元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 二式大艇機内
綾波
綾波「春日丸さん…アヤナミの……いや、私に縛られず、好きに生きてください」
春日丸「私は貴方の命令の侭に生きる、貴方のお役に立てること…それだけが私の喜び…どうか、そのようなことをおっしゃらないでください」
グラーフ「…神鷹と似た顔をしてるのに、まるで真逆だな」
ガングート「ああ、頭がバグりそうだ、尽くす側と尽くされる側が真逆だ」
綾波「聞こえてますよ」
グラーフ「そう怒る事ないだろう」
綾波「…怒ってませんよ、ただ、春日丸さんや神鷹さんに失礼なことを言うのはやめて欲しかっただけで…」
春日丸「…神鷹さん」
神鷹「……」
春日丸「綾波様にあまり甘えてはいけませんよ、綾波様はお優しいですが、同時に誰かのために無理をされる方でもあります、支えてあげる人が必要で…」
神鷹「…やだ…」
春日丸「あーもう!嫌だじゃないです!綾波様もあまり甘やかしすぎては…!」
綾波「春日丸さん、別にあなたの妹ではないのですから…」
春日丸「ぅ…そう、ですが…」
神鷹「……お姉ちゃん?」
春日丸「…綾波様、どうやら私は姉になったようです……躾ける義務があります」
綾波「また今度にしてください…」
春日丸「……はい」
龍驤「あー…とりあえず…世話なったわ、またな!」
狭霧「はい、今度はこちらに遊びに来てくださっても構いませんよ」
龍驤さん達を送り出す
綾波「…狭霧さん、後の操縦は任せました、私は少し休みます」
狭霧「……ええ、わかりました…おや」
誰かが走って…いや、誰かは見当がついている
綾波「…敷波、走るのはやめ…うぐっ」
飛びつかれた
壁にぶつかって、背中と頭が痛い
敷波「……」
強く、精一杯、私を抱きしめ、私の腹部に顔を埋めて泣いている
…私の意図を全て知って、それで、いろんな感情に呑み込まれたのだろう
頭を軽く撫でる
綾波「…心配かけましたね、敷波……随分と久しぶりに会ったような気かまします」
敷波「…もう、離さない…」
綾波「ダメですよ」
敷波の手を掴む
綾波「あなたは連れて行きません、敷波、あなたの姉は…私じゃない」
敷波「…違う、綾姉ぇは…綾姉ぇだから……」
…困ったな、どうするか…
敷波「……でも、アタシは…ここに残るよ…アタシのもう1人のお姉ちゃんが悲しむから」
綾波「…そうですか…優しい子ですね、ずっと、変わらない」
額に口付けし、軽く頭を撫でる
敷波「……綾姉ぇ、一つだけ聞かせて…アタシのこと、嫌い?」
綾波「いいえ、あなたはいつまでも私の大事な妹です…最初から、それが一度でも変わったことはありませんよ」
敷波が立ち上がり、笑う
綾波「…大きくなりました?」
敷波「ううん、全く」
綾波「…大きく見えます」
…かつての、小さな妹はもう居ないのだろうか
とても頼もしく見える
敷波「またね、綾姉ぇ」
綾波「ええ…またいつでも」
敷波も二式大艇を降りた
これで、ここにはLinkのメンバーと来客2名だけ
後は帰るだけ
帰ろう
駆逐艦 朧
二式大艇が離陸し、それなりの時間が経った
離島鎮守府に残る選択肢は、まだ無い
綾波の言う、次の戦い、それをみんなで乗り越えて、ようやく…
そう考えながら、大艇の中を歩き回る
俺「…ぇ?」
…なんて間抜けな声を出してしまったのか
でも、目の前に映っている光景は…いや、まだ焦るには早い
朧「あ、綾波?寝てるの?こんな所で…」
倒れた綾波に近寄り、抱き起こす
…息はしてる
朧(よかった、死んだわけじゃない…でもなんで?)
仮眠室も大艇にはある
なのに、廊下で…?
それに、なにか…体臭とは違った匂いがする…
朧「…誰か!誰か来て!!」
綾波を仮眠室に寝かせ、ただ、到着を待つ
綾波の身体は治されたのに…
なぜあんな所で眠っていたのか…
Link基地
駆逐艦 狭霧
ベッドに横たわった綾波さんの隣に座る
狭霧「……そんな気はしてたんです、わかってました…気づかないふりをしているのが楽だったから、そうしてしまいましたけど」
綾波さんは、ただ眠っている
それだけだ
狭霧「…本当に、良く頑張りましたね…貴方の頑張りを知っているのは、認めてあげられるのは、私しかいません…だから、貴方のことを私は…ずっと…」
…綾波さんは、脳にダメージを負った
それも、深刻なダメージだ、回復しきれなかった
…脳を火傷したような状態、回路が灼き切れているような状態
ここまで含めて綾波さんの計画だったのだろうか
綾波さんは、改二を使う事でこうなる事を知っていたはずだ
世界にとって邪悪な存在とみなされる自分が改二カートリッジの使用で再起不能になる事が世界の為だと思ったのか
狭霧「…頑張りましたね…みんな、貴方のこと、気づいてなかった」
綾波さんにとって、戦いなんて全く苦ではなかっただろう
綾波さんは、春日丸さんに、敷波さんに、みんなに心配をかけないように…その為に、平気なフリをしていた
一番苦しんでいた筈なのに、誰にも気づかせなかった
貴方の真意に、本当の貴方に、誰も気づかなかった
狭霧「全部、望み通りですか…?…私達を、置いて行くことも」
…きっと、目は覚ます
何故なら処置が早かったから
…でも、どのような状態で目を覚ますのか、私には想像もつかない
