元勇者提督 作:無し
駆逐古鬼のアジト 跡地
綾波
綾波「例えば、100や200の命がかかった状況下において、その者たちが戦えず、死が目前に迫っているとして……自分だけが、行動を起こせるとしたら…」
カツカツと足音を鳴らし、歩く
綾波「あなたはどうしますか」
駆逐古鬼「…知レタ事、利用価値ガアルナラ生カス、無ケレバ殺ス」
綾波「…あなたは正義の味方ではないらしい」
駆逐古鬼「正義?……巫山戯タ冗句ダ、貴様ガ正義ヲ語ルカ」
綾波「正義とは誰にでも語れるものです、そして私の正義は、大義に近い…はずです」
駆逐古鬼「今更、ソンナモノヲ掲ゲテ誰ガ貴様ヲ受ケ入レル」
綾波「誰も、私を理解しようとはしないでしょう……私のせいでたくさん死んだのは、紛れもない事実ですから」
駆逐古鬼「ソレハ、仕方ノナイコトダロウ、世ノ常ダ、凡人ドモハ我々ノヨウナ才能ノ有ル者ノ糧ニナル、理解サレヌガナ」
綾波「ほう」
駆逐古鬼「貴様ニモワカルダロウ、天才ト名乗ルノナラバ…天才故ノ孤独ガ…我々ハ同志ダ、違ウカ?」
綾波「…ふふっ」
駆逐古鬼に笑いかける
駆逐古鬼「ワカッタカ?私ハ貴様ノ理解者ダ」
綾波「天才、か……天才は理解されず、孤独か…」
なら、私の宝とは、なんだ
綾波「ふふっ…あははっ」
駆逐古鬼「…ナニガオカシイ」
綾波「…私は天才なんかじゃない」
駆逐古鬼「ナニ?」
綾波「……私は、ただ…少し周りより頭でっかちで、情けなくて、臆病で…ずっと目を背け続けてるだけの…ダメなやつですよ」
…そうだ…だから、矮小な私だからここで、立ち向かう選択肢を選べるんだ
綾波「…天才は理解されず孤独…か、才能があるせいで孤立した?随分と笑わせてくれますね」
駆逐古鬼「ナンダト」
綾波「天才を名乗るなら…全て完璧にやりなさい、やってみせてください、あなたは孤独だと言いましたが……私は孤独じゃない、それに…あなたは部下の扱い方が下手だ、故に…みんな殺されて、孤独になった」
駆逐古鬼を指差す
綾波「つまり…これは証明です、あなたが天才ではない証明です…本当に天才なら、部下は死んでも守れ…!」
駆逐古鬼「…笑ワセルナ…!!」
綾波「…さて、始めましょうか」
脳を灼き尽くしてやる
これが、私の理想…
全てを壊す力で、全てを守ってみせる
軽巡洋艦 那珂
那珂「…全部、教えてくれた、私の頭の中に流れ込んできた……多分、ゴレのダミー因子を利用したんだと思う」
川内「今の綾波は因子を持ってないんじゃ…」
春雨「いや……綾波さんは因子を自作したこともあります、それに一度作り上げたゴレなら、不可能じゃない」
那珂「一瞬しかなかったから、多分完全ではないんだろうけど……綾波ちゃんは、みんなから本気の攻撃を受ける事で完成する道を選んだ…あの多腕に取り込んだカートリッジは、"空っぽ"だった」
朧「…空っぽ?」
キタカミ「…なるほどね、読めてきた…力を溜め込むってことだ」
那珂「そう、綾波ちゃんのブラックホールは…世界を歪めるほどの力を一点に集中させる、高密度の力の塊……それが改二、それは今手元にない、だからそれを手に入れるために、みんなと敵対したフリをした」
春雨「…最初から、意識があったと?」
那珂「そうとしか考えられない…それに、攻撃を選んでた…傷つけないようにね…みんな、特に大きい怪我もしなかったでしょ?」
