元勇者提督   作:無し

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恐怖羨望

離島鎮守府 執務室

提督 倉持海斗

 

アケボノ「失礼します、提督、お茶をお持ちしました」

 

海斗「ありがとう、今日はもう休んで良いよ?仕事も特に無いし…」

 

アケボノ「確かに片付けるような書類はありません、しかし…でしたら何故提督は普段のようにThe・Worldにログインせず、何かを待っていらっしゃるのですか」

 

…アケボノは勘が鋭い

別に隠すようなことじゃない、ただ、連絡を待っているだけだ

 

だけど、その内容が重要なんだ

 

海斗(筒抜けになって良い内容なのか、そうじゃないのかすら判断がつかない以上、悟られるのも避けたい…無理に隠そうとすれば余計な気を遣わせてしまう…)

 

アケボノ「…提督、少し、お時間をいただいても宜しいですか」

 

海斗「別に構わないけど…」

 

まだ、連絡は来ないだろう

 

アケボノ「…提督は私をどう思っておられるのですか、恐怖の対象ではないのですか?…私は力です」

 

海斗「…力?」

 

アケボノ「私は…かつてのあなたを傷つけた、私はあなたを苦しめ続けたのに何故未だに側に置いてくださるのですか、私の能力を求めているのならまだ良い、理解できる…しかし、もう私は必要ではない…」

 

海斗「いや、そんなことは…」

 

アケボノ「秘書艦の役目を私が果たしているとは思えません、書類仕事のような雑事、そんな役目でなくても事務員としてやりましょう、敢えてその名称にしている意味が、わからない…」

 

海斗「…アケボノ、僕は君を恐れてない」

 

アケボノ「なら…」

 

アケボノが小瓶を取り出し、中の球体を一つ、口に含む

瞬時に全身が白く染まり、尾が床を打つ

 

レ級「……これでも…」

 

瞬きする間に、アケボノが目の前に迫る

アケボノに押されて椅子のキャスターが転がり、執務室の壁に背もたれが当たる

 

アケボノの両手が両肩を掴む

ピクリとも、動けない

 

レ級「これでも、恐怖しませんか…」

 

海斗「…それは、流石に少し怖いかな、いきなりで驚いたし」

 

レ級「…なら、何故そのような顔を向けるのですか…!何故笑っていられるんですか!提督…あなたは、壊れています…」

 

海斗「……君に怯えるのは、少し難しい相談だよ…アケボノ」

 

…多分、僕の立場になれば誰1人としてもアケボノを恐れたりなんかしない

 

海斗「…僕よりもずっと怯えてる子に恐怖するのは、少し難しいよ」

 

レ級「怯えている…?私が……」

 

今にも泣きそうな顔で、小刻みに震える両手で

必死に縋り付いてくる少女に恐怖の感情を抱くのは難しい

 

海斗「…僕は君じゃない、だから…何が怖いのか、わからないんだ、教えて、アケボノ」

 

レ級「…私は……」

 

姿が、徐々に戻りはじめる

 

まるで止まっていた血が巡るように、ゆっくりと

肩から二の腕、前腕、そして指先へと…顎から頬を伝い、額まで…

時間をかけて、ゆっくりと血色が戻っていく

 

アケボノ「私は、何よりも…提督が怖い…人では無いかのように感じてしまう……何故私を恨まないのですか、なぜ私に怒りを抱かないのですか、恐怖しないのですか…」

 

海斗「恨むもなにも、あの時の君は操られていただけだ」

 

アケボノは小さく首を振る

 

アケボノ「…私の意思でした…だから、いつまでも、私の中に在るんです、あの時の私の感情が…私があの時信じた全てが…たとえ世界を越え、果てしない時間が経ったとしても、私は…」

 

海斗「……でも、僕にとっては遠い、遠い遠い過去の話なんだ、今、僕は楽しかったり、辛かったり、悔しかったり…焦る事もあれば恐怖もする、君の思ってるより、僕はずっと人間らしい感情を持ってる」

 

アケボノ「…私は、その感情を…見たいのです、安心するために、あなたの事をより知るために…」

 

海斗「…難しいな」

 

アケボノが見たいのは、生死をかけた瞬間に浮かぶ表情のことだ

死を恐れ、生に執着し、感情のままに口走る言葉を求めている

 

海斗「アケボノもThe・Worldをやる?…一応、危ない敵と戦ってる時くらいは…」

 

