元勇者提督   作:無し

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茶話日和

離島鎮守府 食堂

駆逐艦 春雨

 

春雨「久しぶりですね、楚良」

 

亮「だから俺を楚良って呼ぶんじゃねーよ」

 

春雨「楚良は楚良でしょう?」

 

亮「そうじゃなくてリアルでハンドルネームで呼ばれるのが嫌なんだよ!」

 

川内「ひっさびさにそのやりとり見た…けど、それよりも神通診てくれない?」

 

春雨「向こうの医官がやった以上の事はできませんよ」

 

神通「…動く様になると思いますか」

 

春雨「なりますね、筋力は大幅に低下するでしょうが」

 

那珂「じゃあ…」

 

春雨「槍や刀を使った戦いはもう望めません」

 

神通「……」

 

春雨「すみませんね、私は…私にできる以上の事はできないんです、はい」

 

川内「…神通」

 

神通「覚悟はしていました…ですが、いざ面と向かって告げられたとなると…心が苦しいですね」

 

春雨「……神経の問題か筋肉の問題かによりますが、外骨格の様な…その、説明が難しいのですが、腕を機械で覆い、それを操作する形でなら…」

 

神通「……装着したとして、習得するのが難しそうですね」

 

春雨「科学でどうにかできる限界です、そもそもそれもうまくいくかどうか、脳波を感知するタイプにしたとして、飛行機なんかに乗れば使えませんしね」

 

川内「電源をオフにしてくださいって言われるわけだ」

 

春雨「…でも、そこまで手こずる相手でしたか?」

 

神通「油断、慢心は確かにありました、それを言い訳にするのは簡単です、しかし…何より、私はちゃんと視ていなかった、薙刀と戦斧の違いから頭の中で関連を断ち、読めるはずの敵の動きを読めなかった…見え見えの隙に釣られた」

 

川内「…反省してるならよし、それに私も1人でやらせたのが間違いだったから…油断してたっていうなら私もだよ」

 

神通「…姉さん…私は、次こそこんな失態を犯さないと誓います」

 

川内「失敗して良いんだよ、次は私が守るから…神通は妹なんだから、全部自分でやろうとしないで、私も頼って…ね?」

 

神通「……はい」

 

那珂(今歯がギリっていった…余程悔しいんだね…というか、情けなく感じてるのかな…)

 

アケボノ「失礼します」

 

アケボノさんがお茶とお茶菓子の乗った盆を机に置く

 

春雨「おや、珍しい、秘書をクビになってお茶汲み係のアケボノさん」

 

アケボノ「違います、数日は食堂担当が全員不在だから私が居るだけで、秘書はクビになっていません……今は…」

 

那珂「え?なんで不安そうなの?まさかほんとにクビになりそう?」

 

アケボノ「…いや、そんなはずは…」

 

春雨「無いと言い切れますか?」

 

アケボノ「……役職は所詮役職です、どんな仕事であろうと私は提督の役に立ちます」

 

神通「…いいですね、貴方は」

 

アケボノ「いい、とは?」

 

神通「貴方は自身のアイデンティティが揺らがなくて…それに比べて私は…何故か発動しない増殖、そしてメイン戦法の消失…」

 

アケボノ「提督が言っておられました、他人を羨んでいても強くはなれない、問題を解決できるのは自分自身だ、と」

 

神通「…そうですか」

 

那珂(うわー…ネガティブなモードに入ってる)

 

アケボノ「…さて、私は……どうしたものか」

 

春雨「行く当てがないと」

 

アケボノ「仕事がありませんからね」

 

川内「ここの提督そんなに書類仕事できるっけ?」

 

アケボノ「上手い処理の仕方を覚えられた様です」

 

川内「それで仕事がないと拗ねてるわけだ」

 

アケボノ「…そういう訳では…」

 

春雨「アケボノさんは倉持司令官と七駆が絡んだ時だけ人間味がありますね、他は機械の様なのに」

 

アケボノ「そうでしょうか」

 