キタカミ(…てっきり、私の復讐の一撃を恐れてたんだと思った、でも…そうか、できる限り本気でかかってくるように挑発する程度、綾波は自分から仕掛けたりはしなかった)
キタカミ「でも、納得できないね…あの駆逐古鬼ってやつ、そんなに強いの?」
那珂「……綾波ちゃんには誤算があった、だから…こうするしかなかった」
綾波
駆逐古鬼「1ツ、訊カセロ…イツカラ裏切ッテイタ…イヤ、意識ヲ取リ戻シタ…」
綾波「……最初から」
駆逐古鬼「ナンダト?」
綾波「私は確かに殺されました、力尽きて死にましたとも……でも、あなたの支配下に堕ちた事など一度も無いんですよ」
手を翳す
正面の空間が歪み、空間が捩じ切れる
駆逐古鬼「巫山戯ルナ!深海棲艦化シタ以上、私ノ支配下ニ堕チル!ソレガ当タリマエダ!」
綾波「…天才を名乗るなら、当たり前に縛られない事です……私が同じ轍を踏むと思いましたか?前に深海棲艦化した時のことは覚えています、そのくらい対策しますよ」
駆逐古鬼「…デキルワケガナイダロウ…!死ヌ前提ダッタトイウノカ…!?」
綾波「…少し違う、私は…タダでは死ねない……それと、どうせあなたの事です、私を深海棲艦として再起動するのは想像がついてましたからね」
駆逐古鬼「クッ…!」
綾波「少し前の私は、今の4分の1の力も出せなかった…今もフルパワーには程遠いですが…これだけ力があれば十分貴方を仕留め切れる」
…前の改二の半分程度の力
それでも、圧倒する自信はある
綾波「それと、私にも誤算が二つありました」
駆逐古鬼「誤算ダト」
綾波「あなたに一度殺されかけた事、そしてアヤナミの事です」
あの事があったから、再誕はアヤナミの側にわたり、さらには私の記憶を読み取ってしまった
そして、アヤナミは駆逐古鬼と戦う事を選び、惨敗し…駆逐古鬼に再誕が渡ってしまった
私の中では、ここまで酷くなる予定はなかった
改二は必要なかった
駆逐水鬼になって、そして目覚めてすぐ、不意打ちで駆逐古鬼を殺して終わるはずだった
それがどうしたことか、再誕を持っているとなるとただ殺しても意味はない
そういう事で、私は改二を手に入れる必要に迫られた
綾波「ああ、それと…今更ですが、あなたの部下、全滅させておいて本当に良かった…先にあなたを殺してしまってはあの数が世界中に散らばる…あんな大軍、もし数カ所に分散しても処理し切れるところがどれ程あるか」
駆逐古鬼「……」
駆逐古鬼が渋い顔をこちらに向ける
貴様に全滅させられた、とでも言いたそうだが…
綾波「ま、私が処理しておいてよかった…群れのボスを仕留めても、その群れが散って二次被害を出しては…なんの意味もありませんからね」
駆逐古鬼「…御託ハ聞キ飽キタ!貴様ハヤハリコノ手デ直接…ァガッ!?」
綾波「!」
駆逐古鬼「ナ、ナンダ!」
大量の艦載機…
瑞鶴さん達が追いついた?いや…
この音、二式大艇か
綾波(…情けない姿を見せる事になるなら…さっさと終わらせてしまおう…いや、間に合わないかも知れないな)
踏み込み、駆逐古鬼に迫る
駆逐古鬼「来ルカ!」
駆逐古鬼がこちらに拳を振るう
綾波(…駆逐古鬼の、関節の動き…まさか…!)
姿勢を屈めて滑り込む、拳をかわして背後から蹴り込む
綾波「ッ!!…やはり硬い!」
駆逐古鬼「効カン…ククク!」
…当たった感触から、確信に至った
綾波(人工筋肉…!)
