元勇者提督 作:無し
横須賀鎮守府
青葉
青葉「…めちゃくちゃ心配して来たのに…朝一番の新幹線の席買って、とにかく急いでここまで来たのに…」
衣笠「ま、まあ、ほんとに大変だったんだよ?というか今も大変、電ちゃんいなくなったし…」
アオバ「それに、ほら、片腕持っていかれてるし…」
青葉「それは前の話でしょ…!」
アオバ「あはは、ナイスツッコミ……はい、ごめんなさい」
睨みつけていたらいつの間にかしおらしくなる姉を横目に衣笠さんに話を聞く
青葉「それで…被害は?」
衣笠「電ちゃんだけ、本当になんの痕跡もなく消えちゃった……でも、監視カメラに微かに映ってた映像だと…」
見せられた映像では、半身しか映っていなかったが…
青葉「………これ!」
微かに光った後、映っていた半身は消えた
衣笠「解析にかけても次のフレームには映ってないの」
アオバ「そう、一瞬光った後…まるで突然消えたかのように…」
青葉「…リアルデジタライズ?…いや、そう考えるのは軽率か…強制的にワープさせる攻撃手段なら綾波さんとかもいるし…」
…でも、ほかにその他の手段が使える人間は?
青葉「…だめだ、やっぱり…」
綾波さんが一番怪しく見える
アオバ「とりあえず、心配して来てくれてありがとうね」
衣笠「ま、みんな居る人は元気だから」
青葉「…あれ?待って……なんで横須賀なの?」
そう、横須賀鎮守府は…堅い防衛ラインの内側にある
そもそもの話、狙うなら離島鎮守府が一番楽だし、あそこを叩いて機能を奪えれば全てを停滞させられる
実力者も多い離島鎮守府が一番の狙い目のはず…
たとえ本部が横須賀鎮守府だったとしても、それだけで最優先になる理由とは言い難い…
青葉(横須賀鎮守府が狙われた理由が…わからない…それに、どうやって横須賀まで来られたのかも…!)
単純では無い
もちろん分かってはいたけど、これは思っていた以上に練られた何かである可能性が高い
青葉「…敵の編成とかって」
アオバ「それが、ほとんど例の仮面の敵だったんだよね…というかこれに対する呼称の仕方…聞いた話だけど、海外ではイミテーションとか、マスクマンとか、変な名前つけられてるみたいだし」
衣笠「でも、あの仮面の敵達がここまで侵攻して来たのは初めてだよね」
アオバ「人型のがチョロチョロされたらキツイよぉ…」
青葉「…ほんとに、気をつけてね」
アオバ「…もちろん」
衣笠「衣笠さん達にお任せ!」
青葉「…あ、こんな時間だ、行かないと」
アオバ「あれ?!私たちはついでだったのかな!?」
青葉「いや、こっちがついでなんだけど、人と会う約束をしちゃったから」
衣笠「人?」
青葉「うん、じゃあ」
アオバ「また来てね」
東京 下北沢 喫茶店
青葉「本日はわざわざ時間をとっていただいてすみません…それで、貴方が…?」
庄司「はい、私が司のプレイヤーでした、庄司杏です」
青葉(…まさか、女性だったなんて)
The・Worldにおける司さんのエディットは一般的な男の呪紋使い
一人称も僕だったし、てっきり男性だと思っていた
青葉「…あの、私は…11年前の事件について調べてるんです」
庄司「11年前…ですか」
青葉「貴方が、未帰還者になった事件です」
庄司「…誰からそれを」
青葉「……司というPCが"そうなった"と言うことを知っているだけで、それ以上は知りません…だけど、貴方がリアルに戻れていた事も知れて、良かったです」
庄司「それで、何故あの…アレを調べてるんですか」
青葉「ストレートに言えば…私は過去のThe・Worldを調べています、CC社の人間ではありませんが、お手伝いのようなことをしてまして…」
庄司「過去のThe・World…」
青葉「それで…あなたは、あの時、何によって苦しめられていたのか、どうやって抜け出したのかを知りたいんです」
…そう、私がやろうとしているのは、ゲームの攻略本を見るような行為
道を違えぬ為に、正しい道を進む為に
真実を知って導く事…
庄司「……過去のThe・Worldを調べているなら私の口から聞く必要性が分かりかねます」
青葉「…そうですね…では、ここからはなんの根拠もない話なのですが、例えば、過去のThe・Worldにタイムスリップできたとします」
庄司「はあ?」
あまりにも突拍子のない話に庄司さんが素っ頓狂な声をあげる
青葉「…その過去のThe・Worldに、現代からあるプレイヤーがやって来たんです、彼は自身がそうするべきだと考えて行動していますが、大きく過去を変える恐れのある行為を続けています…」
庄司「…バタフライエフェクトを防ぎたい、と」
青葉「はい…現在への影響などは私は知りませんが…」
庄司「まるでタイムパトロールですね」
そう言って庄司さんは小さく笑う
…笑われた、少なくとも、この話を信じてはいないだろう
どうすればいいのか、この攻略本はなかなか開けないらしい
青葉「…そうだ、これ」
携帯を取り出し、たくさんのスクリーンショットを見せる
庄司「R:1の…?」
青葉「そうです、それにこれ、こっちはベアさん、こっちはミミルさん、これは昴さんで、こっちは貴方です」
庄司「……違いますね」
青葉「…へ…?」
違う?…何が違うと言うのだ
私は間違いなく過去の写真を撮ったのに…
庄司「これ、ほら、ここの部分…うん、エディットが違う…昴はこんなに大きい武器は使わないし…でも、ミミルとベア、BTはそのまま…」
どうなって…
何故エディットが違う?何故武器が違う?
