元勇者提督   作:無し

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先手防衛

離島鎮守府 執務室

提督 倉持海斗

 

キタカミ「いやー…にしても、思い切ったことしたよねぇ?…だーれも居なくなっちゃったじゃん?どうなってんのさ」

 

アケボノ「残されたのはキタカミさんと、私と、アメリカの人達と…春雨さんくらいですか?」

 

キタカミ「いきなり殆どのメンバーに休暇与えて本土に放り出すなんて、随分太っ腹だけど、どういうつもり?」

 

海斗「…あんまり人はいないほうが良いんだ」

 

アケボノ「休暇は人払いですか?…それにしたって、丸一日以上人がいないのは…何故ですか」

 

海斗「…そろそろ良いのかな…いや、もっと早い段階に言おうと思ってたんだけど…前に横須賀の撤退を援護した時、ここの存在の意味について敵が気づいたみたいなんだ」

 

キタカミ「気づく?気づくも何も一目瞭然だし、深海棲艦にそんな事理解できるの?」

 

海斗「…後ろに誰かいるとしたら?この戦争を進めたい人たちがいたら?」

 

キタカミ「…つまり、つまりだ…あー、マジ?…防衛戦をしたいって事?いつ来るかもわからない、どれだけ居るかもわからない敵から?」

 

海斗「いや…いつ来るかはわかってる」

 

アケボノ「今ですか」

 

海斗「そうだよ、今から来る」

 

キタカミ「なーんで…そんなことわかるかね?」

 

海斗「これだよ」

 

パソコンの画面を点けて2人に見せる

記号が規則正しく並んでいる

 

アケボノ「…暗号文?」

 

キタカミ「どうやって手に入れたのさ」

 

海斗「ヘルバが送った来てくれたんだ、それをアヤナミに調べてもらった…」

 

キタカミ「送り主と受け取り手は?」

 

海斗「受取手はわからない、これは一般サイトで公開されてたものだから」

 

アケボノ「鍵暗号方式ですか」

 

キタカミ「…なるほどね、暗号化された文を解読するには鍵、つまり…この暗号一つ一つを調べる鍵がいる…でも、なんでアヤナミはそれを解読できたのさ」

 

海斗「アヤナミが言うには、これはネットを使って変換した暗号らしいんだ、「デジタルなら解けない物はありません」って」

 

キタカミ(味方にしとかないと後が怖いねぇ)

 

アケボノ「それで、内容は」

 

海斗「この基地が邪魔である事、即座に攻撃を仕掛ける事を提言する…という文だった、だから正確にいつ来るとまでは記されていない」

 

アケボノ「…では、提督は敵が最速で動くと想定して…しかし、敵襲が分かっているなら備えるべきです、より多い人数で防衛線を張り…」

 

キタカミ「それは間違いないけど、なんか考えがあるんでしょ?」

 

海斗「うん、罠を張ることにしたんだ」

 

キタカミ「罠?」

 

アケボノ「…今から設置するんですか?」

 

海斗「いや、もう張り巡らせてある…だから、2人に頼みたいのは…ここまで飛んできた砲弾を防ぐ事と、艦載機が来たら撃ち落として欲しい…かな」

 

キタカミ「マジ?ホントにそれだけ?……言っちゃ悪いけど防衛戦の備えとか罠とか、提督のイメージには無いね、それを信用しろって?」

 

海斗「信用して欲しい」

 

アケボノ「…信用しろと言われた以上、私はそれを受け入れますが…」

 

キタカミ「そうじゃないんだよ、みんなの家が壊れるかもしれないって時に…旅行に行って帰ってきたら家がありませんってなったらどうすんのさ…!」

 

海斗「罠については、今から説明するよ」

 

キタカミ「…聞かせてもらおうじゃん」

 

 

 

 

 

波止場

教導担当 キタカミ

 

キタカミ「…空城の計って知ってる?」

 

アケボノ「…ええ、堅牢な城の城門を敢えて開け…優雅に振る舞う事で誘い込まれていると錯覚させる戦術です……ぐ…な、中には誰も居ない、攻めればひとたまりもない…なのに疑心暗鬼に陥ったものは攻められない…っと…」

 

キタカミ「そう、それだ…それを思い出したよ」

 

望遠鏡で遠くを眺める

 

アケボノ「あ、あの…そろそろ降りてもらって良いですか…」

 

キタカミ「もう少し肩車してて」

 

アケボノ(なんで身体の小さい私に肩車させるのか…!)

