元勇者提督 作:無し
某所
駆逐艦 東雲
パソコンを起動し、ビデオ通話を繋ぐ
東雲「ハロー?ご機嫌はいかがですか」
ヴェロニカ『なぜこちらに直接出向かずビデオ通話なんか…』
東雲「こうしておいた方がお互い楽ですし、ヘルバさんもこの瞬間に何万とあるチャットルームからここを割り出すのは難しい…如何に伝説のスーパーハッカーといえど、見つけられなければセキュリティに触れることすらできない」
ヴェロニカ『…それで?』
東雲「それではこちらです、代理と合わせる話はどこに行きました」
ヴェロニカ『…手配はするけど、向こうがタイミングを決める』
東雲「…仕方ない、なら…とりあえず今日はここまでにしておきます、もう用事はなくなりましたし」
ヴェロニカ『どうするつもり?』
東雲「佐世保に行きます…1人、始末しておきたい人がいまして…いや、味方に引き込む方がいいかな」
ヴェロニカ『あなたが評価した実力者なら歓迎だけど』
東雲「実力云々のレベルじゃありませんよ、瑞鶴さんは…あの能力は厄介ですからねぇ…霧に回復、最初に殺すもよし、味方に引き込むもよし…さて、行きますか」
ビデオ通話を切断する
神通「佐世保ですか」
東雲「いいえ、今日瑞鶴さんは横須賀に行くことになっています」
神通「…横須賀?」
東雲「次回西方海域出撃について、佐世保への依頼があったんですよ、瑞鶴さんはヒーラーとしても幻術使いとしても、一級品です」
コトリと薬瓶を机におく
神通「それは」
東雲「簡単に言えば、碑文の力を逆手に取る薬です…これを呑んだら瑞鶴さんは自身の蜃気楼に囚われ、自我を奪われる」
神通「自我を奪われる?」
東雲「この薬の効果は脳の働きを活性化させるもの、そしてナノマシンを暴走させる物でもある…碑文の力をリアルに顕現する際、皆さんは依代としてナノマシンを使う……神通さんはナノマシンをAIDAで産み出してしまいましたが」
神通(…私のナノマシン?)
東雲「わかってなかったんですか?あなたの細胞はAIDAに感染した事でナノマシンに変質してしまったんです、生きたナノマシン、レアですよ……さて、暴走した碑文の力、例えばあなたに使えば……無限の増殖を引き起こすでしょうね」
神通「この世を埋め尽くすほど私が?」
東雲「正確には増えたあなたの細胞です、肉塊が世界を埋め尽くし、露出した神経が常に痛むでしょう、更に言えば無防備な肉体を晒しているので病気にも罹りやすくなる…死んでもおかしくないのに死ねない…地獄の苦しみです」
神通「地獄…か」
東雲「興味を惹かれないでください、とりあえず、これでイニスを暴走させれば自身を含めた周囲を蜃気楼で覆い、完全に自我を失うでしょう…」
神通「コントロールできるんですか」
東雲「無理ですね、通常の手段では」
神通「アテはあると」
東雲「…ええ、私の言うことだけを聞くようにします」
横須賀鎮守府
神通「居ます、佐世保の人達が…かなり」
東雲「……情報と違う、半分以上の人たちが来ていますね…そうなると、めんどくさいな…見られない方がマシか」
仮面を被り、黒い衣服で全身を包む
神通「…私もそれを着るんですか」
東雲「ええ、お願いします、それと…これをこうして…」
神通「……上から着てるのは…制服?」
東雲「在中警備員の物です、こうすれば色々偽装しやすい、顔もこういう変装マスクがあるんですよ」
神通「……どうですか」
東雲「喋らなければバレないでしょう、あとはこれを…」
小瓶の中身を飲み干す
東雲「んんっ…あー、あー」
神通「……随分と低くなりましたね、男性のようです」
東雲「ちゃんと効いたか…あまり長くは持ちません、急ぎますよ」
神通「私の分は」
東雲「ありません、喋らなければ問題ない」
神通「思ったより、バレないものですね」
東雲「巡回する予定の警備員2人が居ませんからね、歩き回ってもバレないでしょう」
神通「…消したんですか」
東雲「いいえ、その2人に上司を偽ってシフト変更を伝えておきました」
神通「…そうですか」