庄司「……でも、貴方の言ってる話には納得できました、手を貸してもいいですよ」
青葉「本当ですか…!」
庄司「ただし、条件があります」
青葉「へ?…条件とは…?」
庄司「今言ったことが条件です、呑みますか?」
青葉「…私一人では決めかねます、少し時間をもらえますか」
庄司「どうぞ」
青葉「…では、失礼します」
庄司「ああ、青葉さんでしたっけ」
青葉「…はい?」
庄司さんがこちらに微笑む
ゲームの司とは、まるで違う笑顔…
庄司「こう言う言葉があります、出会いは神の御技、別れは人の仕業…」
青葉「…昴さんの…」
庄司「ああ、知ってましたか…私の大事な友達の言葉です、この出会いを、どうか大切に」
青葉「…わかりました」
庄司「…暫くやってなかったなぁ…The・World」
某所
青葉(…まさか、あんな条件を出されるなんて…The・Worldやってる人はみんな頭のネジ飛んでるのかな…)
携帯でさっさとメールを書き上げ、団長に送信する
青葉「……はぁ…それにしても、どうしようかなあ…あそこには居づらくなっちゃったし…」
別に嫌がらせは受けていない
だけど、Linkの人達は私に不信感を募らせている
後悔しても遅いのだが、実際後悔しかない
青葉(帰るの気まずいなぁ…)
Link基地
駆逐艦 狭霧
グラーフ「狭霧、最近働きすぎじゃないのか」
狭霧「いえいえ、全く足りませんよ、綾波さんのように成果が出ていない」
ガングート「そういう問題じゃないだろう、ずっと仕事をし続けてお前まで倒れては完全にLinkは止まるぞ」
狭霧「そうなったら倉持司令から来るタスクだけをこなしてください」
グラーフ「二式大艇の操縦は」
狭霧「オートパイロット可能である程度のところまではいけます」
タシュケント「…ほんと、綾波とよく似てるよね」
狭霧「元々は同じ存在ですから…」
リシュリュー「ビスマルク、ガングート、手筈通りにね」
ビスマルク「そうね」
ガングート「よし」
2人に両脇を抱えられ、持ち上げられる
狭霧「は!?な、何を…」
ビスマルク「…目元、ひどい事になってるわよ」
ガングート「肌もガッサガサだしな」
リシュリュー「というか、これだけの人数がここに集まってるのに実力行使の可能性を危惧しない時点で判断力の低下に気づきなさい」
グラーフ「規則正しい生活をしなくては仕事もままならんだろう」
持ち上げられては足が地面につかないし、体重がかかるせいで肩が痛い
恥ずかしいし肩が痛いし、嫌になりそうになる
狭霧「…下ろしてください」
リシュリュー「食事にしましょう、それからゆっくりと休みましょう…良い?貴方は疲れてるの、休憩が必要なのよ」
狭霧「そんな暇はありません…!」
グラーフ「…なあ、お前は1人で何を目指しているんだ?綾波の代わりになろうとしているわけじゃないだろう?」
狭霧「……」
…最近、綾波さんの考えていたことがわかるようになってきた
きっと今の綾波さんは、どこかで私たちを心配してるんだろう
きっと未だに戦うことをやめてはいないのだろう
…私に力があったのなら、私もそうしているから
私は弱い
私は…強くない
…だから、みんなを守るための手段を、最大限…色んなことをして、綾波さんが残したみんなを守ることだけを考えて…
今も戦ってるんだ
形のない敵と、見えない敵と…
朧「ビスマルク、ガングート、狭霧を離して」
リシュリュー「…朧、どういうつもり」
ビスマルク「まだ働かせるの?」
朧「違うよ、狭霧はアタシたちじゃ止められない…だから、止められる人間に会いに行く」
朧さんが私の前に立つ
朧「狭霧、姉妹に会いに行こう」
狭霧「姉妹…?」
朧「狭霧の、姉妹だよ」
離島鎮守府
ここまで来るのに二時間半
空路で最速で飛ばしてもこれだけかかるか
でも、二式大艇の操縦はいい気分転換になった気がする
ガングート「…ここに来るのは久しいな」
タシュケント「チラッと寄っただけだよね」
狭霧「…急に大所帯でお邪魔して良いものでしょうか」
朧「大丈夫、先に連絡してあるから…行こう?」
朧さんに手を引かれ、鎮守府へと歩く
好奇の視線を感じながら、多少の不愉快さを噛み殺して…
