元勇者提督   作:無し

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過去

Link基地

駆逐艦 狭霧

 

狭霧「只今戻りました」

 

ガングート「…どうなんだ?」

 

狭霧「とりあえず、命に関わる事は…ないでしょう」

 

ガングート「そうか…!」

 

グラーフ「今の話、本当か?」

 

狭霧「ええ」

 

グラーフ「……本当に良かった」

 

ザラ「ちょっと待ってください…それなのに狭霧さんが暗すぎます……あの…何か、あるんですか?」

 

狭霧「……決して、植物状態ではありません…脳死はしていない、とにかく…生きていて、あとは本人の気持ち次第なんです」

 

グラーフ「…要領を得ないぞ」

 

ガングート「いや、つまり…」

 

狭霧「…最悪、もう目を覚まさないかもしれません」

 

グラーフ「どう言う、事だ…何故だわ治ったんだろう!?」

 

狭霧「身体は、治りました…しかし、片目は欠落したまま、そして…何より心が治っていない」

 

ガングート「精神が崩壊したか」

 

狭霧「その域には達していないと思います…その…心が折れたと言うべきでしょうか…」

 

グラーフ「…そんな」

 

ザラ「綾波さんの心が、折れた…」

 

狭霧「…目を覚ましていない、廃人のようなものです…この世界は綾波さんにあまりにも冷たい、それが故に…嫌になったのかもしれません…戦うのが」

 

グラーフ「……そうか」

 

搬送用のベッドに寝かされた綾波さんを横目で見る

両目を閉じ、静かに…呼吸器の力を借りて呼吸している

 

グラーフ「…あの綾波がこうも…」

 

ガングート「……先ずは、返しだ」

 

狭霧「馬鹿なことは言わないでください、あなた達はやってはいけません…私がまず探します、倒すべき相手なのかは私が探りますから、大人しくしていてください」

 

ガングート「大人しく、だと?…ふざけるなよ、私達のアタマを潰されて、それで黙って泣き寝入りしろとでも言うのか!?」

 

グラーフ「待て!まだだ、戦っていい相手かの判断をしてからだと狭霧もあっているだろう!」

 

ガングート「ふざけるな!戦っていい相手か?…お前、グラーフ…お前にとって、綾波をやった相手が誰かが重要なのか?そんなくだらないことが重要なのか?!…誰でも関係ない、私は誰だろうが殺してやる…!」

 

狭霧「…やめてください、綾波さんは…そんな事を望んでいません」

 

ガングート「何故わかる!」

 

狭霧「……綾波さんの、最初に戦っていた相手は…綾波さんが傷つけた人…そして、その後、水を指したのは…怨みを持った人…綾波さんは復讐された、復讐の復讐なんて…必要ありません」

 

ガングート「…復讐が復讐を産むんだ、そんなことわかってる、だが私は…納得できん、私を強くするんだろう!綾波!!」

 

ガングートさんがベッドに寝ている綾波さんに掴みかかる

 

グラーフ「やめろ!」

 

ザラ「ガングートさん!」

 

狭霧「……ガングートさん」

 

ガングート「…なんだ」

 

狭霧「せっかくの機会です…綾波さんのやった事全て…知りたくありませんか」

 

ガングート「…どう言う意味だ」

 

狭霧「全てを教えてあげましょう…知りたい人全員に…朧さんのように騙し騙しの形を作られた事実ではない…そのままの真実を」

 

グラーフ「…聞かせてくれ」

 

ガングート「私も、聞こう」

 

ザラ「私も」

 

 

 

 

 

狭霧「……綾波さんは、元々どうしようもない人でした、研究者として、与えられた権限で可能な限り自分の欲望を満たし続けました……人をいたぶり、殺し、弄ぶ事が楽しみのような人でした」

 

グラーフ「…本当なのか…?」

 

狭霧「ガングートさん、今朝あなたが見たアケボノさん、あの方も被害者の1人です」

 

ガングート「……そうか」

 

狭霧「技術も当時に仕込まれたもので、研究者としての頭脳もこの時、戦闘員としては狙撃は勿論、格闘術、砲戦…1人で何でもこなす人でした」

 

グラーフ「…本当なのか?…私の知ってる話と、辻褄が合わない気がする…」

 

狭霧「そこについては後から説明しましょう……まず、綾波さんは…件のアケボノさんの事を脅し、無理矢理言うことを聞くように仕向け、最も信頼していた人から否定の言葉を引き出し、仲違いさせ、その手で殺そうとさせ……2度と元の関係に戻れなくしようとしました」

 

ザラ「…そんな事を…」

 

