元勇者提督   作:無し

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怪メール

離島鎮守府

提督 倉持海斗

 

海斗「南西海域への初出撃はどうだった?」

 

加賀「ダメですね、外務省が協力を取り付けたというのに補給もままなりませんでした、私たちが事前に用意した復路の燃料が無ければどうなっていたか」

 

翔鶴「それと、強くはないですが敵の数が非常に多いです、3日という短期間でしたが、危ない場面もかなりありましたし…駆逐隊による殲滅を一度するべきでは…」

 

加賀「何でもいいけれど、向こうは物量だけはあります、どんなに腕が良くてもあの場所じゃ艦載機は飛ばせません」

 

海斗「加賀にそこまで言わせるほどの量か…」

 

アケボノ「…成る程、航空写真で確認できる限り……海を埋め尽くすほどというのはまさにこのことでしょう…統率も取れていなさそうですね」

 

加賀「そうね、だから漣達も戦果は高いわ、撃破数が二桁後半に行かなかった子は居ないんじゃないかしら」

 

アケボノ「…正直、サバを読んでいるのかと思えますけどね…しかし駆逐級が多い…」

 

パソコンから電子音が鳴る

 

海斗(メールか…あの音は執務用のアドレスだから…摩耶ではない、本部はメールなんてほとんど送らないし…誰だろう)

 

加賀「そんなにパソコンが気になるなら確認したらどうですか」

 

海斗「そうさせてもらうよ、多分拓海だ、南西海域についての報告の催促だと思う」

 

アケボノ「でしたら、私も一応目を通させてください」

 

海斗「構わないよ…あれ」

 

差出人は不明…?

 

アケボノ「差出人がわからないか…ウイルスメールの可能性もありますね…いや、しかし…南西海域について?」

 

海斗「その時はその時だよ、ええと…」

 

差出人:Unknown

件名 :南西海域について

 

[南西海域での戦果につきましては御祝いのお言葉を。

しかし、問題はここからです、死とはシステムの循環のためのスイッチに過ぎません、ここからが問題なのです。

深海棲艦の進化について調べましたが、どうにも低級の深海棲艦は死する度に進化する傾向にあるようです。

つまり何が言いたいのかと言えば、今回の戦果により、南西海域の深海棲艦はより強力なものに進化していきます。

最初の出撃は駆逐艦と巡洋艦による殲滅、小規模の海域の確保を提案します。

もしくは駆逐艦を減らし、重雷装艦を多く編成することによる本格的な掃討を。

今回の作戦エリアであった南シナ海からスールー海域につきましてはそれで対応の程、お願い致します。]

 

海斗(絶対綾波だ…)

 

アケボノ(耳が早すぎるな、ふざけたマネを…だが、そうか…死ぬ度に強くなるか…)

 

加賀「どうかしたの、2人とも…目を皿にしてパソコンに食らい付いて」

 

翔鶴「そんなに面白い内容なんですか?」

 

海斗「…いや、面白いというよりは…参考になる、かな…」

 

アケボノ「…提督、まさかこれを使うつもりですか?」

 

海斗「うん、もしかしたら有効なんじゃないかって思うんだ」

 

アケボノ「……前者の手段しか取れませんが」

 

海斗「いや、両方の手段に手を出せるよ、呉と協力すれば重雷装艦は事足りる…さて、どうしたものかな」

 

加賀「重雷装艦というと、球磨型ですか」

 

翔鶴「…空母の出番は有りますか?」

 

海斗「いや、今は様子見かな…」

 

翔鶴「…やはり私達は偵察以外に役目がないんですね…」

 

海斗「いや、そんな事は…」

 

加賀「空母に対する待遇改善を求めます」

 

アケボノ「深海棲艦に対しては一定の戦果を挙げられているじゃないですか」

 

加賀「……演習の度に如何に楽しく撃墜するかのコンテストをやめさせてください、というか、やめてください」

 