アケボノ「……いいえ、どうやら提督に私の求めているものはないのかもしれません」

 

何か、間違えただろうか

 

アケボノ「提督は、強くなりすぎた…」

 

海斗「僕が?」

 

アケボノ「…提督は、私たちにとっては僅か数瞬でありながら…永劫に近い時を過ごした、この世界の全てが些事に見えるのでしょう」

 

海斗「別にそんなことは…」

 

アケボノ「提督、やはり私は秘書艦として不適当です、どうか、別の誰かを」

 

海斗「…僕が君を選んだのは…」

 

アケボノ「…私を安心させたかったのですか?…それとも他の理由か、何にしても…私の為であった…それでは意味がない…貴方のための秘書で在るべきだ、私のための役職であってはならない…」

 

海斗「……」

 

アケボノ「提督、明日より、改めてこの駆逐艦アケボノ、出撃任務に参加したいと考えております、どうか私に任を」

 

こうなればアケボノは…聞く耳を持たない

止めようがない、別に止める必要もないのかもしれない

 

…だけど、目が澱んでいる気がする

 

深く濁った目をしてる気がする

 

海斗「アケボノ、僕は…」

 

アケボノ「提督、私は提督の艦です、提督が望めば何にでもなりましょう、しかし…提督は私に求めてはくださらない」

 

海斗「…求める、か…」

 

任務を与え、仕事を作り、戦果を立ててきてもらう

 

それだけの関係であるべきだ

それ以上はみんなの負担になる

 

アケボノ「…私達は、ただ貴方の艦でさえあれればいい、私はそのために死んでも良い」

 

海斗「僕は犠牲を出したくなんかない」

 

アケボノ「例え話です」

 

…今のアケボノの考えが読めない

 

アケボノ「…不愉快な思いをさせて申し訳ありません、失礼します」

 

アケボノになんて声をかければ良いか、わからなかった

 

 

 

 

 

東京 廃ホテル

駆逐艦 東雲

 

東雲「…随分と古いホテルですね、その上汚らしい」

 

まあ、つまるところこれは処刑場だ

いくら東京といっても人の近寄らない場所、廃屋は幾らでも存在する

 

白昼堂々人を殺しても問題ない様な場所も存在する

 

東雲「……」

 

指定された時間より10分早くつき、すでに20分待っているが、どうやら漸く来たらしい

屋上のヘリポートにヘリが降りたのが見えた

 

東雲「…貴方が私を試すと言うのなら、もう私は貴方を測り終えましたよ、穢らわしい人だ」

 

こう言うタイプの人間は私は嫌いだ

 

 

 

東雲「…まだ仕掛けてこないか」

 

エレベーターが使えないため、非常階段を登る

あまり時間を使わせないで欲しい、私の力も無尽蔵ではない

この活動をする時間も惜しいのに

 

東雲「……よういと始めの掛け声は?不要ですか、そうですか」

 

相手が待つつもりも、真正面からやるつもりもないなら 

 

東雲「…汚い手を使いますが、ご容赦」

 

今の私に力は無い

だから、あるもの全てを使い、私なりの全力を見せるしかない

 

闇に息を潜めた相手には、その背後をとり、締め落とす

まるで壁をヤモリのように伝い、音もなく忍び寄る

 

東雲「まず一つ」

 

私の手の中でもがく男の抵抗が弱まっていく

 

東雲「…ごめんなさい、苦しいですよね…ごめんなさい…」

 

ああ、何でこんな真似を

しかも、最悪だ

 

東雲「!……貴方達、今撃たないでください…お仲間に当たってしまいますよ」

 

バタバタと走りながら兵隊が走ってくる、足音からして3人

この迷いのない感じ…

 

東雲(撃って来る!)