狭霧「それだけではありません、そのアケボノさんは居場所を失い、綾波さんに依存せざるをえなくなったところで飼われ…口に出すのも、憚られるような事ばかり繰り返しました、その人の持つ特異性を利用した人体実験、生きたまま殺し続けたりも…」

 

グラーフ「……」

 

狭霧「…それから、都市を一つ…完全に滅ぼしました、そこを守っている人達も、無力な民間人も、1人残らず」

 

グラーフ「…信じられない、ならドイツで綾波がやっていたことはなんだ」

 

狭霧「……考えが変わったんです…なので、以前の綾波さんは…その…私から見ても、最低な人でした…人を殺す事ではなく、痛めつける事に悦楽を感じる人でしたから何よりもタチが悪かった、死ねないように痛ぶるのを楽しんでいました」

 

ザラ「…いつ、ですか…?綾波さんが軍に入ったのは…一年程前ですよね?」

 

狭霧「そうですね、1年と半年…より少しかな…でも、今した話は、もっと…もっと昔の話です」

 

グラーフ「どう言う事だ」

 

狭霧「……世界が、生まれ変わったといえば…信じますか?」

 

ガングート「…どう言う話だ、ビックバンで宇宙が生まれたことか?」

 

狭霧「それに近い……限りなく、それに近い事が起きていたんです」

 

グラーフ「…訳がわからないが」

 

狭霧「……世界を再誕させた人がいたんです、その影響で…ありとあらゆる事象がリセットされた…本来、既に起きているはずのネットワーククライシスが起きていない、起きるはずのネットワーククライシスが起きている…」

 

ザラ「…狭霧さんの言葉を鵜呑みにするなら、生まれ変わる前にやった事、前世の罪…?」

 

狭霧「…ええ、そうです……前の世界の綾波さんは、心からいろいろなものが欠落していました、たとえば…罪悪感とか、そういうのが…悪意だけを持って生きていました…しかし、世界の再誕の影響で、心を、正常な心を手に入れてしまった」

 

ガングート「それで変わった、と?」

 

狭霧「……生まれ変わった時、最初から記憶を持っていたわけではなかったんです…綾波さんは、早くに両親が居なくなり、妹と2人でした、そしてその妹…敷波と言うのですが、その敷波が攫われたんです」

 

グラーフ「…殺されたのか?」

 

狭霧「いいえ、幸いにも今も生きています……しかし、その時彼女は両脚を失う事になりました、綾波さんは…1人で追いかけ、犯人グループの拳銃を奪い、撃ち殺してしまいました」

 

ガングート「撃ち殺した?…日本で銃か?」

 

狭霧「まだ今よりは管理が緩かったですから…でも、その時に全て思い出したんです」

 

ザラ「前の世界の記憶を?」

 

狭霧「はい…それからは…綾波さんは未成年で孤児と言う立場、そして…前の世界での頭脳…その二つが噛み合ったが故に、国の機関に引き取られ…艤装を生み出すことになります」

 

ガングート(綾波が全ての艤装の始祖か)

 

狭霧「…しかし、その時以来…銃を撃つことはおろか、銃声にも怯えるし、パニック障害も発症してました、あと…まともに喋れませんでしたね…艤装が実戦段階になった頃に、綾波さんと敷波はテスト用と言う名目で機関から捨てられ、隔離されました」

 

グラーフ「隔離された?」

 

狭霧「賢すぎたんです……前線に送るにも、誰かが近づくだけで泡を吹いて倒れるし、直接殺すわけにもいかない、敷波さん共々、宿毛湾泊地という、日本で最初に艦娘を運用した基地に送られました…が…そこは、最悪でした」

 

ガングート「…既に最悪だろうが」

 

狭霧「いいえ、綾波さんは隔離されて以降の自身に対しての扱いに満足していました、敷波さんだけは助けて欲しかったですが、綾波さんは自身の行いの償いの為なら何でもすると言う気持ちでしたし…」

 

ザラ「要するに、刑務所の代わり…」

 

狭霧「そう思っていました、しかし…宿毛湾泊地は…かつて綾波さんが手にかけた人もいるような場所でした、中には記憶を持っているのに、優しく接する人もいました……それが苦痛だった、殺して欲しかったのに、怨みをぶつけて欲しかったのに、そうする事をよしとしなかった」

 

怒りで人を殺すような、まともじゃない事を許さなかったから

 

狭霧「まともな人達のせいで綾波さんは苦しくて仕方なかった…そんな日々を過ごしていたある日、綾波さんを欲しがる機関があった…綾波さんはそこに移り、また研究の日々に戻りました……その時には…自分を偽る事を覚えていました」

 

ガングート「偽る?」

 

狭霧「まともな健常者のふりをしたんです、タガの外れたマッドサイエンティストのフリをして、吃音を隠し、パニック障害を押し殺し、生活していました…」

 