アケボノ「次は右翼の先端を全て撃ち抜かせますので、対策しておくように」

 

加賀「…貴方とキタカミさんの所為で駆逐艦の子達の対空練度が跳ね上がっています、演習の度に艦載機を全滅させられる所為で使える艦載機は型の古くて安いものになるし…」

 

翔鶴「終いには観戦してるアメリカの人達に帰り際に「弱っ」って…」

 

アケボノ(絶対アトランタさんだな)

 

加賀「…同じ空母のガンビアベイさんには私たちの実力を理解してもらえるので、仲良くはできてますが…」

 

翔鶴「あー、もっと良い装備があれば…」

 

海斗「ご、ごめん…でも、予算の都合上…」

 

加賀「そうですね、落とされ続ける空母に捻出する予算はありませんね」

 

アケボノ「ええ、全くです、発艦した艦載機と同じ数の弾丸しか消耗しない対空射撃よりはコストが高すぎるものですから」

 

加賀「………」

 

アケボノ「教育が行き届いておらずすみません、ちゃんと翼の先端だけ撃ち抜けば回収して再利用できるものを、皆さんまだ技術が不完全故に中心を撃ち抜いて完全破壊してしまうもので」

 

海斗「あー…アケボノ?」

 

加賀「嫌味を聞きたい訳では無かったのですが」

 

アケボノ「加賀さんは現状の自分に不満がなさそうでしたから、やる気のある他の艦種に手も足も出ないから、と自分は悪くないと考えている様では…翔鶴さんにまで悪影響ですよ」

 

加賀「……そうですか」

 

アケボノ「瑞鶴さんが見たら鼻で笑われるでしょう、もっと鍛錬を積んでください、赤城さんの様に」

 

加賀「赤城さんも演習で全機撃墜されています」

 

アケボノ「私達は地蔵を求めているのではないんですよ、加賀さんは艦載機を飛ばして動かす事だけが仕事だと勘違いしていませんか?」

 

加賀「…そんな事は…」

 

アケボノ「ではわかっていて、他の仕事を怠っている事になります、最近艦隊でリーダーの立場になりやすい阿武隈さんに甘えていたのでは?今回の出撃のログでは全体で意思決定しながら進んでいた様ですが、何故リーダーが居ないんですか?旗艦の加賀さん」

 

加賀「……どうやらその様ですね、今後改めさせていただきます」

 

アケボノ「いきなり指揮役に戻らないでくださいね、キタカミさん辺りに頭を下げてきてください、そうすれば赤城さんの努力も見えてきますよ」

 

翔鶴「…赤城さん、キタカミさんのところに居たんですか?」

 

アケボノ「ええ、龍驤さんも居ます、状況判断、考え方についての意見交換会の様なものです、弛んだ考え方の人についていけるかは…知りませんが」

 

加賀「ついていきます、そうしなくてはただの地蔵ですから」

 

アケボノ「期待してますよ、加賀さん」

 

加賀「…しかし、貴方がそこまで喋ると提督が地蔵の様になってしまいますよ」

 

アケボノ「……それは…」

 

アケボノがこっちに慌てて振り向く

 

アケボノ「出過ぎた真似を、失礼しました!」

 

海斗「い、いや、全然良いんだけど…」

 

翔鶴「加賀さん、別に仕返しする事ないんじゃ…」

 

加賀「普段あれだけ冷静なアケボノさんがこれだけ取り乱す様子はなかなか観れたものではありません、流石に気分が高揚します」

 

アケボノ「…そうですか、翔鶴さん」

 

翔鶴「は、え、私で…あ、は、はい!」

 

アケボノ「ちょっと演習場に行きませんか?私なら艦載機の扱いも多少は心得があります、2人で練習しましょう」

 

翔鶴「え?あ、是非!」

 

加賀「それなら…」

 

アケボノ「もちろん加賀さんは抜きで」

 

加賀「……」

 

アケボノ「どうしました?加賀さん」

 

