元勇者提督   作:無し

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意思決定

Link基地

綾波 

 

綾波「狭霧さん、データはまとまりましたか?」

 

狭霧「はい…でも、何もゲンコツ落とすことないじゃないですか…」

 

狭霧が見せつけるように頭をさすりながらこちらを見る

 

綾波「…別にメンタルケアをするのはいいんですよ、時間をかけ過ぎです、何時間あのままだったんですか」

 

狭霧「はーい……羨ましいのならそう言えばいいのに」

 

綾波「何か勘違いしてませんかあなた…」

 

頭痛のタネが増えてしまったらしい、目頭を強く摘む

 

狭霧「寝てないんじゃないですか?一度お休みになられては?」

 

綾波「……やめておきます、今日は嫌な風が吹いています、何か起きてからじゃ遅い、対応できるようにしないと」

 

朧さん達が命からがら逃げきったおかげでこの基地のだいたいの場所は割れているだろう、いつ何が襲ってきてもおかしくないのだ

 

綾波「…それと…ええと…ああ、もうどうすれば…」

 

狭霧「まずは落ち着いて、結末から考えましょう?」

 

綾波「結末なんて決まっています、艦娘システムの完全撤廃、深海棲艦の完全削除、そして…Cubiaによるリアルへの被害を完全にシャットアウトする…次のネットワーククライシスで全てを終わらせる…!」

 

狭霧「なら、やらなきゃいけないことは決まってますよね?」

 

綾波「…ええ、もちろん…わかっています、しかし…」

 

どうする?戦争だ、戦争のやり方は知っている…

簡単じゃない、敵は二分された国だ

 

綾波「……最悪ですね、まさか私が頭を悩ませなくてはならないとは…それほど強大な相手に被害なしで戦い続けるには…」

 

研究資料を眺める

 

綾波「……これが、科学…か」

 

破滅の道だ

この道の先に人類の存続などない、数年もすれば世界は終わり、この星は死の惑星になるのだろう

まさに破滅だ、自分の首を絞めていることにも気づいていない

 

理解できないのだろう、御せる範囲を超えた力を持つとどうなるかを身をもって知らぬ限り

 

自分の創り出したものは自分の思い通りになる

浅はかな思い込みだ、何を根拠にそんな事を…

 

綾波「……どうする、か」

 

このデータは戦争のデータだ

他国に協力を要請するにも…人間というのはどこまでも愚かだ、制御できないならできるようにすればいいと考え、自国のためにその技術を使おうとするものも現れるだろう

 

メリットもデメリットも…何もかもを度外視する輩はいる

 

全て、私たちだけで処理しなくてはならない

 

目頭をつまむ力を強くする

頭痛がマシになる気がした

 

この戦争は私たちだけの戦争

何もかもを失うとしても、どんな結末が待っていても

誰も巻き込みたくない、本当なら、Linkなんて無い方がいいんだ

でも、今、海を支配する存在があるなら…私達はそれを打ち砕かなくてはならない、それがなんであれ…正しくないのなら

 

どんな犠牲を出したとしても…?

 

狭霧「綾波さん」

 

狭霧に肩を叩かれてハッとする

 

綾波「…なんですか」

 

狭霧「お茶にしましょう、少し休まないといざという時に疲れて倒れてしまいます」

 

綾波「…そうですね…ええ、いただきます」

 

狭霧に手を引かれ、椅子に座らせられる

お茶とお菓子、今は何時だったかもわからないが…物音ひとつしない事、そしてこの空気感から夜なのが伝わってくる

 

綾波「…熱っ!」

 

狭霧「あれ?猫舌でしたか?」

 

綾波「違いますけど…緑茶を沸騰したお湯で淹れる人がどこに居ますか…!必要以上に渋味が出るでしょう…?」

 

狭霧「私はこのくらいが好みなんです」

 

…そうだ、私と狭霧は別人だ

好みも違う

 

狭霧「綾波さん」

 

綾波「……」

 

