元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 医務室
駆逐艦 春雨
春雨「鎮痛薬です、どうぞ」
海斗「ありがとう、助かるよ」
春雨「しかしまた妙な方が来たものです、激しい頭痛…風邪ですか?」
海斗「…いや、正直に話すなら今は症状は出てないんだ」
春雨「…予防、いや、だとしたらその薬は不要だ……自殺でも考えるんじゃないでしょうね」
海斗「違う、これは対策として欲しかったんだ…The・Worldで何かが起きてる…なんて言うか、ええと…ゲームの痛みを感じる恐れがあるんだ」
春雨「……成る程」
The・Worldでのダメージをリアルに感じる、過去にあったログアウト不可の事象の際に発生した事例…
春雨「思ったより深刻みたいですね、手を貸しましょうか」
海斗「…いや…大丈夫、まだ…僕たちでやれるはずだから」
春雨「……あなたの見るべき場所は、何処なんですか」
海斗「…此処と、The・World…」
春雨「1人で2つの世界を救うなんて無謀な事を」
海斗「それが…僕の責任だ」
春雨「責任?」
海斗「この世界を産み出した、その決断をした責任は果たさなくちゃならない」
春雨「そういえばそんな事してましたね、ですが今ここにいる人たちはあなたを信じてついてきた人なんです、今の仲間にもう少し目を向けてはどうですか」
海斗「……The・Worldは…今のThe・Worldは放置すれば何が起こるかわからない、この世界を前と同じ結末にするわけにはいかないし…でも、今はできるだけみんなに目を向けてるつもりだよ」
春雨「…摩耶さんにも、ですか」
海斗「え?…知ってたの?」
春雨「部屋に入れば大抵やってますからね、何度か名前を呼んでいるのを見かけました…アケボノさんが不安を感じていたのはおそらく摩耶さんの存在が原因なんじゃないですか?」
海斗「摩耶が?」
春雨「アケボノさんを褒めてあげたらどうですか、すごいとか、そんな事じゃなくて…そう、例えば頭でも撫でてみたらどうですか?」
海斗「褒める…わかった、そうしてみるよ、ありがとう、春雨」
春雨(御礼はちゃんと言えてますし、感謝は当たり前なんでしょう、となると別方面の刺激を与えてあげて満足感を与える…果たして有効なのかな、まあ…火でも噴くか?)
春雨「それと…中部海域、迷ってるならやめたほうがいいですよ」
海斗「…ええと、誰かに聞いた?それとも…」
春雨「勘です、貴方ならアメリカの人達を帰そうとするでしょうから、賠償艦の事なんて関係なく」
海斗「…まあね、家に帰りたいとは思ってるはずだから」
春雨「でしょうね」
春雨(まあ、勘でわかるほどの仲じゃありませんけどね、相談されたから知ってるだけ、でも、倉持司令官もそれは承知のはず…)
追及してこないなら見逃してくれるという事だ
つまりは、要するに内通者がいるなんて騒ぎ立てるのが嫌なわけだ、お仲間想いの綺麗事だが、あまり放置していい問題では無いことくらい分かるはずだろう…
海斗「…そういえば、アヤナミはどう?」
春雨「…眠っています、体はまだ回復を諦めていませんから」
意外なことにも綾波さんの身体は多少マシになっていた
と言っても完治することはない、痛みが多少引いたくらいだろう…
飲食にも多大な苦痛を伴っていた綾波さんは執務室に毎日遊びに行き、お茶会を開催していた
それを一時的にやめた
熱い紅茶を飲むなんて今の綾波さんの体には耐えられない激痛を伴っていた筈だ、故に、この楽しみを取り上げる行為は仕方がなかった
春雨「起きていたら喜んでいたでしょう、綾波さんにとってお茶会は大きな意味を持っていましたから」
唯一無二の憩いの時間だ、それを奪われたとあってはたまったものではないだろう…だというのに、あれ以降綾波さんはただの一度も文句を言わない
私が綾波さんを救う事を、残された時間を有意義にする事を信じて疑わないでいてくれる
…それが私の使命なら…それに応えるまでだ
Link基地
駆逐艦 朧
朧「……ん?ラーメンの匂い…」
もう夜も遅い、晩御飯もみんな食べて、誰がこんな時間に夜食なんか…
朧「…あ」
前言撤回、2人食べてない人がいた
ビスマルク「これが…らーめん?」
綾波「ええ、と言ってもインスタント麺ですけど…」
アークロイヤル「美味しそうだ…は、ハシが良いんだよな?」
綾波「無理せず、フォークを用意してますから」
アークロイヤル「すまない、ありがとう!」
ビスマルク「あったかい…冷えた身体に沁みるわ」
綾波「喜んでいただけて良かったです、遅くまでお疲れ様でした」
朧(そう言えば2人ともコンビニバイトだっけ…深夜まで働いてるんだ…)
綾波「明日から神鷹さんもそちらでアルバイトすることになりますから、面倒を見てあげてくださいね」
アークロイヤル「明日?私は休みだな…ビスマルク、大丈夫か?」
ビスマルク「問題ないわ、やる事は大体覚えたから」
朧(…明日はアタシも時間あるし、ちょっと覗いてみようかな…)
