元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 演習場
秘書監 アケボノ
アケボノ「そうですね、発艦に関しては正直やり方人それぞれですから、言うことはないんですけど」
翔鶴さんの矢筒から矢を引き抜き、鏃を指に挟み込み、片腕だけレ級のものにして空へと放つ
加賀「……驚きました」
翔鶴「そんなこともできるんですね…」
アケボノ「ええ、それでですが、問題はここからなんです、一般的な機銃の弾速が大体800メートル毎秒だったとして、それを一分間に約1000発撃てるとしましょう」
加賀「…それで?」
アケボノ「撃ち落とされるのを回避するには、まず撃ち落とす側を理解しなくては…銃身のブレを制御しつつ、狙い続ける人達の立場になって」
2人に機銃を渡す
アケボノ「目標はたった4機、しかし…初めてということで特別に1機落とせば…合格とします、ようい」
2人が機銃を向ける
アケボノ「始め」
機銃の音が響く
艦載機を操り、機銃の向いている方向からなんとか逃す
至近弾は多い、流石に舐めていたか
アケボノ(このままじゃまぐれ当たりはありそうだ…)
艦載機を急降下させ、機銃を大きく動かし、狙いをブラす
アケボノ「どうしました、さっきまではいい感じだったのに」
加賀(細かな動きで狙う分には良いけど……大きく動かすと外れる…そうですか…)
翔鶴「これ、思ってた以上に…難しいですね…!」
アケボノ「本当ならこれに横回転だのなんだのやりたいところなんですが…型式が古すぎて機体が無茶な動きについて来れなさそうですし……所謂イージーモードですよ」
加賀「…これが簡単ですか」
アケボノ「貴方達は常日頃撃墜されることに慣れすぎている、確かに特に不知火さんやら阿武隈さん…最近は秋月さんもかなりバグったような対空射を見せますし、1発撃たれた時点で堕とされるのならやる気も失せるでしょう」
翔鶴さんの弓を手に取る
アケボノ「しかし、そろそろわかるはずです、どのタイミングに減速するのか、どのあたりを狙えば当てやすいのか…この辺りの高度は当てやすい、攻撃するために直線的な動きをするときは当てやすい…わかりますか?」
加賀「…確かに」
翔鶴「少し、消すべき癖が見えてきたかもしれません」
アケボノ「良いですか、攻撃機が墜とされるのは正直な話仕方のない事です、ですが…偵察機は堕とされてはいけない、攻撃機よりも高い位置から見下ろす役なのに、なんで簡単に堕とされてるんですか?」
加賀「……もう言い訳はしないわ、鍛錬に励みます」
アケボノ「期待に応えてください、皆さんの期待に」
翔鶴「…あの、弓返してもらえますか…?」
アケボノ「まだですよ、少し役目がありまして」
鍛錬用の、鏃ではなく先端に布を丸めたものがついた矢を取り出し、引き絞る
加賀「どこを狙って…」
アケボノ「確かに今向いてるのは明後日の方向ですが…」
片足で地面を蹴り、90°回転し草むらを射抜く
ガサガサと何かが蠢く音が鳴る
アケボノ「ちゃんと狙ってますよ」
加賀「…あら」
アケボノ「こんにちはワシントンさん、あなたの体躯では隠れるのはあまりお勧めできませんね」
ワシントン「い、いきなり何するのよ…!当たるところだったでしょ!?」
アケボノ「はずしたじゃないですか、それに…なんで戦艦のあなたが空母の演習をジロジロ見てるんですか」
ワシントン「それは…駆逐艦が空母の装備を使えるなんて…」
アケボノ「それに驚いたと?だとしたら馬鹿ですね、駆逐艦に空母の装備が使えない、適性がないと思ってるならそう思えば良い、私はなんでも使うんですよ」
弓を翔鶴さんに返す
アケボノ「それと、執務室以外で私について嗅ぎ回るの、やめてくれますか?というかあなた達は離島鎮守府所属の艦艇になった癖にその意識が無さすぎる…捕虜の方がまだマシだ」
ワシントン「所属、というわりには…」
アケボノ「誰もあなた達を受け入れていない?当たり前でしょう、受け入れられようとしてないのですから…それに、私は変わりましたよ?次はあなた達の番です」
ワシントン「変わった…?」
アケボノ「貴方達の扱いを改めたじゃないですか、もう手は出さない、口頭での注意のみ…なんと有情なことか……ああ、それと、あんまりしつこいと司法に突き出しますから、警察でも国連でも」
ワシントン「…しつこいって?」
アケボノ「アイオワさんの諜報活動」
ワシントン「……改めるように言っておくわ」
アケボノ「貴方も改めるんですよ、わかってますか?」
ワシントン「…わかった」
アケボノ「さて、邪魔者もどっか行ったし、再開しますか」
Link基地
綾波
綾波「狭霧さん!そのデータは!」
狭霧「ええと、あ、はい!今処理できました!」
綾波「なら次を!……ああ、そう言えばもうお昼の時間か…作りに行かないと…」
狭霧「私がやりましょうか…?」
