元勇者提督   作:無し

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居眠日和

離島鎮守府 演習場

教導担当 キタカミ

 

キタカミ「つーわけで、帰ってきて早々で悪いけど、島風とアケボノには戦ってもらいます、アケボノ、データ収集よろしく」

 

島風(な、何にも説明受けてないんだけど…)

 

アケボノ(何でこの人はどてらに冷えピタなんか…風邪ひいてるなら大人しく寝てれば良いのに)

 

アケボノ「くぁ…あ」

 

キタカミ(欠伸なんかしやがって、なめてるな…?)

 

キタカミ「あ、手ぇ抜いたら…お仕置きだからね?」

 

アケボノ「何ですかお仕置きって」

 

キタカミ「ご飯抜きと夜警二日間」

 

アケボノ(地味に嫌なのが腹立たしいな…)

 

アケボノ「島風さん、さっさと終わらせましょう」

 

島風「りょ、りょうかい…」

 

キタカミ「あと、島風は勝てばお望みの有線Wi-Fiを部屋につけてあげよう」

 

島風「え!?本当に!?」

 

キタカミ「うん、提督にもオッケーもらってるし」

 

島風「よーし!頑張ります!」

 

キタカミ「あとアケボノはあなたから使っちゃダメね、見られてるし」

 

アケボノ「…ハンデ戦はいいでしょう、しかし私の褒賞は?」

 

キタカミ「無理、だってあんた…「私の悩みの答えをください」とか言い出しそうだし、特に欲しいものないでしょ」

 

アケボノ「それは…ありませんけど…」

 

キタカミ「ね、とりあえず、あんたは勝ってあたりまえの立場にあるし…頑張りなよ」

 

アケボノ(やる気が失せる)

 

 

 

 

島風「行きます!!」

 

アケボノ「どうぞ」

 

島風が連装砲達を展開し、自身は双剣を逆手に構える

 

キタカミ(…うん、いつもの攻め方をやろうとしてる…その方が助かるな、コピーと飲み比べができるし…)

 

島風(踏み込みと同時に加速して…一気に肉薄する!!)

 

島風が一瞬でアケボノに詰め寄り、斬りかかる

 

アケボノ(…これは…一目瞭然だな、コピーよりずっと速い)

 

島風の速攻は見事なものだが、アケボノの対処も的確で、全て読み切り、紙一重でかわし続ける

 

アケボノ(この盤面なら、神通さんより川内さんの動きの方が合わせやすいか)  

 

島風が斬りかかった瞬間を見計らい、腹部に膝…

 

島風「あ…ぐ…?」

 

キタカミ(一方的に攻めてる側だったのに、急な反撃で混乱してるな…上体の動きに集中しすぎて脚の捌き方が甘いし注意もしてなかった)

 

動きの止まった島風をアケボノが投げ飛ばす

 

島風「ぁが…あ…!」

 

アケボノ「…こんなものか、川内さんの動きをするヒマもなかった」

 

キタカミ(川内の動きって事は…あの蹴り防がれる前提だったのか…川内はかなり攻め気が強いから敢えて防がせて有利に立ち回る事多いし)

 

アケボノ「…もう終わっていいですか」

 

キタカミ「まだまだ」

 

アケボノ「…おや、いつの間にそんなに離れて」

 

島風とアケボノの距離が開く

駆逐艦の主砲なら十分狙いすまして当てられる距離、大体100メートル…さて、ここでアケボノの頭にはある疑念が浮かぶはず

 

アケボノ(何故離れた、近接戦闘を得意とするスピードアタッカーの島風さんが私から距離を取る理由は何だ)

 

アケボノの悪癖、それを見極めるために動きを止め、島風を見定めようとする…

 

そこがポイントだ、島風はこの瞬間、複数の手札を切り続け、アケボノを完全に狩る必要がある

そうしなくてはチャンスはもう来ない、アケボノに対して搦手は2度も効かない

 

島風(…私だって成長してる…それを見せるためにも!)

