元勇者提督   作:無し

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理想の為

???

駆逐艦 東雲

 

東雲「…はー…断崖絶壁か…」

 

真下は海、そして周囲に島はなし…

外周ぐるりと回るのも考えてるけど、食糧がある地帯を離れたくない

 

東雲(果物だけじゃなくキノコもある、水場に行けばカエルがいる…ヤモリやイモリよりはマシ…虫よりもマシ…)

 

目頭を摘む

前に拠点にしていた島では油の抽出までは成功していた、つまり揚げ物もできたし、ソテーもできた

しかしまたゼロからのスタートだ、しかも今回は艤装がない

 

そう、艤装がなければ…ワープ先が海だった場合詰む

 

東雲(というか、現在地がわからないとあんな中にでも飛ぶんじゃ…下手すれば活火山の中?…どのみち終わってるな……暖かいものが食べたい)

 

くるると鳴る腹の音を聞くほどにお腹が空く

 

東雲(…焼き魚…いや、うーん……ん…?)

 

砲撃の音…戦闘音

 

東雲(艦娘だ…ここからかなり遠いけど、戦闘してる!)

 

少なくとも所属国くらいはわかるだろう、これは僥倖だ

足場に気をつけながらゆっくりゆっくりと島を歩き続ける

 

東雲(…終わった?砲音が止んだ……一瞬で決着がついたのかな…いや、また…何かが炸裂した音…というか、これ島の真反対では……山登ったほうが早いんじゃ…)

 

…山を登るのは時間もかかるし、疲れるので…やはり却下とする

 

といっても、外周をまわるほうが時間はかかりそうだ

思っていた以上にこの島は大きいらしい

 

東雲「あ!…い、今…クマが…」  

 

野生のクマ…といっても子熊だが…

これは危ない、子熊がいるということは親熊もいる

下手に手を出せば襲われる…

 

東雲(どうしよう…でも、野生動物がいるなら…お肉……)

 

東雲「…はっ」

 

…また腹の音が私を急かす

ここをいつ出られるかはわからない、何なら遭難者として船に拾って欲しいくらいなのに…

でも、今のご時世動いてる船は全て軍艦、そしておそらく私の顔は割れてるから…良い思いはしないだろう

 

今わかってるのは太陽の方角から北半球にいることだけ、北極星も見つけたが…役には立たない

 

東雲「…ちょっと眠ろう…」

 

良い感じの日の当たる木に寄りかかり、休む

 

東雲(……今は体力は温存…)

 

 

数時間後

 

 

東雲「…ん……夜か…起きなきゃ」

 

枯れ木の枝に火をつける

 

東雲「あったかい……松の木…ありませんかね…流石に…でもアケビがあったし…」

 

石ころが足に当たる

 

東雲(軽い…?)

 

東雲「あ、松ぼっくり…!」

 

つまり、松の木がある…

 

 

 

東雲「本当に、ラッキーとしか言いようがありませんね…松ヤニが手に入ったから松明もできたし…」

 

布の代わりに蔓植物を編んで作った布もどきを燃やしているが、これは正直気休めにしかならない

 

でも、松明ができたのは本当にありがたい…この冬の時期は本当に寒い

着の身着のままの私としては暖を取れる手段は本当にありがたい

 

東雲「あー……」

 

暖かい…

 

しかし欲望を満たせば新たな欲望が出てくるのが人間の面倒な所だ

 

ポケットに入れていた山葡萄を口に含む

 

東雲(美味しいんだけど、物足りない…)

 

…何だかお米やパンが食べたくなってきた…

そういえば、この前リシュリューさんが焼いていたバゲット、食べたかったな…

ザラさんは分けてもらったら軽く焼いて、ニンニクをこすりつけて、アンチョビとトマトとチーズを乗せたブルスケッタにするって言っていた

 

東雲「……いいな…」

 

何だか、お腹が減りすぎて匂いがしてきた様な気がする

待機中のチリが焼ける匂いだろうが…異様に良い匂いがしてる様な…

 

東雲「ああもう、お腹に毒です!」

 

松明を消して再び寝る事を選んだ

 

 

 

 

数時間後

 

東雲「……う…」

 

きっと今の私の顔は酷いものだろうな

空腹が限界に達している感覚

 

別に死ぬわけでは無いが、たまに来る死ぬほどお腹が減っている、という感覚

 

