元勇者提督   作:無し

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代替品

佐世保鎮守府

駆逐艦 狭霧

 

瑞鶴「…えーと…何?どういう状況?これ…」

 

狭霧「お願いします!綾波さんを助けてください!」

 

毒の解析はしているが、悠長な事はできない

解毒薬が完成する前に死ぬ可能性の方が高いと判断した、だから…

常識を超えた力を頼る道を選んだ

 

瑞鶴「…なんでアンタもいんの?」

 

神通「…生命活動を少しでもつなぐためにと…」

 

瑞鶴「…まあ、その……とりあえず待って、もう一度確認させて……ええと、そこの包帯で巻かれてんのが綾波で…毒でやられて死にかけてると…」

 

狭霧「はい、この毒、どうやら普通の毒ではないらしく、正しい解毒剤が用意できていません、なので…碑文の力を借りたいんです」

 

瑞鶴「…お断り」

 

狭霧「どうしてですか…私に用意できる限りのものは用意します!なんだってします!だから…」

 

瑞鶴「…これ、説明しなきゃわからない?」

 

神通「説明してもわからないとは思います、が…簡単に言えば、みんな綾波さんに死んで欲しいんですよ」

 

狭霧「……わかっています、でも…綾波さんは、綾波さんがこうなったのはただ助けようと手を差し伸べたから…自分にできる事は何でもやると決めたから…」

 

瑞鶴「それが本心かわかんないんだって」

 

狭霧「…佐世保には大量の艤装を提供していますよね…?綾波さんはこれからも新しい艤装を供給し続けられるはずです…だから、お願いします!お願いですから…!」

 

瑞鶴(…この子も話わかんなさそうだなぁ…というか、クローンだっけ……)

 

瑞鶴「じゃあ、こうしよう」

 

狭霧「…なんですか」

 

瑞鶴「…治せるかわからないけど、やってみても良い、でも条件がある」

 

狭霧「私にできる事なら、何でも…」

 

瑞鶴「…その前に…狭霧だっけ、右目、何でアイパッチしてるの?」

 

狭霧「…空っぽだからです、私の右目は空っぽ…元々、この空洞にはダミー因子を受け継ぐ予定でしたから…ダミー因子は何故か眼に宿る…」

 

瑞鶴「ふーん…なら、左目抉って見せてよ、今、ここで」

 

狭霧「なっ…!?」

 

神通「……」

 

瑞鶴「そしたら、やってもいいよ」

 

…私の、残された視力を完全に失う…

でも…綾波さんがそれで戻ってくるなら…

 

綾波さんは、Linkに必要だから…

みんなに必要だから…

 

手が震える、自分の顔に近づけることを拒否してる

身体が重い、怖い

 

チラリと神通さんの方を見る

 

狭霧「…瑞鶴さんが、約束を守ってくれるか…」

 

神通「わかりました、代わりに見届けましょう」

 

…見届けてくれる人がいてよかった

怖い、震えが止まらない、だけど…

 

瑞鶴(…ほんとに、やる気だ)

 

狭霧「っ!」

 

痛い…痛い痛い痛い…

眼球が、私を見て…る…

 

狭霧「…え…?」

 

引き抜いた目と目が合う…

あり得ないことが起きたせいで脳の処理が止まる

呼吸が荒くなる

 

瑞鶴「…本気で抉っちゃうとは…思ってなかったけど…」

 

手の中の眼球が消える

 

狭霧「あ……っ…あ…!」

 

狭霧(ま、まだ、抉ってない…恐怖で勘違いしただけ…!)

 

焦って手を眼に近づける

 

神通「待ってください」

 

手を掴まれ、制止される

 

狭霧「は、離してください!早くしないと気が変わるかもしれない…!」

 

瑞鶴「いや、もういいよ」

 

瑞鶴さんが私の手を握る

 

瑞鶴「…クローンだって聞いてたけど…どっからどう見ても…誰がなんて言おうと…ただの人じゃん」

 

狭霧「え…?」

 

体の力が抜け、崩れ落ちる

地面にへたりと座り込む

 

瑞鶴「ごめん、幻覚だよ、さっきくり抜いた眼…自分の目をくり抜いたと錯覚させてた」

 

狭霧「な、何のために…そんな事…」

 

瑞鶴「ほんとに抉ってもそうしなくても怪我はしない、覚悟を確かめる上で安全に、確実に確かめる手段じゃない?」

 

狭霧「……じゃあ」

 

