元勇者提督   作:無し

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不慮の事故

???

駆逐艦 東雲

 

…ここは、何処だ

あそこに戻るわけにはいかない、その一心で転移した、場所なんて指定する余裕はなかった、だが…何も考えず転移したのは、間違いだったのかもしれない

 

暗い世界に規則正しく響く足音

それは一つなのか、複数なのかすらわからない

 

東雲(…目が、慣れてきた…)

 

暗闇の中に、複数の人影が見える…

そのどれもが、私の知る何者かに見える

 

東雲(…ここは…間違いない、ここは、アレの…!)

 

…足音は規則正しいのに、背が違う、何もかもが違う

一人一人違う、だけど全てここから生み出された存在

 

一体がこちらへと近づいてくる

仮面をつけた、あの敵が

 

東雲「…私にはわかる」

 

歩き方の癖、手の振り方、足の踏み出し方、その全てを私は記憶し、判別できる

 

東雲「……何故、同じなんですか…あなたは…!」

 

目の前でその一体が立ち止まり、仮面に手をかける

 

東雲「…!」

 

ずらされた仮面の下の口元は、笑っていた

 

ここまで見れば、間違いない…この人は…

 

東雲(この人は、アケボノさんだ…)

 

仮面がカランと音を立てて地面に落ちる

アケボノさんと向かい合う、暗闇の中で、2人、ただ、何も言わずに

 

東雲(仮面の敵は面を外した時点で消滅する、なのに何故…このアケボノさんは本物で、潜入しているということか…?)

 

何にしても、警戒は解けない

 

東雲「あなたは…なんなんですか」

 

アケボノさんは答えない、だけど、口角を釣り上げて…ニィと笑う

 

気持ち悪い…

アケボノさんは好きだ、あのストイックな所も、容姿も、何もかも高く評価している

だけど、これは…全くそれとは似つかない…

 

東雲「!」

 

初撃、飛び蹴りを一歩下がることでかわす

 

東雲(やはり敵か!格闘戦になる、か…!)

 

立ち技を徹底していなし、かわすことのみに注力し、測る

 

拳の突き出し方、蹴りのときに踏み込む足

蹴りの角度、得意そうにしている動き

 

何もかも、同じだ

 

東雲(本人、としか…思えない、なんで?…いや、違う)

 

蹴りのタイミングに合わせて膝を突き出し、脛の骨を砕く

 

東雲「これで脚を…っ……成る程やはり、仮定は正しかったか」

 

確かに脚は砕いた、でもすぐに再生したのか、その脚を軸足に別の蹴り技を此方へと…

 

東雲(今の再生速度、この感じ……しかも、さっきの蹴り……分析して、大丈夫……わかるから)

 

アケボノさんの動きが止まる

確かめる様に砕かれた脚を軽く動かしている

 

互いに攻め気を出すこともできるが、それを得意としてはいない

互いにカウンタースタイルの先頭を得意とするタイプ…

 

東雲(どう潰す?いや、そもそも潰せるのか…私が今戦ってる相手は言うならば霧だ…これらは実態を持っていない、ただのデータの集合体の様なもの、強いて言うなら…前の世界や私たちに近い)

 

そう、前の世界の艦娘システムのそれに限りなく近い

おそらく、実態のない何かであるために仮面や衣装が破壊されると中身が霧散して消え失せるのだろう

 

しかし、ここではそうならない

 

アケボノさんが白い衣装を脱ぎ捨てる

何も規定ないのだろうが、どのみちこの暗闇だ、細部の確認などできようもないし興味もない

 

東雲(しかし、何のために脱いだ?)

 

アケボノさんの首を狩る様な回し蹴りの連打を交わし、カウンターの蹴りを首に見舞う

 

東雲「!」

 

すり抜けた…

首をすり抜け、そして、無防備な私の背中に前蹴り

 

東雲「ぁがっ…!」

 

顔面から床に突っ込んだ

最悪の気分だ…

 

しかし、もっと最悪なのは…今、学習したことだ

衣装を脱いだのは、ここでは霧散しないと学んだから

寧ろあの服が無ければ…無敵であると、気づいてしまったから

 

冷や汗が頬を伝う

 

東雲(どうする?私は…どう戦えばいい?いや、ブラックホールで消し去る手もある、だけど…ワープに使う方が後の為だし、カートリッジの耐久も無限じゃない…)

 

