだね」

 

アルビレオさんが驚いたような表情を見せる

 

アルビレオ「…吟遊詩人になれるな」

 

ほくと「詩人?詩人?わたしって、詩人?」

 

アルビレオ「アルビレオの名前の由来、わかるか」

 

ほくと「ん〜……」

 

そうか、とようやく納得した

 

アルビレオ「白鳥座のクチバシにある2等星の名前だ、この星は肉眼では一つに見えるが望遠鏡で観るととても近くにある二つの星だとわかる、二重星…連星って言うんだが、お互いに重力で引き合いながらまわってる」

 

ほくと「ほー…」

 

アルビレオ「サファイア色と、トパーズ色の、とてもきれいな二つの星なんだ」

 

ほくと「だから、右目が青で左目が黄色、か…」

 

アルビレオ「だから、銀河の宝石ってな…」

 

ほくと「やっぱりかっこつけじゃん」

 

リコリスさんがアルビレオさんのそばに腰を下ろす

いつのまにか2人の手は離れていた

いや、目を取り戻したときからなのかも知れない

光を取り戻したから、もう手を引く必要はなかったのだろう

 

アルビレオさんが唐突に立ち上がる

 

アルビレオ「…リコリスのイベントに、決着をつける」

 

私たちは、タウンに転送され、アルビレオさんに連れられて…そのエリアに向かった

 

 

 

 

 

Δサーバー 隠されし 禁断の 聖域

グリーマ・レーヴ大聖堂

 

BGMのない、静かな…空間

ただの空間…この世界の異端

始まりと終わりの場所…

 

四つの足跡が、四つの影が聖堂へと進んでいった

聖堂の中はパイプオルガンの音が流れていた

鏡のように磨かれた床に天井の振り子が四つ映されていた、ゆらゆらと、揺れていた

 

モンスターもダンジョンも宝箱すらもないここに…

 

アルビレオ「黄昏の碑文、知ってるか?」

 

ほくと「碑文?」

 

青葉「名前だけ…」

 

アルビレオ「黄昏の碑文はThe・Worldの世界観のもとになった叙事詩だ、黄昏の碑文は一般公開されたweb上のテキストだった…個人ホームページの公開小説みたいなものだ」

 

ほくと「どんなお話?」

 

アルビレオ「ざっくりいえば精霊と魔物の大きな戦いのファンタジーものだ、世界を破壊に導く禍々しい波と戦う光と闇の連合軍…そして波から世界を救うと予言された夕暮れ竜の探索をする2人の半精霊と1人の人間の物語だと言われている」

 

青葉「言われている?」

 

アルビレオ「この物語の作者、エマ・ウィーラントの黄昏の碑文のオリジナルは失われてしまったんだ、The・Worldのベータ版…フラグメントが公開されたのが2007年5月、そして2ヶ月後の終了の頃には噂が立ち始めた、このゲームの世界観のもとになった小説があると」

 

ほくと「それが黄昏の碑文…そっか、アルもテスト版の頃からこのゲームやってるんだもんね?」

 

アルビレオ「やっぱり廃人か」

 

ほくと「はは、はは、ははは」

 

ほくとさんは予期せぬカウンターにバツが悪そうに笑っていた

 

アルビレオ「しかし、噂が立ったときにはエマのサイトはとうに閉じられていた」

 

青葉「何故…?」

 

アルビレオ「エマ・ウィーラントはそのときすでに個人だった」

 

青葉「そうなんですか…」

 

アルビレオ「その事はずいぶん後になって知ったんだがな…俺は黄昏の碑文について調べ、手当たり次第に情報を集めていた、状況証拠から推察するに…2004年から2005年、あのPluto kiss(冥王の口付け)がおきた2005年12月24日までには消失していた」

 

青葉「プルートキス…世界最悪のネットワーククライシス」

 

アルビレオ「全世界で77分間ネットワークが一斉に停止した事件だ、調査の数字に現れていないが個人のデータ損失も計り知れないよ、俺も被害者」

 

ほくとさんが吹き出しながら尋ねる

 

ほくと「どしたの?」

 

アルビレオ「書きかけの、完成間近だった大学の卒業論文を…吹っ飛ばされた」

 

ほくと「バックアップは?」

 

アルビレオ「それ以来欠かさず外部のメディアにとるようになった…プルートキス前の2、3年間はウイルスデータの被害が日常茶飯事だったから、まあ…おれの対策不足か」

 

ほくと「大変だったよね!」

 

青葉(え?)

