元勇者提督 作:無し
東京 某所 公衆電話
駆逐艦 東雲
東雲「……連絡がつかない…電話をかけるのもただじゃないのに」
私は財布一つ持たずにLinkを出た、故に今の持ち金はたまたま拾った20円だけ
因んでおくと、あの時に持ち出したカートリッジと指輪の艤装以外は持ち合わせはない
艤装もないので今の私は一般人にできることしかできない
特殊部隊相手でも深海棲艦相手でも、一般人にできる方法でしか対処はできない訳だ
東雲(こうも出ないとなると、ううん…何かあったのかな、でもそうじゃなくても…)
結局つながらないままお金が返って来る
東雲「なんでぇ…?もう…ついてない…もう一回」
ダイヤルを押してお金を入れ、受話器を取る
東雲(早く出てください、このままじゃ帰れないのに…)
15分後
東雲「何で出ないんですか…ああ…今時公衆電話を1人で長い時間占拠するなんて…ああ、完全に不審者…」
チラリと周りを見る
東雲「!」
慌てて背を向け、隠れる
東雲「い、今の…敷波…!?」
だけではない、春日丸さん達もいた、今日は休暇なのか?
なんとも間の悪い…
しかし、間一髪気づかれずに済んでよかった…
東雲(と、とりあえずほとぼりが冷めるまで…)
東雲「ぁえ?」
背後から肩を叩かれ、振り返る
アオバ「どもー、恐縮です、不審者さん」
東雲「〜〜〜!?」
声にならない悲鳴が上がる
敷波「今、なんか聞こえた様な…」
春日丸「そうでしょうか…それよりもアヤナミ様へのお土産ですが…」
敷波「多分メスとか喜ぶよ」
春日丸「そうでしょうか」
東雲「…あの、ここは…」
アオバ「かなり良い感じの喫茶店じゃないですか?私のお気に入りなんですけども」
東雲「そうじゃなくて…」
アオバ「即刻牢屋行きよりは有情かな…なんて」
東雲「ご配慮感謝します…」
アオバ「いやー、しかし、何故あんな所に?公衆電話でずっといる女の子がいるなんて、よからぬ単語の通報が来ましたよ」
東雲「そうですか…」
アオバ「で?今日の売り上げは?」
東雲「シません!そんな事!」
アオバ「冗談ですよ、でも、また会えて良かった、お礼が言いたかったんです」
東雲「…それですか」
アオバさんの義肢を見る
アオバ「ええ…これがあれば、戦闘中に下がってろなんて言われませんから」
東雲「元はと言えば私のせいで失われた手です」
アオバ「でも、この腕と引き換えに私は妹と分かり合えましから」
東雲「……そうですか」
アオバ「何かを失っても、それを超える何かを得られれば…怒りも、悲しみも湧きません、貴方に恨みはもうない…」
東雲「……」
アオバ「再開できたのは偶然ですが、本当に良かった…大淀さんあたりなら容赦なくやっちゃってましたから」
東雲「ここは横須賀の近くという訳でもなければ、通報の処理となると警察の仕事ですよね?」
アオバ「艦娘のことは艦娘が、貴方は平日の昼間に出歩いてる女の子、それも見える所にも怪我をしてる女の子が一般人だと思いますか?…いや、一昔前ならこんな荒仕事は無かったから警察が対応するんですけどね」
警察に行った通報が横須賀に、か
アオバ「何より女性同士の方がいいだろうと言うことで、そう言う取り組みですよ…まあ、確かに管轄外なので、たまたま近くに来ていた私が来たんですけど…」
アオバさんが携帯を操作する
アオバ「んー、迷子になってるのかな…」
東雲「人待ちですか?…私はいない方が…」
アオバ「いいえ、会ってもらいます」
少し強い口調で制止される
東雲「…どなたですか」
アオバ「来ればわかります…あ、来た」
東雲「…あ、そう言うことですか…」
青葉「…ど、どうも…綾波さん…」
東雲「やはり姉妹水入らずに私は邪魔では…」
アオバ「…いいえ、直接Linkに会うのは嫌でしょうからこうして青葉に引き合わせたんです、話すことちゃんと話しましょうよ」
東雲「……」
青葉「綾波さん、言伝は、預かりますよ」
東雲「少し、待ってください…整理したい……それと、青葉さん、携帯貸してもらえませんか…?電話をかけたい相手が…」
東雲「もしもし、聞こえてらっしゃいますか」
海斗『あ、綾波、青葉の携帯を借りたんだね、なんの用?』
東雲「……倉持司令官、単刀直入に言って、NABもCC社もまだ情報は出してきませんでした…おそらく、次に接触した時、その時に動く筈です」
海斗『…わかった、何かこっちから用意できる物はある?』
東雲「どうかお気になさらず、その…私の独力でやるべき事です、誰かを巻き込めば、その誰かは確実に不幸になる…」