アークロイヤル「インスタントラーメンでこんなに美味いなら店で食べたらどんな味なんだ?」
綾波「美味しいのは美味しいですが、好みによりますね…ラーメンなんて家で食べるものだという人も居ます、より好みな味のためにお金を出す人も居ますし…」
ビスマルク「日本は食文化が豊かね…」
アークロイヤル「ふう……実に美味かった…」
翌日
コンビニ
朧(結構距離あるな…この時期の夜はすごく冷えるし、大変そうだなぁ…)
コンビニの中に入る
ビスマルク「あら、朧?」
朧「や、ちょっと見に来たよ、神鷹は?」
ビスマルク「まだ学校だと思うわ、シフトの時間まであと少しあるし…」
朧「ふーん…せっかく来たし何か買って…あ、肉まんだ」
肉まん、あんまん、ピザまん…
朧「ピザまん!」
ビスマルク「…ピザまんね…」
朧「あれ?だめだった?」
ビスマルク「…いや、その…ピザと…中華まんを合わせる日本人が理解できなくて…」
朧「あ、うん、それはわかる、最初に作った人は多分おかしいと思うよ」
ビスマルク「…そうなのね、はい、ちょうど最後だったみたい」
お金を払い、ピザまんをもらう
朧「でも、美味しいから大丈夫だよ、大体は美味しければ問題ないから」
ビスマルク「…そう、なのね…」
コンビニの外に出て、冷たい風にあたりながらピザまんを頬張る
朧「んー、これこれ、冬の風物詩って感じする……あ、神鷹」
神鷹「あれ、朧さん…ご飯、ですか」
朧「んー、おやつついでに遊びに来ただけかな」
神鷹「そう、ですか…がんばります」
朧「うん、頑張っ…うわっ、大湊の!」
慌てて離れる
白露「コンビニいっちばーん!」
夕立「んー、お腹減ったっぽい!」
睦月「おでん、おでん〜♪」
朧(そっか、ここどっちかというと大湊警備府に近いから…まさか常連なんじゃ…いや、見つかっても良いんだけど…)
コンビニの中に入り、雑誌コーナーで立ち読みのふりをしながら様子を伺う
夕立「あれ?新しい人っぽい」
神鷹「a…えぁ…は、はじめ、マシて」
睦月「…外国の人?」
神鷹「ドイツから来ました…神鷹です…」
夕立「このコンビニ、外国の人多いっぽい?」
白露「しかもヨーロッパ系なの珍しいよね」
朧(…なんでLinkの事知ってるのにそこに思い当たらないんだろ)
夕立「あー!ピザまん売り切れてるっぽい!」
ビスマルク「…さっき最後の一つが売れちゃったの、次の補充までは無いから…悪いけど諦めて」
夕立「そんなぁ…これじゃ来た意味がないっぽい」
睦月「残念ですー…にゃしぃ」、
朧(なんか罪悪感が湧いてきたんだけど…)
神鷹「あ」
綾波「こんにちは、様子を見に来ましたよ」
朧(あ、綾波!?)
夕立「あ…!」
白露「綾波…!」
一瞬で2人が臨戦態勢になる
綾波「これはこれは大湊の皆さん…お元気ですか」
夕立「…がるるる」
白露「夕立、店内じゃダメだよ、外に出てから…」
他に客はいないけど…ここで戦う事になったら…
綾波「まあまあ、落ち着いてくださいよ」
夕立「無理っぽい…色々と返しが残ってるっぽい!」
白露「だからダメだって!」
夕立を白露が羽交い締めにして抑え込む
神鷹「や、やめて…!ケンカ、ダメです…!」
神鷹が夕立と綾波の間に入る
綾波「神鷹さん、無茶しないで…」
神鷹「ダメ…私、守る…絶対に…!」
夕立「退くっぽい!」
白露「あーもう!なんでこうなるの!」
朧(…そろそろために入ったほうが、良いかな…)
睦月「ストーップ!」
睦月が夕立にチョップする
睦月「夕立は話聞くと良いと思うぞよ、白露ちゃんも」
夕立「…庇うつもり?」
夕立が睦月を睨む
睦月「そうじゃなくて…うーん、前のことは前のこと…にした方が、良さそうじゃない?」
睦月がこちらに視線を送る
朧(バレてたのか…)
睦月「多分怪我すらなかっただけだしにゃ〜」
綾波「私は手を出しませんよ、もうあなた達と戦うつもりはありませんから」
夕立「信用できるわけないっぽい!」
綾波「ええ、ですので私は何をされても文句は…」
神鷹「ダメ!」
綾波「…ええと、神鷹さん、あなた勤務中なんですから…あーもう、外で話しませんか?」
神鷹「ついてく…」
綾波「神鷹さん、あなたは今働いてるんですよ?お仕事です、途中で投げ出しちゃいけません」
ごねる神鷹とそれを宥める綾波
そして眺めるアタシ達…
夕立「…やる気失せたっぽい」
白露「私も」
睦月「よーし、買い物して帰ろ?」
神鷹「……」
神鷹は綾波から決して離れず、白露達を綾波の側から監視し続ける
綾波「…神鷹さん、あなたも問題児ですね…やめてくださいよ、お仕事してくれません?」
神鷹「やだ、ママ…あ」
夕立「ま、ママ?」
白露「綾波って子持ちだったんだ…?」
ビスマルク「神鷹…怒られるわよ」
神鷹「ま、間違えました…」
綾波「……もう良いです、好きに呼んでください…」
神鷹「…ママになって、くれるんですか?」
綾波「なりませんよ…!」
夕立(な、なんか…複雑な事情っぽい?)