東雲(…ああもう、ここにいる意味を思い出しなさい、私の役目は?……ここの位置さえわかればさっさと転移するのに…)

 

東雲「…え?」

 

…とんでもないものを見てしまった

ここは…そうか

 

東雲「……じゃあ、もうここに用はありませんね」

 

後ろ髪を引く想いが無いわけではないが

 

ここに用はない

カートリッジを起動し、転移する

 

目指すはアメリカ、本丸に…

 

 

 

 

敷波「…綾姉ぇ?」

 

アヤナミ「呼びましたか?」

 

敷波「……ううん、それより昨日上がってた煙の調査、急ご」

 

 

 

 

 

 

サイバーコネクトサンディエゴ社 会長室

 

東雲「ふぅ……良い椅子ですね?会長さん」

 

ヴェロニカ「…どうやってここに」

 

東雲「いやー、的確だ、正確に椅子の上に転移できてよかった…間取りやインテリアの配置は知らないので予測して、転移したんですよ?」

 

ヴェロニカ「質問の答えになってないわ」

 

東雲「誰も答えるなどといっていません、さあ、辞世の句を詠む時間は差し上げますよ」

 

ヴェロニカ「結構、殺すつもりで来たのね」

 

東雲「…まあ、話し合いのできる相手なのかによりますが」

 

軽く手を挙げる

周囲の椅子やテーブルが入り口へと飛んでいき、扉を固める

 

ヴェロニカ「…超能力か何か?」

 

東雲「そんなとこです、さあ、助けは来ませんよ」

 

ヴェロニカ「……あなた、死にたいんですって?」

 

東雲「…ええ、それが何か?」

 

ヴェロニカ「…安楽死、って知ってるかしら」

 

東雲「命乞いの仕方が下手ですねえ…」

 

ヴェロニカ「命乞い?…これは慈悲よ」

 

東雲「…はっ、ふざけた事を」

 

ヴェロニカ「…まあ良いわ、なら、お仕事の話といきましょう?」

 

東雲「なんですって?」

 

ヴェロニカ「貴方の理想に近い…最高のプランを用意したわ」

 

東雲「理想?…私の理想をなぜ貴方が語る」

 

ヴェロニカ「お互いのために、働いてみない?」

 

東雲「……馬鹿にするのも良い加減にしていただきたい」

 

ヴェロニカ「貴方を評価しているの、私はただ…ゲームがしたいだけよ、このゲームのルールは簡単、最強の魔王を倒せば終わりのゲーム…」

 

東雲「!」

 

東雲(そういうことか…何と悪趣味で、私の理想に近い事を…)

 

ヴェロニカ「理解してもらえたみたいね、魔王様?」

 

東雲「……人類共通の敵を前に、人類は団結できるのか…私の手で人類が滅ぼされるのが先か…なるほど茶番だ」

 

東雲(だけど…私という魔王の元に、世界が団結するのだとしたら?逆に深海棲艦を淘汰して仕舞えば、私1人による恐怖に立ち向かうという構図さえ作れば…犠牲者はほぼ出ない)

 

あくまでこれはうまくいった仮定の話…

でも、これは…

 

ヴェロニカ「私は貴方に"森"の全権を与えるわ、どう?」

 

東雲「……」

 

…悩んでしまっている

 

東雲(正直、こんなに良いカードを切ってくるとは思わなかった…そう、この話のミソは私1人を犠牲にすれば世界平和が手に入るかもしれないという点、森の力を使えば深海棲艦を5秒で消し去ることもできる…)

 

だけど、森に繋がれた人たちは2度と生き返ることは無いだろう

 

森、黒い森は…人間の脳の保管施設

いや、実態は…人間の脳を使ったコンピューターの運用施設

 

現在の最新鋭のスーパーコンピューターの何倍もの速度を叩き出す、最高の電卓というわけだ

 

東雲「何故です」

 

ヴェロニカ「何故?」

 

東雲「何故私なんですか、何故…私に」

 

ヴェロニカ「誰よりも才能を持っていた、まさに天才だからよ、貴方の才能の果てを見たい」

 

東雲(…笑わせる)

 

東雲「私はポーンではない、キングだ」

 

ヴェロニカ「それで構わないわ」

 

東雲(…私の理想、か)

 

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府

秘書艦 アケボノ

 

アケボノ「ん……?」

 

暖かい…もう、朝かな…いや…

 

普段とは違う、カタカタという音が響いている…

 

ゆっくりと目を開く

目の前にはパソコンの画面

画面いっぱいに映ったゲームの中の映像

 

それはとても…現実の世界とはかけ離れたファンタジーだ

なのに、この中にあるのはまやかしなのに…

 

アケボノ(…これは…)

 

楽しそうに見えた

 

ふと、見上げる

 

アケボノ「!」

 

すぐ真上にディスプレイデバイスを装着した提督の顔がある…何故?