海斗「アケボノ、仲間外れは良くないよ…」

 

アケボノ「…仕方ありませんね、来ますか?」

 

翔鶴(滅茶苦茶嫌な聞き方…)

 

加賀「…行かせてください」

 

翔鶴(プライドを捨てて参加する方を選んだ…)

 

翔鶴「流石加賀先輩、みんなの為に成る道を選んだんですね…!」

 

加賀(誤作動を装って爆撃するか…それとも、蜂の巣にするか…)

 

険悪な雰囲気のままの加賀とアケボノに翔鶴がついて出て行った

それを確認してから医務室に内線を通す

 

海斗「もしもし、空いたよ、多分2時間は帰ってこないかな」

 

春雨『わかりました、だそうですよ、綾波さん……はい、すぐ向かうそうです、それでは』

 

引き出しからノートパソコンを取り出し、起動する

仕事用じゃ無い、この前に横須賀に行った時に買ったものだ

 

春雨「失礼します」

 

春雨がアヤナミの乗った車椅子を押して入ってくる

 

海斗「準備できてるよ、はい、これ」

 

アヤナミ「ありがとうございます…」

 

ノートパソコンを渡す

今のアヤナミに取って、これが唯一の楽しみらしい

 

アヤナミ「……」

 

アヤナミは受け取ったパソコンでいろんなものにアクセスし、色々なものを識る

 

たった1を観るだけでアヤナミにとってはどれほど理解できるのだろうか

小さなネットニュースやWebサイトのブログ記事、取り留めのないものでも、どんなにつまらないものでも、記憶を失ったアヤナミにとっては自身の好奇心を埋めるお宝になる

 

アヤナミ「……最近、深海棲艦の事件が減ってるんですね」

 

海斗「みんな頑張ってくれてるからね」

 

アヤナミ「…そのせいでしょうか、芸能人と呼ばれる人の不祥事ばかりです…」

 

春雨「…そんな陰鬱なネットニュースばかり見てて楽しいんですか…?」

 

アヤナミ「……私に取ってみれば、これは…そう、僅かな…"外"に触れられるチャンス…私はここでの生活しか知らない、ここの人たちが話す事しか知らない…」

 

春雨「……」

 

アヤナミ「…私にとって、この大きな島が全てなんです、でも…みんなは違うって、この島はとても小さい島だって言うんです、そう…私は知らない、外を知らない、海を知らない…日本を知らない、世界を知らない…」

 

春雨「……倉持司令官、渡航は…」

 

海斗「…難しいかな」

 

理由は幾つかあるけど、体調が悪くなった時に対処できない事と、この姿の綾波を知っている人間が本土にはいる

二人の綾波のうち、政府側が犯罪者と認識してるのはこっちのアヤナミだ、つまり…二人同時にいたとして捕まるのは、アヤナミの方だ…

アヤナミに辛い思いをさせるのは、春雨も僕も本望ではない

 

アヤナミ「………」

 

春雨「…どうしました?何を見てるんですか」

 

アヤナミ「…この、ニュース…」

 

春雨「随分前のニュースですね…大阪の、銃乱射事件……いや、これは違…」

 

海斗「……そうだ、そのニュースは…!」

 

アヤナミ「犯人の、名前…綾波……私…?」

 

アヤナミが驚愕の表情のまま、固まる

 

春雨「違います!貴方じゃない!…貴方では、ない…!」

 

アヤナミ「…じゃあ、誰なんですか…?この写真の人が私?……調べれば、いくらでも出てくる…綾波という人が、何をしたのか…」

 

海斗「そうじゃないんだ、違う…これは間違いなんだ」

 

アヤナミ「私じゃない…間違い…?なんなんですか、それ…意味が、わかりません…」

 

春雨「この事件は、その……国に狙われた貴方が逃亡している際に起きた事件で……民間人に貴方を危険だと印象付けるために…でっち上げられたものなんです」

 