瑞鶴「目を抉れと言われて…あんなに怯えて、ためらって…覚悟して…こっちから見てたら表情が二転三転して、クローンだから主人のために躊躇いなくやるか、人間らしいからこそ断ると思ってたらさ…うーん…」

 

神通「意地の悪い人ですね」

 

瑞鶴「…こんな子から、心の底から慕われてる…信じられてる、それなら…」

 

瑞鶴さんの手が綾波さんに触れる

 

瑞鶴「リプドゥク」

 

綾波さんの体が光に包まれる

 

瑞鶴「……うん、効いたんじゃない?多分だけど」

 

狭霧「本当ですか!ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 

瑞鶴「まあ、ちゃんと使った感触はあったから……あとは時間が経てば目を覚ますとは思うけど」

 

神通「……折角です、少しの間、それまで…」

 

狭霧「…?」

 

神通「聞きたい事が有ったんです、私達が演習の後、一泊させてもらった時……碑文の力が共鳴して、どうやら色んな人に様々な影響を与えたそうです」

 

狭霧「…ああ……良く、覚えています…私達はそのおかげで方針を変えましたから」

 

瑞鶴「方針?」

 

神通「…何を見せられましたか」

 

狭霧「見た、と…決めつけるのですね」

 

神通「……貴方は、予知夢を見たと感じているのではないか、と思いまして」

 

狭霧「…はい、私と綾波さんは…同じ夢を見て、これは予知夢だと結論づけました……みんなが、殺されて、血の海に浮かんでいる…そんな夢でした」

 

神通「やはり、そうですか…実の所、私も同じ様な夢を見ました…大量の碑文使いが集まり、ダミー因子も存在するせいで共鳴反応を起こしたんでしょう、その夢はただのまやかし、怯える必要はありませんよ」

 

狭霧「……怯える必要は無い、か…」

 

私達の見た夢は

とても苦しくて、怖くて、辛くて

 

痛かった、身体が痛むわけじゃない、心が死んでいく痛みを、ハッキリと刻み込んだ

 

狭霧「……電さんがおられました、そうとなると…フィドヘルの予知を流し込まれた可能性が否定できません」

 

みんな、ズタズタに壊されて

体から流れる血が海を染めて

 

取り返しがつかないところまで行っていた

人は死んだら取り返しがつかない、だから、死ぬ事はあってはならない

 

瑞鶴「……ま、可能性はあるけど…たぶんイニスが悪さしたんだと思うけどなぁ…」

 

神通「私もそう思います」

 

狭霧「……そうでしょうか」

 

瑞鶴「イニスは人を惑わせる蜃気楼を使う…フィドヘルは相対する者に予言を告げる…予知って言ってもさ、相手に見せるなんて芸当はできないと思うな…ああ、あとはスケィスとか」

 

神通「確かに、死に関連する夢なら…その人が持つ、一番恐れている死の恐怖のイメージを強く…イメージさせた可能性もあります」

 

狭霧「…私たちが一番恐れている、ですか」

 

…確かに、仲間を失うことほど怖い事は…ないかもしれない

 

瑞鶴「…にしても、この顔のとこひどいなぁ…治してあげよっか?」

 

狭霧「…いいんですか?」

 

瑞鶴「イニスが悪さしたお詫びって事で、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人島

駆逐艦 朝霜

 

朝霜「…腹減った…」

 

早霜「綾波さんは、どこにいったのかしら…」

 

清霜「さあ…」

 

ぼんやりと海を眺める

 

朝霜「…あ?」

 

早霜「あれは……深海棲艦?」

 

清霜(…鬼級!?)

 

こちらを認識した深海棲艦が艦載機を飛ばす

 

朝霜「うぉい!?ま、待て!あたいらは敵じゃ…」

 

装甲空母鬼「人間!艦娘メ!!貴様ラノセイデェェェッ!!」

 

早霜「怒り狂ってますね…コレはまずいですよ」

 

清霜「逃げよ…う?」

 

朝霜「…砲音?」

 

砲音が響き、装甲空母鬼が吹き飛ぶ

 

装甲空母鬼「グガァッ!?ナ、ナンダ!ドコカラダ!!」

 

朝霜「…あ、あれ!」

 

早霜「長門さんの隊ですか…!」

 

戦艦たちの砲撃を浴び、装甲空母鬼の体がどんどんミンチになっていく

 

装甲空母鬼「コ、コンナノ…!ガァッ!…クソ!覚エテオケ!」

 

