元勇者提督 作:無し
ベンガル海
軽巡洋艦 川内
川内「神通!!」
神通が、やられた…
正直、信じられない…目の前で起きてる事が、理解できない
あの神通がやられた?
そして、今の技は…
間違いない、離島の青葉の技…
川内「ああああああァァァッ!!!」
腰に差した短刀を引き抜き、逆手に構えて迫る
得意の細かな動きを捨て、大振りで一撃での致命傷を狙った斬撃、刺突
川内(あの動きは見た事がある、だから間違えようもない、あの青葉だ…その仮面の下が、もしあの青葉なら…!)
許さない
確実に殺してやる
川内「その仮面、剥ぎ取ってやる…!!」
一撃一撃を全力で振るう
弾かれようが力で押す
決して引かない
川内「やあァァッ!!らぁッ!!!」
その甲斐あって一撃ごとに引くのは敵の方だ、だけど…
川内(来る!!)
横薙ぎの斬撃を見切り、姿勢を低く伏せるフェイント
川内「かかった!!」
斬撃が海面スレスレを通る
川内(隙だらけだ!!)
斬撃をかわしてから踏み込み、頭部を目掛けて刺突を放つ
川内「あ…!」
回転の勢いを乗せるために向けられた背を見てようやく思い出す
川内(そうだ、この技は…!)
攻防一体、さまざまな派生系もある、無闇な突撃では攻略できない…
この背を見せている隙も、無闇に攻め込めば鎖帷子を仕込んだ腕で防がれ…カウンターに対するカウンターを喰らう
はずだった
川内(…え…?)
いろいろと考えている間に、私の短刀は敵の面を貫いていた
川内「と、通った?…いや!」
動きが止まった、確かに捉えている
だから油断していいわけじゃない!
すぐさま飛びつき、海面に押し倒し、首を両足で締め上げ、肩に短刀を突き立てる
川内「…中身!見せてもらうよ……ぅ…!?」
…空洞だった
仮面を引き剥がしたら、何も無い
川内「……嘘でしょ…?」
全身を白い衣装で包み、顔を白い面で隠した敵の中身は…空洞
何もない
仮面を外した途端、衣装の中の膨らみも消え失せた
確かに締め上げた首も、突き刺した肩も存在しなかった
川内(…わからない、おかしいよこんなの…)
納得のいかないまま、手に持った仮面を握りつぶす
川内「…神通!」
今は、考えるよりも神通の救助を急ごう
本当についていない、遊撃隊でなければすぐに手当てをできたのに
すぐに帰れたのに
神通「…姉さん」
川内「神通、喋らないで、今から帰るからね…」
神通の腹の傷は、深くは無かった
どちらかといえば両腕の方が深く斬り裂かれていた
神通「……こんな手じゃ、もう槍を…握れないかもしれません」
川内「大丈夫、すぐ帰って手当して貰えば大丈夫だから」
神通「…姉さん」
川内「もう喋らないで、辛いでしょ…?」
神通「…カッコ良かったです、私の憧れの姉さんのままでした…」
川内「…今までそんな事言ったことないくせに、なんでそんなこと今言うかな…」
神通(……自分でわかっている、私の手は…もうダメだ、私は…私は…)
川内「…神通、大丈夫だからね」
神通「はい、姉さん」
駆逐艦 朧
朧「…!」
強烈な血の匂い
それも、川内さん達の匂いに混じって
朧「狭霧!!北に向かって!」
狭霧『北ですか?』
朧「川内さんか神通さんがやられた…!ここはアタシ達で保たせるから!」
狭霧『それは…なるほど、分かりました、リシュリューさん、薬品棚から一番上の段の物を並べてください!』
二式大艇が徐々に離れていく
朧「……さあ、気合入れていくよ」
深海棲艦の数は減っていない、むしろ増えている
殺しても殺しても無限に湧いてくるのだ、その原因は大和さんにつけたスピーカーだが、今更止めると船がひとたまりもない
たとえ投げ捨てて逃げたとしても壊された瞬間アウト
まさかここまでの代物だとは誰も思っていなかったが…
朧「…ふー…」
どうやって叩き潰すか
この数を殲滅する手段は二式大艇にしかない
本当にそうだろうか
だとしたら、なんでこんな作戦を引き受けた
私は、これで失敗していいのか?
私の背に背負っている命は…幾つある
100?200?そんな数字で効くのか?