綾波「いいえ、軽食も作るので二式大艇を用意しておいてください、ロシアに行きますよ、アメリカの深海棲艦を利用していると噂のある基地について調べるために」
狭霧「アメリカを調べるのにロシア…なるほど、別陣営同士、スパイだらけで詳しいでしょうからね…」
綾波「どうせKGBとかが調べ上げてます……あ、お昼ご飯はバーガーにしますか、ひき肉が今日までです」
狭霧「…バンズは?」
綾波「…作ってたら間に合いませんね、ハンバーグにしましょう…」
機内
綾波「…さて、ええと…どうしたものかな」
狭霧「ロシアが流してくれた情報、確かなんでしょうか」
綾波「概ねは間違いありません、多少脚色してますけどね…この情報通りなら、仮面の敵は深海棲艦とアメリカが共同で作り出した、新たな艦娘システム…」
弱った話だ、これでは戦争の道具だ、道具に意思決定権はないだろう…
綾波(産み出された時から、運命を決められている彼女達は…誰に救われる事もなく、灰として、海に還る)
綾波「……かつての私のようだ、運命の決められた…進む道を選べない、私のようだ…」
狭霧「……アポ取れました、4時間後、アラスカに来てくれるそうです、あんまり人気のないコーヒーショップを取ってあります」
綾波「…よし、進めましょう」
アラスカ コーヒーショップ
頬についた血を指先で拭う
綾波「…人であるならば、殺したりはしなかったのに…」
目の前に転がったヲ級の首を足先で転がして弄ぶ
綾波「……ねぇ?どう思いますか?なんでこんな事になったんでしょうか」
怯えた目でこちらを見る男に問いかける
大量の深海棲艦の死体
白く柔らかい部位を全て裂かれ、血と臓物をぶちまけたあとの…ただの肉と皮
綾波「……何か答えてくださいよ、あなたのせいでしょう?」
あと2歩程のところで男は意識を失ってしまった
恐怖心に屈したか…この状況はどう見えるのか…
悪い、非常に悪い…
綾波「…ええと、名刺ケースは…」
薬莢を拾い、自身がここにいた痕跡をできる限り消す
綾波「……はぁ…このコーヒーショップ、美味しいって評判だったらしいですね…なのに、深海棲艦に乗っ取られた…私は深海棲艦を嫌悪をする…いや、平和を壊す全てを嫌悪する…戦争を嫌悪する…」
艦娘システムは何のためにある?
綾波「少なくとも、戦争のためではない…コイツはシステムを戦争のために使おうとしている…」
ナイフを取り出し、男の首元にあてる
狭霧「ダメですよ」
綾波「…平和とは、幸せとは何か」
狭霧「他愛のない時間、それこそ…ついさっきまでこのコーヒーショップで腰掛けてコーヒーを楽しんでいた時間のような…」
綾波「それをこの男は壊した」
狭霧「でもその人にも家族があるかもしれない、守りたいものがあるのは私たちだけじゃありませんよ」
綾波「組織が腐ってるなら…完全にデリートするしかない」
狭霧「その被害を受けるのは?」
綾波「被害、か…」
狭霧「正義の味方が小さな犠牲を容認してはいけませんよ」
綾波「……ごもっともです、ついてきてくれてよかった」
少し頭に血が上っていた
くだらない幸せを守るために戦っているのに、そのくだらない幸せを壊しては意味がない
綾波(深海棲艦を全滅させたところで、戦争は消えないのだろうな…ああ、なんて愚かしいんだろう)
狭霧「……あ、みてください、これ」
綾波「……へぇ…大当たりを引きましたか…!」
狭霧がこちらに差し出したのはハワイに関する書類
そして…仮面の敵に関する書類
綾波「引き上げますよ、死体の処理は……任せましょうか」
狭霧「所詮深海棲艦の死体だけですから」
大きな収穫だ、やはりアメリカの一部が噛んでいる
つまり、今後の方針は決まった
Link基地
綾波「狭霧さん、スイッチを」
狭霧「3…2…1…電撃流れます」
綾波「……反応なし、何が違うんでしょうか」
カートリッジを製作しなくてはならない
来る戦いでみんなが戦えるように…
戦わなくて済むように動いてはいる、だが…間に合わなかったら、戦えずに死ぬなんて事は避けなくてはならない
狭霧「少なくとも、朧さんやガングートさん、ザラさんなら大怪我をさせるほどの実力が有る…深海棲艦でも姫級の実力があると言えます…」
綾波「ええ、そうですね…」
問題はあれが人間か深海棲艦かだ
人間なら?深海棲艦なら?どちらでも倒す事には変わりないのだが…
綾波「でも、もし人間を使っているなら…やられた瞬間消滅するようにプログラムされているなら…一切合切、研究施設ごと焼き払いますよ…」
狭霧「…消滅の仕方は従来の深海棲艦の者と一致しています」
綾波「……思い違いをしていませんか?このパターンと同じだからこの仮説は否定されるなんて……限りなく近い現象が全く別のものから起きる事もあるんですよ」
綾波(……気になる…あの人達は、仮面の敵は存在そのものを生成されたのか、人を改造して作ったものなのか…)
狭霧「綾波さん」
綾波「…大丈夫です、流用したりはしません、ハッキングできたら楽だなと思っただけです」
狭霧「ならよかった」