川内「最近は知らないけど、冷徹冷酷な冷血漢ってイメージ持ってた時期もあったね、前の世界では何の躊躇いもなく態々酷い方法を選んで人を殺してたし」

 

那珂「それも表情一つ変えずに」

 

神通「宿毛湾時代にたった1人で全員を打ち倒したとも聞きました」

 

春雨「…おや、アケボノさん、両耳を塞いでどうしましたか……まさか聞きたくないと?身から出た錆ですよね?」

 

アケボノ「だから聞きたくないんですよ…!忘れて楽にならせてください!」

 

春雨(この人でもこうなる事があるとは)

 

川内(多分、操られて自分の提督殴り殺そうとしてた事言ったら滅茶苦茶怒るだろうなぁ)

 

神通「でも、その辺りはまだマシでしょう、あのパーティーの時が一番酷かったですから」

 

川内「あ」

 

アケボノ「…パーティー」

 

神通「まさか忘れてませんよね?自分で…むぐぐ…」

 

川内が即座に口を塞ぐ

 

アケボノ「……ああ…片時も、ほんの一瞬たりとも忘れたことなんてありません…提督は何故私を裁いてくださらないのか、私を一思いに同じ目に合わせて欲しかった、何か、お役に立たねばならないのに…あまつさえ私なんかの命を救っていただいて……」

 

川内「命を救われた?」

 

アケボノ「綾波との決戦の際、綾波が私にトドメを刺そうとした時、その一撃を提督が防いでくださったのです…偶々あの場所にネットの世界から放り出され、意図せず戦闘に介入してしまったという様子でしたが…」

 

川内「へー…」

 

アケボノ「ああ…なんとか、どうか提督に私がいて良かったと思える様な何かを…」

 

亮「いて良かったとは思われてんじゃねーの?」

 

アケボノ「…何故です」

 

楚良がアケボノさんの胸元を指す

麻紐に吊り下げられた指輪…

 

亮「少なくとも、そんなモン好意を抱いてない相手に渡さねえだろ、たとえそれが特別な意味のない武器だったとしてもな」

 

春雨「じゃあ楚良は私にもくれるんですか?」

 

亮「ここに居る以上カイトに貰えよ…」

 

春雨「楚良に貰います、はい」

 

チラリとアケボノさんを見る

指輪を眺める表情からは複雑な感情が見て取れる

 

川内「嫌なの?」

 

アケボノ「……私に人間味がどうのと言いましたね…私も同じことを思っています……私を恨んで当然なのに、何故提督は…そんな素振りを一度も見せないのか」

 

春雨「ただの一度も?」

 

アケボノ「…ええ」

 

那珂「単純に許されてるんじゃないの?」

 

アケボノ「あなた達は自分が殺しかけた人が、自分に対して優しくしてきたら…どう思いますか?」

 

川内「まあ、そりゃ気持ち悪いけどさ……」

 

春雨「あなたの気にすることも理解できます、しかし…あなたはその身を滅ぼす程の力を使い、貢献し続けているではないですか」

 

アケボノ「私がいつ力の使い方を間違えるともわからないのに、何故全幅の信頼を置き続けてくれるのか、私が失敗しても責めることをしないのか………いや、私はただ…」

 

神通「視てもらえていないのが不満だ、ということですか」

 

アケボノ「……」

 

川内「…見てない、か…確かに、そうとも取れるよね、自分を信頼してる様で期待してないんじゃないか、裏切った事を責めないのも元から…なんて」

 

春雨「そう感じているのだとしたら、相当自意識過剰というか、疑心暗鬼が過ぎるというか、一番信じてほしい人を信じてないのはあなたというか」

 

アケボノ「ええ、信じているつもりで信じられていません、しかし…私にとって提督が絶対である事は変わりません」

 

神通「…いいですね、貴方は」

 

那珂(ま、また始まった…)

 

神通「私なんか…」

 

川内「はいやめやめ、神通もネガティブ終了」

 

川内が神通を止める

 

神通「…所詮、私は闇の住人…」

 

