元勇者提督   作:無し

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天才で最強

海上

綾波

 

月と星の明かりだけが照らす、恐ろしくて、冷たい海を独りで帰る

 

綾波「しかし、ふむ……清霜さんが何故か目立った動きをしない理由については納得いきましたが…装甲空母鬼、この辺りをまた牛耳って居るのか、それとも大人しくしているのか…」

 

懸念すべき事は多いが、これ以上関わるべきじゃない…

私はあくまで部外者だ、命の危険さえ取り除いた今…

 

綾波「……嘘でしょう…?」

 

二式大艇の開いたハッチに人影が二つ…

しかも、最悪だ…

 

キタカミ「人の顔見て最悪かぁ…礼儀がなってないね」

 

アケボノ「その様で…」

 

…こっちにガンガン殺意を向けられる、私が一体何をしたというのか…

頭が痛くて仕方ない、思わず目頭をつまむ

 

キタカミ「…やっぱりな3人の匂いがついてる…でも、血の匂いはしない…」

 

綾波「当然です、私は何もしてませんし、あの3人に食料と毛布を渡しただけですよ」

 

キタカミ「…毒なんか、入れてないよね」

 

綾波「当たり前でしょう…!疑いたい気持ちはわかりますが…」

 

言いかけた言葉を、遮られる

 

キタカミ「まあ、どっちでもいいや……殺してから、確認するしかないし」

 

キタカミさんが自身の艤装を確かめる様に触る

…かなり特殊な作りだ、腰の皮ベルトについた四つの主砲以外に武器らしい武器はない…

あの杖は仕込みだけど

 

綾波「…殺す?私を…?」

 

キタカミ「自分が狙われる立場だって事…忘れてた?アンタのダミーは勘弁してやってもいいよ、春雨達がうるさいからさ…だけど、アンタのことなんもなしに見逃すわけにはいかないよ」

 

…当然だろう、なんたって…

 

キタカミ「生き返りはしたけど…阿武隈と不知火、その他の仇、丸々取らせてもらうよ」

 

綾波「……そうですか、それなら…」

 

キタカミ「そっちの意思なんて、ハナから関係ないっての」

 

艤装は汎用の簡易的な駆逐艦の艤装、カートリッジはオートガードと身体強化系1つ、艤装強化系2つ

弾薬は十分、燃料もある

 

それで、どうするか…

 

綾波(改二も黄昏の書も持ってきてない、これは…死ぬ覚悟をしたほうが良さそうだ)

 

綾波「…逃げたアメリカ艦は良いんですか」

 

キタカミ「まだ逃げてる、いや…正確には泳がせてる、だってさぁ……一網打尽にしたいじゃん、これに絡んだ奴らまとめて全員」

 

綾波「国際問題になるかもしれませんよ」

 

キタカミ「知るか、そんなこと……私は私の撃ちたいやつを全員撃つ…!」

 

キタカミさんが腰のベルトにくっついた主砲を全て外し、空にばら撒かれる

 

綾波(しまっ…)

 

反応が遅れた、この動きは…

 

キタカミ「知ってるでしょ…これ」

 

キタカミさんが拳銃を取り出し、主砲の引き金を撃ち抜く

引き金を引かれた主砲が的確に私へと撃ち込んでくる

 

綾波「っ…!」

 

キタカミ「……なにそれ?バリア?」

 

電磁バリアが防いでくれなければ…既に終わっていた

額に脂汗が滲み出る、背中にゾワゾワとした死の感触が触れる

 

綾波「ええ…まあ……それより、アケボノさんは見てるだけですか」

 

アケボノ「ええ、そうですよ…キタカミさんが危険になったら交代します」

 

綾波(つまり、これは…)

 

乾いた笑いしか出ない、キタカミさんとアケボノさんを両方倒すとなると…苦しいな、無理だ

 

綾波(しかし、やるしか無い)

 

綾波「……それ、回収できるんですね」

 

キュルキュルと音を立て、キタカミさんの主砲が巻き取られる

 

キタカミ「まあ、昔もこう言う巻き取り式の装備使ってたからねぇ…自分で改造しちゃった」

 

アケボノ(昔……ああ、あのよくわからない魚雷発射管…)

 

綾波(同じ手を使ってみるか)

 

右手人差し指の指輪に触れる

主砲を四つ空中に召喚し、拳銃を向ける

 

キタカミ「……へえ」

 

キタカミさんもそれに合わせて主砲をばら撒く

 

綾波(これで…)

 

拳銃で主砲の引き金を撃ち抜く

互いの主砲が砲音を鳴らし、互いに撃ち合う

 

綾波「…っ!?」

 

同じだ

主砲の数、発砲の速度、同じだ

違うのは私かキタカミさんか

 

キタカミ「…力量の差ってヤツ?ちゃーんと、味わいな」

 

同じはずだ、同じ撃ち方で同じ狙い、なのに…

 

綾波(主砲が撃ち落とされて、さらにバリアも削られて…!)

