元勇者提督   作:無し

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不慮

大湊警備府

綾波

 

綾波「は?…泊まらせて欲しい?正気ですか?」

 

神通「非常識だとは思ってるんですが…その…姉さんが…」

 

那珂「夜は出歩かないって聞かなくて…大湊は断られたし…その…海路で来てるんだけど、夜の海は死んでも渡りたくないって…」

 

綾波(夜が嫌いとは聞いていましたが…)

 

綾波「川内型って確か夜戦装備も充実してましたよね、他所の基地の川内型なんて夜が好きで狂ったとか聞いてますけど」

 

神通「その…お恥ずかしながらウチはそうはいかなくて…」

 

綾波「……雑魚寝になりますけど、いいですか?10人分も布団の予備はありません、毛布なら用意できますけど…あ、病床も使えばギリギリ…」

 

那珂「え?いいの?」

 

綾波「…まあ、いいですよ、ちなみにその川内さんは?」

 

神通「明るい部屋で抵抗してます、夜なのに外に出たくないと…」

 

綾波「ハハハ、筋金入りですね……朧さんを迎えに出します、私は…」

 

2人の奥にいる人間に視線をやる

 

神通「電さん…?」

 

那珂「来てたんだ…横須賀は演習の予定なかったのに?」

 

綾波「私が、呼んだんです…今の我々の力を開示しておく事は…まあ、私たちのメリットとしては…メリットありませんね、あららあ」

 

神通「なんですかそれ」

 

電「目的は、戦力開示をして敵対の意思は無いことを伝えるという大きな目的があるはずなのです」

 

綾波「ええ、どうですか?思ったより弱かったですか?」

 

電「こんなお遊びで戦力が測れるわけがないのです、何より貴方は力を封じている」

 

綾波「まあ、そうかもしれませんね…でも、お遊びとも限りませんよ?私達はそれなりに真剣に取り組んでいましたから…どうです?良いデータは得られましたか」

 

電「…綾波さん、新型艤装はいつになるのですか」

 

綾波「話を逸らさないでくださいよ、じっと見てたでしょう?Linkを、そして私を…Linkは素晴らしい部隊です、呉は全員が個人を尊重することを知っているから自然と連携が成立する稀な例ですが…Linkは最初から連携に必要な考え方を擦り込みます」

 

電「…何が言いたいのですか」

 

綾波「分かっているはずです、逃がしはしません」

 

電「……綾波さん、横須賀は…」

 

綾波「私の話は、今していませんよ」

 

電「我々は、貴方を雇っても良いと言っているのですよ」

 

綾波「お断りします」

 

電「…何故なのですか」

 

綾波「私がこの国を心の底から嫌っているからです、嫌悪しています、あなたたちに仕える?冗談じゃない、吐き気がする」

 

神通「何故そんなに…」

 

綾波「苦しめられたからですよ、この国に、私は苦しめられたからこの国が嫌い、それだけです、何かおかしい事でも?」

 

電「…やはり、貴方が初期段階の艤装の開発に関わっていたのですね」

 

那珂「初期段階?」

 

電「綾波さんと敷波さんは倉持司令官が横須賀で保護したのです、その際の扱いの酷さは聞いているのです」

 

綾波「懐かしいですねぇ、ええ、艤装が運用可能になった頃、私は精神崩壊を起こして独房に放り込まれ、役に立たないので実験段階の艦娘候補として宿毛に引き渡されたんですよ…思い出すのも忌々しい」

 

良い記憶ではない

あのときの私は間違いようもなく壊れていた、だから…何もできなかった

そのつもりになればなんだってできた、誰だって殺せたのに…私はそれをしなかった、自分は…救われたかった、強烈な恐怖に襲われて…辛くなって…

 

綾波「…私の黒歴史を掘り返して何のつもりですか?」

 

電「自分から喋っておいていいますか?」

 

綾波「喋らせた様なものでしょう?それとも、もっと事細かに話しましょうか…私のか細い腕に何が守れたのか、とか」

 

電「胸糞話は聞きたくないのです、それにもう復讐は果たしたのでしょう?」

 

綾波「そうですね、しかし復讐と私がこの国を嫌うことに何の関係もありません、許せないものは許せない、嫌いなものは嫌いです」

 

電「意外と子供っぽいことを言うのですね」

 

綾波「子供ですから、実年齢16歳のうら若き高校一年生…のはずなんですけどね、何の因果か…2度、3度と死にましたので、このボディは0歳です」

 

電「…世間話はやめましょう、貴方が国を恨んであるのはわかりました、でも私達は違うのです」

 

綾波「お断りです」

 

電「何故ですか…資金に困っているのも知っています、横須賀に来ればそんな心配…」

 

綾波「私は私にしか従わない、これが私の意思である限り、それを曲げられるのも私だけ」

 

電「そんなくだらない事で不意にするつもりなのですか…?」

 

綾波「わかりあうつもりなんてありません、しかし人の思想をくだらないと言うのはやめた方がいい…」

 

電さんに近寄る

 

綾波「良い子なんですから、ね?お嬢ちゃん」

 

頭に手を置き、ニッコリ笑う

 