装甲空母鬼は海の中に逃げた

 

清霜「…強い…」

 

早霜「清霜?」

 

朝霜「おい、清霜…だめだ、こいつ完全に見惚れてやがる…」

 

清霜「そりゃ、見惚れるでしょ…あんなに強いんだよ!凄いんだよ!?」

 

朝霜「確かに凄かったけどよォ」

 

清霜「…戦艦になりたいなぁ…」

 

早霜「…流石に戦艦級は……そうですね、もう少し大きくならないと艤装を付けさせてもらえませんよ」

 

清霜「…うん」

 

 

 

 

離島鎮守府

 

キタカミ「おー、無事だった?チビ共」

 

朝霜「チっ…!?チビってなんだよ!」

 

海斗「キタカミ、優しくね」

 

キタカミ「うげぇ…」

 

朝霜「うげってなんだよ!」

 

阿武隈「まあまあ……実はキタカミさん心配だからって昨夜寝てないんですよ?」

 

キタカミ「余計なこと言うなっての」

 

阿武隈さんが杖で殴られる

 

阿武隈「もー、照れちゃって…あいたっ!?痛い!ほんとに痛いです!」

 

早霜「…キタカミさん、心配してくださったんですか?」

 

キタカミ「まあ、それなりにはね…みんな怪我はないね?さっさと風呂浴びてきな、美味しいもん作らせとくからさ」

 

清霜「わーい!お風呂!潮風で髪ベタベタだー!」

 

早霜「あ、待って」

 

朝霜「置いてくなよ!!」

 

 

 

 

教導担当 キタカミ

 

キタカミ「さ、邪魔者追い払ったところで…話聞かせてもらおうか、提督?」

 

海斗「……そうだね」

 

キタカミ「…提督の言う通りに探したら、すーぐみつかったよ…朝霜達…この辺の潮の流れとかあんまり詳しくなかったし、普通だったら見つけられなかったと思う」

 

海斗「…言いたい事はわかってる、綾波を頼った」

 

キタカミ「…なんで?」

 

海斗「朝霜達を一刻も早く助けるためだよ」

 

キタカミ「……なら、なんで綾波はここまで朝霜達を連れてこなかったの?」

 

海斗「…僕が言ったんだ、安全さえ確保できればそれでいいって」

 

キタカミ「綾波を優先して、ね……ウチのメンバー優先してるなら、手は出させないから送り届けろとでも言うよね?なんで…綾波を優先したのさ」

 

海斗「…そんなつもりはなかったんだ、でも…綾波は、十分苦しんでる」

 

キタカミ「足りないよ」

 

海斗「……」

 

キタカミ「……綾波と仲良くすんのは勝手だよ、だけど…あとが辛いだけさね、綾波を心の底から恨んでる連中にどう思われるか、ちゃんと考えたほうがいいよ」

 

海斗「…そうだね、考え方が甘かったかもしれない」

 

キタカミ「黙認するにも、限度あるから」

 

綾波は確かに利用価値がある

でも、私は綾波の作った艤装は使いたくないし、綾波の存在を肯定するつもりもない

 

キタカミ「アレは、危険だよ」

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

駆逐艦 狭霧

 

狭霧「……目を覚ましませんね」

 

瑞鶴「毒は抜けてるはずなんだけど…」

 

そう、毒は抜けている

綾波さんの身体は、今、とても安定した状態だ

健康体だ、片目がない事以外は

 

神通「…意識が戻らないのは、なぜでしょうか」

 

瑞鶴「わからないけど…」

 

検討はつく

拒絶している

 

心が折れた

 

狭霧(…そうでしょう、そうであるべきでしょう……貴方にとって、貴方1人が背負うにとって…この世界は、あまりにも重く、そして…貴方に対して辛すぎる)

 

罪が消えたわけではない、当然だ、この扱いにも納得している

 

だが、それでも1人で立ち向かって生きてきた

 

なら、今は休めばいい

 

狭霧(…貴方はもう十分に苦しんだ…だからそのまま…ゆっくりと休んでください…代わりが必要なら私が成りましょう、どんな手も尽くしましょう、もとより恥などありません、誰が私に期待しようと勝手です、私は最善を尽くします)

 

恥も外聞もない、ただ…私は最善だと思う道を進む

だから…

 

狭霧「…よく、休んでください…綾波さん」

 

瑞鶴「……なんていうか、意外…あんなに面倒な敵だったのに…こうもあっさり…」

 

