元勇者提督   作:無し

504 / 625
似非モノ

離島鎮守府 食堂

教導担当 キタカミ

 

テーブルの上で指輪を回して退屈な時間を過ごす

 

敵の襲撃はいつ来るかわからない

的確に読み切った防衛戦なんて、2度目はないんだ

遠距離から建物を狙い撃たれたら、唐突に、警戒してない時にやられたら

 

この退屈な時間が一瞬で終わる

戦争とはそう言うものだ

 

キタカミ(って考えると、これも幸せなのかねぇ…)

 

指輪をつまみ上げる

 

魔法のランプの様に、擦れば艤装を召喚するコレは私との相性がだいぶん良い

 

自分自身が携行できる主砲は4つ、杖の仕込み合わせて5つ、でもこれは瞬間的にかなりの数の主砲を召喚できる

 

一つ一つの火力は確かに戦艦なんかには敵わない

でも、うまく操れば戦艦なんてメじゃない

 

キタカミ(私にあった艤装だけど、なんともまあシンプルでつまんない)

 

何より綾波製と言うのが単純に気に入らない…

 

キタカミ「ん?アケボノじゃん」

 

アケボノ「どうも、ここ良いですか?」

 

キタカミ「いや、良いけども」

 

アケボノ「……」

 

アケボノにじっと見つめられる

 

キタカミ「いや、聞くから、聞くからさ…そんな顔しないでよ」

 

アケボノ「…秘書艦の任を、解いていただいてきました、これで…私はいち駆逐艦にすぎません」

 

キタカミ(駆逐艦ねぇ…深海棲艦の力で暴れまくる奴が駆逐艦ねぇ…)

 

アケボノ「……何故、提督は…私を恨まないのでしょうか、私に…感情的にならないのでしょうか…怒りもしなければ…」

 

キタカミ「いや、そんなの簡単じゃん、もーっと酷いもん山ほど見てきたからでしょ」

 

アケボノ「…自分の命を奪う何かより?」

 

キタカミ「その辺はさ、人の感覚なんだろうけど…知ってる?朧って提督の記憶が一時期丸々頭に入ってきたことあるんだよ」

 

アケボノ「…何が関係あるんですか、それが」

 

キタカミ「朧と私はタルヴォスで繋がってる、朧は好き勝手やる時私の頭に色んなもの垂れ流すんだけど、ざっくりその記憶を盗み見たりもしたんだよね、まー酷かったよ、言いたい放題言われたりして」

 

アケボノ「だから私は大したことないと?」

 

キタカミ「……アケボノはさ、今助けたい人、いる?」

 

アケボノ「助けたい、人…?」

 

キタカミ「居ないでしょ、私も居なかった」

 

アケボノ「居るんですか?今は」

 

キタカミ「ん」

 

アケボノを指さす

 

アケボノ「それは…すみません、相談に乗ってもらって」

 

キタカミ「そうじゃなくて、ここのみんなって事だよ…こんな戦争で苦しむことがない様にって意味でね」

 

アケボノ「それが、提督の願いですか」

 

キタカミ「もちろん意識不明のお仲間も助けたいみたいだけどね、両立の為に片方にあんまり入れ込めないし、余裕も無い、特に…困った部下のお遊びにはね」

 

アケボノ(…困った部下か…)

 

アケボノ「どうすれば、お役に立てると思いますか」

 

キタカミ「言われたことだけやんな、あんたはなんでもやり過ぎ」

 

アケボノ「足りないくらいです、それこそ書類関係は一通り任せていただいても…」

 

キタカミ「完璧にできるとか、そんな話じゃないんだよ、自分で責任を取るって決めた以上、人任せにしたくないんだよ」

 

アケボノ「……」

 

キタカミ「アケボノ、前線に出たい?」

 

アケボノ「前線ですか…」

 

アケボノ(そこらの深海棲艦なら、一瞬で壊滅させられる自信はある、私が前に出ることで提督のお役に立てるなら…)

 

キタカミ「…わかんないか」

 

アケボノ「そうですね、一瞬で答えられるほどには、まだ至っていません」

 

キタカミ「私は出たくないなぁ、前線…危ないし、出る理由もないし」

 

アケボノ「……ありませんか、本当に」

 

キタカミ「……私が育てた子達は、全員自分の身は守れるくらいに強くなってるよ」

 

アケボノ「なら、それで守りきれない強さの敵が出たら?」

 

キタカミ「そんときゃ、少しくらい頑張るよ」

 

…想像はしたくない

だけど神通の事もある

 

…いつ、前線送りになってもおかしくない

 

指輪を天井目掛けて放り投げる

 

アケボノ「そういえば、キタカミさんはそれを偉く乱雑に扱うのですね」

 

キタカミ「……これはお守りじゃない、私達を守る何かではないただの武器だからね…」

 