 

アルビレオ「…そんな時代に黄昏の碑文はあった…甘い物語は好きか?」

 

ほくと「重いだけのは嫌い」

 

アルビレオ「ファンタジーは読者を選ぶ…だが、ゲームとして…黄昏の碑文に触れたことないものも、エマ・ウィーラントに触れている…勝手に気持ちを代弁する事はしないけど、したくないけど…これは物語の語り手にとって、とても、幸せな事なんじゃないかと思う」

 

ほくと「無視されるよりはね」

 

リコリス「アルビレオ」

 

ほくと「リコちゃん?」

 

アルビレオ「気づかないか?このマップに入ってからボイスチャットが全体トークモードになっている、他のモードも選べない」

 

ほくと「あ、ほんとだ…!」

 

青葉「…どうして…」

 

アルビレオ「神の御前(みまえ)では隠し事もないしょ話も嘘も許されない…そういう設定か」

 

呟いた、誰に語りかけるわけでもなかったのだろう

 

アルビレオ「ならば言うさ…リコリス!!」

 

アルビレオさんが振り返り、リコリスさんを視界に映す

 

リコリス「アルビレオ」

 

アルビレオ「キミは、本当にこれを渡して欲しいのか?」

 

赤い髪の少女はステンドグラスから差し込む夕陽に照らされながら、そう答えた

 

リコリス「yromem.cylを、わたしにください」

 

青葉(…memory…!記憶!)

 

リコリスさんがハッとした表情になる

 

リコリス「アルビレオ…!」

 

アルビレオ「思い出したか」

 

青葉(…アルビレオさんと、リコリスさんの間に、何が…?)

 

アルビレオ「lyc.memory…リコリスのメモリか、思い出と訳すよりはまさにメモリだ、記憶のデータ…これまでに声と耳と目を取り戻したように、今、記憶を取り戻したわけだ」

 

リコリス「なぜ…あなたが、アルビレオ?」

 

アルビレオ「忘れてきたのはキミだ、顔のリンクを外していたのはキミの方だ」

 

…違う、この冷たい雰囲気…

ロールしていない、いや、これも一つのロールなのかもしれないが…重槍使いアルビレオは、私の目の前にはいない…!

 

リコリス「…わたしを」

 

アルビレオ「消す」

 

リコリス「わたしを、消すの?」

 

ほくと「アル…!?」

 

アルビレオ「なんだ」

 

ほくと「なんだじゃなくて!なんでリコちゃんに武器を…まさか攻撃するつもり!?」

 

アルビレオ「そうだ」

 

ほくと「な…なんで!」

 

アルビレオ「イベントを解く為だ」

 

殺すことがイベントの結末…?

これが、渡会さんが触れられたくなかった過去なの…?

なら、あの表情は?まるで何かを悔いて…いや…

 

ほくと「リコちゃんを殺してイベントをクリアする?」

 

アルビレオ「そうだ」

 

ほくと「そんな…そんなのって…!」

 

アルビレオ「そう言う設定だ、しかたない」

 

ほくと「説明して!何がどうなったらリコちゃんを殺すなんて出鱈目なお話になるの!!」

 

アルビレオ「このイベントを企画したやつに聞け、リコリスは最初目が見えないばかりか耳も聞こえず声も出せない、ついでに記憶喪失…そう言う設定だ、そして俺はリコリスの望みを全て達成してきた」

 

ほくと「何か間違えたとか…!」

 

アルビレオ「イベントの選択肢を間違えたのだとしたらこれはバッドエンドだ、だがシナリオ分岐に絡むような選択肢はなかった、これは攻略ミスじゃない」

 

ほくと「おかしいよ!そんなのいやだよ!」

 

アルビレオ「ならぬけろ、もともとキミ達に関係のないイベントだ」

 

ほくと「アルはリコちゃんを助けようとしてたんじゃないの?」

 

アルビレオ「違う、イベントを解こうとしていただけだ」

 

ほくと「手ぇ!つないでたじゃんか!ずっと!!」

 

アルビレオ「無理矢理な、これはNPCだ、ただのイベントキャラ、命も心もない、パラメーターもHPもSPもない」

 

ほくと「アルはリコちゃんを殺す為にこのイベントをやっていたの?」

 

アルビレオ「違う、結末は分からなかった、だが…始めた以上、どんな最悪な結末でもクリアはしておく、しておかなくてはならない」

 

ほくと「殺すなんてかわいそう!」

 

アルビレオ「殺すんじゃない……はぁ……削除…クリアするんだ」

 

アルビレオさんがため息をつく

何を想っているのか、推し量れない何かが、あるのだろう…

 

