元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
教導担当 キタカミ
キタカミ「うん、そう、まあほぼ間違いないと思ってるよ」
海斗『そっか…わかった、すぐに戻れるように手配するよ』
キタカミ「いや…帰りを襲われたらひとたまりもない、そっちから指揮して、細かな判断はこっちでやるからさ、大体の方針とかは任せるよ」
海斗『わかった、大変だと思うけど…』
キタカミ「私?私は大丈夫だよ、みんな絶対怪我させないから、心配しないでよ、提督、それよりアケボノと島風の出撃の許可をくれない?あの2人にしか択捉達を助けに行けないからさ」
海斗『…待って、目的地は?』
キタカミ「艤装を追ってる限り、フィリピンの方かなぁ…」
海斗『……それなら、空路を使った方が安全だ、特務部か綾波を頼った方がいい、いくら島風とアケボノでも5人を乗せた船を守りきれないし、遠すぎるよ』
キタカミ「……あー…言って、なかったっけ…」
しまったな…提督に知らせる必要なんてないと思ってたし、択捉達のことでバタバタしてたから…
提督は綾波が死にかけてることを知らない
…言わずに居るよりは、まだマシか…
キタカミ「…あのさ」
海斗『………』
何も言わない、だけど…ため息を咬み殺したような、本当に困ったような雰囲気
キタカミ「…提督からしたら、悪いのは完全に私らなんだろうけど…」
海斗『いや……僕が、軽率だった…』
…そんな事はない、私があの時朝霜たちを追えたのは綾波が海流を示した地図を送ってきていたからだ、それを勝手に盗み見て追った
本来、ありえない、想定外の衝突
それを勝手にやった
…提督からすれば寝耳に水だ、少なくとも自分とは友好的だったはずの相手が、自分の部下のせいで死にかけている
そのせいで、結果的に…択捉達を苦しめてる
私のせいで
キタカミ「…ごめん」
海斗『…僕に言う言葉じゃないよ、それよりも……無線は通じる?兎に角、陸地で凌ぐように言って、食料や水も少なくない量が積んであるはずだから』
キタカミ「…迎えは出さないの?」
海斗『…出せないよ、今は…』
珍しく、微かに怒気を孕んでいるような…低い声
手詰まりだ、当然、私が択捉達を案じるように、提督もみんなの事を案じているはずだ
ここも心配なのに、択捉達が消息不明
…不安だろう、私だってそうだけど
キタカミ「…近海の哨戒は取りやめるよ、危険だし」
海斗『……一度切るよ、ちょっと問題が起きてるみたいだ』
キタカミ「え?提督、話はまだ……切れたし…」
…自業自得なんだろうけど、少し、納得できてない
アケボノ「キタカミさん」
キタカミ「……いつから居たの」
アケボノ「今さっきです、それにしても私の接近に気づかないとは…どうかしましたか」
…接近に気付けなかった、つまり…匂いを感知する事に脳のリソースを使ってなかった
頭がいっぱいいっぱいになってる
キタカミ「……失敗だよ、択捉達」
アケボノ「…ええ、把握しています」
アケボノに詰め寄る
キタカミ「…把握しています、じゃないんだよ」
アケボノ「今は怒りをぶつける時じゃないでしょう」
キタカミ「わかってるけど、その態度が気に食わないんだよ」
アケボノの胸ぐらを掴む
キタカミ「…あの子達が無事に帰って来なかったら…アンタわかってるよね」
アケボノ「……」
キタカミ「不確定要素しかないんだよ、海は…!何が起きるか分からないから私は出撃を拒んでたんだよ!そのくらいわかってたはずでしょ!?」
アケボノ「…ええ、思慮が足りませんでした…その事についてはお詫びします」
キタカミ「そんなの今更どうでもいい!…ちゃんと、覚えときなよ…人殺しかけてんの」
アケボノ「はい」
呉鎮守府
軽巡洋艦 川内
亮「とりあえずは概要は以上だ、大井」
大井「はい、再度纏めます、まず私達は呉をでて宿毛湾の方へと進撃、そこから鹿児島の方へ、南からぐるりと周り佐世保周辺の敵を挟み撃ちにし、そのまま舞鶴方向へ進撃、舞鶴で回収してもらいます」
木曾「質問だ、敵編成は」
亮「先にやり合った連中は大量の潜水艦を報告してる」
