元勇者提督 作:無し
The・World R:1
Δサーバー 水の都 マク・アヌ
重槍士 青葉
…今日のマク・アヌは偉く騒がしい
理由はわからないが、とにかく、楽しい話題でもあったのか、それとも辛い話題でもあったのか
一部のキャラは喜び、一部のキャラは嘆いている
青葉(タウン襲撃イベントはこの時期には無くなってるって渡会さん言ってたし、何が…)
ミミル「あ!青葉!」
青葉「ミミルさん…!この間早くも逃げましたね!?」
ミミル「ごめんごめん、でもさ、青葉と一緒に冒険して、ちゃんと青葉のことわかったよ、トキオの言ってたことも勘違いなんだって」
青葉(…多分、それは勘違いじゃ無いんだけど…まあいいや)
青葉「それより、なんの騒ぎですか?」
ミミル「……昴がさ、紅衣の騎士団…解体したんだって」
青葉「…はい?」
衝撃的すぎる話だ
このR:1において最大手のギルドで、さらにこのゲームの大部分の自治を担う様な巨大組織が、解散?
ミミル「いきなりだよね、決まってすぐに行動に移したみたいで、みんな混乱してるんだ、それに昴もどこに行ったのか…」
青葉「そんな、なんで…?」
ミミル「さあ…クリムに聞いたら何かわかるんじゃない?後はBTとかさ」
青葉(BTさんは情報通っぽいからわかるけど…)
青葉「なんでクリムさん…?」
ミミル「昴とすごい仲良いんだよ」
意外だ、ああいう熱血漢タイプは嫌いかと思っていた
BT「それはクリムが紅衣の騎士団の創設者だから、だな」
青葉「うわぁっ!?」
ミミル「BT!…え?創設者?!」
BT「ああ、昴と2人で作り上げた組織だと聞いている」
青葉「…じゃあ、クリムさんも紅衣の騎士団…まあ赤い服着てますけど…」
クリムさんは騎士という見た目ではない
袴の様な赤いズボン、そして素肌の上から赤い羽織を羽織っているだけ
そのせいで首元から腹筋にかけて大きく露出している
青葉「規則正しいというか、精錬された雰囲気の騎士団とは衣装のイメージが…」
BT「そんなことを言えば昴のドレスは真っ白だ、が…クリムは騎士団を昔に抜けている、昴との関係を見るに、円満な別れ方をしたのだろうが」
青葉「そうなんですね……あの、なんで解散したんですか?」
BTさんは質問を受けて驚いた様に目を見開く
BT「…てっきりクリムの話を聞こうとすると思ったが」
青葉「だって、BTさん…「本人に聞け」って言うでしょう…?」
ミミル「あ、言いそう…って言うかあたし言われた!」
BT「なるほどな、確かにそう返してやるつもりだった、しかし…青葉は賢いと言うのに、ツレが馬鹿丸出しだな」
ミミル「BT〜…!毒しか吐けないの…?」
BT「冗談だ、さて……ことの発端は1人の騎士だ、そいつは兼ねてから騎士団の権力をもっと大きくしたいと思っていた」
青葉「…碧衣の騎士団の様に…?」
ミミル「へきい?」
BT「なんだそれは」
青葉「えっ?…あっええと…す、すみません!別のゲームにそういうグループがあってつい…」
青葉(で、デバッガーの名称なんて一般プレイヤーが知ってるわけないよね…焦った…)
BT「まあ、なんでも良い…それで、その騎士はCC社にこう言った「騎士団にサーバーのログの閲覧権を渡せ」とな」
ミミル「そ、それ…明らかにライン超えてない?」
青葉「ユーザーの範疇を超えています…」
BT「当然、棄却されたとも…まあ、もし権限をやったところで給料無しで働く奴隷程度だろうがな」
ミミル「あ、確かに」
BT「そんな状況に陥って、昴はCC社から警告のメールを受けた…そして昴は、かねてから自分が掲げている「The・Worldのより良い自治」ではなく、「完全なる管理」へと方針が変わりつつある騎士団を解散することを選んだ」
青葉「…すごく、勇気のいることですよね…」
BT「忠誠を誓った騎士に罵倒されたそうだ、「恐れている」とか、「司を裁くことを避ける為だ」とかな」
ミミル「なんで司…」
BT「司救出のために手を貸していることが、その騎士の目には、良くは映らなかったのだろう」
青葉「…そんな理由で」
BT「昴は司を「巻き込まれた被害者」だと言ったそうだが…周りから見たらどうだ?ただのチートPCにしか見えない、被害者だと決めたのは誰だ?それは確実なのか、それともただの憶測なのか……少なくとも、今は憶測の域を出ない」
青葉「……確かに」
ミミル「でも、司は…!」
BT「もちろんわかっている、だからこそ、昴が心配だ、少なくとも、騎士団が消えて喜ぶ者も、悲しむ者も、矛先を昴に向ける」
ミミル「え?なんで…」
