元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 執務室
提督 倉持海斗
海斗「え?撤退?横須賀の艦隊が?」
アケボノ「はい、援護を要請されてます」
海斗(確か、西方海域に向かってたんだっけ…そんなに苦しいのかな)
海斗「今の手空きは……よし、通常編成で横須賀艦隊の撤退を援護、ウチで受け入れよう」
アケボノ「そのように手配します」
応接室
海斗「…拓海、西方海域はそんなに苦しいところなの?」
火野「少なくとも…簡単ではない、特に敵の援軍が出てきてからはな」
海斗「援軍?」
火野「…仮面をつけた艦娘のようだった、白い仮面と、衣服も白で統一されていた」
海斗「…人ってこと?」
火野「わからないが、艤装は艦娘と同様のものに見えた……対人戦となると…艦隊の動きも鈍る」
海斗「…そうだね、ここにいるみんな、深海棲艦と戦う覚悟はしていても、人と戦う覚悟はできてない…」
火野「…どうしたものか」
海斗「そう言えば…向こうの拠点はどうなったの?」
火野「……仮面の敵に奪われた、どうにも、陸戦の動きも一級品らしい…現地の軍人達があっという間に制圧されたそうだ、帰港するにも…危険だと判断した」
海斗(…仮面の敵、陸上での戦いもできる艦娘…)
海斗「…なんで人間を襲うんだろう」
火野「理由は不明だ」
海斗(…アヤナミに少し話を聞いてみよう、何か知ってるかもしれない)
アヤナミ「仮面をつけた敵、ですか…」
海斗「うん、何か…わかることがあれば教えて欲しいんだ」
アヤナミ「……その…私にはあまり…データは綾ちゃんが持ってると思います…交戦したことがあるそうなので…」
海斗「そっか…わかった、どうにか連絡を取らないと…それと、もう一つ……深海棲艦が人間を襲う理由…何か分かったりする?」
アヤナミ「…本能のようなものだと思います…だって、理性がかけてるんです…深海棲艦は……理性が存在する深海棲艦は、悪戯に人を襲いません…上位個体に制御され、仮初の理性を得た深海棲艦同様に…」
海斗「……止められないのかな」
アヤナミ「…方法はあります、綾ちゃんが使っている手なんですけど…深海棲艦に仮初の理性を与えて人間への攻撃性を抑える音波を出すんです……でも、これも完璧じゃない…理性を受け付けない個体と、理性がある個体には効きません…」
海斗「要するに、賢すぎても、そうでなさすぎてもダメなんだね」
アヤナミ「はい…なので、仮面の敵には効果はないかと…」
海斗「そっか…うん、色々ありがとう、参考になったよ」
アヤナミ「司令官」
海斗「何?」
アヤナミ「…綾ちゃん、私は多分、会ってもらえないから…時間がある時に、尋ねてあげてください……」
そう言ってアヤナミがメモを差し出す
住所らしきものが書いてある
海斗「ここに?」
アヤナミ「…誰にも見せないでください、誰にも、教えないでください」
海斗「…わかったよ、どこにしまっておこうかな…」
アヤナミ「…見たら、燃やしてください」
海斗(お、覚えておけるかな…こんなに細かい住所…)
応接室
火野「どうだった」
海斗「特に、今すぐ役に立つことはなさそうかな…」
火野「佐世保の艦隊を派遣しようかと思う」
海斗「佐世保を?…確かに陸上での戦いも訓練してるらしいけど…それは国を守る為でしょ…?」
火野「そうだが、他に手が思いつかない」
海斗(…陸での戦闘も熟る…か)
海斗「頼りっぱなしになりかねないけど…行くしかないか…」
本土 青森 某所
海斗「…確か、この辺りだと思うんだけど……メモすれば良かったなあ…検索してもはっきりした位置情報がないし…あれ?」
向こうから走ってくるのは…
朧「あ、提督?どうしてこんなところに…」
海斗「朧!キミこそ…いや、そっか、丁度よかった、朧、綾波に会いたいんだ、案内してくれない?」
朧「綾波に用事ですか?…よくここがわかりましたね…」
海斗「まあね…なんの連絡もなく来ちゃったけど…」
朧「大丈夫です、たぶん」
Link基地
…正直、どんな要塞や研究所が広がっているのかと想像していたけど…入ってみれば生活感のある設備、というよりは今風の豪邸のような…
朧「…どうかしました?」
海斗「いや、普通のお家みたいだなって…」
朧「あー、確かに、でも綾波曰く普段の生活がひどいと仕事に入らないらしいし、そのせいかもしれません」
海斗「…おじゃまします」
狭霧「初めまして、倉持司令官、私は狭霧と申します、ここの副官を務めさせていただいております」
海斗「よろしく……キミは、綾波の姉妹なの?」
狭霧「姉妹艦という意味でしたら、はい…しかし実の姉妹ではありません」
海斗(…すごく雰囲気が似てる気がしたけど、そうでもないのかな)
狭霧「私は綾波さんのクローンのようなものですから」
海斗「く、クローン!?」
狭霧「…随分と驚かれますね」
海斗「いや…そ、そっか…ええと、それより…綾波は?」
狭霧「……わかりました、ご案内致します」
狭霧さんに案内され、奥の部屋へと通される
海斗(…ここだけ雰囲気が違う、いや…医薬品の匂いか、ここは医務室なのかな…綾波は何処か悪いのか、それとも…)
狭霧さんがドアをノックする
狭霧「綾波さん、お客様ですよ」
引き戸を開け、中に案内される
狭霧「え…?」
海斗「……綾波?」
綾波「ああ、これはこれは、倉持司令官、お久しぶりですね」
狭霧(あ、綾波さんが…しゃ、喋って…しかも立ってる!な、何故…快復できるはずなかったのに…!)