放り投げた指輪を受け止める

 

キタカミ「たとえばこれに特別な想いがこもってたなら、こうはしない、でも…私にはみんな等しく与えられたこれが、どうにも疎ましく感じる…アケボノがそうである様に」

 

バツが悪そうにアケボノが目を逸らす

 

キタカミ「なーんで、ケッコンカッコカリなんて名称付けたのかね、綾波は」

 

アケボノ「綾波の趣味とは思えませんが」

 

キタカミ「まあね、確かにそうだよ、でも、何らかの意味はありそうだよね」

 

取り敢えず、薬指に戻す

 

キタカミ「あ、見た?これつけて見せた時の提督の顔の焦りよう」

 

アケボノ「見てはいませんが、教育に悪いのでは?」

 

キタカミ「数少ない娯楽くらいに考えとくもんさね……と」

 

アケボノ「どうしました」

 

キタカミ「…呉の連中まだ居るよね、叩き起こして、敵襲だよ…南風に乗って匂いが一足先に来た」

 

アケボノ「…まだ本土に行った人たちは帰ってきてないのに」

 

キタカミ「良いじゃん、最強タッグの結成という事で」

 

 

 

 

近海

 

キタカミ「へぇ、アレか…うわさの仮面の敵」

 

神通を戦闘不能に追い込んだ、青葉の動きを真似た敵…

でも、ここから見るに、3人、艤装は前2人が駆逐艦、後ろの1人が戦艦タイプ…こちらから見て三角形の陣形…

 

キタカミ(…いや、あれは)

 

何か見覚えが…

 

キタカミ「…阿武隈の索敵陣形…!」

 

スリーマンセルの時に組む、阿武隈が考案した離島鎮守府独自の陣形…!

後方からの奇襲をタンク役が受ける事で、敵のゲリラ的戦術を防ぐ為の…

なんでアイツらが使ってんのかは知らないけど、罠を警戒してるのはわかる…!

 

キタカミ(冗談キツイっての…あれは阿武隈の作ったもの、勝手に使うなよ…!)

 

考案段階から、あの陣形については研究していた

あの陣形は派生系が多く、チームワークが求められる

 

キタカミ(…間違いない、戦艦が前に出た)

 

駆逐艦の前に戦艦が出る事で、前衛1後衛2の形に切り替わる

 

キタカミ(普通の深海棲艦とは違う、味方を生かそうとするくらいには賢い…!)

 

主砲を腰紐から一つ外し、向ける

 

キタカミ「……お互い射程内、覚悟は良いって事で良いよね?」

 

…深海棲艦だ、相手は深海棲艦なんだ…間違いなく

 

…でも、引き金が引けない

 

キタカミ(落ち着け、撃てば殺せる!……でも…)

 

相手はヒト型だ、意志がある、あの仮面の下が人間でない確証は?

 

キタカミ(……)

 

下した判断は…

 

キタカミ(撃って来なよ…その瞬間、殺してやる)

 

主砲をおろし、無防備に見せる事

先に撃たせる専守防衛

 

領海内とはいえ、あの仮面の下を確認するか攻撃されるまでは、撃たない…

 

キタカミ(さあ…さあ!)

 

戦艦の主砲が、こちらを捉える

 

キタカミ(…捉えてる、ブレもない…綺麗に捉えて…!)

 

放たれた砲弾を主砲を右手の振り抜いて叩き落とす

 

キタカミ「…良い腕してんじゃん…!」

 

叩き落としたと同時に放った砲弾が戦艦の仮面をブチ抜く

 

キタカミ「さあ…中身は………え?」

 

反応が遅れた、眼前の敵に集中しすぎた…

左足に幾つも絡みつく…

 

キタカミ(これ、触手…!?)

 

カッと光が視界を包む

 

キタカミ「ー!!」

 

吹き飛ばされ、海面をゴロゴロと転がる

痛い、熱い…

 

人の形をしてるからと迷ったのは良くなかった

さっさと撃ち殺せばこうはならなかったのに

 

キタカミ(あの触手、何かから伸びてた、その何かが、爆発した…!)

 

キタカミ「ぐ…!」

 

なんとか、立ち上がる

 

キタカミ(一番怖いのはさっきのやつ、もしくは引き摺り込もうとする伏兵…海中は匂いがしないから私の鼻は全く役に立たないし…)

 

呉の奴らとアケボノは何をしてるのか、早く来ないと流石にヤバい!

 

キタカミ「…待って、なんであんたらが来たの…!」

 

この匂い…アメリカの…

 

ワシントン「キタカミ!敵襲って聞いて…」

 

キタカミ「さっさと逃げ…ッ!!!」

 

脇を通り抜け、ワシントンの方へと飛んだ砲弾を雷のカートリッジで速度を上げた砲撃で撃ち抜く

 

キタカミ(狙撃!!しかもこれ、何キロ先から…!)

