元勇者提督   作:無し

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シチュー

Link基地

正規空母 グラーフ・ツェッペリン

 

グラーフ「……綾波は?」

 

朧「調理場だね」

 

ガングート「さっき帰ってきたばかりだろう」

 

タシュケント「…いや、正直さ、ここ一週間、なーんにも仕事してないよね…」

 

グラーフ「ああ、みんなで集まって多少の訓練をして、綾波の用意した食事を食べて、胃が落ち着くまで休んで、それから少し訓練をして、夕飯まで休んで、夕飯を食べて、自由に過ごして寝る…」

 

ガングート「……おい、ドイツ人…少し腹に肉がついたんじゃないか」

 

グラーフ「…1.5キロ」

 

タシュケント「やめてくれないかな…気になってきた…!」

 

朧「いや、そう言う話じゃないでしょ」

 

グラーフ「…ああ、そうだな」

 

タシュケント「正直、自堕落に過ごすのも楽しいんだけど……その…うん、綾波は何をしてるのかな、何で誰も仕事に連れて行かないのかな」

 

ガングート「私たちでは戦力にならんか」

 

朧(…いや、アタシならここのメンバーで一番強いし、それならアタシに声をかけない理由がわからない)

 

朧「…巻き込みたくないんだと思う」

 

グラーフ「…巻き込みたくない、か」

 

何と身勝手な話だ…私たちをLinkに参加させて、私たちを放置するなんて、私たちを戦わせるために雇ったのに何もさせないなんて

 

グラーフ「綾波にとって私たちは何なんだ?」

 

ガングート「さあな、食事の時に捕まえればいいだろう」

 

朧「無理だよ、そうしようと思ったけど、昨日逃げられたんだよね…お弁当作って持って行ってるみたい」

 

タシュケント「なら、今しかない?」

 

グラーフ「……仕事の邪魔はできない、それをすればLinkの存在意義を問われるだろう、綾波にとってすればこのくだらない問答をする時間があれば人の命が救えると思っているはずだ」

 

どうすればいい?私たちでは…綾波の役には立たないのか?

 

私たちでは、足手まといなのか…?

 

ガングート「……」

 

タシュケント「どこに行くんだい、ガングート」

 

ガングート「修練だ、綾波が助けを求めたとき、私達が役に立たねばならんだろう」

 

タシュケント「…ついてくよ」

 

グラーフ「私も行こう、朧はどうする」

 

朧「いや、やめとく……綾波の手が空いたら話し合いたいからさ」

 

グラーフ「そうか」

 

朧の気持ちもわかる

私たちを一切頼らない綾波は…冷たいのだろうか

 

 

 

 

 

ガングート「タシュ、随分と砲撃の精度が上がったな」

 

タシュケント「朧が教えてくれるんだ、朧は砲撃も一級品だからさ」

 

グラーフ「おかげで私が出した艦載機は毎回ほぼ一瞬で全滅だ、朧を敵方にやって演習するのは嫌だ」

 

ガングート「クジに弱いお前が悪い」

 

グラーフ「く……ん?」

 

タシュケント「この匂い、シチューだ…いいね、冷えてたから嬉しいよ」

 

ガングート「シチューか?確かにクリームの香りはするが…クラムチャウダーじゃないのか?」

 

タシュケント「どっちでもいいよ、早く食べよう……あれ?朧?」

 

朧が私たちの分のシチューを配膳していた

ザラ達も先に席についていたようだが…同じ理由で固まってしまう

 

グラーフ「…な、何だ、これは…」

 

朧「え?…シチューだけど、あんまりヨーロッパじゃ食べないの?」

 

…そう言う意味ではない

 

グラーフ「何故シチューがライスにかかっているのかと聞いているんだ…!」

 

朧「え……あ、そっか…うっかりしてた、ウチはいつもこうだったから…」

 

ガングート「…日本人はシチューを米にかけて食うのか?」

 

朧「…半々かな、パンにしかかけないって人もいるし、でもライスにかける専用のシチューのルゥもあるよ」

 

タシュケント(日本人はお米が好きすぎるんじゃないかな…)

 

ザラ「……あれ、意外と美味しい」

 

ポーラ「シチューの味が濃いからご飯とあいますね〜」

 

レーベ「うん、悪くはないと思うけど…パンの方が好きかな」

 

マックス「同じく」

 

ユー「私は…パンより、好きかも…食べやすくて」

 

リシュリュー「こう言うのを、サンシャサンヨーって言うんでしょ?…うん、シチュー自体はすごく美味しいわ、ライスとの相性は私の好みじゃないけど」

 

朧(うーん…つい癖でかけちゃったけど、結構不評だなあ…)

 

グラーフ「…む…」

 

野菜の溶けた甘いルゥが米をほぐして食べやすく…

チキンの旨味も…

 

グラーフ「……私はこれ好きだな」

 

ガングート「私も嫌いではないな、いや…パンより好きかもしれん……そうだ」

 

タシュケント「…お米とシチューをぐちゃぐちゃにかき混ぜてどうするつもりだい…」

 

ガングート「これにチーズを乗せて焼けば美味いかもしれん、グラタンみたいだろう?」

 

ザラ(ドリア誕生の瞬間…!)

 

ポーラ(こうしてドリアが生まれたんですね〜)

 

ガングート「よし、これで焼いてみるか…美味いだろうな、間違いなく」

 

タシュケント「……あー…同志?」

 

ガングート「良いだろう、米とシチューを混ぜろ」

 

グラーフ(よく考えたら、ただのドリアじゃないのか?何であんなに得意げなんだ…?)