 

空に放った四つの主砲は、僅かな、一瞬のうちに焼け焦げた鉄屑に成り果てた

 

キタカミ「……あのさぁ…甘いよ、ツメがさ…確かに形はできてても…精度が低い、1ミリ…いや、2ミリ外してるね」

 

綾波(…さすが、としか言いようがないな…真似た戦い方じゃ勝ち目はない)

 

砲撃戦が得意な相手には、近接戦に持ち込むほうがいい

 

キタカミ「…そうだね、ようやくらしい顔つきになったじゃん……ちゃんとやってくれなきゃ、こっちもやり甲斐ないんだよね」

 

綾波「……そうですか、私は気が進まないんですが」

 

キタカミ「それよりさ」

 

綾波「…?」

 

キタカミ「あんた、改二も何もないんでしょ?夕張から聞いてる、明石づてにね……つまり、今なら殺すチャンスなわけだ」

 

キタカミさんが私に指を指す

 

キタカミ「下」

 

向けられた人差し指がクイッと下を向く

身体をのけぞらせ、魚雷が炸裂して打ち上げられた水柱をかわす

 

綾波「…いつの間に、仕込んだんですか」

 

キタカミ「いやー…ははは、戻ってくるのわかってたしさぁ、随分前かな?ほら、誰も私が分離(パージ)した艤装がこれだけなんて言ってないわけだし?夜の闇でよく見えないかなぁ」

 

…見えないが、きっと伸びているのだろう、ワイヤーが

そして、右に一歩、次の雷撃を交わし、一歩下りまたかわす

 

綾波「……」

 

わかっていれば、かわすのは容易い

 

キタカミ「……マジか、1発目はサービスしたけど、あとのは少しくらい当たると思ってたよ…だって…ねぇ?」

 

綾波(ウソだ、表情筋の動きだけでわかる…そして資産は今別の何かを……まさか)

 

背後に回し蹴りを放つ

察知とほぼ同時に放たれた砲弾を蹴り砕き、辺りに爆風を巻き起こす

 

キタカミ「ヒューっ!やるねぇ」

 

綾波「魚雷全部ブラフ…本命は先に投げておいた主砲…しかも、トリガーを引かずに発砲できるタイプのモノ…」

 

キタカミ「良いでしょ、ソレ」

 

主砲が巻き取られて帰っていく

 

綾波(私と最初に撃ち合った時からずっとブラフを仕掛けていたわけだ、装備に魚雷はない、主砲は引き金を引かなくては撃てない…全てウソだ)

 

綾波「…やはり、あなたは天才ですね…私とは違うカタチの」

 

キタカミ「天才かぁ……天才ねぇ…ま、じゃあ最強で天才な訳だ」

 

綾波「…最強か」

 

この傲慢とも取れる態度、自信に満ち溢れた表情

私の理想でもある

 

私はこうならなくてはならない

 

綾波「…ふふ」

 

キタカミ「…何笑ってんのさ」

 

綾波「いや、私も…弱くなったな、と」

 

キタカミ「……守るものがあると弱く……チッ…嫌なもん思い出した…」

 

キタカミさんが主砲を手に取り、廃莢する

空の薬室に直接砲弾を込め、私に向ける

 

キタカミ「…ま、悪いけど……死んでよ」

 

綾波「お断りします」

 

しかし、どうしたものか、私の心は折れていない、むしろ昂っている

 

綾波「…あなたが、最強で天才なら」

 

キタカミ「ん…?」

 

綾波「最強だからこその天才なのなら……私は、天才で最強だ」

 

キタカミ「天才だからこその最強、か……いいねぇ、どっちが上か、確かめたくなってきた」

 

綾波(…大丈夫、構えてる主砲は一つ、それなら防ぎ切れる……!)

 

いや、待て、冷静になれ

 

綾波(…自問自答しろ、読め、どうすればいいのかもすべて、考えろ…)

 

姿勢を低く、構える

 

綾波「…ああ……読めた」

 

キタカミ(…寒気してきたなぁ…)

 

踏み込み、海面を蹴り、迫る

 

キタカミ(うわ、なんか……ヤバそうじゃん)

 

キタカミさんの砲撃を、くらいながら迫る

 

アケボノ(…真正面から受けてる、なんのために?)