北上「また?…あーもう、曙、煮て」
曙「いいわね、潜水艦の煮込み、ちゃんと食べなさいよ?」
北上「え、カニバリズム…」
亮「ふざけてる場合か、さっさと出撃しろ」
川内「待った……航路的に夜までかかりそうなんだけど」
亮「…川内は佐世保に泊まれ」
川内「っし!」
神通(…いい加減夜嫌いを完全に克服して欲しいんですけど…)
亮「いいか、今回の作戦はスピードが重要だ、止まらずに目の前の敵を叩き潰せ」
大井「わかっています」
那珂「よーし!行くよ!」
球磨「球磨達はお留守番かクマ」
多摩「瀬戸内海の防衛があるニャ」
瀬戸内海
川内「んー…ここにまでうじゃうじゃ居るのかな」
曙「まだ居ないんじゃない」
木曾「待て!…通信だ、南方から深海棲艦の艦載機が来てやがるらしい!」
曙「…ふあぁ……で?…欠伸が出るわ…何処?」
木曾「…まだ先だ、だが、南の空には気をつけろ」
曙「はいはい、で?」
川内「…もう暫く行くよ、速力上げられる?」
木曾「…配布されたカートリッジ使えばいけるだろうが、あんまり数ないぞ」
神通「空襲で被害が出る事を防げるのなら…使うべきです」
川内「よし、急ごう」
カートリッジを起動し、艤装に挿入する
川内「おわっ!?」
木曾「ぐっ…!なんて馬力だ…!」
神通「体が持っていかれそうですね…!」
高速艇並みの速度
身体強化系のカートリッジで加速した事はある、あれは筋肉の瞬発力等にも影響していたけど、これは艤装の速力にしか影響してない
曙「ば、倍は出てるわね…」
那珂「曲がったら脚が持っていかれるかも…」
推進力が強すぎる…
まだ、慣れられない…
川内(…離島の島風はこれよりも早い速度を耐えてるのか…)
木曾「…おい!見えたぞ!敵艦載機だ!」
南の空に胡麻粒…いや、本当に空気中のチリくらいのサイズの何かが見える
曙「…速度落とすわよ」
お互いがだんだん近づく
射程まで、あと少し…
曙「……さっさと…」
曙の艤装が火を噴く
両手に火が灯り、周囲の気温が異様に上がる
神通「…暑いです」
曙「燃え尽きろ!!」
炎がまっすぐと伸びる
川内(…よく飛ぶなぁ…)
どれほど伸びるのか、数十メートルどころではない、100、200と伸び、突如花火のように破裂する
曙「頭上に注意しなさい!!」
ポンポンと音を立て、小さな爆発が何度も起きる
その度に艦載機が火の玉となって海へと堕ちる
神通「……ふっ」
神通が降ってきた火の玉を切り裂く
曙「…全滅した?」
神通「ええ、その様です」
川内「さすが」
とりあえず、空襲は防げたが…
川内「…さ…問題の敵は…」
木曾「やろうぜ、俺たちで」
北上「結構めんどくさいんだって…」
川内(潜水艦、マジでうじゃうじゃ居るんだろうなぁ…)
神通「姉さん」
川内「んー」
神通「この辺りの海、熱してしまいますか?」
川内「生態系崩れるからダメ」
…そんなもの気にしてる場合ではない
川内「とりあえず、今はそこまで焦らなくていいよ……那珂、佐世保まであとどれくらい?」
那珂「1時間かな」
川内「…カートリッジ使えば?」
那珂「…20分かな」
川内「よし、使おう」
Link基地
駆逐艦 狭霧
狭霧「大湊の援護は」
ガングート「順調だ、今のところはな…しかし、いつの間にこんなに近くまで攻めてきたんだ」
狭霧「……入念に準備していたんでしょう」
深海棲艦は既に津軽海峡の側まで迫っていました
佐世保の援護?そんな余裕はないでしょう
狭霧「ガングートさん、陸地から砲撃を、貴方は潜水艦の的になりますから海に出ないでください」
ガングート「…わかった」
リシュリュー「狭霧!今通信が入ったけど…仮面の敵を含む水上部隊を捉えたって…!」
狭霧「…何処でですか」
リシュリュー「津軽海峡から東に行った辺り…一度戦線を下げましょう、深海棲艦の狙いは基地らしいし、民間人の生活してる家屋に攻撃する様子は無いらしいわ」
狭霧「ダメです、それ何処の情報ですか」
リシュリュー「日本の海軍かららしいけど…」
狭霧「信用しないでください、グラーフさんは」
グラーフ「ここだ」
狭霧「…お願いがあります、神鷹さん達をできるだけ安全なところに…」