狭霧「…綾波さんについた刺し傷は背後からのものでした」

 

神通「不意打ち?……それにしては」

 

狭霧「まず毒をくらい、身体が動かなくなったところで目を抉られた……しかし、背中を刺されたというのは妙なんです、綾波さんが簡単に背後を許すはずがないんです」

 

神通「……」

 

狭霧「おまけに、艤装に戦闘の痕跡がありました…つまり、闘っているところを背後から刺された……今の綾波さんが全力で戦うことを強いられる様な相手である必要があります」

 

瑞鶴「…綾波相手に誰が全力を出させられるって…」

 

狭霧「今の綾波さんは、駆逐水鬼レベルの力しか出せません、改にすら届かないでしょうね…つまり、そんじょそこらの敵には負けませんが…」

 

神通(……互いに本気なら…私にも勝ち目は…いや、充分すぎるほどにある)

 

瑞鶴「もうあんなに強くはならないの?」

 

狭霧「カートリッジを使用すれば一時的に力を取り戻す事はできますが…反動も大きいんです」

 

瑞鶴「へえ、反動あるんだ」

 

狭霧「ええ」

 

神通「隠さないんですね」

 

狭霧「敵対する事はないと思っていますから」

 

瑞鶴「…こっちもそう思いたいけど」

 

狭霧「……」

 

神通「復讐するつもりですか」

 

狭霧「いいえ…少なくとも、綾波さんが正面から戦っていた相手には」

 

瑞鶴「正面から?」

 

狭霧「…被弾の数と、砲撃の回数が合わないんです」

 

神通「差が出るのは当然じゃ…」

 

狭霧「綾波さんの砲撃回数は被弾の半分以下でした、カートリッジの残量から間違いありません、それは綾波さんは積極的に戦おうとしていなかったという事です」

 

瑞鶴「つまり、第三者がいきなり出てきて…グサッ!…て?」

 

狭霧「はい、そして綾波さんは離島のアケボノさんに運ばれてきました」

 

神通「では…」

 

狭霧「…違うと思います、アケボノさんは何でもこなす万能型ですが、砲撃に拘った戦いをしません、キタカミさんにやられたんでしょう」

 

神通「…成る程」

 

瑞鶴「さっき正面から戦ってた相手に復讐するつもりはないって言ってたけど」

 

狭霧「綾波さんを刺した人は……探し出すつもりです、それから考えます」

 

瑞鶴「…強いの?あんた」

 

狭霧「カートリッジの扱いはわかってます、この身体なら、多少の負荷には…」

 

神通「……やめたほうがいいでしょうね」

 

瑞鶴「うん、私もそう思う」

 

狭霧「…分かっています、しかし……綾波さんがもう苦しまない為には、私がそうなる必要がある」

 

神通「案外、この世は思った通りにいかないものです……苦しみから逃れる術はありませんよ」

 

狭霧「ええ、よく…識っています……それでも、なにもしないよりはいい」

 

神通「それが、自己満足に過ぎず、後に誰かに苦しみをもたらすとしても?」

 

狭霧「……再誕を奪い、綾波さんを悪戯に傷つけた行いは……私には看過できません、綾波さんは私達にとって、唯一無二であり、かけがえのない存在です」

 

瑞鶴「それがたとえば離島のアケボノの犯行なら?」

 

狭霧「…玉砕の覚悟です」

 

瑞鶴「本気で言ってんの?!」

 

狭霧「…仇討ちは望んでないでしょう、新たな争いの火種です……しかし、何のためにこうしたんですか…!?綾波さんは殺し合いをするつもりなんてなかったはずなのに!」

 

神通「落ち着いてください」

 

狭霧「……私がやらなければ誰かがやります」

 

瑞鶴「…気持ちはわかるけど、そんなの…」

 

狭霧「綾波さんが戻ったとき、出迎えるべき人が居ないなんてあってはならない、誰かを失ってはならない…だから私がそうする」

 

瑞鶴「…あんたも、綾波にとってかけがえのない存在じゃないの?」

 

狭霧「……私は所詮、クローンですから」

 

瑞鶴「そんな事…」

 

神通「…姉というのは、案外どうしようもない妹でも…可愛いものですよ」

 

狭霧「妹ですらありません、代わりの身体でしか」

 

神通「……それは、貴方の中での綾波さんにとっては、でしょう」

 

狭霧「…そうでなくては、私の存在はおかしいんです」

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