 

キタカミ(こいつ、近づいて…)

 

キタカミさんが後退を始める

 

綾波(大丈夫、それもブラフなのは知っています)

 

身体を沈め、跳躍の前動作を見せる

 

キタカミ「っ!」

 

綾波(…そう、私の接近を防ぐなら魚雷を使うと思ってました…!)

 

水面から魚雷が飛び出したのを確認し、両手を海面に突き、停止する

 

キタカミ(ありゃ、してやられたか)

 

頭を低くして魚雷の爆発のダメージをできるだけ軽減する

 

綾波「……あれ、せっかく近づいたのに…そんなに離れちゃ嫌ですよ」

 

キタカミ「また近づいてみなよ」

 

爆風を受けて離れたか…

捨て身な動きすらも躊躇いなくやる

 

最も邪魔な、警戒すべき相手

 

綾波(……近づかないな、これは…方針を変えよう)

 

艤装にカートリッジをつき挿す

 

キタカミさんをチラリとみる、また手動で廃莢し、直接薬室に砲弾を…

 

綾波(…今、何を入れた?…手首の筋肉の強ばり方、頬の硬直、視線……今何をした?……あの砲弾、ヤバい)

 

当たるな

頭にそう投げかけられている様だ

 

キタカミ「…勘がいいなぁ…」

 

向けられる前に回避行動に入った

そうしなくては…

 

綾波(ガス弾…!)

 

確実に、やられていた

 

着弾した辺りに煙が留まる

鼻を抑え、離れ、口から息を全て吐き出す

 

綾波(大丈夫、吸い込んでない…)

 

綺麗な空気を肺に取り込み、前方に視界をやる

 

白い煙、これがなんなのかはわからないが…ただの煙幕ではない

 

口の中が微かに溶けている

目から絶えず涙が流れている

 

これは致死性のガスだ、危うく…死んでいた

 

キタカミ「…いい判断してるよね、まだ生きてんだから」

 

綾波「海を汚すのはどうかと思いますよ」

 

キタカミ「大丈夫大丈夫、その辺が汚れるよりずっと大きな汚れが落ちるんだからさ、いい事してることになるよ」

 

綾波「…正義と取れる発言ではありませんね」

 

キタカミ「正義?なにそれ、こんなの単純な私闘でしょ、正義もクソも無いし……つーか、アンタが正義語ってんじゃ無いよ、大犯罪者」

 

綾波「ごもっとも……」

 

しかし、不味い

先程のガス、どれほどの強さなのか…

肌のひりつきと口内の痛み、涙による視界不良…

 

綾波(まともに戦えないな)

 

キタカミ「で、どうよ…ガスの味は」

 

綾波「渋いですね」

 

キタカミ「なら、これはもっと気に入ってくれると思うよ」

 

パッと煙の奥が明るくなる

 

綾波「…火!」

 

爆風を受け、海面を転がる

 

綾波(無茶な真似を…!)

 

キタカミ「舌も鼻も、多少溶けただけで済んでよかったねぇ…でも、お陰で気化したガソリンが混ざってることには気づかなかった?」

 

綾波(鼻も…効かなくなってたのか…)

 

とことん向こうのペースだ

どう立ち回る?

どこまでなら、やってもいい…

 

少なくとも二式大艇を確保しなくては…

 

綾波(……待て、そうだ、私の勝利条件を思い出せ、ただ帰るだけでいい…ここは、うまく誘き出しさえすれば逃げ切れる)

 

ただし、対空射撃を封じる必要もあるし…

 

アケボノさんもいる

 

綾波「……アハッ」

 

キタカミ「……」

 

綾波「良いでしょう、一切合切を…封じてみせますか」

 

先ほどとは逆、左手人差し指の指輪に触れる

 

綾波「即席トラップハウス…なんてね」

 

キタカミ(匂う、機械の匂い…何された?あの指輪?何を…)

 

キタカミさんが主砲を持ち上げた瞬間主砲が撃ち抜かれる

 

キタカミ「…海中から撃たれた…しかも…」

 

キタカミ(動体感知センサ?それとも何か有るのか、動きに反応した…)

 

綾波「…動かないでくださいね、私はもうやるつもりはありません」

 

キタカミ「…へえ」

 

綾波「私は帰ります、帰ります、が…キタカミさん、あなたが余計なことをするなら首が飛ぶ、そういう仕掛けです…私が離れればこの仕掛けは消えます」

 

キタカミ「信じると…っ」

 

キタカミさんの首筋に赤い線が浮かぶ

 

キタカミ(…糸…)

 