 

連装砲達からの砲撃、そして止まる島風…

何をやるつもりだ…?

 

キタカミ(いつ動く…)

 

駆逐艦の砲撃なんてアケボノからすれば避けることも防ぐ事も容易い、なのにそれを続けてる…連装砲達が弾幕を貼り続けることに意味を見出している…

 

キタカミ「!」

 

アケボノ(!1発だけ速い!避けられないか!)

 

アケボノがソレをガードして、防ぐ

 

アケボノ「な…!?ぎょ、魚雷!?」

 

キタカミ(魚雷を砲弾の様に飛ばした…!回し蹴りの勢いを乗せて素早く射出して…このレンジを射程内にした…!)

 

私たちは完全に魚雷を意識していた

その瞬きほどの一瞬が、命取り

 

アケボノ「しまった!」

 

島風がアケボノに詰め寄り、魚雷を蹴り、深く食い込ませる

 

島風「まだまだ!」

 

ゼロ距離から放たれた魚雷を交わす手段は存在しない

一方的に魚雷を撃ち込まれ続けるアケボノ、そして立ち技の手を緩めず、仕留めにかかる島風

 

アケボノ(このまま魚雷が炸裂したら流石に死ぬ!)

 

アケボノが島風の顔面を掴み投げ飛ばす

 

島風「…っと」

 

アケボノ「…なかなかやりますね」

 

島風「…え?魚雷は、何処に…」

 

アケボノの背後で魚雷が炸裂する

 

島風(いつ抜いて…いや、それより!)

 

アケボノ「私の素の速力はあなたには遠く及びませんが…」

 

爆発を背中に受けたアケボノが読んで字の如く爆発的に加速する

 

島風(ヤバ…)

 

アケボノ「潰します」

 

攻守が一気に入れ替わる

攻め続けるアケボノと逃げの一手の島風

 

しかし、島風は攻め気の強いタイプだったのに…

 

キタカミ(上手く直撃を流れ続けてる、それにあの感じ、近くからだとわかりにくいだろうけど、近いからこそ生まれる下半身の死角をつこうとしてる、また魚雷か…でも、弱点がバレてる以上…逃げきれないだろうし)

 

島風の弱点、それは前方にしか加速できないこと

過去に天龍や朧がソレをついて攻略している、一度近付いて仕舞えば、正面からの戦闘で圧倒して仕舞えば…

あんなに速くて厄介な島風が戦いやすい相手へと変わる

 

島風(今、背を向けたら潰される!)

 

キタカミ(さあ、これからが腕の見せ所だね)

 

島風の行動は意外にも早かった

連装砲達のうちの一体が爆雷を島風に向けて撃ち込む

アケボノはその爆雷に気づくが自分にあたるコースでないことを認識するとソレへの関心を失う

 

アケボノ(…低いし逸れてる…私には当たらない…操作ミスか、なら)

 

…それが巧い

 

キタカミ(防げるのに、防がない選択をさせた)

 

島風(この盤面で私がミスなんか…)

 

島風「しませんよ!!」

 

爆雷を蹴り上げ、アケボノの腹部に直撃させる

 

アケボノ「ぐ…!?」

 

そして島風の離脱と同時に爆発…

 

キタカミ(いいね、アケボノめちゃくちゃ嫌な立ち回りされてるじゃん)

 

ここで評価したいのは無駄な追撃をせず、距離を取る判断をしたところ

前までの島風ならここで勝ちまで突っ走ってカウンターの流れからの負けのパターンがあった、島風にとっても肉薄した状況は好機

しかしその状況を相手が得意としていたら逆にとことんまで追い詰められる

 

離れた時の有効だのなさからやむを得ず近づいていた節もあったのに…これはまだ遠距離の有効策を持っている証

 

キタカミ(うんうん、成長してるねぇ…)

 

島風(この距離なら…いける!!)