 

キタカミ「…浮上してくる気配全然無いね、本当にこっちの方角なのかな」

 

アケボノ「…提督の読みに間違いがない事を祈るばかりです」

 

キタカミ「!」

 

遥か遠くで水柱が上がる

それも、複数、連鎖反応のように…

 

アケボノ「始まりましたか…っうわっ…」

 

アケボノがバランスを崩してこける

 

キタカミ「痛っ…た…こけるなら先に言ってよ…」

 

アケボノ「無茶言わないでください…1時間も人を乗せたまま棒立ちは辛いんです……」

 

キタカミ「…ねえ、遠くで戦闘してる感じだったんだけど、何があったと思う?…というか、あの感じ…」

 

アケボノ「……機雷…ですか?」

 

キタカミ「多分そうだね、機雷…でも、設置しに行ってるような奴ら居たっけ?出撃予定の管理とかは提督任せだけど、内容とかは私に話が来るし」

 

…いや、潜水艦だけ妙な出撃はあったけど…

 

アケボノ「……そういえば工廠に妙な艤装が増えたような」

 

キタカミ「明石が遊んでるんだと思ってたけど、もしかしてそれ?……まさか、遠くに機雷を設置する砲とか?」

 

アケボノ「可能性はあります…回収作業が面倒ですね」

 

キタカミ「ホントにね、機雷なんて危なっかしいだけじゃん…効率はいいけどさ…あーでもそっか、みんなを追い出したのはそれが狙いか、訓練で海に出る事も防ぎたかったんだ」

 

アケボノ「しかし、機雷のみで完封できる相手でしょうか」

 

キタカミ「流石にそのくらい分かってるでしょ」

 

アケボノ「必要なら、私が出ましょう」

 

アケボノが起き上がり、手を白く染める

 

キタカミ「やめな、アメリカ連中に見られるよ…深海棲艦と連んでるみたいにいわれたら折角マシになり始めたのが…」

 

アケボノ「……仕方ありませんね…おや」

 

キタカミ「…な、何アレ」

 

風船が四つ海から浮き上がってくる

 

キタカミ(き、気球?)

 

アケボノ「この距離であのサイズ、相当大きいようですね…というか、何か繋がってる?」

 

よく見れば確かに何か繋がって…

 

キタカミ(あ、網!?)

 

キタカミ「深海棲艦は魚じゃないっての…」

 

浮き上がった気球によって四方を釣られた網に深海棲艦が所狭しと捕まっている

深海棲艦が通るルートを完全に読み切っていないとできない芸当…

 

アケボノ「魚も巻き込まれてますけど、良いんですかアレ」

 

キタカミ「いや、良くないだろうけど…どのみち深海棲艦って魚でも食い荒らすし…というか網に捕まった深海棲艦も今食ってるし…」

 

同じ網に捕まった魚を喰らう、なんともシュールな姿…

 

アケボノ「あれ、どうするんですか?吊り上げて終わりですか」

 

キタカミ「…いや、まだなんか繋がって……ああ、わかった、電気で殺すんだ、網の中身全部電気で焼くんだよ」

 

アケボノ「それはまた、エグい事を…」

 

キタカミ「にしても……なんか、動き違うよね」

 

アケボノ「ええ…普段の深海棲艦なら態々海の中を通ってくる事はしません、阿呆らしく水上を堂々と飛ばして近づいてくる…筈なのに、そうしない」

 

キタカミ「…この襲撃を隠したかったんだ、できるだけ直前まで」

 

この先手を取られた事態は敵にとって全くの予想外と言うことになる

 

アケボノ「あの深海棲艦は何者かに命令を受けて行動していますね…何故なら、普通海中の危険を悟ったら海の上に出てくる筈です、なのに未だ浮上してくる敵は居ない」

 

キタカミ「多分、駆逐古鬼とも繋がりあるよこれ、ここまでひた隠しにするのは、龍驤達が駆逐古鬼の艦隊をたまたま見つけた事を知ってるからだと思う」

 

アケボノ「…では、敵は…誰だ?」

 

キタカミ「…さっき訊きそびれたけど、送り主は一体誰だったのかな」

 

アケボノ「それは後で確認しましょう…しかし、未だ敵は接近してこないか」

 

キタカミ「できないの間違いだね…しかし、提督がこうも読み切って罠を張れるなんて、何?明日は大嵐か何か?」

 

アケボノ「無礼ですよ」

 

キタカミ「イイじゃんイイじゃん、仲悪い訳じゃないんだし、冗句の一つぐらい……」

 