海斗「…ほら、これを見て…いろんな記事で綾波が犯人だって可能性を否定してる」

 

アヤナミ「…確かに…でも、何も証拠なんて…」

 

海斗「証明は難しい、だけど僕達はこの事件に書かれてることが全部間違いだって知ってる……それに、綾波がそんなことしてたら僕達は君をここで受け入れたりしない」

 

アヤナミ「……少し、考える時間をください」

 

春雨「…怖いですか」

 

アヤナミ「当たり前…じゃないですか……私は、自分が普通の…その…普通の女の子のつもりでした…両脚なくて、片目見えなくて…全身火傷してて、死にかけてるけど…誰かに迷惑をかけずに生きられないけど…それ以上なんて…」

 

海斗「…そんなこと言っちゃダメだ、君を悪く思う人はどこにもいない、だから……納得できないかもしれないけど…」

 

アヤナミ「私を悪くいう人なら、たくさんいるじゃないですか……色んな人の目が、教えてくれます…納得がいく……私のしてきたことがコレなら…どんなに嫌われても、誰に殺されても…!」

 

春雨「…違う…!貴方は、素敵な人だ、誰より魅力的で、凄くて、私の憧れの人……だから…」

 

アヤナミは春雨を無視し、ネットを漁る

 

アヤナミ「…この綾波も艦娘…特務部所属…?」

 

海斗「……え?そのページ…」

 

なにかが刺激になってしまったのだろうか

アヤナミはパソコンを操作し、どこかのデータベースにアクセスして……

 

アヤナミ「……できた」

 

春雨「…それ、まさか…特務部のデータベース…?」

 

アヤナミ「…やっぱり私は、綾波なんだ…」

 

アヤナミが目を伏せる

 

アヤナミ「何も違わない、私がやったことなんだ……だから、ここにいるんですか…?日本にいたら捕まるから?それとも…捕まったあと隔離されるのがここなんですか…?」

 

海斗「違う、ここはそんなところじゃない…アヤナミ、そもそも君は悪いことなんてしてないんだ」

 

アヤナミ「できるなら私だってそう信じたい、だけど…」

 

春雨「……証拠があれば信じられるんですね?」

 

アヤナミ「え?」

 

春雨「あのニュースは改竄されたものです…その証拠を私が用意します…!だから貴方は胸を張って生きていい、私が貴方を絶対に死なせたりなんかしない…!だから、もう少しだけ私を…そして、自分を信じてくれませんか…?」

 

アヤナミ「……なんで、私のために…?私は最低な事をしたのかもしれないのに…それに、私は貴方にあんなに辛くあたったのに…」

 

春雨「何が辛くあたったですか、私のミスは殺されても文句言えないくらい馬鹿げたミスです、それを…あんな風に、私がまだ前を向けるようにしてくれた事…感謝してもしきれません」

 

アヤナミ「…それは、他にお医者様が誰も居ないから…」

 

春雨「それでも、私を選んで賭けてくれた……私はそれに応える義務がある…約束します、貴方の無罪を白日の元に晒し、貴方ができるだけ満足できる人生を送れるように…」

 

アヤナミ「……」

 

春雨「だから、貴方は自分自身を信じて…」

 

アヤナミ「…わかりました」

 

春雨は今も充分忙しい、それにロクに本土に行く事なんてできない

ネット環境はあるものの…それだけで真実を見つけ出すとなると…

 

春雨「…倉持司令官、ちょっとだけお力を借りたいのですが、ヘルバ様のアドレスは私は登録させてもらえなかったので」

 

海斗「いいけど…」

 

春雨「大丈夫です、依頼するのは、アクセス元を隠すことだけ…ここからアクセスしたのがわかればみんなに迷惑がかかります、調べるのは私が」

 

海斗「…確かにね、頼んだよ」

 

特務部は目を瞑ってくれるだろうけど、時間の概要があるとしたらもっと別なところだろう

 

春雨「……少しだけ、ですからね…少しだけ待っててください」

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