その気になれば、体内に入り込むなんて芸当もできるはずだ…

お互いにリスクがあることだけど、向こうは実質不死身

そしてアケボノさんであることも踏まえると、何でも試してくるだろう

 

東雲(私にワープか完全に消滅させると言う2択を迫るあたり、アケボノさんはやはり、馬鹿にできない実力者ですね…)

 

カートリッジを取り出し、起動しようとする

 

東雲「!」

 

寸前のところで回避行動に入ったおかげで直撃は避けられた

手首を絨毯が掠め、血がどくどくと流れ落ちる

 

東雲「…キタカミさんか」

 

カートリッジの事を認識していた

カートリッジの力を危険視し、使わせないように…

 

東雲「!」

 

キタカミさんがもう一度こちらへと撃ち込んでくる

その瞬間、一瞬だけあたりが照らされる

写真の様にその光景が頭に焼きついた

そしてその危険性も理解した

 

…全ての敵が私を捉え、攻撃の姿勢を…

 

砲弾をかわす

…キタカミさんの砲撃精度、実に素晴らしい…が

偏差射撃の腕前は本物とは雲泥の差か

 

東雲(でも、成長することを加味したら余裕は無い…仕方ない、こうなれば…)

 

蹴りかかってきたアケボノさんの一撃を避け、頭突き…が、すり抜ける

口内に何か、粉が入り込む様なピリピリとした感触

 

東雲(喉まで行く前に…!)

 

犬歯、前歯の隣の鋭く尖った歯を擦り合わせる

 

東雲(くらえ…!)

 

ガチッ

歯に仕込んだ火打石から火花が散る

そしてそれがデータの破片に着火し…

 

東雲(これは、思ったよりマズ…)

 

爆発する

 

東雲「かはっ…ぁ…が…」

 

口から黒い煙を吐き出す

少なくとも、口内のアケボノさんのパーツは焼き払った

…しかし、これほとの規模の爆発をするとは思わなかった

精々火花がついて燃えて消えるくらいだと思っていたのに、かなり大きい爆発になった…

 

人体を構成するほどのデータとなると、よほど強大ということか

 

東雲(…まずい、出血が……血が足りない、クラクラする…)

 

両手にカートリッジを持ち、起動する

 

キタカミさんが砲撃をするが、もう遅い

 

東雲(オートガードは完全に、使い切りましたね…)

 

 

 

 

 

 

???

 

東雲「かはっ……あ…はぁ…はぁ……つ、ついてる…て、適当に、転移したのに…陸地につけた…」

 

…本当に幸運だ

まさか陸地にたどり着くなんて

ここが何処かの島なのか、それとも大陸なのか

 

国なのか、それとも国ですらないのか

それすらもわからないが…幸運だ

 

どうやらここは山間の森らしい…

陽の光も入ってこない、じめじめとした場所…

でも、こう言うところになら…

 

東雲(…これ、あった!チドメグサだ!本当についている…)」

 

雑草をむしりとり、汁を傷口に垂らす

この雑草の汁には血を止める効果がある

 

東雲「ぁ…っう…!……これで…失血死は、しない…」

 

口元に汁を絞った後のチドメグサを寄せ、犬歯に仕込んだ火打石で火をつける

 

東雲(…何処かに……居た)

 

適当に小さな野生動物を捕まえ、火に放り込む

 

東雲(…動け、あとは、木を……でも、ここの木は湿ってるだろうし…)

 

止むを得ず、衣類の乾いた部分を破いて火に焚べる

 

 

 

東雲「…2日ぶりの食事…」

 

といっても、素焼きのイモリやバッタなどの食材とは呼べないものばかりだが

 

東雲(…ああ…極限に来ると、こう…これでも満足してしまうのが腹立たしいですね…)

 

…まあ、昆虫や小動物を食べるのは、慣れた

Linkを抜け出してからずっとそうしていたし、別に問題はない

 

ただ美味しいと感じてしまったのが悔しいだけだ

 

東雲(美味しいもの、食べたいなあ……)

 

 

 

 

 

東雲「…少し、楽になりましたね…散策してみましょうか…」

 

山を少し下る

多分この山はそこまで高くはないだろう、なので頂上まで行っても植物はあるだろうし、野生動物も少なく安全だろうが…

生憎私は頂上から見渡して現在地を理解する程の能力はない

 

その上この限界に近い体力、負傷した体でトレッキングは危険だ

 

イノシシがいるかはわからないが、出てきたら終わりだ

 

東雲「…!こ、これ、アケビだ…やった、本当についてる…」

 