アケボノ「しかし、私も内心疑念がありました、それを恥じています」

 

キタカミ(ま、正直な話、この話聞きゃみんなそうだろうさ…何が起きたのかは知らないけど)

 

アケボノ「……しかし、全く飛んできませんね、艦載機も砲弾も」

 

キタカミ「日向ぼっこは気持ちいいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

執務室

 

キタカミ「結局完封かね?夜まで待って来なかったし…夜襲なんて寧ろ鼻で感知できるこっちの独壇場だし」

 

海斗「多分、被害の拡大を恐れて撤収したんだ…現地でも指揮ができてるって事は深海棲艦の司令塔もいるのかな…」

 

アケボノ「その様ですね、しかし…失礼ながら、この作戦は提督1人でお考えに?それともアヤナミですか?」

 

海斗「あー…まあ、そんなところかな…」

 

キタカミ(まあ、アヤナミなら納得というか、効率的に殺すのも頷ける)

 

キタカミ「ここまで完封となると、専守防衛ならぬ先手防衛…なんちって」

 

アケボノ「……」

 

アケボノがぽかんと口を開けて両目を見開いてこちらを見る

 

アケボノ「キタカミさん、やはり体調が優れなかったのですか?提督、余程重篤に見えます、支給本土のいい病院に入院させましょう」

 

海斗「え?ええと…」

 

キタカミ「冗談言ったらこれ?…酷いな…」

 

アケボノ「あなたがそんな冗談を言うキャラじゃないからですよ…」

 

キタカミ「えー?…傷ついた…」

 

海斗「余裕がある事はいい事だよ」

 

キタカミ「…ん?」

 

…なんだ、狡いなぁ

 

キタカミ「言ってくれれば良かったのに、上陸の備えもあるって」

 

海斗「言わなかったっけ?」

 

アケボノ「言ってらっしゃいましたよ、ワイヤートラップを囮にしたブービートラップがたくさん仕掛けてあると」

 

キタカミ「だったっけ?…かかったよ、二つ」

 

海斗「悪いけど、上陸した部隊を…」

 

アケボノ「了解しました」

 

アケボノが宿を開けて飛び出す

 

海斗「…ど、ドアから出て欲しいな…」

 

キタカミ「一応二階なんだけどね、ここ…んー…でも、退いたか…」

 

海斗「退いちゃった?」

 

キタカミ「うん、匂いは全部帰っていってる…罠を掻い潜ってここまで来たのにまだ罠があるとなると、そりゃ帰るさね、無駄死にしたくないなら」

 

海斗「取り敢えず、先手を取られずに済んだ…忙しくなるけど、大丈夫?」

 

キタカミ「それよりも訊き忘れたんだけど、送り主はどこなの?」

 

海斗「…アメリカ、サンディエゴの…サイバーコネクト社のデスクからだったよ」

 

キタカミ「CC社か…ゲーム企業のくせに何やってんの?」

 

海斗「会社そのものが関与してるんじゃない筈だよ、CC社を調べながら叩く…」

 

キタカミ「あの暗号公開するのは?」

 

海斗「無駄かな、実はあの暗号文、読み方を変えれば新しいイベントの告知になるんだ、だから…うん、言い逃れされると思う」

 

キタカミ「二つの答えを併せ持った暗号文だったわけだ……仕方ない、うまく逃げられてる感じだね…」

 

海斗「向こうも馬鹿じゃない、戦場は一つじゃない…内側から瓦解させてみせるよ」

 

 

 

 

 

 

秘書艦 アケボノ

 

アケボノ「…おや」

 

アヤナミ「…これは、こんばんは、お目汚し失礼しました」

 

…返り血をかなり浴びている…いや、それよりも残っていたのか

てっきり本土に行ったと思っていたのに

 

アヤナミ「ぁ…みなさんが帰る前に、その…罠の回収をしておきたくて」

 

考えは見透かされているらしい

 

アケボノ「素晴らしい対応だった…と、評価しておきます」

 

アヤナミ「そうですね…まさか倉持司令官にこんな才能があったとは…」

 

アケボノ「…どういう意味ですか?あなたが考えたんでしょう?あの罠の数々は」

 

アヤナミ「え…?いいえ、私は設営と作成を手伝っただけですよ…?」

 

それが本当なら何故自分が考えた作戦だと言わなかったのか

ただ謙遜しただけ?…それなら最初からアヤナミの作戦だから安心しろと言えば済んだ筈…

 

アケボノ(…提督は、まだ何かを私たちに隠している?)

 

…まだ、わからないことがあるらしい

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