綾波「…いいですか、動かないでくださいよ……アケボノさん、貴方もです」

 

アケボノ「悪人らしい手法だ」

 

綾波「私だってこんなことはしたくないんですよ」

 

綾波(頭が痛い、割れそうだ…ああ、もう、疲れた…いや、疲れたなんてレベルじゃない…立ってるのも限界だ…)

 

キタカミさんの方へ伸ばしたナノマシンを除去する

これで少しは脳への負担が落ちる

 

綾波(直接ナノマシンを操るのに、なんの機械も使わずに自分の脳を使うのはやめた方がいいな…本当に死にかねない……)

 

ゆっくりと二式大艇に近づく

倒れそうなことを悟られない様に、ゆっくりと、フラつかない様に…

 

キタカミ(……ホントに殺すつもりないんだ…)

 

アケボノ「……」

 

綾波「……ぅあ…?」

 

背中に、痛み…?

鈍いのか、鋭いのかも…わからない

両膝を海面につく

 

綾波「…何、が……?」

 

振り返る力が、ない

なんだ、この感じ…刺されたのか?

体に力が入らない、両手をついて、海面を睨んで…

 

キタカミ「…お前、何」

 

アケボノ「深海棲艦…?」

 

駆逐古鬼「ヤッタ…ヤッタゾ…!ハハハ!ハハハハハ!!」

 

綾波(この、声…ああ、駆逐古鬼…見え見えの隙をずっと付け狙われてたわけか…それにこの感じ、毒……大丈夫、ジェーナスさんに聞いたときに血清も作った…)

 

なんとか、倒れる前に血清を注入する

 

綾波「く…ぁ……」

 

海面に倒れ込む

もう、指先を動かす力もない

 

綾波(…すぐ楽になるものじゃないけど……この感じ、だめだ…ちゃんと効いてない…体内の、毒液の解析…だめだ、こっちにはその機能を搭載してなかった……頭、回らな…)

 

駆逐古鬼「ヨクモ…ヨクモ散々ナメニ合ワセテクレタナァ!ハハハ!無様ニ伏シテ死ネ!死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ!!」

 

…随分と恨まれたものだ

これは、本当に一度死んで、無理やり因子で再誕を…

 

綾波「っぅ…?」

 

胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる

 

キタカミ(…どうなってんの、これ、深海棲艦が綾波を襲ってるのはわかる、だけど……アレはどういう状況)

 

視界に、駆逐古鬼の手が伸びる

 

綾波(…あ、不味い)

 

激痛が走る

周囲の肉ごと目を抉られる

 

綾波「っ……ぁ…あ……」

 

駆逐古鬼「コレカ?コレダナ?貴様ノ妙ナ再生ノ力ノ源ハ!」

 

…ダメだ、本格的に不味い、焦らないと…

 

綾波(でも……もう、意識を維持できない…)

 

キタカミ(…敵は敵だ、でも、あの眼を取られるのは不味い)

 

駆逐古鬼の両手が吹き飛ぶ

 

駆逐古鬼「ガアァァァァッ!?」

 

レ級「……よっと」

 

吹き飛んだ眼をレ級がキャッチする

白く染まった肌が戻っていく

 

アケボノ「これは、ダミー因子か…渡すわけにはいきませんね」

 

駆逐古鬼「リョ、両手ガ…!」

 

アケボノ「綾波(ソレ)を殺すのは好きにすればいい、しかし…私達の障害になりうる以上……排除する」

 

駆逐古鬼「チィッ!!」

 

駆逐古鬼が水中へと消える

 

アケボノ「…追います」

 

キタカミ「やめときな、提督にバレるよ、勝手に出撃したの」

 

アケボノ「……チッ…」

 

…必死に、二式大艇へと…

辿り着けば、帰れば、きっと…

 

キタカミ「……コイツ、どうしよっかな」

 

アケボノ「殺すんでしょう」

 

キタカミ「…そうだね」

 

死んでも、いい

その気持ちだけは変わらない

 

だけど、私は…まだ償えていない…

 

地獄はまだ私を許容しきれない

 

キタカミ「…綾波、死にたくない?」

 

綾波「…死…?わた、し…が?」

 

キタカミ「……」

 

綾波「…地獄、は……私を、裁けますか、ね……」

 

キタカミ「チッ…」

 

アケボノ「…どうしたんですか」

 

キタカミ「…今じゃない、今殺すのは…違う」

 

ただの気まぐれ

でも、やはり私は死ねない

 

地獄は、私を拒絶し続けている

 

だから私は償い続けて、せめてもの…

 

綾波(……ごめん、なさい…)

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