きっと、無傷とはいかない
たくさんの人々を守ったと言うのに、その世界を救った英雄が…誰よりも傷を負い、そして、人知れず眠りにつく
狭霧「みなさんには、改二の負担が大きくて…体力を全て使い切ったからだと説明してあります、2、3日は眠ってるって…だから、貴方は…もう少しだけ休んでていいんですよ」
…でも、できるなら…
狭霧「…早く、目を覚ましてほしいなぁ……」
憂鬱な気持ちに呑まれて、何も手につかないと言うことはあってはならない
私は、理解者だ
だから私は、綾波さんの代わりを果たす
私は、綾波さんの代わりになる為に…
狭霧「初めまして、お二人とも」
来客の対応は、私達がやる
といっても、その客は2人とも縛り上げられてるけど
駆逐古鬼「……」
あきつ丸「…ここは…」
狭霧「私達の基地です」
駆逐古鬼「処刑場ノ間違イダロウ」
狭霧「…確かにそうかも、朧さん」
朧「わかってるよ」
駆逐古鬼「ダ、誰ダ!後ロニ居ルノカ!?」
朧「……タルヴォス…データドレイン」
駆逐古鬼「ゥガッ!?ギャアァァァアアアあぁぁぁぁっ!!」
あきつ丸「ひっ!?」
狭霧「手荒な真似をしてすみません、でもこうしないと…いろいろと抉り取る事になりますので」
あきつ丸「ぁ…あ、あれを、じ、自分も受けるのでありますか…!?」
狭霧「…確かに、あきつ丸さんの歪みを矯正するにはいいかもしれませんが…人格壊れちゃいますよ?やめておきましょう」
神風「……ぁ…ぁ…が…」
狭霧「さて、駆逐古鬼さん、どんな気分ですか?」
神風「…い、生きてる…?…え?は、肌も…何もかも、元に戻って…嘘…!」
狭霧「人間に戻しました、これで深海棲艦ではなくなり、戦う力も失った…どうです」
神風「……なんで?…私を、なんで…」
狭霧「綾波さんは貴方を恨んでいます、それは大切な物を侵そうとした貴方への恐怖から…しかし、それでも綾波さんは組織の長、規範となる者、みんな綾波さんに倣っている以上…憎しみで戦い続けることはしません」
神風「…許して、くれるの…?」
狭霧「許しましょう、だから貴方も許しなさい、もう争う必要はありません」
神風「……ありがとう…てっきり、私は…ここで痛めつけられて、殺されるんだって…深海棲艦でも再生できないようにされるんだって思ってた…」
狭霧「ここには小さい子たちもいますし、そんな教育に悪いことしませんよ」
神風「…そう」
狭霧「あきつ丸さんと…」
神風「神風」
狭霧「神風さん、貴方たちには選択肢があります…Linkとして、死の危険のある戦いに参加するか、それとも人間として、普通の様に生きるか」
神風「…夢みたい」
狭霧「夢ですか」
神風「もう、そんなこと絶対無理だと思ってたから」
狭霧「……あきつ丸さんは?」
あきつ丸「…私は、綾波様に生かして貰えた身…」
狭霧「それ以前は?」
あきつ丸「…避難船…襲われて…」
狭霧(成程、沖縄のような島に住んでいたのか…)
狭霧「嫌な事を思い出させてすみません、しかし、それなら貴方も普通を目指して生きてください」
あきつ丸「…普通…か」
狭霧「学業に従事していればいいんです、ただし、お小遣いなんかは出ないので、自分でアルバイトでもしてくださいね」
あきつ丸「…はい」
神風「私、今更学校になんて…」
狭霧「学ぶことは山のようにあります、学校でする事は勉強です、それが学問か、人との付き合いかは人によりますが…わかりましたか?自称天才さん」
神風「はい…」
離島鎮守府
アヤナミ
春雨「…はい、これでよし、どうですか?」
アヤナミ「…体調に問題はありません…」
春雨「それならよかった、再誕の力があれば医者いらず、か」
症状を抑える薬という名目で、かなり強い眠り薬を呑まされた
目が覚めれば再誕の眼が埋め込まれ、その力で両目が戻り、両脚も現在.
悪かった身体も、完治した
…でも、私の心には影が差した
きっと、もう目を覚まさないだろう
私があの身体に行けばよかったのに、苦しい役目は任せてくれればよかったのに
あなたの幸せは私の幸せ
それは私も同じ事だ
春雨「…アヤナミさん」
アヤナミ「…わかっています」
前を向くのが、綾ちゃんへのせめてもの…
春雨「そうじゃありません、あなたが…今の状況を理解していることくらい私でもわかります、私は…貴方を貴方として、受け入れます」
アヤナミ「…私を?」
春雨「貴方は代わりなんかじゃない、私にとって、かけがえのない存在の1人であると言っているんです」
アヤナミ「……そんなわけない、だって…おかしいでしょう!?私は、私はただのAIDA、人の体を借りただけの存在!…私は、まやかしなんです…」
春雨「いいえ、貴方は私を強く憎しみ…許した、そんな事ができて、何がAIですか…それに、私達だって昔はAIだった…知っているでしょう?」
アヤナミ「…それ、は…」
春雨「…それに、貴方は求められている、貴方を求める存在がいる」
アヤナミ「え?」
背後から、優しく抱きしめられる
敷波「…アタシは、アヤ姉ぇも…大事なお姉ちゃんだと思ってるよ」
アヤナミ「…敷、ちゃん…」
敷波「ずっと…綾姉ぇの中で、綾姉ぇを守っててくれて、ありがとう」
アヤナミ「……でも、私は…」
敷波「大丈夫、だから…これから、アタシのお姉ちゃんになってよ」
アヤナミ「…うん…」