狭霧「2人です、2人いれば充分です…確かに道中は2人では苦しいですが…ある程度進めば、私たちで事足りる筈です」

 

……

良く似てしまった

 

ただの姉妹艦であれば、迷う事もないのに

狭霧の意図を理解する事もないのに

 

綾波(…狭霧が朧さんに構ってたのは悔いを残したくないからか…察しが良すぎるな…)

 

綾波「…かも、しれませんね」

 

そうだ、万物は朽ちて消える

だから、失う事自体を恐れてるわけじゃない

私のせいで失うという事を恐れているのだ

 

狭霧「余計なことは考えないで…私は、綾波さん、貴方と一緒に…」

 

綾波「……最高なのは、2人とも生き残ることですね」

 

綾波(その次くらいに…狭霧だけでも残す事……ああ、本当に良く似てしまった、なんでこんなに死にたがりなのか…)

 

クツクツと自嘲気味に笑う

隠し事なんてできるわけがない、私の考えている事なんて丸々筒抜けだ

 

……やりにくいなぁ…

 

綾波「とりあえず、注意喚起が必要です…各基地に本部からの通達を装って書類を回しましょう…」

 

狭霧「できますか?私がやりましょうか」

 

綾波「……いいえ、私がやります、貴方も疲れてるんでしょう…?」

 

狭霧「いいえ、それと…綾波さんが考え事をしている間にサンプルを一つ解体完了しました」

 

綾波「サンプル?……アレか!」

 

Link初作戦の時朧さんがたまたま持って帰ってきた深海棲艦もどき…

 

狭霧「人間の意識を取り出すことには成功、しかし…体は復元不可能です、その……進行し過ぎています」

 

綾波「…クローンの作成装置は?」

 

狭霧「残してますよ♪」

 

…なんとまあ、予測済みというような笑顔に若干の苛立ちを感じつつ、感謝の言葉を述べる

 

綾波「写真などは入手します、できる限り復元してあげてください…それと、4人分のパスポート、あとウォースパイトさんに連絡を…」

 

狭霧「わかりました、イギリスに家族と逃してあげるんですね」

 

綾波「…クローンの体で逃すのは…正直、思うところもありますが…」

 

狭霧「綾波さん」

 

綾波「ん?」

 

狭霧がそばに近寄ってきて私を抱きしめる

 

綾波「…やめてくれません?」

 

狭霧「みんな貴方を認めてくれる、だけどそれは尊敬です、貴方を対等に認められるのは私だけ」

 

綾波「離してください、気持ち悪い」

 

狭霧「照れ隠しする時強い言葉を使う癖、出てますよ」

 

綾波「…本当にやめて欲しいんですけど…」

 

狭霧「あと少しだけお願いします、お姉ちゃん」

 

綾波「…はぁ…」

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府

提督 倉持海斗

 

海斗「この書類コピーして配ってくれる?みんなに読むように連絡して欲しいんだ」

 

アケボノ「わかりました」

 

…全身を包み隠した、仮面をつけた艦娘のような敵

深海棲艦なのか艦娘なのかわからない敵…

撃破すると溶けるように海に消えてしまい、何の情報も得られないそうだ

 

太平洋側の海域での目撃が報告されている以上、いずれ僕達も出会うことになるだろう…

 

海斗「…無事だといいけど、綾波も朧も…」

 

今の僕には何ができるのだろうか

中部海域に出撃するリスクはこの報告で跳ね上がった

しかしリスクを避け続けることは容易じゃない…

戦力の拡充が必要だ、それだけじゃ足りないけど…

 

明石「失礼します!」

 

海斗「あ、明石、どうしたの?」

 

明石「…これ、見てください」

 

艤装用カートリッジ…

明石が開発したものだ

だけど、少し違うような…

 

海斗「これは?」

 

明石「……カートリッジの改良品です、ヨーロッパを中心に出回り始めたみたいで…その、情報が漏れてます」

 

海斗(…いや、多分綾波だ、綾波が見真似で作ったんだ…)

 

海斗「…ヨーロッパか………あ、そうだ」

 