アケボノ「…なんでこの人こんなめんどくさい事になってるんですか?」

 

春雨「青葉さんの戦法を真似した敵にやられて鬱みたいです」

 

アケボノ「青葉さん本人にあったら襲いかかりそうですね」

 

神通「そんな事はしませんよ」

 

那珂「……苦い」

 

春雨「苦い?」

 

那珂「うん、すごーく苦い感じがする……どこからだろう」

 

アヤナミ「す、すみません、私のせいだと思います」

 

食堂の入り口にアヤナミさんが立っている

 

春雨「アヤナミさん、どうかしましたか?」

 

アヤナミ「…アケボノさんに…」

 

アケボノ「苦いのも関係ありそうですね、手短にお願いします」

 

アヤナミ「これです」

 

アヤナミさんが瓶を差し出す

 

那珂「うやっ!?に、苦過ぎ!!」

 

川内「なんで読み取ろうとしたの…」

 

アケボノ「これは」

 

アヤナミ「……貴方が死ななくていい様にする薬です」

 

アケボノ「…深海化の話ですか」

 

川内「…そっか、レ級の力使えるんだっけ」

 

アヤナミ「アケボノさんは特異体質です、なんの補助もなく、深海棲艦の力を完全に自分のものとして扱える、他の誰にもそんな事はできないのに…本当にすごい事ですけど、それを行使するたび、命が削られていく」

 

アケボノ「それで?これがあると何が変わるんですか」

 

アヤナミ「それを一つ飲めば、10分は深海の力を使っても問題ない……はずです」

 

アケボノ「本当ですか?」

 

アヤナミ「はい、私も試しました…」

 

川内「え?…なれるの?深海棲艦」

 

アヤナミ「はい…水鬼も棲姫も、どちらも…でも、どちらかと言えば私にとってはセーブモードですから…」

 

那珂「え……セーブモードがそれって、今どのくらい強いの…?」

 

アヤナミ「改レベルの力なら…」

 

川内「わかりやすく」

 

アヤナミ「駆逐棲姫の倍ほどの強さの駆逐水鬼の十倍ほどの強さです…」

 

川内(あ、勝てないかも、殺せる時に殺したほうがいいかな…)

 

那珂(この鎮守府、核爆弾抱えてるんだ…)

 

アヤナミ「その……で、でも、私はもう戦うつもりは…」

 

川内「それは置いといて、セーブモードで試した情報なんて正しいの?」

 

アヤナミ「は、はい…アケボノさんの強さなら10分ほど持つはずです、が…力の出力で変化もすると思います」

 

アケボノ「大量に艤装を召喚したら負担も増えると」

 

アヤナミ「は、はい…」

 

川内「…ちなみに、致死量は?」

 

アヤナミ「えと…1日に3粒を超えると危険です…5粒で死ぬかと……」

 

アケボノ「殺したい相手の方に大量に突っ込む作戦もありですね」

 

アヤナミ「あ!そ、それは…」

 

春雨(流石にダメでしょう…)

 

アヤナミ「思いつきませんでした…!す、凄く有効だと思います!」

 

春雨「え…貴方、自分の薬をそんな使われ方許せるんですか?」

 

アヤナミ「へ…?」

 

那珂「問題ないみたいだね」

 

アヤナミ「だ、だって…敵を倒せばアケボノさん達が生き残るという目的は果たせますから……」

 

春雨(味方が生き残れば満足、か…)

 

神通「…貴方なら私の腕を…いや、光を求めてはいけませんね」

 

アヤナミ「ええと…ごめんなさい」

 

神通「気にしてません、わかってましたから」

 

アケボノ「……次の西方海域攻略…私も出ます」

 

川内「え?」

 

アケボノ「私は提督のために、戦いたい……でも、焦ってる訳じゃない、私はただここで腐る訳にはいかない、戦うことで自分を研ぎ澄まし、提督の艦として誇り高く生きて見せましょう」

 

那珂(な、なんかこっちも面倒なこと言い出した…)

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