 

アケボノから背を向けて逃げ続けていた島風が突如飛び上がり、振り返る

 

アケボノ(来るか!)

 

島風(…こっちに集中してるからこそ、勝ち目がある!)

 

振り返りながら飛び上がった勢いと、その際の回転を利用した右足での回し蹴りが空を切る

右足の魚雷発射管から魚雷が全て射出される

 

アケボノ(またこれか!いや……)

 

キタカミ(…アケボノ、構えを解いた?)

 

防御姿勢でも、回避行動でもなく、ただの棒立ち、そして一歩体を逸らし、何かをかわす素振り

 

キタカミ(…ああ、終わったか)

 

島風(ば、バレてる…!)

 

アケボノ「……ワイヤーは危険でしょう」

 

…連装砲達にワイヤーを装備させていたのか

 

島風が1人距離を取り、派手な動きで注意を惹く

そしてその間に連装砲達から伸びるワイヤーがアケボノを巻くなり締め上げるなり切断するなり…

つまり本体を囮にした作戦だったわけだ

 

アケボノが魚雷を蹴る

へし折れた魚雷か炸裂し、特大の水飛沫をあげる

 

アケボノ「…しかも勝手に火薬増やしてますよね、これ…さっきのとも違うし…ふむ……あの力無しでは厄介なことは認めましょう、一応作戦をここまで作りながら戦ったことに関しては評価します」

 

キタカミ(あー、長いやつだ)

 

アケボノ「しかし資材を勝手に使った改造は禁止されています、ちゃんと報告書を出した上で…」

 

キタカミ「はいストーップ、評価するのは私、アンタはしなくていい、あるのは勝ちか負けだけ」

 

アケボノ「……なら、これはどちらの勝ちですか」

 

キタカミ「無論あんたさね、島風への説教は置いといて、アケボノの勝ち」

 

島風「わ、私ほとんどくらってないのに…」

 

キタカミ「作戦全部潰されてるんだから、これ以上やってもどっちか怪我するしね、これ演習だよ?」

 

島風「うう…Wi-Fi…有線…」

 

キタカミ「心配しなくてもつけてあげるから、元々設置予定だったし」

 

島風「え?じゃあさっきの条件は?」

 

キタカミ「やる気出してもらうために決まってんでしょーが」

 

島風(つ、つられた…)

 

キタカミ「でも島風も速さ頼りでありながらも搦手ができてるね、これなら前より戦える、良い結果だし…うん、今後も頑張る様に」

 

島風「はーい…」

 

キタカミ「…ふぇっ……ふえっくしゅん!!…あー…風邪悪化してきた…」

 

アケボノ「無理するからでしょう」

 

キタカミ「はやく確かめたかったんだよ…それよりアケボノ、アンタにもご褒美あげる」

 

アケボノ「ご褒美?…欲しいものなんてありませんが」

 

キタカミ「いや、一個だけあるね、と言うか私が無理だからなんだけど」

 

 

 

 

 

執務室

 

キタカミ「んじゃ、そう言うことで」

 

アケボノ「待って」

 

キタカミ「…何よ、あとは若いお二人でどうぞごゆっくり」

 

海斗「えーと…キタカミ?」

 

キタカミ「いいっていいって!みなまで言わなくても!そんなにお礼したいなら本土のいいレストラン予約しといてくれればいいから!」

 

アケボノ「…いや、そうじゃなくてですね…なんなんですかこれは」

 

キタカミ「…秘書艦の仕事できないから代理任せるだけだけど?アケボノが辞めて以来空席のね」

 

アケボノ「まだ辞めて2日ですが」

 

海斗「それに、秘書艦にキタカミを指名した覚えはないけど…」

 

アケボノ「え…じゃあ代理も何もないじゃないですか」

 

キタカミ「あはー、ま、そう言うことだから、晩御飯まで動いちゃダメだよ」

 

アケボノ「……そうです、それについても…何故この形になったのか」

 