そうだ、キタカミさんに変なルールを…

 

いや、それより私は提督の膝の上で寝ていたのか?なんて事だ…

 

アケボノ(早く降りよう)

 

体を動かし、降りようとする

 

海斗「あれ?危ない」

 

降りようとした所を提督に抱き止められる

 

海斗「…寝返りをうとうとしたのかな…落ちなくてよかった…」

 

提督は私が起きている事に気づいていないらしい

…いや、もう起きていますと言えば…

 

…何となく、言えなかった

 

アケボノ(…せっかくだし、もう少し、このままいてみよう)

 

特に何があるわけでもない、試しというだけだ

 

提督は私が動かないのを確認してゲームを再開する

キーボードでチャットを打ちながらコントローラーに持ち替えて戦闘をこなす

 

アケボノ(…すごく、不思議だ)

 

…ゲームの中の提督は、イキイキして見える

 

何が違うのか、カイトで居られるのが楽しいのか

それとも…

 

アケボノ(表情は見えないけど…チャット文から、気持ちが伝わってくる様な気がする)

 

…私が見えていなかった提督は、ここにいたのか

 

ようやく見つけられた…やっと安心できた…

 

ふと見上げる

 

アケボノ(…マイク、ついてるのに…喋ってないのは私への気遣いか)

 

気を遣われるのはあまり好きではない

 

アケボノ(…おや、戦闘か)

 

激しくモンスターと斬り合ってる様子が画面に映される

 

…きっとこのモニターと、提督の見ている光景は同じなんだ

そう思えるとモニターの中の光景がひときわ輝いて見える

 

海斗「う……ぁ…」

 

アケボノ(…かなり真剣なご様子…見張りの阿武隈さん達は…多分部屋の前か、なら今のうちに降りて…)

 

海斗「!」

 

アケボノ「……」

 

今、体を動かそうとしたのに反応したのか片手がこちらに差し向けられた…

 

アケボノ(かなり気遣われてるな…だめだ、降りようとしたら邪魔になる…仕方ない、ゲームが終わるまで待っていましょう)

 

 

 

 

 

いろんな光景が見られた

巨大生物の体内を探索したり、平原を駆け回ったり

 

モンスターに追われたり、お宝を見つけて喜んだり

 

これも正しい形なのだろう

 

だけど、提督の表情は窺える限りでも明るくは無い

 

未帰還者を助けられていない今を憂いておられる

 

アケボノ(…だからこそ、私が力になりたいのに…)

 

アケボノ「……っ…」

 

ここに座ってからもう何時間になるか

流石にそろそろ、一度ここを離れたい

 

至急離れたいのだが…

 

アケボノ(そっと降りれば…)

 

戦闘に熱中してるうちに…

 

海斗「あ…よし」

 

よしではない、私を片腕で抱きとめ、拘束された…

これでは降りられないではないか

それともこの腕の中で果てろとでもいうのか

 

私は今すぐに離れなくてはならないのに

 

アケボノ(…どうする?いや、まあ普通に伝えて降りれば…)

 

画面が喧しく点滅する

チラリと目線をやると…

 

アケボノ(な、なんだこのモンスター…まさか、危険なウイルスモンスターじゃ…)

 

キルされたら意識不明…

それが頭をよぎる

 

アケボノ(わ、私は…私はただ耐えることしかできない?)

 

…耐久戦が始まった…

どれくらい耐えられるのか

 

 

 

 

 

 

30分後

 

海斗「…終わった…」

 

提督がディスプレイを外したのを確認し、即座に飛び降りる

 

海斗「あ、あれ?アケボノ、起きて……行っちゃった」

 

 

 

アケボノ(…耐え切った…)

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