海斗「…ええと…うん、久しぶり、元気そうでよかったよ」
綾波「そうでもありません、未だこの現世に縛られているのは、少しイヤな感じです…さて、さっさと本題を進めましょう?狭霧さん、お茶をお出ししてください」
狭霧「は、はい!」
海斗「あ、お構いなく…行っちゃった…」
綾波「忙しない子ですみません、それより、今日はなんの用ですか?離島鎮守府の司令官ともあろうお方が、わざわざ私に会いになど…」
海斗「…仮面の敵、で伝わるかな…」
綾波「ああ……なるほど、そういう事でしたか」
綾波が書類の溜まった棚から迷いなく一つのファイルを抜き取る
綾波「あれは、私もよく分かってないんですよね、人の形してるけど中身はまるで不明…非人道的な奴らが扱う私兵ですから、仕方ないですけどね」
海斗「…扱う…誰かに操られてる?」
綾波「いいえ、自分の意思で動いているはずです、奴らの活動時、ほぼ全ての回線を確認しましたが、通信の痕跡はありませんでした…と、なれば…可能性が高いのは命令を埋め込まれているパターン…ま、なんにせよあれは人とは呼べないでしょう」
海斗「人じゃない?」
綾波「ええ、もしくは人だったが正しいかもしれません、少なくとも生きた人間ではない、戦う時点ではね」
海斗「……西方海域に出現したんだ」
綾波「ほう、興味深い」
海斗「現地の基地を襲ったらしい、なぜそんな事をするのか、深海棲艦でないとしたら、誰にメリットがあるのか…僕にはわからなかった」
綾波「…まず一つ、深海棲艦の仲間です、奴らは」
海斗「え…?人の艤装を使ってるのに?」
綾波「奴らはここを攻める時に深海棲艦と一緒に攻めてきました、まあ要するに…奴らはズッブズブの関係なんですよ、というか深海棲艦に分類する方が早いでしょう」
海斗「…報告によると陸戦もこなすって」
綾波「……倉持司令官、我々Linkはその為にある、世界の海を取り戻す為にある…ならば、私はその為になんでもしましょう、見返りは求めません…言ってください」
海斗「……西方海域に出現した仮面の敵を掃討してほしい」
綾波「了解、承りました」
海斗「…ごめん、頼りっぱなしで」
綾波「いえいえ、仕事がないとみんな怠けてしまいますからね…そうだ、倉持司令官、今日はお時間の程は?」
海斗「…こんなにすぐに了承してもらえるとは思ってなかったから」
綾波「それは良かった」
狭霧「失礼します、お飲み物をお持ちしました」
海斗「あ、どうも……え?」
綾波「…な、なんですか、これ…」
狭霧「タピオカミルクティーです」
綾波「…狭霧さん、貴方……はぁ…すみません、倉持司令官」
海斗「いや…うん、流行った頃には向こうにいたから飲んだ事なかったけど、甘くて美味しいね」
狭霧「お気に召していただけて幸いです」
綾波(おかしい、私は狭霧さんに栄養管理とかを頼んだりするくるい信頼してたのに、この一件で信頼が砕け散りましたよ)
綾波「狭霧さん、お客人の前で言うことではありませんが、普通のお茶を要求したんですよ、私は」
狭霧「ええ、知ってます、でも折角なので」
綾波(この人も頭のネジ外れてますね)
綾波「…ええと、それでなんですが、見て欲しいものがあるんです、きっと持ち帰ったら皆さん喜びますよ」
海斗「みんなが?」
綾波「狭霧さん、持ってますか?」
狭霧「はい、此方になります」
小箱を渡される
綾波「そちらは試験運用中の艤装…と、その管理用の器具になります」
小箱を開く
海斗「…指輪?」
綾波「ナノマシンを使った、いつでもどこでも艤装を召喚できる装備になります、良ければ是非」
海斗「……僕が使うの?」
綾波「いや、皆さんに配ってほしいんです」
海斗「だよね、それで、こっちの管理用っていうのは?」