グラーフ「…わかった、だが…狭霧」
狭霧「はい」
グラーフ「…無理はするな」
狭霧「…私、ですか…?」
ガングート「ああ、お前だ、お前1人で背負い込もうとするな、死にそうな顔をしているぞ」
グラーフ「…言おうとしたことをとるな」
リシュリュー「喋ってる暇はあるのかしら」
グラーフ「……そうだな、私は行く」
…気を遣われた、か
…私は綾波さんじゃない
絶対じゃない、天才じゃない、最強じゃない
知識を共有している、経験を共有している
でも、意識は違う
狭霧(…綾波さん……)
ガングート「…何?…狭霧!大湊の連中がおされている、私は急いで援護に行くがもう遅いだろう、戦線を下げるぞ!」
狭霧「…やむを、得ません……住民の避難は」
リシュリュー「とっくに済んでるはずだけど…」
狭霧「……物量には、負けますか…」
…相手は、何倍もの数だ
私達を圧倒する、恐ろしい敵だ
一人一人は雑魚でも、束になれば…私達を蹂躙することすらできる…
狭霧(…どうすれば…)
リシュリュー「…え…?レーベとジェーナスが被弾?!…急いで戻って!ザラとポーラは!…わかった、とにかく退いて!」
…戦況は、芳しく無いです
逆転の一手は、なんなのでしょうか
全てをひっくり返すジョーカーは何処に転がっているのですか
狭霧(……この状況、何をどうすれば…先手を打たれたのが、とことん不味かったです…最悪の事態…このままでは…)
無線から聞こえてくる報告の音声に悲鳴が混じる
手にじっとりと汗が滲む
考えなくてはならないのに、勝つための戦略を
なのに私の頭はくだらない現実逃避を始めている
心が負けている
…最低な、私じゃ…救えない…
陸奥湾
駆逐艦 タシュケント
タシュケント「もう少しだ!もう少し耐えれば増援が来る!だから耐えてくれ!」
五月雨『無理です!みんなもうボロボロで…!』
それはこっちもそうだ、だけど…
タシュケント「ぁ…が…!?」
肩に、被弾…
海面に倒れる
視界がぼやける
ザラ「タシュケントさん!」
ポーラ「ダメです姉様!」
ザラ「きゃあっ!?」
助けに来ようとしたザラが砲撃を受けて吹き飛ばされる
ポーラ「姉様!!」
タシュケント(…脆い…綾波が、朧が居ないだけで……こんなにも、脆かったのか…)
情けない
立ち上がる気力もないのに、涙だけは流れる
敵が、どんどん近づいてくる…ああ、終わりだ…
タシュケント「…っ……?」
大きな波が、深海棲艦を呑み込む
五月雨『な、何が起きて…』
何処かから砲撃の音…
それも、駆逐や巡洋艦とは違う、重たい音…
ガングート『おい!タシュ!この砲撃は何処のやつだ!深海棲艦に攻撃してる奴がいるぞ!』
タシュケント「…援軍……?」
目の前の海に、バラバラになった深海棲艦が転がる
五月雨『違います!これ、人が撃ってるんじゃない…機械です!いつのまにか、砲台が…あ、あんな所にも…さっきまで無かったのに!』
砲台?機械?何を、言っているのか…
ガングート『…なんだ、これは…何が起きているんだ…』
水上部隊が撃ち砕かれる
潜水艦が破壊される
さっきまで圧倒的に不利だった状況が、一瞬にして、何かが変わる
ポーラ「……深海棲艦の侵攻が止まった…」
プリンツ「早く、撤退しないと!」
プリンツに抱き起こされ、撤退する
五月雨『援護します!そのまま行ってください!』
ポーラ「姉様!姉様死んじゃ嫌です!」
…みんな、ボロボロだ…凄く、ボロボロで、もう…ヘトヘトだ
疲れたなぁ…
『よく、頑張りましたね』
タシュケント「…え…?今、何か言った…?」
プリンツ「…いいえ…?」
…気の所為だろうか
何かが、確かに聞こえたのに…
Link基地
駆逐艦 狭霧
狭霧「…自動で深海棲艦を砲撃する砲台なんて、いつのまに…」
つい先程までの劣勢は覆った
あとは…殲滅、撃退のどちらか
…とはいえ、戦力は限界
私が打って出ても…指揮が疎かになる
リシュリュー「狭霧!」
狭霧「な、なんですか、そんなに血相を変えて…」
リシュリュー「……綾波が居ない…寝かせていた部屋の壁が、消滅してた…」
狭霧「……は…?」
悪い、冗談だ