キタカミ「…ほら、喧嘩した後はスキンシップしたらいいってよく言うでしょ、いいねえ、距離感近くて!どうよアケボノ、提督の膝の上は」

 

アケボノ「…すみません、すぐ降ります」

 

提督用椅子に杖が突き刺さる

 

アケボノ「…な…」

 

海斗「……え?」

 

キタカミ「あ、ごめんごめん、もし勝手に降りたら、ドタマ突き刺すよ?…おーい!不知火!阿武隈!」

 

アケボノ「え、ちょっ」

 

不知火と阿武隈を呼び出す

 

阿武隈「…な、何ですかこの状況」

 

不知火「…ここの提督と秘書艦はそう言う関係なのですね」

 

海斗「いや、そう言うわけじゃ…」

 

阿武隈(あの杖を見てそういえるなんて、不知火さん鈍いなぁ…明らかに脅してる…)

 

キタカミ「もし、アケボノが膝から降りたら容赦なく撃っていいよ」

 

阿武隈「へ!?」

 

不知火「う、撃つんですか?」

 

キタカミ「ん、どうせレ級の耐久力あるから死なないって」

 

アケボノ「それはそうですが、提督に誤射したらどうするつもりですか」

 

キタカミ「ウチの愛弟子が外すわけないでしょーが」

 

そこだけは自信がある

 

アケボノ「…御手洗いは」

 

キタカミ「その時だけ降りていいけど戻って座りなよ」

 

アケボノ(…待って、今思い出したけど私へのご褒美ですよねこれ、なんで半分嫌がらせみたいな内容なんですか…提督への迷惑になることはしたくないのに…)

 

キタカミ「じゃ、楽しんで」

 

アケボノ「どう楽しめと…」

 

 

 

 

 

駆逐艦 アケボノ

 

アケボノ「本当に、このまま仕事するんですか」

 

海斗「まあ…仕事には関係ないし、それに…なんていうか、キタカミは制御が効かないところあるから…」

 

提督も匙を投げた…

 

つまり、この2人に見張られたまま私は辱めを受け続けるのか

 

不知火「どうぞお気になさらず」

 

阿武隈(あたしは壁あたしは壁あたしは壁…殴られたくない…!)

 

アケボノ「……申し訳ありません、提督…この様なことに巻き込みまして…」

 

海斗「…いや、僕としてはありがたいかな」

 

アケボノ「…ありがたい?」

 

海斗「キタカミは多分、アケボノと話をさせる機会を作りたかったんだよ、きっとだけどね」

 

…あの相談した時に、もうこの作戦は組まれていたのかもしれないな…

 

アケボノ「…話、ですか」

 

海斗「うん、僕もアケボノとちゃんと話せる時間が欲しかったんだ」

 

…話す、か、何を話すのか…でも

こうして見ると、不思議だ

 

ちゃんと暖かく感じられる

私にとって、機械の様な存在であった提督が、ちゃんと人として感じられる

恐怖の対象と一緒にいるのに、何処か安らぐ

 

アケボノ(…キタカミさんが何処まで想定済みかは知りません…が、成る程、これはご褒美になるのか)

 

…まず間違いなく、私の中にあった不安が一つ、薄れていっている

 

海斗「だから、僕もアケボノを……あれ?」

 

…暖かいな…本当に

 

阿武隈「…寝てる?」

 

不知火「毛布を持ってきます」

 

海斗「うん、お願い」

 

阿武隈「…アケボノさんが眠るなんて…珍しいですね…」

 

海斗「きっと、色々考え込んで眠れなかったんだと思う……アケボノは少し考えすぎるところがあるから…」

 

不知火「失礼します」

 

阿武隈「…提督も休まれますか?」

 

海斗「いや、仕事を済ませちゃうよ、でも起こさない様にしないと」

 

アケボノ「…すぅ……くぅ…」

 

本当に、暖かい

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