グラーフ「…できるのか?そんな事」

 

狭霧「無理です、普通無理なんですそれをやってました……そして、綾波さんの元に、被験体として…生きた艦娘を送られたんです」

 

ガングート「…やったのか」

 

狭霧「いいえ、連れて逃げました」

 

ザラ「どうして…?」

 

狭霧「…ただ、耐えきれなかったんです、しかし…逃げている間に、こんな事件が起きました」

 

大阪の、20人が死んだ銃撃事件の記事をタブレットに映す

 

グラーフ「……これを、綾波が」

 

狭霧「いいえ、これは追手がやったことです、綾波さんが逃げる先を奪うためだけに」

 

ガングート「……それで」

 

狭霧「…結末だけ言えば、その時に綾波さんは殺される事になりました…自分が心から愛した妹の手によって…」

 

ザラ「…何故、妹に殺されたんですか」

 

狭霧「この世界に来て、綾波さんは敷波さんと共に過ごし、自身の存在を、敷波の事を許してくれている周りに深く感謝していました…敷波も同様に……なのに、この凶行…敷波は姉妹である自分が手を引く事を選びました」

 

ザラ「抵抗しなかったんですか」

 

狭霧「…ザラさんなら、できますか?」

 

ザラ「……」

 

狭霧「綾波さんは、自身の脚を差し出しました、四肢の移植の成功率、凄く低いんですけど…それでも、死んでしまうなら脚を敷波にあげたほうがいいって」

 

ガングート「自分を殺した妹に、か…」

 

狭霧「……そして、その後、綾波さんの遺体は深海棲艦に奪われ、深海棲艦として目覚める事になりました…駆逐棲姫です」

 

グラーフ「…ああ」

 

狭霧「当時、生者としての記憶の一切を失った綾波さんは…深海棲艦の本能、そして方針に従い、多くの命を奪い、傲慢に振る舞いました……記憶を取り戻した頃には遅かった、もはや帰る道はない、自分で壊し尽くした…」

 

グラーフ「…受け入れてくれなかったのか、誰も」

 

狭霧「…それ見た事か、と言う態度の人もいました…まるで、それが綾波さんの本性だと言わんばかりでした……綾波さんにとって、望まぬ事だったと誰が信じるでしょうか…もはや戻れないなら……世界を滅ぼして、永遠を1人で生きる事を選びました」

 

グラーフ「…何故そうなる」

 

狭霧「輪廻は廻るものです、それならこの世界に1人残り、永遠を孤独に過ごし、悔いる事、それが綾波さんの望みでした」

 

グラーフ「…次の世界に自分が行かないようにか」

 

狭霧「はい…そして、綾波さんは敗北した…だから、死刑を何度も執行され続けた……なのに、死なない、死ねない……地獄に拒否されている…それなら…少しでも善行を積み、許容してくれるようになったのなら、一番辛い地獄に行きたい…そう考えたんです」

 

ガングート「それが、Linkの誕生の理由か」

 

狭霧「……どうですか、こんなどうしようもない綾波さんのために、復讐しますか?」

 

ガングート「…私が前の世界にいたのかは知らん、もしかしたら痛めつけられてるかも知れん…」

 

グラーフ「それはみんな同じだ、しかし何も覚えていない、納得もできない」

 

ザラ「……こう言うのがあります、世界5分前創造論」

 

狭霧「…この世界は、5分前に誕生した…と言う、あれですか」

 

ザラ「はい、私は…どうしても納得できない事は、そうやって納得してます」

 

狭霧「…現実に何人も苦しんだんですよ」

 

ザラ「私は苦しんでないし…5分前に世界ができたなら、その苦しみなんて嘘です」

 

狭霧「…傷つけた人間が、加害者が被害者を無視するなど…!」

 

ザラ「良いじゃないですか、私達は…綾波さんがどんな人だったかなんて関係ないし興味もないんです、私達が知ってる綾波さんは…誰よりもその身を犠牲にして、頑張っています」

 

グラーフ「…確かにな、私は過去何をされたわけでもない、ただ、国の攻撃機が落とされたくらいだ……狭霧」

 

狭霧「なんですか…」

 

グラーフ「…私たちは、何も知らなかった、復讐されて然るべきだと言う事は理解できたさ、しかし……それでも許せない」

 

狭霧「……」

 

グラーフ「…だから、ちゃんと判断してくれ、そいつを叩き潰して良いのか」

 

ガングート「……それまでは、静かにしていよう」

 

狭霧「そうですか、わかりました…なら、少しだけ、待っていてください…必ず調べ上げますから」

 

狭霧(…綾波さんが帰って来る前に、仇を討つ)

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