食堂
朧「や、アヤナミ」
アヤナミ「ご無沙汰しています」
ガングート「綾波か!?」
リシュリュー「ここにいたの…!?」
狭霧「違いますよ、前に説明したでしょう」
タシュケント「オリジナル、か」
…両目のある綾波、それがオリジナルの証…とでも言うべきか
今となってはクローンの私も綾波さんも片目を失っている
アヤナミ「そうですね、私は貴方たちの求めてる綾波とは違う存在です…でも、あなた達のことは良く知っていますよ」
グラーフ「ほう?」
アヤナミ「グラーフさんは根っからのコーヒー好きで過去に綾ちゃんのコーヒーコレクションを勝手に触って怒られましたよね、それからガングートさんの料理の苦手っぷりは見るに耐えないとか」
グラーフ「…なんでそんなことを」
アヤナミ「狭霧ちゃんが色々教えてくれましたから、時々メールをくれるんです」
狭霧「ええ…でも、こうやって会うのは…2回目ですけどね…」
アヤナミ「…狭霧ちゃん、おいで?」
アヤナミさんが手招きする
何も言わず、近づく
狭霧「!」
抱き寄せられる
力が入らなくて、膝立ちの状態になり、アヤナミさんの胸に顔を埋める
柔らかくて、暖かな感触に、思わず目を閉じてしまう
アヤナミ「…よく頑張ってますね……良い子…良い子…」
グラーフ「…狭霧が普段周りにやってることをされてるな」
ガングート「ああ、脳がバグるな」
アヤナミ「ふふ…狭霧ちゃんはお姉さんであることに拘ってたみたいですね…でも、貴方にもお姉ちゃんがいるんですよ?」
狭霧「…私の、姉さん…」
アヤナミ「…良いですか、辛くなったらいつでも私を頼ってください…頼らないかもしれませんけど、私は貴方の姉です、貴方はまだまだ、幼いんですから…」
狭霧「でも…」
アヤナミ「あなたは立派です、もうちゃんとみんなを導けるほどに…だけど…誰にだって辛く苦しい時がある…あなたが辛い時、そんな時に頼れるのが私でありたいんです…私のわがまま、聞いてくれますか?」
狭霧「…はい、姉さん…」
…頭を撫でられるのも、抱きしめられるのも、鼓動を聞いたまま目を閉じるのも、悪くない
駆逐艦 アヤナミ
アヤナミ「寝ちゃいましたね」
朧「ありがとね、アヤナミ」
アヤナミ「いえいえ、それにしても…神鷹さん達の学校の事がなければこっちに越して来たら良いのになんて言えるんですけど…」
朧「…アヤナミは離れるつもりない?」
アヤナミ「…はい」
朧「そっか」
ガングート「…オリジナル、お前は…」
アヤナミ「私をオリジナルと呼ぶのはやめてください、私の肉体こそオリジナルですが、精神は別物です」
グラーフ「なんだと?」
アヤナミ「私は綾ちゃんとずっと行動を共にして、行動や言動を完璧にラーニングしたAIなんです、本当の精神はあなた達の思う綾波が持っています」
リシュリュー「相変わらず、無茶苦茶よね、綾波は」
朧「天才だからね」
アヤナミ「…そうだ…あなた達に言っておきたい事が」
朧「なに?」
アヤナミ「もし、綾ちゃんと戦う事があれば…殺す気でいかないと死にますよ、綾ちゃんがLinkを離れた以上、その覚悟は必要ですから」
グラーフ「なんだと?」
アヤナミ「もしもの話ではありますが…可能性はゼロじゃない…今頃、カートリッジも修復し終えてるかもしれないし…下手をすれば…次の瞬間には宇宙が一部削り取られるかも」
朧(そう言えばそう言う能力あったなぁ)
アヤナミ「…もし綾ちゃんが道を間違えたとして、綾ちゃんを止められるのは、あなた達なんです、その時は躊躇わずに一度倒してくださいね」
グラーフ「…理解できんな、いや、お前が理解していないのか」
アヤナミ「え?」
タシュケント「精神がオリジナルじゃないなら仕方ないけど、とりあえずラーニングは完璧じゃない事がわかったよ」
リシュリュー「綾波は道を間違えたりしないわ、絶対にね」
アヤナミ「…ふふっ…これはこれは……」
…素敵な仲間に恵まれたね…
アヤナミ「余計なことを言いましたね、ごめんなさい」
朧「良い仲間でしょ」
アヤナミ「ええ、とっても…漣さん達にも紹介してあげてください」
朧「うん、そのつもり」