東雲「引かないでくださいよ…平和的な素晴らしい手段でしょう?…お、あったあった」
一つの扉を開け、ガス缶を投げ込む
神通「…30秒経過」
東雲「よし、いやー、誰も居ないか、無駄遣いしちゃったなあ…でも、ここは見ておきたかったんです、作戦資料室」
横須賀はアナログな部分が多い
この作戦資料室、データ類も未だに紙の報告書だらけだ
東雲「火野提督の嗜好でしてね、他所から来た資料を全て紙にしてここに並べるんですよ、私みたいなハッカーに対する対策として」
神通「……そうですか」
東雲「実に有効だし、優秀な方だ……これですね」
迷いなくデータを閲覧する
東雲「…やはり、下がっている」
命中率などのデータだ
一人一人のデータをじっくり見定める
わかりやすい話、仮面の敵、つまりほとんど人のような動きをする敵に対して…艦娘は攻撃的になれない
冷静に戦えないのだ
化け物との戦いに躊躇する者は少なく、よほど腕が立たない限り戦場に立つことは無い
しかし、人と戦うとなれば話が変わる
東雲「深海棲艦にも人型のものはたくさん居ます、しかし…アレはあまりにも異質だ、まるで人のように動く、互いを庇う事もあれば、見極めて、見捨てる事もある…人にしか見えないのですよ、アレは」
神通「……」
さて、頭ではバケモノだ…そう理解できる人型深海棲艦
それに対し、頭ですら理解できない仮面の敵
あの仮面の下は?もし撃って血が噴き出したら?
…怖い
そういう感情に支配されたら…もうダメ
東雲(悪趣味ながら、有効だ、ここにいるのはみんな化け物と戦うことだけを考えている、急に人と殺し合えと言われても対応はできない)
東雲「…おや」
神通「……予定と違いますよ」
この空気の変質
私の予定にはなかったが…何かが起きることは明白
東雲「化学反応、といったところか……まあ良い、神通さん、物陰に」
神通「……」
神通さんか隠れたと同時に扉が開く
大淀「……警備員?」
東雲「はっ!この部屋から白い煙が出ているのを確認し、原因を確認していた次第です、この空き缶と机に置かれている資料から侵入者と思われます!」
大淀「なんてタイミング…!すぐに本部に連絡を!こちら大淀!侵入者の形跡があります!急いで人を集めて!」
大淀さんが走って出て行く
神通「…この部屋を調べないのですね、ここが1番怪しいはずなのに」
東雲「あの人は戦闘は好きではありません、それに警備員の事なんてどうでも良いんでしょう…簡単に言えば、もしここに侵入者がいれば警備員とやり合うことになる、それを確認して敵の量と武器の種類などを調べたいんです」
冷血なことだが、被害を減らす為の生贄といったところか
東雲「その判断を即座にするセンスは好きですよ」
神通「どうします」
東雲「……日向さんと龍田さんを落としましょう、瑞鶴さんを取るにはそこが邪魔です」
神通「任せてください」
神通さんが部屋を出る
東雲「……さて、面倒な事をしてくれましたね、流石に深海棲艦一匹も見逃さないというのは無理難題、あの装置を持っている敵は…どこにいるのやら」
この空間の変質
仮面の敵に、実態を与えることもできるあの感覚
東雲(…今居られると、邪魔だな)
扉を開き、廊下を走り、外へと
東雲「…あははっ」
阿鼻叫喚
仮面の敵だらけではないか
しかも、どれも帯刀していたり、特殊な動きをして見せたり
東雲「これはテスト、か」
あの帯刀しているのはガングートさん、そのとなりはタシュケントさん
朧さんの動きをしているやつは居ないが、Linkメンバーで固めてきた
私を試すというのなら、覚悟しなくてはならない
東雲(…しかし、あの動き、今ひとつか……ん?)
あそこで戦っているのは電さんか…
しかし、たった1人?…ちょうどで払っていたのか、タイミングが悪かったのだろうな
東雲(…!)
鋭い光が電さんを包む
その閃光が消えたときには、電さんの姿はどこにもなかった
東雲「あれは、私がやったのと同じ……」
…意図が読みきれない、何でそんなことをした?
何が目的だ…?