かつての私と、同じ…機械に頼った身体…
綾波(……まるで、過去の自分との、戦いですね)
立ち上がり、スカートの汚れをはらいながら駆逐古鬼を見つめる
綾波「……その道は、やめたほうがいいですよ…地獄しか待っていない」
駆逐古鬼「ナンダ今更…怖気付イタカ?」
綾波「経験者からのアドバイスですよ…それに、早くしないと…みんな来ちゃいますから」
ブラックホールに呑み込まれ、転移する
駆逐古鬼「ドコダ…背後カ!」
綾波「いいえ、左です」
横っ面に蹴りをぶち込む
駆逐古鬼「ゥグ…!」
綾波「あなた、振り向く時右から振り向く癖がありますね」
両手にブラックホールを召喚し、手を胸の前で合わせる
綾波「それと、動き始める時、右足で地面を蹴るクセもある…機械故のクセか、生物故のクセかは知りませんが」
駆逐古鬼「…!」
重なったブラックホールが周囲の瓦礫を飲み込み…
綾波「それでは、飛び道具は?どう対処しますか?」
空間に白い球体が複数浮かび上がる
それは駆逐古鬼を取り込むように浮かび上がり…
駆逐古鬼に向けて瓦礫の散弾を放ち続ける
駆逐古鬼「ゥグァ!!」
綾波「近接戦闘を特に強化してるのは、普通なら正しい一つの形なですけど…今の私相手には無意味でしたね」
駆逐古鬼「クソッ!クソ!!」
綾波「…人工筋肉だとか、深海棲艦を使った戦いだとか……"そこ"、すでに私が通り過ぎてるんですよ、つまりあなたが居るのは、ただの通過点…お疲れ様でした、先頭にいるのは私です、凡人さん」
駆逐古鬼が瓦礫の散弾からなんとか逃れる
綾波「…こんなこともできるんですよ」
指をパチンと鳴らす
あたりを包み込むように周囲の瓦礫が形を作り、建物が形として現れる
駆逐古鬼「ナ…ァ!?」
綾波「…ここまであなたが苦しんでる理由、それは…その人工筋肉を使ってるからです…それでは、動きが読みやすすぎる」
脳がパチパチと音をたてる
綾波「…動かない事を、お勧めします」
駆逐古鬼「コンナモノ!…ウギャァッ!?カ、身体ガ…アアアァァァァァッ!!?」
綾波「即席トラップルームです、一歩でも動けば…死ぬと思います、絶妙なバランスで作られた建物なので、動いたら崩れ落ちるし、足元は鋭利な岩だらけ…って、もう手遅れか……それでは…あなたが粉々になった頃にまた」
腰を下ろす
いや、正確にはもう立っていられない
脳が灼ける
頭が熱い、全身が熱い
…私の計画の最終段階
人間の身体で改二を使い続けた私の末路…
駆逐艦 狭霧
狭霧「遅くなりました、皆さん御無事そうで…」
キタカミ「…ああ、うん」
でも、綾波さんの姿がない…
狭霧「綾波さんは?」
那珂「決着をつけに行ったよ」
…遅かったか
狭霧「瑞鶴さん、ついてきてくれませんか…もう遅いかも知れませんが…」
瑞鶴「……わかった、私も最後まで、確かめたい」
キタカミ「……なにアレ」
少し離れた所で瓦礫が浮かび上がり、何かを形作っていく
狭霧「…行けばわかります」
狭霧(…グラーフさん達を抑えなきゃ…いや、もう行ってしまったか…これは…最悪の場合もありうる…か)
イムヤ「ねえ!ちょっと待って!」
綾波
あたりが騒がしくなってきた
もう、そろそろ、私の意識も限界に近いけど…
項垂れた首をなんとか上げて、横目であたりを確認する
綾波「…ああ……きてしまいましたか…間に合わなかった」
…来てしまう前に、死んでしまえれば良かったのに
リシュリュー「綾波…!」
ガングート「怪我は無さそうだな、しかし…」
グラーフ「随分疲弊しているように見える…だが、間に合わなかったとは…」
綾波「…こんな姿、見せたくなかったんですけどね…」
狭霧「皆さん!綾波さんを止めてください!」
遠くから叫んでる声がする…
グラーフ「狭霧!どういう意味だ!」
狭霧「今なら間に合う!それ以上あの瓦礫の山を維持させないで!」
…もう遅い、誰が私を止められるというのか
リシュリュー「どういう事、何を…?」
狭霧「いいから殴ってでも何でもいい!気絶させてでも止めてください!!」
ガングート「……」
ガングートさん達が顔を見合わせる
…終わりだな
悪くはなかった…楽しかった、幸せだった
それくらい、伝えてもいいかな…
綾波「…私は、幸せでした…よ…っ…?」
両肩を背後から斬られた感覚…?
誰だ、何のために、誰が…!