アケビを取り、皮をよせて中身を口に含む

 

東雲(…甘い……)

 

久方ぶりの甘味に思わず涙が出てくる

前に拠点にしていた無人島では甘いきのみは発見できなかった

 

正確には該当しそうなものがあったが、毒を持っている恐れがあったためやめておいた

 

東雲(…美味しい…うん、美味しい…でも、こんな時期にアケビ?冬の今に…と言うか、アケビがあるならここは日本か中国…か)

 

糖分を摂取したおかげで頭が働き始める

 

東雲(…もう一つ………後一つだけ…)

 

考えながらも、この甘味に手が止まらない

 

東雲「……はっ…」

 

気づいたときには手が届く範囲のアケビを食べ尽くした後だった

 

東雲「…か、皮も食べられるので、回収しておきましょう」

 

東雲(昔食べたアケビの天ぷら美味しかったなぁ…って違う違う!私のやる事は…いや、もはや何をすればいいんだろう、私)

 

ただ、みんなを巻き込みたくなかっただけ…なのに…

 

東雲(人の仲間を、色んな人を傷つけてきた私が、何と都合のいい…)

 

そして、終いには…自分の命惜しさに逃げ出した、か

あの場で全てブラックホールに放り込めば良かったのだ

どのみち私は死なないが、敵方は大打撃を受けていた筈だ

 

…ただ、死なないとはいえ辛い思いをすることになっただろう

 

東雲(…せっかく東雲と名乗った意味もないな、これでは…)

 

東雲、東の空が明るくなることの意

つまり、曙という意味であり、彼女が名乗っていた名だ

 

それを敢えて名乗るなら…その時に決めたことを護るべきだろう

 

東雲「……そうですね、あるじゃないですか、目標…曙になるって…私が、夜を終わらせるって……そうしたら、ほんとにカフェでも開いてみて…みんなで…」

 

…楽しいだろうな

だけど、そこに私は、いちゃいけないんだ

 

東雲「……甘ったれるな、私…よし、お仕事お仕事…」

 

しばらくはここで生活することになるかもしれない

 

東雲「…潮風だ」

 

海水の香りが鼻をくすぐる

海も近い、か

 

…深海棲艦から艤装を取り上げれば、戦えるか?

 

東雲(うん、とりあえず日本の何処かに行こう、自分の場所さえわかれば転移は簡単だから…)

 

潮風に誘われ、山を下る

 

東雲「あ、こ、これは…まさか、そんなまさか…ヤマブドウまであるなんて…」

 

飢えていた甘いものがどんどんと舞い込んでくる

 

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府 執務室

教導担当 キタカミ

 

キタカミ「つーわけで、敵の特性はそんな感じさね」

 

海斗「うん…そっか、キタカミ、大丈夫?辛そうだけど」

 

キタカミ「…あー、風邪風邪、鼻も効かないし、困っちゃうよねー、ゴホゴホ」

 

嘘だ、風邪をひいてなんかいない、ただ…ちょっとナーヴァスなだけ

 

どうしたらいいんだろう、アケボノや川内のコピーが来ても問題ない、叩き潰してやるって自信はある

 

でも、もし…もし、択捉達、朝霜達みたいな…年端もいかない、戦い方を知らない奴らがきたら

 

躊躇う、撃てなくなる

 

…これが人と戦っている様な、感覚

 

人殺しはしたことがある、無論前の世界でだけど

あのときも提督を守るために殺しただけ、それに相手も軍人だったから…お互い納得の上だから…

 

キタカミ(でも、あの子らはどうなの?……違うじゃん、納得してここに来ていても、死ぬことにまで納得できる様な歳じゃない!)

 

生きたい、そう思って必死に毎日訓練してる

死なないために頑張ってる子達の影を、私が殺す

 

吐き気がしてきた、私は、弱い

 

海斗「…ゆっくり休んで、キタカミ」

 

キタカミ「…ん」

 

…嫌だな、もしコピーと出会って、戦うとしたら…私じゃない誰かが…

 

キタカミ(それも嫌だけど…)

 

キタカミ「…は……は…はっくしゅん!!」

 

盛大にくしゃみが出る

 

海斗「…ほんとに風邪ひいてるみたいだね、後で誰かに温かいものを持って行かせるから、ゆっくり寝てて」

 

キタカミ「…うん」

 

キタカミ(瓢箪から駒、嘘からでたまこと…だね、風邪なんかひかないと思ってたのに、ほんとに風邪ひいてるみたいだ…)

 

キタカミ「じゃ、悪いけど」

 

海斗「お大事に」

 

 

 

 

食堂

 

キタカミ(ま、寝る前に何か食べた方がいいよね…む?)