電「……」

 

綾波「私は賢いフリをしたバカは嫌いです、あなたがそうかは知りませんが…あー…電さん、火野提督にこうお伝えください、私は走狗になるつもりも、汚れ仕事を請け負うつもりもありません、ましてやLinkは人殺しの集団なんかじゃない」

 

神通(自分は暗殺の手段を使うのに…)

 

綾波「Linkは清い組織である必要があるんですよ」

 

電「清い?」

 

綾波「表向きではなく、本当に清い組織でなくてはならない…それが私の責任です」

 

電「……まるで、その後を見据えたかの様な発言なのです…自分のいない後を見ているかの様な」

 

綾波「さあ?私のこだわりというだけですよ」

 

神通「…なるほど、正常な組織である必要…艦娘の様な武力を持った存在ならその経歴は執拗に洗われる…そのとき殺人や…何らかの悪事を働いてきた経歴が出て来れば社会復帰がまともにできないから?」

 

那珂「つまり…Linkの子達の為に汚れ仕事はやりたくないって事?」

 

綾波「思い込むのは勝手です、私はこだわりだと言いましたよ」

 

神通「…中々、いじらしい人なんですね」

 

綾波「…そういうのウザイです…」

 

那珂「なんかー…意外」

 

綾波「勝手な思い込みで意外とは心外ですよ…おや、青葉さん」

 

青葉「居た、綾波さん!ちょっと来てください!」

 

綾波「え?」

 

 

 

 

 

綾波「……これは」

 

青葉「病院には連絡しました、多分すぐに救急車が来ます」

 

大湊警備府は何人かで1組の部屋になる

だから、発見が早かった…はずだ

 

綾波「…砂嵐の画面、落っこちたコントローラーに…FMD…」

 

青葉「The・Worldプレイ中に意識不明になったんだと…思います」

 

弥生さんは自分のスペースを確保する為にカーテンで仕切りを作っていた、その中でゲームをプレイしていた様だ

 

青葉「睦月さん達の話だと…弥生さんはかなり凄腕のプレイヤーで…The・Worldに詳しいそうでした、だからお話を聞きにきたら…その」

 

綾波「そうですか」

 

正直どうでも良い、脈はあるし、特に問題視するべきところは…

 

綾波(あまりにも色白なのは…外に出ないからだろう…だけど……細過ぎる、ちゃんと食事をしてるのか…?)

 

触診する限り、本当に…

 

綾波「……徳岡さんは?」

 

青葉「睦月さん達を宥めてます、医療の知識がない自分がいても邪魔だろうと」

 

綾波「…ほんとうにThe・Worldのせいですか?これは…ただの栄養失調ともとれる…こんなもの…ああもう、苛々する…!」

 

自分の部下の面倒も見られないのか…!

 

 

 

病院に運ばれた弥生さんは栄養失調と判断された

しかし、それは現状目を覚まさない理由が、だ

…このまま明日も、明後日も目を覚さなければ?

 

綾波「…徳岡さん、少し良いですか」

 

徳岡「…ああ、わかってる」

 

綾波「……すごく単刀直入に言いますが…あなた、人を見る立場には向いていませんよ、弥生さんの引きこもりは何週間も前から、そして食事の時間にもろくに出てこなかったそうじゃないですか、何で放置したんですか」

 

徳岡「……」

 

綾波「何か言ったらどうなんですか」

 

徳岡「…返す言葉もない」

 

綾波「慕われるだけが上に立つものの役目じゃないんですよ…弥生さんは1人で何をしていたんですか?」

 

徳岡「……本人からは聞けてない…睦月からは、The・Worldをプレイしてるとしか」

 

綾波「…これが未帰還者、つまり…黄昏事件の再来を意味しているなら…」

 

徳岡「……やれる事は、何でもやる」

 

綾波「当然です、当たり前だ…そんなこと言ってるんじゃないんですよ、今すぐCC社のシステム管理者のパソコン全部クラッキングして主導権を奪うかを悩んでいるんです…!何も解決しませんが、被害者は増えない」

 

頭を悩ませるのは、疲れる…

 

 

 

 

 

青葉

 

青葉「…すごく怒ってますね、自分は何も関係ないのに」

 

渡会「徳岡さんがあんな風になるのは初めて見た…」

 

瑞鶴「そういえば知り合いだっけ」

 

渡会「会社時代の上司と部下だ……その…かなり昔の話だが」

 

瑞鶴「あんまり良い思い出ないの?」

 

渡会「…良くも悪くも、だな…」

 

青葉「何があったんですか?」

 

渡会「俺は…というか俺たちは元々CC社にいたんだが、その時は日本語版The・Worldの移植の真っ最中、たまたま徳岡さんのチームに配属された…食事はいつもバーガーとコーラとフライドポテト…よくお使いに行かされた」

 

瑞鶴「お昼だけでも毎食ファストフードはしんどいかも…」

 

渡会「…昼か…昼だけじゃなかった…」

 

青葉(胃もたれしそう…)

 