綾波「敵に奪われたりした際、それで指輪の艤装をただの鉄の塊に変える力があります」
海斗「なるほどね、普段は使うことはなさそうだね」
綾波「ええ、しかし…まあ、諸事情があって、というか…横須賀の人たちがごねたので、管理用の指輪に生体反応がないと艤装を展開できないようになってます」
海斗「……つまり、これを僕がずっとつけておかなきゃいけないって事?」
綾波「そうなります…ご不便かとは思いますが」
海斗「みんなの役に立つなら、ありがたく使わせてもらうよ!」
綾波「……では、そのように…それと、これを」
綾波が人差し指の指輪を僕に差し出す
綾波「つけておいてもらえませんか、サイズは自動調整されますから」
海斗「…どうして僕に?」
綾波「……あなたは、こう言ってはなんですが、しぶといでしょうから…」
…まっすぐ、目を見つめられる
綾波「お願いします」
海斗「……わかった」
右手の人差し指に指輪をはめる
綾波「もう一つの指輪は、左手に……っ…と……狭霧さん、倉持司令官をお見送りしてください…私は、疲れました……」
狭霧「!……はい、倉持司令官…こちらへ」
海斗「ありがとう、綾波」
狭霧(…随分と、1人で無茶をされていたのですね…貴方1人が頑張ることなんて、ないのに…)
朧「あれ、提督、もう帰るんですか?」
海斗「うん、これでも忙しい身だからね…どうしたの?朧」
朧「いや、その指輪…」
海斗「綾波にもらったんだ」
朧「綾波に?……そっか…うーん…」
海斗「どうかした?」
朧「…ケッコンカッコカリ」
海斗「結婚?」
朧「その指輪をつけることの名称らしいです…横須賀の人たちが言い出したとかで」
海斗「…気をつけなきゃ、何言われるか、わから…ない……ね…」
朧「提督?」
海斗「……そういえば、いまウチに横須賀の人達が……いや、明日の朝には帰ってるはずだけど…」
朧「…泊まって行きます?部屋ならありますけど…」
海斗「ううん、もうすぐ新幹線の時間だし、じゃあ僕は…あれ?」
青葉「し、司令官!?なんでここに!?」
海斗「青葉こそ、なつめのところにいるんじゃ…?」
青葉「いえ…その、ここで起きている未帰還者事件を解決する為に、場所を借りてるんです……その、司令官、よければお話を…」
海斗「あー…えっと…」
朧「新幹線、間に合いますか?」
海斗「綾波のところで予想外に長居しちゃったから…ギリギリかな」
青葉「ひ、引き止めてごめんなさい!どうぞ!」
海斗「そう畏まらないで…青葉」
青葉「はい!」
海斗「疲れたらいつでも戻ってきて、みんな待ってるから」
青葉「……はい!」
離島鎮守府 執務室
アケボノ「…これを、私にですか」
海斗「うん、アケボノならどんな艤装も扱えるでしょ?」
アケボノ「……しかし、私は今は非戦闘員です」
海斗「でも万が一が起きるかもしれない」
アケボノ「……どうやら、今日の提督は強引なようですね」
海斗「別にどの指でもいいんだ、アケボノがつけてもいいと思う指につけて、とにかく失くさなければそれで良いから」
アケボノ(…左手の薬指…というのは、あまりにも卑しいか、横須賀の連中が言っていたケッコンカッコカリ、意識するなというのが無理な話だ……)
アケボノ「では、提督同様右手の人差し指に」
海斗「あとは、みんなにも渡さなきゃな…」
アケボノ「え…?人数分有ったのですか?」
海斗「え?…うん、みんなに渡してって…」
アケボノ「……そう、ですか…」
アケボノ(いま、当然だ、なにをへこんでいるのか私は)
アケボノ「配る役目、お手伝いします」
海斗「いや、僕が直接やるように言われてるんだよね…なんでも制御装置とのリンクが外れるって」
アケボノ(…せめて隣でお待ちしておこう)