アルビレオ「このThe・WorldではふしぎなNPCが目撃される、キャラクターのグラフィックが壊れていたり文字化けした文章をチャットに流す、壊れたプログラムだ…バグだ」

 

ほくと「リコちゃんも…バグなの?」

 

アルビレオ「かもしれない、おそらくそうだ、バージョンアップのとき未完成のイベントを間違ってサーバーにアッパロードしたのかもしれない…出なければこんな唐突な救いのない結末は、誰も許さない」

 

ほくと「なら、バグなら直してもらおうよ!」

 

アルビレオ「もちろんそうする、だがその前にイベントをクリアする」

 

リコリス「わたしを、けすの?」

 

アルビレオ「オルカやバルムンク…彼らのような素晴らしいプレイヤーが生きるこの世界を守る為にはどんな些細なバグも見逃す事はできない!」

 

リコリス「…くずデータ…わたしは…」

 

アルビレオ「削除する」

 

リコリス「わたしは…できそこない」

 

アルビレオ「AIが…」

 

リコリス「AIだから…」

 

アルビレオ「AIが人を装い、喋るな!このThe・Worldを混乱させるな!」

 

閃光のエフェクトがあたりを包む

高音でなんの音も聞こえない…けど、だんだん、何かを感じられる…

スクリーンいっぱいに、古い映画のような映像が浮かぶ

 

痩せかけた男が、白く波打つ白髪を伸ばした男がこちらを見ている

 

「何故、お前がきたのか」

 

割れた声がする

 

「お前は、アウラにはなれない」

 

「わたしは…」

 

少女の声も、ひどく割れた音になる

 

「何故なら、お前はそのように名付けられなかったから」

 

「わたしは……」

 

「いいかい、リコリス、お前は、できそこないだ」

 

アルビレオ「……リコリスだと?」

 

気づけば、隣でアルビレオさんがそのスクリーンを睨んでいた

この映像は古い、そして一人称の…つまり、リコリスさんの記憶だ

 

カメラの視界が上を見た

聖堂の天井が映される

 

「ああ、未だ見ぬ子よ…だから、わたしは彼女をアウラと名付けよう、君なしにこの子はありえなかった、光り輝く子、アウラ、彼女こそ私の……」

 

「わたしは、できそこない?」

 

「お前は試されし夢産みの失敗作だ」

 

リコリス「アルビレオ」

 

アルビレオさんの槍に貫かれたまま、リコリスさんが呼びかける

 

アルビレオ「リコリス、今見せたものは…」

 

リコリス「初めての時、初めてここであなたと会った時、少しだけ前にこの聖堂で見ていたこと」

 

アルビレオ「キミは聖堂の中に佇んでいた」

 

リコリス「本当は泣いてたの」

 

…アルビレオさんと、リコリスさんの出会いを私は知らない、だけど…リコリスさんの痛みは、私には何故かよくわかる…

痛む心が、ある…今の私には…

 

2人にかける言葉が、私には何もない、言葉すら発せない…

 

リコリス「あの時、何故私が聖堂にいるとわかったの?」

 

アルビレオ「プレイヤーからのバグ通報があった」

 

リコリス「2回目の時は?」

 

アルビレオ「それもバグ通報だ」

 

リコリス「誰からの?」

 

アルビレオ「プレイヤーだ」

 

リコリス「うそ」

 

アルビレオ「……通報者のメールアドレスには、何もなかった、使われていないアドレスだった」

 

リコリス「アルビレオは、碧衣の騎士団でしょう…あなたの槍の名は?」

 

アルビレオ「…神槍ヴォータン」

 

リコリス「神の、槍ね

 

アルビレオ「そうだ」

 

リコリス「誰にもらったの?」

 

アルビレオ「デバッグ用のAI狩りのアイテムはフラグメント時代から存在する」

 

リコリス「誰が用意したの?」

 

アルビレオ「わからない」

 

リコリス「ある日突然、システム管理者のデバッグアイテムとして仕様に追加されていた」

 

アルビレオ「何故、知っている…」

 

リコリス「その槍だけじゃない、誰も知らないプログラムが勝手に追加されて、誰も知らないうちに勝手に削除されている」

 

アルビレオ「何故知っている…リコリス!The・Worldのなかにあるあのフォルダのことも知っているのか!」

 

リコリス「フォルダ…」

 

アルビレオ「フォルダだ!システムの中に開けないやつがある、移植の時もオリジナルのスタッフに散々苦情を入れたやつだ…オリジナルを開発した奴らですら開かなかった…!中身を知ってるのはCC社にThe・Worldの企画を持ち込んで1人で全てをプログラムした男だ…!俺たちはほんのちょっとの手伝いをしただけの…!」