…ダメだ、私じゃ弱すぎるんだ
朧「…あ…」
目が、熱い
朧「ああ…」
頭が、熱い
朧「あああああっ…!」
頭を抱え、蹲る
大和「お、朧さん!?」
加賀「…万事休すですか…!」
曙「何やってんのよ朧!!」
朧「た…たッ……タルヴォス…!!」
繋がった
何かが繋がった感覚
体が、自分のものじゃないような感覚
ゆっくりと、立ち上がる
赤城「朧さん…?」
朧(……いける)
主砲を持ち上げる
ぼんやりと、敵を眺め、理解する
角度はこの辺りか
ここか?ここでいいのか
わからない、タイミングはいつだ
…何も、わからない
何も正しくはない
ただ引き金をぼんやりと引くだけ
先ほどから激しく撃って来ていた深海棲艦がことごとく爆散する
大和「え…?」
曙「な、何が起きて…」
朧「…あ…」
頭がぎちぎちと音を立てる
朧(保って…まだ、もう少しだけ…アタシの、体…)
引き金を引くたび、激しい金属音と共に10や20の深海棲艦がダメージを受ける
朧「…まだ…もっと…!!」
狙いがわかってるなら、簡単さね
もう片手の主砲を向ける
朧「もっと…!!」
大和「…ほ、砲撃が、来ない…!?」
全ての砲弾が撃ち落とされる
全ての砲弾がぶつかり合い跳ね返される
前に飛ばない
深海棲艦同士が撃ち合っているかのように、全ての砲弾が深海棲艦へと帰っていく
ガンガンと鳴り響くたびに深海棲艦が沈む、どんどん沈む
壊れそうなほど頭が痛い
鳴り止まない金属音が頭を刺激する
朧「……う…」
片膝をつき、海面を睨む
曙「ウソでしょ…?」
大和「そ、装置の電源を切ります…」
顔を上げる
…もはや深海棲艦は、居ない
海に浮かんでるのは全て鉄屑だ
私の前に、敵はいない
赤城「こんな事が…」
加賀「目の前で起きた光景が、信じられません」
朧「…あ、アタシ…も…」
力が抜け、海に突っ伏す
鼻や口から血がダラダラと流れている感覚
虚なまま目を閉じる
朧(…つ、疲れた……)
ペナン基地
駆逐艦 狭霧
亮「協力に感謝する、アンタらのおかげで…死人はいない、奇跡的な話だがな」
狭霧「しかし、離脱者が出てしまいました、それも2人」
亮「…ああ」
神通さんも朧さんも診た
神通さんは両手の神経を斬られていた
そして短くない時間をそのままにしてしまった事、あまりにも多量の出血による貧血などから戦線離脱を余儀なくされた
腕がくっついても手が動く保証もない
あれでは今後の生活にも不便だろう
朧さんの方は…危険なレベルの発熱
そして長時間の戦闘によるダメージの蓄積と疲労による気絶
海の真ん中で血を流し続けたのだ、サメに食われなかっただけ幸運だった
狭霧「しかし、神通さんは本当に?」
亮「俺に訊かれても困る、が…再生できないと言っていた」
神通さんの強みである、増殖による再生
メイガスの能力で作り出す不死性…何故かそれが発動できないと言い出した
つまり、ある程度は自然治癒に頼るしかない
狭霧「こんな時に主要戦力が落ちる、か…苦しいですね」
亮「一度ペナン基地からは撤収する、元よりこの攻略作戦は行ったり来たりの予定だった、スリランカの状況が良くなっただけ御の字だ」
狭霧「いい判断だと思います、謎の敵についても調べなくては」
川内「それなら、丁度いい」
狭霧「川内さん…?」
川内「私、わかったかもしれないよ、あの敵の正体」
亮「本当か!」
川内「……あれは、データの集合体」
狭霧「データの…集合体?」
川内「私がそう思ってるのは、青葉の動きをされたから」
亮「青葉ってえと…」
川内「離島の方、バカみたいに強いやつ」
狭霧「槍使いの方の青葉さんですね」
川内「そう、アレの動きをされたんだ…間違い無く、同じ技だった」
狭霧「それで」
川内「…でも、古かったんだよね、動きが」
狭霧「古かった?」
川内「綾波がまだ敵対してた頃、青葉が怪物になった時のこと、覚えてる?私達みんなまだ離島にいた頃さ…あの時と同じ動きだったんだよ」
狭霧「どういう事ですか」
川内「やってみせるよ」
川内さんが片手を振るい、その回転のままにもう一回転する
川内「これが古い動き、でも今の青葉はこうする」
余った片手を突き出し、盾のようにして見せる
狭霧「…確かに、その動きは私も見覚えがあります」
亮「…データが古い、つまり…そこからはデータを入手できてない…いや」
川内「そう、あの後青葉はデータを取れない環境に行った、ネットの方に集中してたしね、それに青葉の使ってる艤装、たしか一から明石が作った完全オリジナルでしょ?」
狭霧「そうか、データを取る機構を失ったんですね」
川内「うん、青葉があの技を改良したのは怪物化した後だから、間違い無いと思うんだよね」
狭霧「…だとしたら、納得がいきます…」
川内「納得?」
狭霧「横須賀が撤退したのは士気の大幅な低下が原因なんです、負けが増えたのは士気がひどく下がってからだと伺いました…人と同じような格好をして、人をモチーフにした闘い方をする」
川内「だとしても、それで士気が下がる?」
狭霧「人と戦っているような嫌悪感を覚えたそうです、当然です、深海棲艦と戦う覚悟をしていたのに人間と戦っていると錯覚した…」
川内「…人殺しになるのはごめん、か…甘い、とは言わないけど…」
亮「川内、お前にわかりやすく言ってやる」
川内「何」
亮「お前が初日に相手した奴らは、まだ戦場に出たばっかの未熟な奴らだった…としたら?」
川内「……斬れなくなるね、聞かなきゃ良かった」
狭霧「それを乗り越える強さを持ってるのは…限られた人達だけです」
亮「とりあえず、すぐに撤収だ、明日には此処を出る、通達してくれ」
川内「了解、じゃ、狭霧、世話になったね」
狭霧「こちらこそ」
???
駆逐艦 東雲
高く登った月を眺める
星と、月
この空には他に何も無い
有ってはならない
夜は良い
罠が見辛い、動物も昼よりは静かで、音を立てるのは侵入者だと断定できる
東雲「素敵な夜、でしょう?」
装甲空母鬼「…貴方ニ、コレヲト」
一通の封筒を受け取る
東雲「帰りは、気をつけてくださいよ…罠、張り直してるので」
装甲空母鬼「…ハイ」
封筒を開封し、中身を見る
ヘッドハンティング
こんな所まで調査しに来た奴が居るらしい
東雲「…まあ、思うに…ノるべき話では無いんでしょう」
紙をくちゃくちゃにして火に焚べる
東雲「しかし…しかし、確認すべき事ができました」
会いに行こう、差出人に