海斗(…表立っての支援はまず無理だな…)
東雲「それと、森は…私が解放します」
海斗『…わかった』
電話を切り、携帯を返す
青葉「司令官に用事だったんですね…」
東雲「…いろいろと気を遣っていただいていますので、報告の義理くらいはあるかと思いまして…正直に言えば、それすらも避けたいのですが」
青葉「……今の貴方は、普通の人に見えます」
東雲「そうですか?」
青葉「歩く事も、喋ることすらもままならないあなたがなぜ快復したのか、その理由をお聞かせ願えますか」
東雲「……断るわけにはいきませんかね」
アオバ「ダメです」
東雲「…私は、脳がダメになってしまいました……ですので、私と他の人の脳をリンクさせ、私が自分の脳で行う処理を代わりにやってもらってるんです」
青葉「…その脳は、誰の…」
東雲「どこの誰かもわかりません…この世界には、生きた人間の脳を取り出し、保管する場所が存在します…そう言う、間違った施設を私は利用している」
アオバ「…間違った道を歩いている自覚はあるんですね」
東雲「いいえ、勘違いしているかも知れませんが…私はその人たちを助けたいと思っています」
青葉「…脳だけになった人達を…?」
東雲「ええ…培養して作り上げた体を提供したいと、そう考えています……意思すら残ってない人達ですが…今、私に手を貸してくれる協力者達です」
アオバ「話が読めません、貴方は…」
東雲「どう思われても構いません、私は少なくとも、私の正義から外れる事はしません」
アオバ「正義ですか…未だ私には、全容が掴めていませんが…」
東雲「喋りすぎては、巻き込むことになります……」
青葉「…Linkの人達、心配してますよ」
東雲「皆さん強いですから、きっと逞しく生きていけます」
青葉「本当にそう思ってるんですか」
東雲「ええ…それでは、私は…」
席を立ち上がろうと片手をテーブルにつく
その腕を掴まれる
アオバ「…実は、このお店、チャージ料って言って、席に座るだけでお金がかかるんですよ」
東雲「え?」
アオバ「連れ込んじゃいましたけど、ここは割り勘という事で♪」
東雲「い、いや…あの…お金持ってな…」
アオバ「なら、ここは私が払いますから…身体で払ってもらいましょうか…」
東雲「え、いや…や、やめ…」
横須賀鎮守府 工廠
工廠に放り込まれ、扉を閉められる
アオバ「さ、払ってもらいましょうか、労働で」
東雲「……明らかに、釣り合わない対価ですね…」
数百円、それを3人で割れば下手すれば数十円だと言うのに
あろう事か数時間の労働に化けるとは
アオバ「それとも、Linkに帰ってお金払って貰いますか?」
東雲「万引き犯に対する二択みたいなこと言わないでくださいよ…」
アオバ「どうしますか」
東雲「……」
狭霧さんは私を逃さないだろう
誰も私を離さないだろう
でも、それじゃダメだ
今のところまだ恐れている事態は起きていないが、例えば無誘導弾なんか飛んできた日には、誰か確実に死ぬ
私がLinkに未練を見せてはいけない
それを見せた瞬間、相手に有用なカードを与えることに他ならない
私は1人でいい、私は苦しくて、辛くて、いい
むしろ、それがいいのに
アオバ「…泣いてるんですか」
東雲「……私には、あの時間は、あの瞬間はあまりにも輝かしく、尊く、かけがえのない物でありすぎた…」
未練がないわけがない
何故、あんなに大事にしていた居場所を捨てられようか
私は、私はあそこにいたい、なんでもない時間を過ごしたい
だけど、それは…
誰かが狙われる危険性を孕んでいる
私のせいで誰かが傷つく可能性がある
東雲「…どうか、私のことは放っておいてください…私は、もうあそこには帰れない…」
アオバ「……」
東雲「…それと、貴方ではない、青葉さんに……私は元気でやっていますと伝えて欲しいと、どうか心配しないで欲しい、と…」
アオバ「……私には、人の心を読み取る力がある訳ではありません…でも、今の貴方の想いは嫌でも、伝わってきます…助けて欲しいのなら、そう言わなくては…」
東雲「違う…!助けて欲しいんじゃないんです!……ただ、無事で居てほしい、みんなに、辛い思いをしないでほしい…それだけ、それ以上は望みません…」
しかし、私にはそれすらも…
烏滸がましい願いとしか呼べないのかもしれない
東雲「……働きましょう…なんでもしましょう…あなた方が口を噤むのなら」
アオバ「…少し、待っていてください」
…諦めろ、何もかもを
自分の命はとおに諦めている
ならば、後は何を諦めればいい