明石「…提督?」

 

ヨーロッパ方面に侵攻して海域を解放すれば…直接アメリカと一緒に動くのは難しい、それはわかってる…

アメリカの東側の海域を解放すればどうだろう

 

アメリカの部隊と協力して中部海域の攻略を二正面作戦にできるんじゃ…

 

簡単じゃないけど、これなら…もっといろんな人たちと協力しながらやればリスクも削れる…

 

海斗「…いけるかもしれない…」

 

机上の空論だ、だけど…

今までの現実的な話よりこの絵空事に賭けてみたい

 

海斗「明石、艤装の強化をお願いできる?」

 

明石「えっ?」

 

海斗「ここからの作戦では…カートリッジでもなんでもいい、とにかく航続距離とか火力とか、色々なものを底上げしなきゃいけなくなる」

 

無茶を言っているのはわかってるが、そうする他ない

 

明石「……資材の方は」

 

海斗「今から横須賀に行ってくる、直接掛け合ってくるよ」

 

明石「…でしたら、私も行きます」

 

海斗「え?」

 

明石「横須賀の設備を借りられれば、夕張の手を借りられればきっとより良い装備を作れます、今の所大破率も低いし艤装の修理ならキタカミさんやアケボノさんもやってくれますし…と言うか、2人が暇だからとやってるせいで仕事が無くなってて…」

 

海斗「そうなの…?」

 

明石「キタカミさんが居座るせいで託児所状態ですね…朝霜さん達や択捉さん達も危なくない範囲で遊んでますし…その、最近はオモチャ作ったりとかしてましたし…」

 

海斗「…なら、悪いけどキタカミとは話をつけておいて欲しい、僕は別にやらなきゃいけないことがあるんだ」

 

航路はどうする、陸路を使う?…いや、それでは意味がない

敢えて安全じゃない道を通ることで…証明するんだ、みんなの強さを…そして、協力を取り付ける…

 

その為には…

 

全て順調にいくわけがない、必ず何かが失敗する

だからその対策をするのが僕の仕事…

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

 

海斗「時間を作ってくれてありがとう、昨日メールで送った通りなんだけど、もう読んでくれたかな」

 

火野「…何も直接来る必要はなかった筈だろう」

 

海斗「直接、2人に会って話したかったから…作戦を遂行するために、できるだけの対策をする為に」

 

火野「……もう1人はまだだ、そもそも、本当に来るのか…」

 

海斗「いや、もう来てるみたいだ」

 

扉が開く

 

綾波「どうも、遅れまして申し訳ありません、倉持司令官、火野提督、お久しぶりです」

 

海斗「来てくれてありがとう、綾波」

 

綾波「まさか…また正面から入れる日が来るとは思ってませんでしたが?」

 

火野「…急な招集に応えてくれて感謝する」

 

海斗「綾波、君の無事が確認できて良かったよ」

 

綾波「……その程度のことのために呼びつけたんですか?」

 

海斗「そうじゃない、作戦に協力して欲しいんだ…君と朧なら…」

 

綾波「それはお断りします、私も仕事を抱えておりますので」

 

火野「仕事だと?」

 

綾波「……ヘルバさんから何も聞いてませんか」

 

海斗「全く、だけど…わかった、君達が無理ならそれはそれで仕方ないよ、でも…その」

 

綾波「……なんですか」

 

海斗「アドバイザーになって欲しいんだ、これ、今やろうとしている作戦概要」

 

綾波(…長期間の出撃予定だ、南西海域…フィリピン周辺の海域の確保の後西方と南方を確保、そのままスエズから欧州に向かうのか…これは…つまり、アメリカを挟み込む形になる)

 

海斗「アメリカが東を気にせず、西に戦力をさいてくれれば…太平洋を確保する事も不可能じゃないと思うんだ」

 

綾波「……成る程、理解はできましたが…海を通る理由は?ロシアを経由して最短期間で通過する方法もあるのでは?この作戦では一年はかかる」

 