 

リコリス「その男は?」

 

アルビレオ「…会った事はない、そのゲームデザイナーは自分の仕事をおえるとベータ版の公開前に姿を消した」

 

リコリス「名前は?」

 

アルビレオ「ハロルド・ヒューイックだ…」

 

リコリス「あの人と同じなのね」

 

アルビレオ「誰だ…まさか、さっきの男か…!」

 

リコリス「モルガナ・モード・ゴン」

 

アルビレオ「…何?」

 

リコリス「それが神の名、アルビレオ、ハロルドのつくろうとしたうちなる世界に潜むもの、顕在するもの、あなたにヴォータンを授け、私を消そうとした」

 

アルビレオ「モルガナ…その存在がキミを」

 

リコリス「そう、私は母からも、父からも、誰からも望まれなかった子」

 

アルビレオ「The・Worldに顕在するモルガナ…おれは、このアルビレオはモルガナの走狗だと?では、リコリス…きみは」

 

リコリス「私はあなたではない、モルガナから逃げていた」

 

アルビレオ「…あの逆さ読みの暗号もモルガナに検知されないように…?」

 

リコリス「これが、ほんとうに最後のセグメント…最後の私のカケラ…私の、あきらめのこころ」

 

アルビレオ「…setaf.cyl…The Fates…リコリスの運命…抗いがたい運命だぞ」

 

リコリス「私はこの世界で私として生き続けたかった、でも、私はアウラにはなれない…何故ならそう名付けられなかったから」

 

アルビレオ「アウラとは…リコリス!キミを抗いがたい運命のもとに、俺を、こんな結末へと導いたモルガナとは…アウラとは…一体何者だ…俺はイベントをクリアしたのか?失敗したのか?何を得た?」

 

リコリス「あなたは私を消す」

 

アルビレオ「もう…消さなくてもいい」

 

リコリス「モルガナがわたしを消す、私が、私のようなAIがこの世界を演じる事で、そのデータの積み重ねがアウラの誕生を早めるから」

 

アルビレオ「モルガナはアウラの誕生を望んでいない…?だがリコリス!キミのような放浪AIを生み出しているのはそのモルガナではないのか!あのブラックボックスのフォルダが…!」

 

リコリス「モルガナの自己矛盾」

 

アルビレオ「矛盾…矛盾を抱えたプログラムは動かない!」

 

リコリス「極めて複雑化したシステムは矛盾を抱えたままでも動く、そして予測を裏切る」

 

アルビレオ「それは…!」

 

リコリス「でしょう?」

 

アルビレオ「それでは人間と変わらない…!」

 

リコリス「わたしは自己保存する」

 

アルビレオ「それがキミの目的か…!だから自分をセグメントに分けて逃げて、俺を利用して…」

 

リコリス「助けて欲しかっただけ…このThe・Worldの中に存在し続ける、演じながら…それが私の目的、最優先される事」ら

 

アルビレオ「ゲームのキャラクターとして、か…だから、不自由だったんだな、キミはよくルールをやぶったが…」

 

リコリス「それは、あなたのマイルールでしょう」

 

アルビレオ「……そうかもしれない」

 

リコリス「でも、私が存在する限りあなたは私を消す、モルガナが騎士団を操り、私を消す…私は諦めた」

 

アルビレオ「俺のせいなのか…?」

 

リコリス「抗いがたい運命だもの、私は試されし夢産みの失敗作…」

 

アルビレオ「ちくしょう…!」

 

リコリス「わたしは、あきらめた、だから新しい答えを考えた、私が世界に存在する為に」

 

アルビレオ「それが…きみの意思か」

 

転送のエフェクトに包まれた

 

リコリス「これが、私たちのイベントの結末」

 

 

 

 

 

Δサーバー 水の都 マク・アヌ

 

青葉「……」

 

今、私の手元には…一本の花がある

ヒガンバナ、学名は…リコリスラジアータ

 

…きっと、違ったのだろう

私は本来あの場に居なかった

私は、見てはいけないものを見て、手に入れてはいけないものを手に入れた

 

2つもだ、一つはこのヒガンバナ

そして…もう一つは、謎のアイテム…

 

とりあえずは…リアルに帰ろう、一度、話しておかなくてはならない…このヒガンバナは…きっとこの槍に惹かれたのだろう

アルビレオさんの槍に

だから、アルビレオさんに結末を語る必要がある

 

変わってしまった結末を

そして、もう一度誓おう…このゲームは良いゲームなのだから

今起きている問題は決して誰の目にも映すことないままに

私が解決して見せると

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