睦月(これ面白いから帰ったらみんなに話そっと)
睦月「あ、これください」
ビスマルク「タバコは子供には売れないわ」
睦月「ちぇっ、吸ってみたかったのに…お金ならあるぞよ!」
ビスマルク「そういう問題じゃないの」
睦月「ぐぬぬ…」
綾波「たばこは成長を阻害します、やめた方がいいですよ」
睦月「でも嫌なこと忘れられるんでしょ?」
綾波「2度と顔は見せませんから」
睦月「…いひひ、良いこと思いついた…」
綾波「はい?」
睦月「演習、しよ!相手が居なかったから困ってたんだよね」
夕立「演習?」
綾波(合法的に殴らせろってことか、まあそれなら別に…)
朧「演習なら受けても良いけど、綾波は戦わせないよ」
夕立「あ、離島の…!」
朧「今はLinkの朧、綾波は戦わせたらやり過ぎるかもしれないから、アタシ達が相手するよ」
睦月「いひひ、よいぞよいぞ!」
綾波(また勝手な……いや、しかし実戦経験は必要か…大湊が協力的なら乗るべきか?)
綾波「……ま、徳岡さんと話さないと何も始まらないか…仕事増えましたね」
綾波に睨まれた気がするけど、気にしない
白露「…じゃ、演習の時に」
夕立「覚悟しといてよね」
綾波「…駆逐艦しかいない大湊相手に誰を出せば良いんだ…?弥生さんの出撃記録はないから戦力外として、夕立さんや白露さんじゃ全く足りない…いや、通常編成を出すほうがいいか」
朧「…おーい、綾波?」
綾波「今考え事してるんですけど…と?」
バックヤードの扉が開く
佐藤「どうも、綾波さん」
綾波「ああ、佐藤太郎さん」
佐藤「佐藤一郎です」
綾波「どうせ偽名でしょう?どっちでも良いじゃないですか」
朧「…知り合い?」
綾波「えーと、ここのフランチャイズ店長でヘルバさんの最も信頼している部下ですね」
朧「…あー、黒のビトだっけ」
綾波「ええ、佐藤さんも有名になりましたね」
佐藤「…有名になっては困るのですが」
綾波「まあ、それより…神鷹さんまで雇っていただいてありがとうございます」
佐藤「いえいえ、こちらも助かりますから…ヘルバ様も貴方に協力するためとはいえ無茶を仰る」
綾波「コンビニ一つ好きにするなんて簡単な話でしょう?」
佐藤「組織としては、ですが…私はこういった仕事の経験はないもので」
綾波「いい社会勉強になりますね、履歴書に書けますよ?」
佐藤「骨を埋めるところは決めていますので」
綾波「あら、もったいない」
神鷹「…店長さん、ママと仲悪い…?」
朧(あ、遠慮なく呼ぶんだ…)
佐藤「ま、ママ?」
綾波「…娘じゃないですよ、なんか勝手に懐いてるだけです」
佐藤「…そうですか…しかし、今のあなたはまるで…」
佐藤さんのそばの商品棚が歪む
綾波「…地震でしょうか、その棚が勝手に壊れましたね」
佐藤「その様だ、おっと、何を言いかけたか忘れてしまった」
綾波「思い出さない事をお勧めしましょう、それでは私はこれで」
ビスマルク「ま、また来ても良いけど…喧嘩はしないで」
綾波「ええ、喧嘩を売る様な行為はしませんよ」
神鷹「…バイバイ」
綾波「はい、帰ってきたらすぐ食事を摂れるようにしておきますから…朧さん、帰りますよ」
朧「…あーい…」