 

美味しそうな匂い…何の匂いだろう、すき焼き?

 

大井「あ!キタカミさん!」

 

キタカミ「おー、大井っち、まだいたんた」

 

球磨「大した言い草だクマ」

 

木曾「姉さんも食うか?大井姉さん特製の牛丼だってよ」

 

キタカミ「へー…何入ってんの?」

 

球磨「…豆腐白滝玉ねぎ牛肉だクマ」

 

キタカミ「牛丼?それ…すき焼きっぽいね」

 

多摩「甘口で美味いニャ」

 

キタカミ「…大井っち、一つちょーだい」

 

球磨「生姜とネギつけてやるクマ」

 

大井「はーい!」

 

キタカミ「……さっすが球磨姉…お見通しか」

 

球磨「あたりまえだクマ、お姉ちゃん相手に隠し事は通用しないクマ」

 

木曾「何の話だ?」

 

北上「風邪ひいてるんでしょ」

 

キタカミ「おー、北上じゃん」

 

北上「おっすキタカミ」

 

キタカミ「どう?最近、北上の方は」

 

北上「上々かな、キタカミの方こそどうなのよ」

 

キタカミ「北上よりは良いんじゃない?」

 

多摩「北上キタカミ北上キタカミ北上…頭おかしくなりそうニャ」

 

木曾「2人とも同じ名前だしな」

 

球磨「顔見れば一目でどっちかわかるのにイントネーションは変わらんから困るクマ」

 

大井「はい!特製牛丼です!」

 

キタカミ「おー、美味しそ」

 

豆腐と白滝もすっかり色変わるまで煮込まれちゃって…

 

キタカミ(良い匂いするんだろうなー…)

 

牛丼ゆっくりと時間をかけて味わう

やはり甘めのすき焼きの様な感じだった、正直生卵が欲しかったけど

 

キタカミ「ごっそさまー、じゃあね」

 

球磨「ん、明日には帰るから見送りに来るクマ」

 

キタカミ「覚えてたらね」

 

 

 

 

自室に戻り、寝転がる

満腹なおかげでゆっくり眠れそうだ

 

 

 

ノックの音で目が覚める

 

キタカミ「…どーぞ」

 

キタカミ(そういやあったかいもん用意するんだっけ、生姜湯とかかな…匂いではわかんないや…)

 

那珂「失礼しまーす」

 

神通「どうも、風邪ということでお見舞いに」

 

キタカミ「おー、那珂に神通、川内は?」

 

神通「夕刻の間見張りをすると…敵襲が無いかどうか…夜間は私が立ちますので」

 

キタカミ「そりゃどうも、助かるよ、明日にはみんな帰ってくるんだけどねー……あれ?」

 

那珂の持ってるトレー…

 

那珂「あ、お腹減ってるか、はいこれ!牛丼!」

 

神通「大井さん特製です、生姜ネギトッピングは球磨さんから」

 

キタカミ(…球磨姉…遊んだな…?私が食べ切ったの知ってる上でもう一杯とは…)

 

神通「どうしました」

 

キタカミ「…いや、さっき食堂で食べたんだよね」

 

那珂「だめだよ、好き嫌いしちゃ」

 

キタカミ「は?…い、いや、ほんとにさっき食べたとこで…」

 

那珂「球磨さんから玉ねぎとネギが嫌いだけどちゃんと食べさせる様に頼まれてるんだから!」

 

キタカミ「私ゃ多摩姉か!じゃなくてネコか!」

 

神通(やはり多摩さんは食べられないのか)

 

キタカミ「もー…食えばいいんでしょ…食えば…」

 

消化中の腹に牛丼をさらに詰め込む

 

キタカミ(う…き、キツイ…)

 

神通「あまり無理せず」

 

キタカミ(よく言うよ、無理矢理食わせてるくせに…)

 

 

 

 

キタカミ「完食…うぷ」

 

那珂「じゃ、お大事に」

 

神通「では」

 

キタカミ「…え?本当にそれだけ?……何、この間ただ拷問されてただけ?……マジか…」

 

満腹すぎて眠れないな…

 

1人寂しく、沈んでいく太陽を眺めて過ごすしか無い…

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