渡会「ゲームの制作現場に当時はタイムカードなんてなかった、徳岡タイムってのがあって、徳岡さんが床に敷いた毛布から出てきたら朝、飯を食いに出たら昼、飲みに行ったら夜なんだ…リアルの時間から置き去りになって、徳岡タイムで暮らしていた」

 

青葉「絶対体壊しますよね、そんなの…」

 

渡会「んなもん壊してる暇もない、完全休日は42度の熱出してぶっ倒れて…救急車で運ばれた3日間だけだった…」

 

瑞鶴「思ったより壮絶…」

 

渡会「……徳岡さん、ガラムってインドネシアかどっかの甘ったるいタバコ吸っててな」

 

瑞鶴「ゲーム会社ってタバコ吸って良いの?」

 

渡会「完全禁煙だった、でもそんなクレームつける勇者はいなかった、一週間くらい人前に出られない顔になっても良いなら別だが」

 

青葉(形変わるまで殴ったってこと…!?)

 

渡会「そのタバコ、缶に入ってて…36本入りの缶入りタバコ、見たことあるか?タール42ミリ、ニコチン1.8ミリだって」

 

瑞鶴「…うわっ、普通のタバコはタールは19ミリグラム、ニコチンは1.0って…ほぼ倍じゃん…」

 

渡会「あのタバコの臭いは脳味噌に焼き付いてる、火をつけるとパチパチ燃える音がして、甘ったるい匂いが充満して…新品のパソコンが1ヶ月でヤニ色…春夏秋冬アロハシャツ着て、寒ければスカジャン羽織って、泥みたいに濃いインスタントコーヒーがぶ飲みして、ハードロックガンガン聞きながら仕事してた……確か、ジミ・ヘンとか言ったか」

 

青葉(よく、ここの駆逐の子と仲良くやれてるなぁ…)

 

渡会「…現場の作業環境のためなら徳岡さんはどんな偉いさんともガチンコでやりあってた、決して仕事で楽をしようとはしなくて、部下にも厳しかったが、誰より自分に厳しい人だった、だから、やる気のある奴はついていったし、ない奴はみんなやめた」

 

瑞鶴「…一昔前の、今でいうブラック企業の社風みたい」

 

渡会「そうか?…いや、そうなんだろうな、だけど…それでも、俺は尊敬してるよ……だから、庇うわけじゃないが…今回のことは仕方のない事故に見える」

 

青葉「……私もそう思います、弥生さんは…なんらかの悪意に晒され…あ、あれ?」

 

いつの間にか、大湊の駆逐の子達が…

 

白露「提督ってそんな怖かったの…?」

 

渡会「いや…まあ、昔の話で…」

 

睦月「…みんなにも教えてあげなきゃ、提督の昔話聞けるって!」

 

青葉「や、弥生さんについてなくて良いんですか?」

 

睦月「面会謝絶らしいにゃ、だからみんなが心配しなくて良い様に、もっと昔話教えて?」

 

渡会「…いや…」

 

瑞鶴「…人前に出られない顔になる?」

 

渡会「多分…1ヶ月くらいは」

 

青葉「……渡会さん」

 

渡会「ん?」

 

青葉「…The・Worldを作ってくれて、ありがとうございます、それと…今までお世話なりました」

 

瑞鶴「へ?何言ってんの?」

 

青葉「私、佐世保は離れます、もう秋雲さんも帰ってきてますし…次は、弥生さんを助けたいと思ったんです…The・Worldが誰かの悪意で…"いいゲーム"じゃなくならない様に」

 

渡会「…それは……わかった、元々俺に止める資格はない、今までありがとう」

 

青葉「こちらこそ、ありがとうございました…なつめさんにも連絡しないと…」

 

瑞鶴「それはそうと、寝泊まりはどこでするの?というかそれこそ佐世保からアクセスすれば良いんじゃ…」

 

綾波「Linkに空き部屋があります、お貸ししましょう」

 

青葉「ひゃあ!?」

 

渡会「は、話は終わってたのか…じゃあ…」

 

徳岡「ああ、ちゃーんと聞いてた、一から百までな…ったく、余計な事言うんじゃねえよ…」

 

睦月「お、司令官殿ボコボコにするの?」

 

徳岡「しねえよ!たかが昔話でそんな事するか!」

 

渡会「…徳岡さん、聞いてたなら把握してるとは思いますが」

 

徳岡「…ああ……どの道、今のThe・Worldなんて俺にはわかんねえ事ばっかだ…ホントにThe・Worldのせいなのか、それとも栄養失調なのかもわかってない…」

 

青葉(あ、そっか…ただの栄養失調なら私行くあてを失うだけだ)

 

綾波「いいえ、データログの解析をさせていたのですが…どうやら、不明なPCとの接触後、キルされたようです」

 

白露「PKで意識不明になるって事…?そんな話聞いた事…」

 

睦月「いや、ある…確かオバケのキャラにやられて意識不明になるって話…」

 

徳岡「…モンスターじゃなくて、か」

 

綾波「The・World内のPKでリアルの意識を奪う……詳しい人が居ます、青葉さん、ついてきてください」

 

青葉「…わかりました」

 

シックザールとの契約内容には、未帰還者たちの回復も含まれてる、これも業務の範囲内…多分

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