青葉「PKから一般ユーザーを守る騎士団を消した昴さんを恨むのは仕方ないでしょう…そして、今まで抑圧されてきたと感じているPK達もまた、昴さんへの鬱憤を晴らしたいと思っている…」
BT「そういうことだ」
ミミル「そんなのおかしいよ…!」
BT「心配するな、一過性のものだ、昴が昴である限り…強い姿を見せ続ける限り、問題はない…すぐに終息するさ」
ミミル「…そうかな…」
青葉「…私は、そうとは思えません」
BT「ほう?2人揃って私の意見に否定的だな」
ミミル「だってさ…昴だって女の子なんだよ?多分、私たちと同じくらいの…」
青葉「BTさんなら理解してるはずです…人の言葉の鋭さを」
BT「そう思うなら、探しに行くか?」
ミミル「勿論…!」
青葉「いいえ、私は昴さんを探しません」
ミミル「え?」
青葉「…中途半端な慰めは意味をなさない、今一番助けになれるのは、クリムさんです」
BT「そうかもしれんな」
青葉「…クリムさんの居場所は」
BT「流石に知るわけないだろう」
青葉(…どうしよう、メンバーアドレスもないし…)
ミミル「…そうだ…!良いこと思いついた!」
Θサーバー 萌え立つ 禁断の 秘境
青葉「なっ…なんで私がこんな目にぃぃ!!」
エリアを全速力で逃げ続ける
敵は今の所視認していないが、間違いなく追ってきてるし…このままだといずれ捕まる…
そうなると、殺される…
それは避けたいので、加速アイテムを使って走り続ける
手を握っているリコリスさんは風船の様に宙にふわふわと浮かんでいる様な、シュールな光景になったが
ミミル「頑張れー!」
BT「…オイ、アレは何をしている」
ミミル「何って…釣り?」
BT「…餌は、楚良か」
ミミル「そう言うこと」
要するにこの作戦はこうだ
私が楚良さんに会う、そして追いかけられ…逃げ続ける
そうすると、クリムさんがやってきて楚良さんを止めてくれる…はず
なんとも…馬鹿げた作戦だが、趣旨的に反撃も許されない
…さて、しかし
青葉(そろそろ距離離れて…)
一瞬振り返る
青葉「…誰もいない?」
背後から首筋に刃を当てられる
楚良「ア〜ン、もう追いかけっこお終い?もっと遊ぼうよ〜♪」
青葉「え」
…振り返った時の背後、つまり、私が走っていた方向に回り込まれた…
双剣士の機敏さは確かに誰もが知るところだが、これは異常だ
プレイヤーとしてのスキルは、超のつく一級品…と言ったところか…!
青葉(マズイ…完全に動けない…それに、この人ただの快楽主義者だから、読めない…!)
下手に動いて気がかわって殺されるのはごめんだ
楚良「…あン…?」
青葉「……この地鳴りみたいな音、何…?」
そう、地鳴りの様な音…
でも、よく聞けば…馬ほど綺麗な音ではないが、動物が走ってくる音に…
青葉「あ!」
楚良「げ…!」
クリム「待て待て待てェ〜〜い!!」
プチグソの成獣に乗ったクリムさんがこっちに…!
ミミル「よっしゃ来たぁ!」
BT「…なんで上手くいったんだ」
クリム「とうっ!」
プチグソから飛び、すぐそばに降り立つ
クリム「よう、相変わらず…悪い様だな?」
楚良「お前ウザすぎ…!」
クリム「ウザくて結構!さあ、青葉を離してもらおうか?…それとも、前の続きをやるか」
楚良「…チッ」
楚良さんが転送されて消える
青葉(…悪い事、したな…)
楚良さんは快楽主義者で、読めなくて、変な事ばかりする…
悪意を持った行動を望んで楽しみながらする
が、別に嫌いというわけでもない…
彼は嫌われ者だろう、私にとってもそうだけど…
でも、別に嫌ではない
青葉(今度、2人で会ってみよう…PKされるだろうけど)
ミミル「クリム!」
クリム「む…ミミルにBT……これは、まさか、釣られたのか?」
BT「そういう事だ、それより、なんでここに?」
クリム「向こうにうまい狩場が有ってな、ここは俺のお気に入りのエリアなんだ」
青葉「偶然それを私達は引き当てた…と…」
二度とミミルさんに作戦を立てさせない方がいい…
私はそう確信した
ミミル「それより、知ってる?紅衣の騎士団の解散の話…」
クリム「まあ、話には聞いている」
青葉「…昴さんについてあげてないんですね
創設者で、昴さんの理解者なのに、狩場で狩りをしていたり、PKから私を助けたり…
クリム「昴は大丈夫だ、俺はそれを信じてる」
ミミル「…なんで大人ってそんな風に人を信じられるのかなあ」
クリム「昴には、呪文を教えてある、大丈夫だ」
青葉「呪文?」
クリム「…本当にダメな時に、助けてくれる呪文だ、だから…昴なら、大丈夫だ」