海斗「…協力して欲しいと思ったんだ、色んな国に…その為には、僕達は強く在る必要がある…深海棲艦に負けない強さを見せなきゃいけない」

 

綾波「その為に、何人犠牲になるんですか」

 

海斗「……わからない、だけど…犠牲を出すつもりはない」

 

綾波「敵は未知数だ、常勝できるかもわからないのに…何故犠牲が出ないと思えるんですか」

 

海斗「…できる限りのことをやるしか、ないんだ…このままじっとしてても何も変わらないんだ」

 

綾波「……でしょうね、それで?」

 

海斗「犠牲をださないための対策を…教えてほしい、僕にできる限りのことはする、だけど…それだけじゃ足りないんだ」

 

綾波「愚かですね、私に頭を下げるんですか?」

 

海斗「…できる限りのことは何でもやる」

 

綾波「……良いでしょう、倉持司令官、現実の厳しさをよーく知ると良い、誰かが犠牲にならなければ成立しないんです、戦争なんてものは…片方が犠牲にならなければね」

 

綾波がため息を吐く

 

綾波「あなたがなりなさい、戦争の犠牲者に」

 

海斗「……」

 

綾波「ふたつにひとつです、リアルの仲間か、ネットの仲間か…10やそこらの数字か、少し増えれば50に届きそうな数字か…選びなさい」

 

海斗「…それじゃ何も変わらない、前と同じだ」

 

前の世界で、それを選んだ結果が今なんだ

 

海斗「両方を…救うんだ、多いとか少ないとか、そんなのじゃなくて、犠牲を出さない為に戦うんだ」

 

綾波「…やり切る覚悟は」

 

海斗「あるよ」

 

綾波「……もう再誕はナシですよ」

 

海斗「世界の再構築は考えてない」

 

綾波(…なら、上手くいくかもしれない…)

 

綾波「わかりました、では…戦力を強化する期間が必要です、お互いにね……火野さん、横須賀の財布の紐は?」

 

火野「…電だ」

 

綾波「うっっわ……何とか口説き落としてくださいよ?演習強化週間を設けます、とにかく対人戦に慣れさせてください」

 

海斗「対人…ってことは、あの仮面の敵?」

 

綾波「私の読みでは…時間をかけるだけ増えます、良いですか、強くしてください、そうしなくては生き残れない」

 

火野「…そうだろうな」

 

綾波「元凶だけを叩いても何も変わらない、殲滅する役目を果たさなくてはならない…となると…アハッ…楽しくなってきましたね」

 

海斗「…元凶は把握してるの?」

 

綾波「Cubia、そして…サイバーコネクト社…全部敵です、倉持司令官、あなたはCubiaを」

 

海斗「…わかってる、クビアは僕が何とかする」

 

綾波「…戦力を強化する期間はどのくらい…いや、2ヶ月使いましょう、新型艤装を用意します、火野さん、資材だけじゃ足りません」

 

火野「…わかった、話は私がつけるとしよう」

 

綾波「私は夕張さんと話をつけてきます、あ…もしかして明石さんも居ます?」

 

海斗「え、うん…」

 

綾波「よし…!最良です、最高ですよ…!良いですか、倉持司令官、火野提督、まずは南西海域、フィリピンを目指してください、佐世保と協力してフィリピンです、この辺りの敵は弱い、2週間あれば完全に駆逐できるでしょう」

 

海斗「わかった」

 

綾波「火野提督、重い腰を上げる時ですよ」

 

火野「わかっている」

 

綾波「最新式のカートリッジを用意します、一週間下さい、それと電さんには明日手土産を持ってくるとだけお伝えください!それでは!」

 

綾波(アレを渡そう、意識をリンクさせやすい…アレだ、電さんはそれで懐柔できる…カートリッジは…2人がいれば大丈夫)

 

火野「…行ったか」

 

海斗「……綾波、頑張ってるね」

 

火野「……」

 

海斗「…できれば、綾波をウチで受け入れたかったんだけど…」

 

火野「無理だろう」

 

海斗「だよね…」

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