 

ワシントン(い、今、気付いてない砲弾に超速で反応して撃ち落とした!?なんて事…!)

 

思い出すのは、五月雨とやり合った時のこと

そうだ、この感じ、五月雨だ

 

キタカミ「……」

 

…ヤバい

背筋が凍った

 

青葉、五月雨、あの戦艦は長門か?なら…(キタカミ)は?

アケボノや私はどうなんだ

 

なうての実力者は軒並みコピーされてるとしたら、絶対に、そこに自分が加えられてる

 

キタカミ(…守り切る余裕はない!!)

 

体を大きく揺らしながら、右手を大きく振りながら、放つ

 

キタカミ(五月雨は落ちる、次…!)

 

キタカミ「え」

 

匂いがしなかった

いつのまにか目の前に…

 

いや、違う、早すぎる

 

キタカミ(島風…!?)

 

指輪で艤装を召喚し、なんとかそれを盾にしてダメージを軽減する

しかしそれでも足りない

 

海面をゴロゴロと転がるたびに傷口に海水が染みる

全身切り傷だらけ、今の一瞬で何撃くらった?

 

キタカミ「かはっ…っあ…!」

 

ワシントン「キタカミ!い、今何が…!?」

 

キタカミ「さっさと逃げな…!死ぬよ!」

 

手札は何が残ってる

いまさっき切ったカードは強すぎる

 

私の手持ちのカードは…

 

キタカミ(…いや…)

 

キタカミ「おっそい…!」

 

川内「川内参上」

 

アケボノ「お待たせしました、駆逐艦アケボノ、戦闘行動を開始します」

 

ようやく増援が来た

これで多少はマシになる

 

敵の数を測り、敵の強さを測り、戦う余裕ができる

 

キタカミ「下にも気をつけなよ、なんか居る!」

 

川内「なんかって何さ」

 

キタカミ「変な奴、絡みついて自爆してくるよ…!」

 

アケボノ「なんて面倒な」

 

川内「…で、敵は…!」

 

キタカミ「…島風っぽい駆逐とあと1は不明!」

 

戦艦はすでに沈んだらしく、艤装しか残ってない

 

川内「了解」

 

アケボノ「なら不明な方は任せました…島風さんのニセモノは私が」

 

川内「そこは対応力ある方が未確認やるべきでしょ」

 

アケボノ「あなたは速くはない」

 

川内「…まあ、確かに」

 

キタカミ「ワシントン!さっさと引き上げないと巻き込むよ!」

 

すぐそばでアケボノが敵を捕らえる

 

アケボノ「…速いですが、貴方はまだ力の扱いを知らないと見える」

 

アケボノが敵の頭を握りつぶす

 

風船が割れる様な音があたりに響く

 

ワシントン「ひっ!?」

 

キタカミ「……中身は本当に空洞なんだ」

 

アケボノ「…ッ!!」

 

アケボノが一部を一瞬深海化し、尻尾で残りの一体の砲撃を防ぐ

 

川内「ごめん!防ぎきれなかった!」

 

キタカミ(今の砲撃スタイル、別に突出したところはない、というか、アケボノにとんだのもまぐれっぽい…戦闘データ云々が本当だとしたら、かなりの新米みたいな…)

 

川内が敵を圧倒し、じっくりと刻んでいく

 

キタカミ(……ああ、最悪の気分…)

 

まるで、朝霜達だ

もしかしたら択捉達かもしれない

 

まだ戦うことにすら慣れてない子が、川内に蹂躙されてる様に見える

 

キタカミ「…アケボノ、川内、先帰る」

 

川内「先も何も、終わったよ」

 

アケボノ「ええ…海中の敵も、反応ありません」

 

…多分、ここまで少数なのは事前に仕掛けた罠が効いてるからなはず

だけど…なんだか心が澱む

 

アケボノ「…!」

 

川内「そこか!」

 

アケボノと川内が同じ場所を撃ち抜く

 

先ほど自爆した生物がいくつかグッタリとした様子で浮上してくる

 

アケボノ「コイツらが」

 

川内「近づいちゃダメだよ、死んだふりかもしれないから」

 

キタカミ「……コイツらの拠点、どこなんだろうね」

 

…前回の襲撃も、今回の襲撃も、南からだった

 

…南の海域は、周辺の諸島、すべての近海を一度制覇している

 

キタカミ(……コイツらが賢いのなら、拠点を隠してるなら…深海なのか、それたも…)

 

可能性として、一番あるのは…

 

キタカミ「東かな」

 

川内「ハワイ…か」

 

地理的には真東にあたる

 

そして、アメリカが深海棲艦にいい様にやられてるなら

 

アケボノ「可能性は高いでしょう」

 

キタカミ「…敵はいつまでも待ってはくれない、さっさと動くよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。