ミミル「それ、本当に役に立つの?変な金言とかじゃないの?」
BT「やめておけ、余計なことを言うのは悪い癖だ」
青葉(呪文、か…)
青葉「……クリムさん、良いですか?」
クリム「なんだ?」
青葉「すこし、2人でお話がしたいんです」
クリム「2人か」
ミミル「んー、まあ、アタシは落ちようかと思ってたし」
BT「私もだ、またな、2人とも」
2人がエリアから消える
青葉「……騎士団の、創立について…聞きたいんです、私はあんまり何も知らないから…」
別にそれを知ることで誰かの力になれるわけではない
昴さんはクリムさんに助けを求めていない
…なら、私はただ、理解者になるだけで良い
理解者になって、ただ、必要なら、居る
それが今の昴さんに必要なものだと思ったから
青葉(きっと、立ち直ることはできたはずだ…だから、私は、保険)
万が一の備えとして
クリム「どこから話したもんかな…そうだな、アレは昴と出会った時なんだが、その時もPKから助けたんだったか…」
クリム「なあに、怖がることはない…赤い稲妻クリムと言やあ、女に優しくヤローに厳しい……そう言うことになっている」
PKの首元に槍を突きつけて言う
クリム「ここで殺されるのが良いか、今後一切このお嬢さんに関わらないのが良いか…選ぶのは、お前だ」
PKがエリアから転送される
クリム「だからヤローは嫌いなんだ、隙を見せりゃ斬りかかる、良い顔すればつけあがる…だろ?」
昴「私…良い顔なんか…」
クリム「してねえ、ってか?どっちだ!?…自分は悪くないと思ってるだろ、勝手に追い回して、勝手なことを言う…自分は悪くない……相手に言ったか?」
昴「え?」
クリム「「近づくな」「お前なんか嫌いだ」「消え失せろ」ってな…言わなきゃわかんねえんだよ、言ったってわかんねえ奴らだってここには腐るほどいる」
昴「私…」
クリム「曖昧は罪だ!」
昴「っ…」
クリム「ログインさえすれば、楽しく遊べると思ってたのか?ここをなんだと思ってる?…もう一度聞く、何がしたい?」
昴「私は…ここに居たいです…!」
クリム「それならよし!俺に任せろ!」
クリム「初めて会った頃の昴は、今の様なタイプではなく、もっと内気だった…が、それ故につけこまれることも多かった」
青葉「…何故?他のPCと積極的に関わる訳でもないなら…」
クリム「あの頃の昴は違う意味で有名だった…昼日中からログインしてる女の子、ネットゲームに慣れてる訳でもなさそうで、他に仲間もない…それが周りにどう映るか、わかるだろ」
…少なくとも良い印象は受けないだろう
何か訳ありにしか見えない、そういう人は悪意に対して弱い…脆い
クリム「と言っても、俺は昴のリアルを探りたい訳じゃなかった…昴の本心が知りたかった」
青葉「本心?」
クリム「こう言ってたよ、「年か、性別とか、環境とか、状況とか、職業とか、そんなもの関係なしに人と付き合えると思ってここにログインしていた」ってな」
…ネットの良い面に憧れを持って、ログインしたのだろう…
しかし、世界は応えてはくれなかった
クリム「もしかしたらこう思ってるかもしれないが…世界が非情だというなら、それは違う…」
クリム「その考え方は間違っちゃ居ないが、足りないものがあるな」
昴「え?」
クリム「背を伸ばすんだ、俯くな、いいな?」
クリムの槍の切先が昴へと向く
クリム「目を逸らすな!逃げるな!そうすれば世界の方が昴に近づいてくる!」
青葉「世界の方が、ですか」
クリム「ああ、その時だったかな、紅衣の騎士団を設立したのは…」
青葉「え?」
クリム「その時、3人のPKが俺たちを襲ったんだ、不意をつかれたこともあって、劣勢だった…昴は戦闘は得意じゃないしな…だけど、その時、昴はPK達にいったんだ」
昴「やめてください!あなた方が闘いを楽しむためにThe・Worldに参加するのは自由です…!でも、悪意を理由に他のプレイヤーの参加を妨げる行為は謹んでください!」
PK「偉そうに、説教たれんじゃねえよ、ウザいんだよ」
昴「説教ではありません」
PK「じゃあなんだよ」
昴「お願いです」
クリム「それでもやりたいってならこっちも容赦しないぜ?ちゃんとセーブしてから来たか?やり直しはめんどくさいぞ?」
PK「うるせえ…何様のつもりだ…!」
クリム「俺たちか?……紅衣の騎士団とでも、呼んでもらおうか?」
昴「二度と、この様な振る舞いをなさらない様に!」
青葉「本当に話し合いだけで?」
クリム「ああ…だから、昴は…強い」
…成る程、昴さんの根底にあるものが見えた気がする