 

ガングート「よし、できたか…熱っ!……ゆ、指を火傷した…少し冷やしてくる…」

 

タシュケント「…今のうちに…」

 

タシュケントがガングートの皿にスプーンを突っ込み、口に運ぶ

 

タシュケント「あふっ!…はふっ……あっ…美味しい!これ美味しいよ!」

 

レーベ「…やってみる?」

 

マックス「先に一口食べてからでもいいんじゃない?………あ、美味しい」

 

リシュリュー「あんまりはしたない真似は…」

 

ザラ「そ、そうですよ…せめて自分の分で…ううん、でも…」

 

ポーラ「あ、ザラ姉様あーん」

 

ザラ「へっ?!あ、あふっ!?あひっ…ぽ、ポーラ!…あ、美味しい…」

 

朧「うん、確かに美味しいね、トマトとか入れても美味しそう」

 

グラーフ「……どれ、私も…」

 

伸ばしたスプーンを持っている手を掴まれて止められる

 

ガングート「おい、何で私のシチューライスが半分以上無くなっているんだ」

 

グラーフ「ま、まて!私はまだ何もしてない!と言うかその、まっ…腕が痛い!離せ!」

 

ガングート「おい、誰だ食べたやつは」

 

タシュケント「グラーフが1人で食べたよ」

 

ガングート「…本当か?」

 

タシュケント「ねえ、マックス、ポーラ」

 

マックス「え…あー…はい」

 

グラーフ「マックス!!?」

 

ポーラ「姉様も私も無罪ですよ〜」

 

グラーフ「ウソだ…」

 

ガングート「……そう言うことだ、弁解はあるか」

 

グラーフ「待て!私じゃないと言っているだろう!?それにお代わりすれば良いだろうが!」

 

ガングート「そう言う問題ではない、貴様の舌を抜いてシチューにして熱々を胃に流し込んでやろう」

 

グラーフ「そんなに気に入ったのか…」

 

ガングート「美味いものは美味い、それに日本にはこんな言葉がある…買い物の恨みは恐ろしい…とな」

 

腕を掴む力が強くなる

 

グラーフ「待て!ガングート待て!ここは食卓だ!暴れるな!」

 

ガングート「そうだな、暴れずにへし折ってや…ん」

 

グラーフ「…あー…帰ったか」

 

綾波「何騒いでるんですか、食事ぐらい大人しくできないんですか?」

 

狭霧「あ、ガングートさん即席ドリアしてますね、私もそうしよっと」

 

ガングート「……ドリア?……ああ!ドリアだこれは!…世紀の発見だと思ったのに…」

 

タシュケント「随分家庭的な世紀だね」

 

朧「…今日は一緒に食べられるんだね」

 

綾波「…常に留守にするわけではありませんし、基地にいないとできない仕事もあります」

 

ガングート「…待て、貴様寝ているのか?酷い顔だぞ」

 

グラーフ「…狭霧もだ、クマができているし、頬も少しこけている……休んだ方がいいんじゃないのか?」

 

綾波「…交代で2時間取りましょうか、狭霧さん、先に休んでいいですよ」

 

狭霧「ええ?綾波さんが先でいいですよ、私はやりたい事がありますし」

 

綾波「私もなんですよ、試したいことが…」

 

綾波の肩を掴み、無理矢理座らせる

 

グラーフ「面倒な話は後だ」

 

ガングート「先に食事を済ませよう」

 

…綾波の心は、冷たいのかもしれない…そう思ったが

こんなにも温かい気持ちにさせてくれる奴の心が冷たい筈が無いだろう

 

狭霧「あれ?…美味しいけど何か足りないような……」

 

綾波「…何か足りませんか」

 

狭霧「ああ、ミートソースだ…てっきりドリアを食べてるんだと思ってましたけど、これ焼きシチューでしたね…」

 

綾波「…はぁ…」

 

ガングート「……むう…イタリア人は何故これのうまさに気づいてしまったんだ」

 

ザラ「え?イタリア料理じゃありませんよ?」

 

ポーラ「ドリアはスイス人の方が作ったものですよ〜」

 

ガングート「何?じゃあスイス料理か」

 

リシュリュー「それが、生まれは日本らしいわ」

 

ガングート「日本料理なのか?」

 

リシュリュー「生まれた土地で言うならそう、作り手で言うならスイスね」

 

綾波「まあ、日本人の認識はイタリア料理らしいですけどね、イタリアンレストランで出てきちゃうし」

 

グラーフ「ああ…サイゼリヤか…」

 

ザラ「じゃあ、イタリア料理ということで!」

 

狭霧「うーん…美味しければなんでもいいと思いますけど…」

 

 

 

 

 

 

グラーフ「綾波、少しいいか」

 

綾波を呼び出し、みんなから離れる

 

綾波「なんですか」

 

グラーフ「…その…何故私たちを使わない…その、もしかして、私達を……」

 

綾波「使うまでも無い、自分でやる方が確実で完璧で速い、それだけなんですけど…もしかして、気を遣われてるとか期待してましたか?」

 

グラーフ「……いや、すまない」

 

綾波「とりあえず、しっかりと鍛錬だけは積んでおいてください、私は今から南西に向かいます、フィリピンの方に」

 

グラーフ「なんでまた」

 

綾波「大きい作戦があるので、視察です」

 

……

 

やはり、綾波を理解するのは容易ではない

 

グラーフ(…何故、綾波の顔が辛く、暗く見えてしまうのだ……)

 

……私には、綾波がわからない

誰にもわからないだろうが、私にはわからない

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