考えるために立ち止まり、じっと考える
飛んできた砲弾が頬や太腿を掠める
マスクが大きく裂ける
東雲「チッ……先に始末してあげましょうか…見つけた」
腰から警棒を取り出し、振るって伸ばす
東雲「ふんっ」
警棒を振りかぶって投げる
鈍い金属音が響く
遠くにいる深海棲艦の持っている機械に警棒が突き刺さる
東雲「…当たったかな」
ホルスターから拳銃を引き抜き、ガングートさんの動きをした敵の脚を撃つ
体勢を崩した…かのように、消滅した
東雲「あら、あらららら…」
それを見た途端、他の敵が逃げ出し始める
東雲「邪魔するからですよ…」
奴らは完全に密閉されていないと存在できない
あの衣装は完全に密封されているから何とか存在を維持できる
そして、それに穴が空いた時のための空間を遮断するような…ある種の結界
東雲(面白い)
使ってみたい
軽巡洋艦 神通
日向「深海棲艦はどこに…!?」
龍田「居ないわね〜」
駆けて行く2人を上から眺める
神通(……まずは、日向さんか)
飛び降り、踏みつけるつもりで真上に…
日向「ッ!!」
神通「!」
刀が靴底にぶつかり、火花を散らす
弾き飛ばされ、空中で回転しながら着地する
神通「……」
日向「警備員!?…いや、何か違う…!」
龍田「人に化けた…深海棲艦かも」
龍田さんが差し向けた槍を蹴る
龍田(この重い感触…覚えがある)
龍田さんがじっ…と睨みつけてくる
神通(バレるのはまずいかも知れませんが、最早手遅れ…)
龍田(えっ…いつの間に目の前に…)
踏み込み、頭を狙ったハイキック…
日向「はッ!!」
それを刀が止める
日向「ぼさっとしてはいけません!…どうやら相手の方が格が上に見える」
龍田「2人の力が合わされば、格下になるわ」
刀と槍…2人とも武器を持っているせいでリーチが長い
神通(…でも、刀の距離なら)
一切の油断もない
的確に踏み込み、蹴りでいなし、大きく動き、徹底して槍と刀相手に立ち回る
日向(なんて踏み込みの速度…!それに、一撃が小技のように速いのに、重い!)
龍田(ここまで一瞬で肉薄されたら、槍は…!)
神通(この距離なら、槍は役に立たない…!)
そう、槍は槍の射程が、刀は刀の射程がある
そして今私が居るのは…格闘戦の、私の脚の射程だ
神通(…いいですね、槍は…しかし、あなたには、もったいない)
龍田さんの腕を膝蹴りで捉える
龍田「いっ…!?」
手の力が緩んだ瞬間を見定め、回し蹴りで槍を弾き飛ばす
蹴りに使った脚が地についた瞬間、軸足を入れ替えもう一撃
次は頭、意識を刈り取る
日向「龍田!」
間髪入れずに蹴り込む、一切の容赦なく、蹴りで圧倒する
日向(武器がある分こちらの方が有利なはずなのに…!)
神通(本当に、いう通りか)
人との戦いを嫌い、恐れているのがわかる
あの日向さんであれ、人との戦いに迷いがある
地を蹴り、跳び上がる
こんな隙だらけな両足でのドロップキックすらも
斬り伏せるか撃てば容易に返せる攻撃すらも
日向「が…ぐ…っ……!」
神通「……」
弱い
私よりも弱い、そして前よりも弱い
神通(…これでは、楽しくはない……)
楽しみは求めてはいないが、戦闘の高揚感すらない
弱った敵を狩ることは、面白みに欠ける
神通(…もっと強くなっていて欲しかった)
駆逐艦 東雲
東雲「ああ、いたいた…おあつらえ向きに1人で、待っていてくれたんですか?」
瑞鶴「…やりましょ?相手してあげる」
東雲「その必要はありませんよ、だってさっきの戦いで無線機壊れちゃいましたから…はい、これ」
薬瓶を投げる
瑞鶴「えー、つまんないの…」
瑞鶴さんか中の錠剤を口に放り込む
東雲「苦いですよ」
瑞鶴「おぶっ!?…さ、先に…苦ぁ……うう…」
東雲「さあて、夢の中へご招待、おやすみなさい」
瑞鶴さんが膝を突き、倒れる
東雲「……怖いくらいに予定通りだ、全て上手くいっていますよ……さあ、倉持司令官、貴方はそちらの戦いに集中していてください」
瑞鶴さんを抱き起す
東雲「リアルの世界は、私が……なんとかして見せますから」