春雨「貴方には、聞きたい事が山ほどある…1人で終わらせない…!」
ガングート「貴様!何を!」
血が、流れ落ちる
外気が冷たい
…この冷たさが、心地よくなってくる
春雨(やはり、この人の体内は今高温だ…脳も、きっと…)
綾波「ぅ…」
顔面から地面に突っ伏す
瓦礫が崩れる音がする
…私は、なんて情けないのだろう…
もう、アレを維持することもできない
春雨「これだ…!」
カートリッジも、取り上げられた…
……願わくば、永遠の眠りを…
駆逐艦 狭霧
狭霧「ぜ…はぁ…ごほっ…ごひゅっ……あ…ず、瑞鶴さん、とりあえず…綾波さんを…」
瑞鶴「…あっちでタコ殴りになってる春雨は…」
狭霧「こ、殺しはしないはず…ごほっ…」
瑞鶴「わ、わかった…」
綾波さんの傷口が消えていく
狭霧「…体内の高温の血液を多量に流す事で、体温の低下を狙う……うまくいったのかもしれません」
アヤナミ『だとしたら、よかった』
…流石、もともとは同じ体に存在した意識だ
互いのことをよくわかっている
そして、助けるための手段も
綾波さんの首元に触れる
人間の体温としては以上だ
人間の致死温度は42℃、45℃を越えれば短時間でも危険…
それを超えている
激しい動きをして越えたんじゃない
これが改二艤装のデメリット、反動
脳に負荷を強いるため、フル稼働した脳が灼き切れ、そして全身の血が沸くように熱くなる
狭霧「…お願いです、綾波さん、貴方は…まだ必要とされているんですよ、だから…」
綾波「……」
目を覚ます気配は、ないか
瑞鶴さんの能力とはいえ、完全に壊れた細胞までは治らなかったか
このままでは、良くても脳死状態になるのか…
狭霧「…皆さん、到着しましたか」
タシュケント「…これは…」
ザラ「遅かったんですか…」
狭霧「…はい、私達は、何もかも遅すぎた」
神鷹「…嘘…」
倒れた綾波さんを、取り囲む
狭霧「…無茶さえしなければ、こうはならなかった筈なのに」
タシュケント「…熱い…これが、人の体温?」
狭霧「…なに脇に手を突っ込んでるんですか」
タシュケント「…日本の体温計って、そうじゃない?」
狭霧「体温計ならそうですけど…」
タシュケント「…神鷹、来て」
神鷹「え?は、はい…」
タシュケントさんが神鷹さんの手を綾波さんの両脇に突っ込み、体を起こして神鷹さんに傾ける
要するに、神鷹さんにハグさせた状態だ
神鷹「え、ええ…?」
狭霧「なにやってるんですか…」
タシュケント「神鷹の手が冷たかったから、きっと丁度いいかと思って」
ザラ「…まだ海につけたほうが涼しいと思いますよ」
狭霧「…急げば間に合うか、海に運びましょう…!」
綾波「……いや、要らないです…」
神鷹「綾波さん…!」
狭霧「目が、醒めましたか…!」
綾波「……永遠の眠りの、はずだったのに…ロクに寝かせてもくれないんですね…」
タシュケント「もう朝だよ」
ザラ「私達にとって、あなたのいない朝は考えられないものになってしまったみたいなんです」
綾波「…駆逐古鬼……アレは、まだ、生きてますか…」
狭霧「生きていようが、死んでいようが、関係のない事です、貴方の戦う力はもうカートリッジごと取り上げられたのですから」
綾波「…そうですね」
神鷹「……」
綾波「神鷹さん…」
神鷹「は、はい!」
綾波「珍しいですね…私を、そう呼ぶのは」
神鷹「…だって…
綾波「そうですね…でも、怒ってるんじゃないんです…ただ、少し困るだけです……神鷹さん、人の気持ちを考えられて、えらいですね」
神鷹「ママ…」
タシュケント(…あとで後悔するんだろうな…)
瑞鶴「…一件落着?」
狭霧「…もう少ししたら、ですかね」
駆逐古鬼
駆逐古鬼「…ゥグ…ワ、私ハ…生キノビテ…!」
目の前に鉄製の弓が突き刺さる
ビスマルク「ねえ、アーク、私達はいっときコイツに使われてた訳だけど」
アークロイヤル「そうだな、ビスマルク、おかげで綾波達に出会えた、その礼はするべきだろう」
駆逐古鬼「ナ…誰ダ…」
ビスマルク「ここで問題よアーク、確かに私達は今は姫級ではない、目の前にいるこれを斃すのは…無理だと思う?」
アークロイヤル「答えはNoだ、今の私たちなら、かつての私達よりもずっと強い」
弓が引き抜かれ、矢がセットされ、ぎりぎりと引かれる
アークロイヤル「なあ、そうだろう?ビスマルク、それに…お前達も」
ガングート「当然だ」
リシュリュー「綾波を痛めつけたお返し、させてもらおうかしら」
駆逐古鬼「ヒッ…バ、バカナ!ヤメロ!ヤメロォォォォ!!」