 

締め上げていた兵士を突き飛ばす

兵士は階段をガタガタと音を立てながら転がり落ちていった

 

東雲「あ!…ご、ごめんなさい!…っ!」

 

肩を弾が掠める

 

東雲「私は戦うつもりなんて…」

 

深く、体を沈める

地を這う様に走り、そして飛び上がり、縦横無尽に駆けながら迫り…

 

東雲「タッチ…って事で、勘弁してくれませんか…?」

 

3人の兵士の左胸に1度ずつ触れる

 

しかし当然それで許されるはずも無くこちらへと銃が向けられる…前に、仕掛けた

脱いだソックスに瓦礫の破片を詰めたもので1人の手を殴りつけ、銃を落とさせる

 

東雲「…私がその気ならもう死んだんですよ?もう良いじゃないですか…!戦うつもりなんてないんです…!!」

 

近距離の格闘戦

当然誤射の恐れもあるのに、容赦の無い、躊躇わない射撃が私を襲う

 

最低だ、死ぬ事も恐れない

殺す事も恐れない

 

人間じゃないのか、何故…

 

東雲「…未だ私の言葉は届きませんか、何がそれほど貴方達を突き動かすのか…分かりません、生きていることほど素晴らしいことはないと言うのに…」

 

1人の兵士に近づき、片足の太ももを両手で掴み、持ち上げて体制を崩させる

 

東雲「私は命を奪いません、だから…少し、痛い目にあってもらいます」

 

 

 

 

 

最上階

 

東雲「っ…はー…はー……」

 

最上階、ここだけは煌びやかな…

ここだけがまだ、使われているかの様な場所

 

東雲「こふっ……はー…か…ぁ……」

 

扉を、蹴り開ける

 

東雲「…お待たせ、しました…」

 

ガス「貴様が、綾波か」

 

綾波「…そう呼ばれるのは、いつぶりでしょうか」

 

ガス「NAB、ネットワーク安全管理局のガス・フォックスだ、代理人としてここに来た」

 

綾波「……それで」

 

ガス「我々と手を組んで欲しい」

 

綾波「…2つ、まず私をここに呼びつけたのは、サイバーコネクト社の人間です、NABとは仲が悪いCC社の人間の代理が…あなた…つまり…あなたはスパイですか」

 

ガス「……そうだ」

 

綾波「そうですか、それは些細な事です、問題は次です、あなたの連れて来た兵士たちは、何故私を襲うのですか」

 

ガス「実力を測るためだ」

 

綾波「それはわかりました…しかし……味方を躊躇いなく撃とうとするのはやめさせましょう」

 

ガス「綾波、お前を殺せば殺した者には2億ドル振り込まれることになっている」

 

綾波(安…)

 

ガス「故に、誰も味方の命なんて考えていない…それに、お前が味方を撃つ行為を加速させた…お前は兵士たちが味方を撃った時、必ず庇った、敵であるお前が」

 

…私は、目の前で命が失われるのが耐えられないだけだ

だから、それを防いだだけ

 

ガス「結果として、味方同士で殺し合えば…お前はどんどん弱ると言う結論に至った、その結果があのザマだ」

 

綾波「……このザマですよ」

 

多少、撃たれた

背中も撃たれたし、腕も、脚も

 

でも、この弾丸全て私を狙ったものじゃない

いや、正確には狙いは私ではあるけど、味方殺しを防いだ時に受けた弾

 

なんて最低な戦法か

 

綾波「…交渉決裂です」

 

ガス「何?」

 

綾波「話すことは…ありませんよ」

 

ガス「…ならば、プランBだ、このホテルを爆破する」

 

ポケットから信管を取り出して投げる

 

ガス「これは…」

 

綾波「すべての爆弾の信管を抜いてあります、ご自由にどうぞ」

 

ガス「そんなはずが…」

 

ガスが何かを取り出そうとした瞬間、近寄り、腕を締め上げる

 

ガス「が…き、貴様!」

 

ガスの衣服からスイッチを抜き取る

 

綾波「…そんな暇無いに決まってるじゃないですか、ハッタリですよ」

 

スイッチを握りつぶし、破壊する

 

ガス「ならば…」

 

綾波「それと、後ろに控えてた警備兵は…もう居ませんよ、貴方の目的が掴めた時点で無線機をジャックしたのちに呼び出して締め上げてます」

 

ガス「…なんだと…」

 

綾波「女帝に伝えてください、この不義理は貴方の首を絞めることになると」

 

そう言って一番近い窓から飛び降りる

 

 

 

 

 

 

綾波「やはり、死ななかったか」

 

木々に助けられ、最終的に池に落ちた

ああ、何と惨めか

 

綾波「…さて、私は……東雲に戻りましょう」

 

東雲「倉持司令官に連絡もしないと…あ…」

 

うつ伏せに倒れ込む

 

東雲「…先に休憩ですか……そうですね…おやすみなさい、みなさん」

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